<愛すればこそ>の巻

スターちゃん(以下S)「こんばんはぁ〜〜〜。」

あき(以下A)「あら、スターちゃん、いらっしゃ〜い。はい、おしぼりどうぞ。」

S「寒くなったね〜。お変わりはありませんか?」

A「ええ、この通り、元気はつらつ・・・」

ジュン子(以下J)「オロナミンCってぇ〜?やっぱ古いね、お二人さんはぁ。」

S「そうですか?ジュン子さんも良く知ってますね、こんな古いCM。」

J「えっ?実際には見た事はないんだけどさ。良くやってんじゃん、TVでさ。昔のCMとかドラマとか。 あれですよ、あれ。あれで知ってたんだよね。ふぅ〜。」

A「スターちゃんは、今日は何にしましょうか?」

S「あっ、そうそう、オーダーしなきゃね。え〜と、今日は、と・・・・。あれ?今月のお勧めはマッカランなんですね。 それじゃ、オン・ザ・ロックでいただきましょうか。」

A「あいよっ!・・・はい、お待たせ。」

S「いつ見てもいいね、この丸氷。このグラスにピッタリだし。お酒も美味しくなるね。」

A「そうでしょ。有難うございます。やっぱり茶色いお酒はいいわよね。大人の味、っていう感じだし。」

J「どうせ、俺は子供ですよ。」

S「ジュン子さんは何を飲んでるんですか?」

A「ジュン子はカシスソーダよ。お子ちゃまドリンク。でも、さっぱりとして美味しいよね。」

S「それじゃ、アキちゃん、ジュン子さんにマッカラン一杯差し上げて下さい。」

J「え?・・・俺にぃ〜?誘ってもダメだよ。」

A「馬鹿じゃないの?あんた。何故、素直に頂きます、って言えないの?断り方もあるじゃないよ!ちゃんとしなきゃダメ、 そういう事は。折角・・・」

S「まあ、まあ。飲んでみませんか?僕ね、安心して下さいね。ジュン子さんみたいな人タイプではないので。ね、アキちゃん。」

A「まあ、それはそうね。で、ジュン子、どうするの?頂く?頂かない?」

J「い・た・だ・き・ま〜す。」

A「この子ちょっと突っ張ってるからね。本当は素直なのに。」

S「判りますよ、初めてじゃないし。それに今日はちょっと酔っているみたいだしね。」

A「なんか酔っ払いたい気分なんだってさ、カシスなんだけど。ね、ジュン子。」

S「何でまた?ふられたんですか?」

A「違うのよ、それが。映画でね。ちょっと感傷的になってるみたいなの。」

S「何を観て感傷的に?アキちゃんには関係ないもんね、センチメンタルになるなんて。」

A「失礼ねぇ!ははは・・・。ジュン子はね、今日、<メゾン・ド・ヒミコ>を観て来たんだって。それでね、 ちょっと考えさせられたみたいなのよ。」

S「へ〜。<メゾン・ド・ヒミコ>ね。洋子ママが出てましたね。いい映画だったよね、アキちゃん。そう思わなかった?」

A「そうね、好きよ、アッシ、あの映画。」

S「で、ジュン子さんはどういう所で感傷的になっちゃったんですかね。」

J「あの〜、どういう所っていうか、不安になっちゃったんだよね、観てたら。家の親って若い頃に結婚したから、 そろそろお前もね、みたいなさ。それに、将来、歳とって一人になっちゃったら、な〜んて考えてたら、 寂しくなっちゃったんだよね。」

S「解りますよ、その気持ち。でもさ、あの映画を単にゲイの老人ホームの話とだけとるのはね、どうですかね。 アキちゃんはどうです?」

A「そうね、あれはゲイの老人ホームが舞台なだけよね。勿論、ゲイならではの悩みや現実の厳しさなんかもあるけど、 それ以前に愛情を感じる映画だったと思うのよ。映画全体が愛情に溢れていたと思わなかった?ジュン子。」

S「そうだよね。アキちゃんの言う通り、愛情に溢れていた映画だったと思いますよ。勿論さ、現実には厳しいものが在るだろうけどね。 まあ、それにも向き合わなきゃいけないのも事実だし、それを今から考えておくのも必要な事だけど、 そればかり考えて悲痛になってもね。」

A「そうよ。ジュン子はまだまだ若いんだもの。アンタのご両親って幾つなの?」

J「歳ですか?え〜と、幾つだったかなぁ〜。母ちゃんが45歳で、父ちゃん46歳だったよ、確か。」

A「えっ!!!そんなに若いんだ。でもそうよね、スターちゃん。アッシら、 ジュン子くらいの子供がいたって不思議じゃないんだしね。もう半世紀よ、アッシら。」

S「本当だよね。いっや〜、参っちゃうなぁ〜。でもさ、ジュン子さん、あの映画をそういう風に捕らえて観ると、 また違う将来像が見えてくるんじゃないですかね。」

J「そうかな?でも不安だなぁ〜。」

A「そう思う気持ちは良く分かるけど、ね。そればっかし考えていてもさ。」

S「そうですよ。愛ですよ、愛。愛あればこそ、将来の不安も取り除かれるんですよ。」

A「えっ?そうなの?それはちょっと違うような気もするけどね。でもさ、愛情をもって人に接していれば、 そう嫌な事ばかりじゃないわよ。まあ、真剣に考えなきゃいけない問題だけどね。」

J「なんか、暗くしちゃった?飲もう飲もう!スターちゃん、美味しいよ、これ。アキちゃん、何だっけ?この酒は。」

A「マッカランの12年。」

J「へ〜、俺も少し大人になれるかな?」

S「まだまだこれからですよ、ねえ、アキちゃん。」

J「そうよ、ジュン子。アンタにはまだまだ明るい将来があるんだから。」

S「まあ、明るいかどうかは分かりませんけどね。」

A「って、スターちゃん、意外に意地悪ね。ははは・・・・・。」

J「でもさ、あの映画のオダギリ・ジョー、格好良かったよね。」

A「本当ね。アッシ、あんまり好きじゃなかったのよね。でも、あの映画を観てたら、本当に格好い〜い!って思えてきたもの。 それに、田中シ民。流石ね、あの存在感。洋子ママも演技とは思えない自然さで。」

J「あのおじさん、田中シ民って有名なの?」

A「何言ってるのよ。世界的に有名な舞踏家よ。映画<たそがれ清兵衛>で日本アカデミー助演男優賞も獲得しているのよ。 フランスから勲章ももらっているしね。」

J「へ〜〜〜!そんなに有名な人だったんだ。異色の存在感っていうか、そんな感じがしてたんだけどさ。へ〜〜〜!」

S「すごい人ですよ、彼は。」

A「それからさ、アッシ驚いちゃったんだけど、柳沢慎一が出てたじゃない。もう嬉しくってね。まだやっててくれたんだって。」

S「え〜???君、柳沢慎一って趣味だったっけ?」

A「何馬鹿な事言ってんのよ。趣味じゃあありません。そうじゃなくってさ、ねえ、スターちゃん、 懐かしくない?<ひょっこりひょうたん島>のトゥ・ヘンボクや<奥様は魔女>のダーリンや。」

S「懐かしい?君知らないの?<はみだし刑事>や<世にも奇妙な物語り>にも出てたんですよ。」

J「あっ、そうか。それでだ。SMAPの特別編だよね、それって。どっかで見たと思ってたんだよね。」

A「あら、そうなんだ。アッシなんか、もう数十年ぶりに見たから驚いちゃって。」

S「まあ、君はTVとかあんまり見る事できないしね。でも活躍してましたよ。」

J「スターちゃんさんは優しいよね。愛情をもって人に接しているっていうか・・・。」

S「えっ!・・・・・!そんな、もう一杯どうですか?」

A「アンタも単純ね。ははは・・・・・。」

S「もう一杯差し上げて下さい、ジュン子さんに。何にもしないから安心してもらって下さいね。」

J「はい、じゃあ、お言葉に甘えて、頂きます。」

A「良かったわね、年上は誉めておくべきよ。ははは・・・・・。」

S「ところで、さっきからこのチラシが気になってるんですけど。アキちゃん、これどんな芝居なんですか?」

A「えっ、どれ?あ〜、これね、<歌わせたい男たち>。君が代の話よ、これ。」

S「君が代?どんな話なんでしょうね。君はもう観て来たの?」

A「ついこの間ね。」

J「君が代なんて、もうず〜〜〜っと歌ってないなぁ〜。」

A「まあ、そうでしょうね。アッシだって忘れちゃったわよ、最後に歌った時。」

S「で、どんな君が代の話なんです?」

A「今、問題になっているじゃない、学校で。君が代を歌わない、それより以前に起立しない、なんて事が。」

J「俺の先輩なんか卒業式をボイコットしたよ、確か。新聞の記事にもなったからみんなも覚えてると思うけどさ。」

S「へ〜、ジュン子さんは、あの高校なんだね。じゃあ、丁度、ボイコットした次の年に3年生か。」

J「次の年は二年生だよ。でも凄かったよ、あの時は。新聞社やTV各局が押しかけちゃって。俺もね、その時には、 君が代を何故強制的に歌わせるのか、なんて思ってたけど、今になったらどうでもいいじゃん、みたいなさ。」

S「そうですか。ねえ、アキちゃん、僕らの時代には、そんな疑問は沸きませんでしたよね。」

A「そうね。言われるままに、というか、当然の如く起立してたし、歌ってたしね。それにさ、アッシらの時代って、 何でも少し後でしょ。」

S「えっ?どういう事ですか?」

A「だからさ、70年安保にしても、ベトナム戦争にしても、中途半端な年代だったじゃない。」

S「え〜と、あの頃は、・・・中学生から高校生だぁ〜。」

A「そうそう。だからさ、ちょっと後なのね。でも、社会のそういった闘争みたいなものはこの目ではっきり見て覚えてるでしょ。 どんな方向に行ったとしても、あの頃は、みんなが前を向いていたのよね。日本をどうにかしなきゃ、って。」

S「そうでしたね。政治家もちゃんとしてたものね。今とは大違い。まあ、日本人がボケちゃってきたんだよね。」

A「本当ね。まあ、幸せ過ぎるんでしょうね、今の日本は。でも、これから先が心配よ。」

J「難しい話だよね。でもさ、君が代が国歌となったのって何時だったっけ?」

S「あれは確か、法律で定められたのが平成になってからだよね。」

A「そうそう。確か今から5〜6年前よ。」

S「自殺者も出ちゃったし、裁判もやってますね。で、そんな話が芝居になったんだ。」

A「そうなのよ。出演者は5人。臨時採用された音楽の教師、校長、養護の先生、それに、 君が代ボイコット派の社会の先生と教育委員会の指導を守ろうとする英語教師。」

S「なんか、校長先生が一番可愛そうな気がしますけど、違いますかね。」

J「まあ、一番板ばさみなのは校長だろうね。俺の高校では自殺しなかったけど、ほかの高校で出たよね。 俺が高校2年の時だったかな。」

S「でも、そんな今の問題を永井愛が書いたんだから、面白いだろうけど、真っ向勝負って感じなんですかね。」

A「まあ、笑う所も多々あるけど、その奥に潜んでいるメッセージは鋭い物があったと思うわね。」

S「わりとアキちゃんと似てたんじゃないんですか?彼女の考えって。」

A「まあ、そうだと思うけど、芝居でははっきりとは語られないのよ。まあ、まだ始まったばかりだから詳しくは言えないんだけど、 アッシが感じたのは、芝居の上では、学校の教師みんなに愛があった、っていう事なのよね。生徒の事、 他の先生の事を思いやる心があったのよ。ただ方向性が違ったって事ね。」

J「ちょっと分かるよ。俺が高校の時もそれ感じたよ。意見の違う先生達も生徒の事を考えてくれてた人が多かったと思うよ。 勿論、自分の身の安全を考えてた先生もいたけどね。」

S「なるほどね。前にも言ったけど、僕らの時代には、そんな疑問は沸かなかったし、 それより大切なものへと進んで行く姿勢がありましたよね。でも、今、この前の衆議院選挙をみても分かるように、 この国危ない!って思っちゃいますよね。本当に考えているのかな、っていう疑問が出てきちゃう。 自分中心社会になって来過ぎた気がしてならないんだけど。これ、危ないよね、アキちゃん。」

A「そうね、危ないでしょ。でも、こうやって話していられるっていうのはまだ大丈夫なのかもしれないけどね。 話をするにもビクビクしてきたら、本当にお仕舞ね。やっぱり愛が足りないのかな。」

J「っていうアキさんは愛があるんですか?」

A「あら、やられたわね。う〜む、そこまで人間ができてないからすべての人に愛があるとは言えないわね、 正直な所。」

S「そうだよね。そんな完璧な人ばかりだったら地球はもっと平和になっていますよ。」

J「俺たちの世代が一番考えなきゃいけないのかも。これからの日本を背負って行く人材なんだから。 な〜〜んちゃって。」

S「いい事言いますね、ジュン子さん。もう一杯いかがですか?」

J「え〜〜〜っ!本当にいいんですか?それじゃあ、い・た・だ・き・ま〜す。」

A「あんた、少しは遠慮しなさいよ。一度は断るとかさ。」

J「えっ?そうなの?難しいな大人の世界は。」

A「まあ、これもスターちゃんのジュン子に対する愛すればこその行動よね。」

S「まあ、そうですね。色気は有りませんけどね。」

一同「はははは・・・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介した映画、お芝居は、
1) メゾン・ド・ヒミコ
      渋谷シネマライズ他で上映中
2) 歌わせたい男たち
      11/13までベニサン・ピット
      その後、全国を巡演します。
以上です。どうぞ足をお運び下さい。


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