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<感動って素晴らしい>の巻
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森一(しんいち・以下S)「今晩は。」 あき(以下A)「シンちゃん、いらっしゃい。はい、おしぼり。なんか疲れてるんじゃない?」 S「疲れているというより、タバコが吸いたくて。先にタバコ吸っていいですか?」 A「勿論よ、どうぞ。」 S「あ〜、良かった。アキちゃん所が禁煙バーじゃなくって。」 クンクン(以下K)「え〜〜〜!禁煙バー?なんですか?それ。」 A「最近あるわよね、禁煙のバーって。」 S「そうなんだよねぇ〜。もうイライラしちゃって。会社でも喫煙所が本当に隅の方に追いやられて吸いにくい状況なのにさぁ。 飲みに来てまで禁煙だったりするとね。もう〜落ち着かなくって。」 A「まあ、分かるけど、世の中の流れがそうだからね。仕方ないかも。」 K「アキさんは吸いませんよね。それじゃ、ここも禁煙バーになる可能性があるんですか?」 A「馬鹿な事言わないでよ。確かに世の中の流れは禁煙の方向にいっているけど、アッシはさ、 酒とタバコは一対だと思っているのよね。だから法律で決まらない限り禁煙になんかする訳ないじゃない。 なんでも健康指向ってね・・・。」 S「確かにそうだよなぁ〜。確かに健康には悪いんだろうけどさ。でもね、ここまで吸いにくくなるとね。 つい数年前まではここまでひどくなかったけどね。あっ、そうそう、アキちゃんマッカラン、ロックで頂戴。」 A「あいよっ!・・・・はい、お待たせ。」 K「これですか、丸い氷。雑誌で見ましたよ、写真。これが実物なんだ。やっぱり綺麗ですよね。」 S「なんかさ、お酒飲んでるって気になるじゃん。あっ、チェーサーもね。」 A「はい、お待ちぃ!」 K「そう言えば、この前観たお芝居もタバコに関係してましたよ。」 A「あら、クンクン、あんた宇宙堂の<風回廊>観て来たんじゃないの?」 K「そうです、そうです。渡辺えり子さんの所ですよね。そうそう。 確かタバコ工場が閉鎖されてから何年後かの話でしたよね。」 S「へ〜。ちょっと興味あるな、その話。で、どんな話なの?」 K「タバコ工場が閉鎖されてから数年後、あれ、もっと経ってますかね?」 A「そうね、あの話の流れからすると、20年位は経ってると思うんだけど。」 S「と言う事は、アキちゃんも観に行ったんだ。」 A「勿論よ。渡辺えり子の芝居は見逃せないもの。」 S「で?」 K「ある所に、あるセミナー参加者が続々と集まって来るんですよ。それに、介護の依頼を受けた看護士と、 何か分からないけど営業風の男と、意味有りげな女。でも、そこは廃墟と化していて、 ベンチにアコーディオンがひとつ置かれているだけだったんです。」 S「な〜んか、面白そうだね。その廃墟」 A「そここそ、かつてタバコ工場で栄えた町のタバコ工場団地だったのよね。で、時間があっち行ったり、 こっちに来たりと物語が進んでいくのよ。」 K「アコーディオンにタップダンス、三味線にギター、それにバンドネオン。あと、あれ、なんだっけなぁ〜、 ほら、あの白い人達。ねえ、アキさん、あの人達、何でしたっけ?」 A「大ラクダ艦の舞踏の人達ね。」 K「そうそう。いろんな事が入り乱れて過去と現在、忘れてしまった記憶が甦っていくんだよね。」 S「で、どんな役者が出てたの?」 K「え〜と、勿論、渡辺えり子さんでしょ、それに、モデルだった川原亜矢子。凄〜く良かったなぁ。それから、 あの〜、ほら、口の大きな・・・。」 A「高谷あゆみね。それに、えり子さんの旦那の土屋良太、<シューズ・オン>なんかに出ている藤浦功一。」 K「それに、アコーディオンのcoba。それから、あの変なオッサン、え〜〜とぉ、ねえ、ねえ、アキさん、 あのオッサン、誰でしたっけ?面白かったなぁ〜。」 A「有薗芳記ね。凄い存在感だったわよね。まあ、昔から目立つ人だったけど。」 S「アコーディオンのcobaも出てたんだ。それで、アコーディオンが登場していたんだな。」 K「そうそう。結構いい勘してますね、森一さんは。」 A「そりゃ分かるわよね、ベンチにアコーディオンが置いてあって、cobaが出てくりゃ。」 S「まあ、そうだね。ははは・・・・。で、その先は?」 K「そうでしたね。そうそう、介護の依頼を誰に受けたのか分からないで困惑する介護士。元恋人達の再開、 配達されない手紙を待っている怪しげな研究員。」 A「その謎が時間を飛び越えて段々分かってくるのよ。」 S「そうか、分かった!あれだよね、きっと。その集まってきた人達って、 かつてはそのタバコ工場団地で生活していた人達なんでしょ。で、工場の閉鎖とともに去って行って、 数十年経って戻ってくるんだよね。」 A「すご〜い!森一ってさ、脚本家になれるかも。まあ、ただ戻って来たんじゃなくて、 忘れられた記憶を甦らせようとする何かに戻らされた、とでも言えばいいのかな。」 S「なるほどね。渡辺えり子の書く戯曲って、どこか社会に対する批判や、警鐘があるよね。 今回も大分ありそうだけど、その辺りは?」 A「そうね、舞台となっているタバコの問題、郵政の問題、介護の問題、それにテロ。本当に満載だったかも。 時代を飛び越えて行ったり来たりする事、生きている世界と死の世界との交信でそれらに対する事柄をもっと具体的に表現していくのね。」 K「それに、俺なんかには分からないけど、昔あって、今無くなったものの大切さなんかを訴えていた気がしたんですけどね。」 S「クンクン、なかなか良い事言ってるかも。まあ、自分がタバコを吸っているから言う訳じゃないけど、 なんか、悪者扱いじゃない、吸っている人が。あんなに税金払っているのに。ここ最近急にだしな。」 K「それに、郵便だって、本当に過疎地に郵便局が残るのかとか、テロだって怖いし、老後を考えると不安だし。」 A「もう一度、ちゃんと考えなきゃ、っていうメッセージをアッシらにくれた様な舞台だったわね。 渡辺えり子は宇宙堂5周年に相応しい芝居を書いてアッシらに見せてくれたな、って思うのよ。久しぶりにいい芝居を書いたな、 ってね。感動しちゃったもの。」 K「感動ですか。いいですね。なんか、また色々観たくなっちっいましたよ。アキさん、紹介してくださいよ、何か。」 A「そうね、<劇団桟敷童子>はもう終わっちゃってるしね。」 K「あ〜、聞いた事あります、そこ。終わっちゃったんですかそこ。でも聞いてみたいな、どんなだったか。」 A「今回はね、北区王子にある飛鳥山公演で、久しぶりにテント公演を打ったのね。 今度の芝居も民族学を元に差別や争い事の無意味さを訴えて迫力有る舞台を観せてくれたわね。」 S「そこってアキちゃんが結構観に行っているところだよね。」 A「そうそう。良く話すでしょ。」 S「仕掛けが大掛かりなんだよね、舞台の割りには。」 K「それも聞いた事ありますね、そういえば。で、今回も大掛かりだったんですか?」 A「そうね、そこそこ。」 S「どんなんだった?」 A「はじめの方でテントの後ろが開いちゃうのよ。普通はさあ、最後の所でテンとの後ろが開いて、 観客が、わぁ〜!な〜んて思っちゃうじゃない。でも、今回の舞台は初めの方で開いちゃうのね。」 S「昔、初めて状況劇場を観た時に、最後テントが開いて、その向こうで芝居が進んでいく方法に、 ドキッとしたよ、そう言えば。」 K「でも、今回は初めの方で開いちゃったんですよね。て言う事は、 最後の方でもっとドキッてしちゃう何かが有ったわけですよね。」 S「そういう事だよな。」 A「今回は、アッシも今までにない経験をしたのよ。初めね、テントに入った時に、 ちょっと変ったテントだな、って思ったのよ。」 S「テントっていうと、芯棒があって、そこから放射線状に伸ばすよね。でもそういったテントじゃなかったんだ。」 A「そうなのよ。」 K「で、どんなテントだったんですか?」 A「ほらほら、最近はさあ、キャンプの時に使うテントもワンタッチになってるじゃない。」 K「という事は、ワンタッチ?」 A「いくらなんでもワンタッチじゃないんだけど、蛇腹のテントだったのよね。上を見ると半円状にパイプが張ってあるのよ。」 S「へ〜。仮設の避難所みたいだよね。」 A「そうそう、そういう感じ。」 K「で、それがどうにかなる訳ですね。」 A「そうなの。最後にそれが全開するのよ。テントが外れて夜空が見える訳ね。そして、 そこには火を吹く龍神が居るっていう設定なの。」 S「そりゃ凄い!」 K「ドッキリィ〜〜〜!ですよね。」 A「でもさ、もし、雨の日だったらどうするのかな、な〜んて心配なんかもしちゃってね。」 K「本当ですね。雨の日は観客もずぶ濡れで観るんですかね。」 S「本当だよな。」 A「でもさ、アッシら忘れてしまった感動が呼び起こされると、前にも増して感動しちゃうって、 最近とみに思ってね。」 S「アキちゃんももう歳って事?ははは・・・・・。」 K「そう言えばこの前誕生日だったんですよね。おめでとうございます。いや、ございました、かな。」 S「あっ、そうなんだ。で、幾つになったの?」 A「丁度、半世紀、ね。」 S「それじゃ、めでたいじゃん。乾杯しようよ。ね、何か作って。」 A「まあ、もうお祝いの歳でもないんだけど、頂いちゃおうかな。」 K「そうそう。乾杯しましょう!」 A「それじゃ、甘えちゃって。いただきま〜す。」 S&K「かんぱ〜い!おめでとう!」 A「ありがとうぉ〜〜〜!感動しちゃったぁ〜。」 全員「パチパチパチ・・・・・。」 おわり *登場人物は全て仮名です。 *今回紹介したお芝居は、 1)宇宙堂<風回廊> 公演終了 次回公演は、2006年8月です。 2)劇団桟敷童子<風来坊雷神屋敷> 公演終了 次回公演は、2006年2月です。芸術の秋。皆さん、芝居、美術館、映画等など。どうぞ、足をお運び下さいね。 |