<切ないわぁ〜。>の巻

あき(以下A)「いらっしゃ〜い。」

エリー(以下E)「今晩は。ふ〜、寒いですねぇ〜。あれ、壌さんだぁ〜。今晩は。」

壌(じょう・以下J)「今晩は。なになに、今日も芝居に行って来たのかぁ〜?」

E「そうなんですよ。」

A「はい、おしぼり。今日は何にする?」

E「あっそうか。え〜とぉ〜、今月のお勧めはぁ〜、ターキーかぁ〜。ちょっと強いですよね。 それじゃぁ〜、え〜とぉ〜、フォア・ローゼズのオン・ザ・ロックをお願いします。」

A「あいよっ!・・・・はい、お待たせ。」

E「いただきま〜す。」

J「で、何?観て来たのは。」

E「あ〜、そうでしたね。今日はですね、<調教師>っていうやつを観て来たんですよ。」

J「え〜?なにかぁ〜、SMか〜?」

A「何言ってんのよ、壌ったら。」

J「えっ!違うの?だって、調教師でしょ、ね。調教と言えば、な。」

E「はい。違いますよぉ〜。SMじゃありませんよぉ〜。唐十郎が書いた芝居です。」

J「えっ?唐さんの芝居なの?でも、聞いた事ないよ、調教師なんて。ねえ、アキちゃん、聞いた事ないよなぁ〜。」

A「まあ、調教師ってタイトルではね。昔は<透明人間>とか、<水中花>とかのタイトルでやっていたやつよね。 小説自体はもう30年近く前に書かれている物だと思うけど。」

E「へ〜、そうなんだぁ〜。知らなかったなぁ〜。」

J「<水中花>だったら僕も観たな。確か西新宿の空き地で観たような気がするんだけどなぁ〜。」

A「そうそう、それよ。」

J「やっぱり。アキちゃんの言った<水中花>って所で分かったよ。」

E「アキさんは行かれましたか?」

A「勿論よ。だって、唐の戯曲を内藤裕敬が演出するんだからね。行かない理由がないでしょ。」

J「唐さんは分かるけど、その内藤・・・何とかっていうのは?」

A「ほら、アッシが大好きな関西の劇団、<南河内万歳一座>の座長よ。」

E「あ〜。アキさん、良く言ってましたよね、そこのぉ劇団の話。でも、内藤っていう人は出てなかったような・・・。」

A「出てないわよ、今回は。演出に専念したみたいだからね。」

E「あ〜、それでかぁ〜。」

J「で、エリーは面白かったのかい?」

E「う〜む、ちょっとエリーには難し過ぎたかなぁ〜?」

J「そうだろうな、エリーの歳じゃ。ねえ、アキちゃん。」

A「そうかしら、ねえ。アッシだって唐十郎を最初に観た時は10代半ばよ。でもさ、その時は、ただ分からないんじゃなくて、 それよりショックが大きくてね。」

E「何でですかぁ〜?」

A「ほら、アッシさ、これでも若い時は演劇青年を目指してたのよね。で、文学座や俳優座に憧れてたわけよ。でもね、ある時、 寺山修二の劇団<天井桟敷>を観たの。もう今まで自分が観た演劇と全く違っててね。もうショックでショックで。で、 そのすぐ後に唐十郎率いる<状況劇場>を観に行ったのよね。そしたら、またまたショックでさ。 新劇とも寺山とも違うショックを受けたわけよ。もう分からない、って言うより、ショック、ショック、ショックなの。」

J「まあそうだろうな。アキちゃんが10代半ばって事は、もう35〜6年も前って事だもんな。」

E「エリーまだ生まれてないよぉ〜。」

A「そうよね。嫌だぁ〜〜〜!。まあ仕方ないわよね。」

J「で、<調教師>の話に戻らない?」

E「そうでしたよね。で、アキさん、この芝居って、何がどうしてどうなったんですか?」

J「エリー、お前本当に分からなかったんだな。ははは・・・・。」

A「あれはさ、ほとんどの人が椎名桔平演じる辻が主人公だと思っていると思うんだけど、実は、 萩原聖人演じる田口が主人公なのよ。」

E「うん、それは最後に分かったけど。なんか、登場人物の関係が複雑でぇ〜。エリーにはやっぱり難しいかったんだよね。 それに、黒木メイサ演じるモモと、モモ似との関係とか・・・。」

A「まあ、結構複雑と言えば複雑だわね。でもさ、唐の芝居だもの。 幾つもの話が入り乱れてそれが一つになっていくのは唐ワールドの常套句じゃない。で、芝居を観ていれば分かるけど、 河野洋一郎演じる犬の飼い主合田と椎名演じる辻、窪塚俊介演じるマサヤと木野花演じる白川先生、それに、田口、モモ、 峯村リエ演じるモモ似とがそれぞれ独立しながら絡まって行くのよね。だから、関係無い様でどこかで繋がっている訳よ。」

E「一番分からなかったのは、モモが最後までほとんど喋らないじゃないですか。で、最後にちょっと長い台詞があって。 なんであんなにず〜〜っと舞台に出ているのに喋らないのかな?って。」

A「それはさ、こう考えればいいんじゃないかしらん。モモは常に喋っているのよ。」

E「えっ?・・・だって、喋ってなかったですよね、最後近くまで。」

J「なるほどね。僕はアキちゃんの言っている事が少し分かるな。つまり、アキちゃんが言っているのは、 そのモモって言う子は、常に喋っているんだよ、頭の中で。な、そうでしょ?」

A「流石、歳の功ね。その通り。喋っているのよ、頭の中で。で、最後にそれが言葉となって出てくるのよね。」

E「へ〜〜〜!なるほどね。何となく今分かったような気がしてきましたよ。そう言えばモモの最後の台詞に、 ずっと喋り続けている犬、っていうのがあったような・・・。あと、もう一つ。マサヤと白川先生の関係は?」

A「それは良くあるじゃない。ちょっと世間からは変な目で見られていても、信じてしまう自分がいるのよ。 マサヤは、まさにそれよね。一種の新興宗教みたいなさ。でも、面白かったわね、あの二人。」

J「全体的にはどうだったのかな?」

A「そうね、アッシはさ、やっぱり唐ワールドって、既製の劇場だと違和感を感じちゃうのよね。広すぎちゃって。 その分、テントでは出来ない演出もあるんだけど、今回は唐十郎を信奉している内藤の演出じゃない、 やっぱりテントの演出だったと思うのね。舞台上に大勢人がいる時には万歳一座みたいだったし。もう広〜い、 広〜いスズナリで観ているみたいなね。まあ、そういう狭い場所を想定して書いてた訳だから、そうなるんでしょうけど、 やっぱり大きな劇場には、といってもコクーンだけど、テントやスズナリに比べたらとてつもなく大きな劇場なんだから、 もう少し大きな劇場用の演出がほしかったと思うのよ。」

J「なるほどね。でもさ、キャストがあの人達だから、集客を考えてコクーンにしたんじゃないかな?」

A「それはそうだろうけど、アッシはね、集客よりもその芝居に合っている小屋の方が大切だと思うのよね。 今月から始まったミュージカル、<リトル・ショップ・オブ・ホラーズ>なんて、元々はオフ・ブロードウェイでやってたのが、 数年前にオン・ブロードウェイで再演されたからっていっても青山劇場はないんじゃないかな?って。広すぎるもの。 日本には中規模な劇場が少ないから仕方ないのかもしれないけどね。ちょっと、そういう事も考えてやってほしいなって。」

E「でもさ、あの水の中に消えて行くシーンなんかは大きな劇場だから出来たんじゃないのかな?」

J「エリーは観た事ないんだよな、きっと。舞台に水を使うのは昔から有ったから、大きな劇場じゃなくても可能なんだよね。」

E「えっ?!!!そうなんだぁ〜。」

A「あれをテントでやるから驚きと感激なのよ。」

E「でも、最後に田口があの水の中に消えて行くじゃないですか。なんか、切なさを感じてしまいましたよ。」

A「いいシーンよね。切なさを感じるってわかるなぁ。」

J「話は変わっちゃうんだけど、この前、ティム・バートンの<コープス・ブライド>を観てきたんだけど、 これがもう切なくて。」

E「見たいんですよぉ〜、その映画。」

A「アッシも、あれには参ったわね。切な過ぎて。」

E「アキさんも見たんですかぁ〜?」

A「だって、ティム・バートンなんだもん。」

E「どんな映画だか聞きたいのは山々なんだけどぉ〜。でも、まだ見てないし、絶対見たいからまだ聞かないでおこうっと。」

J「いや〜、本当に切なかったよな。前に見た<ナイトメア・ビフォア・クリスマス>は幸せな感じだったのにな、 <コープス・ブライド>はねえ。」

A「本当よね、あれはね〜。哀しいわよ、本当に。」

E「ねえ、ねえ、エリーにちょっとだけ教えてくれる?」

J「まあ、見に行くんだったらあんまり教えられないけど、何しろ、最後が本当に切ないんだよな。」

A「本当にね。最後がさ。まあ、幸せの陰には・・・、ってところよ。」

E「う〜む、じゃあ、早速見に行かなきゃ。」

j「そう言えば、これこれ。江戸川乱歩の短編オムニバス映画、<乱歩地獄>の<芋虫>なんかも切ないよね。」

a「まあ、とってもグロだけど、まあ、江戸川乱歩だからね。エロ・グロは仕方ないわよ。」

j「アキちゃん、まだ見てないの?」

A「この前の月曜日に見に行ったわよ。」

E「あのぉ〜、その映画って、浅野忠信が出ているやつですか?」

A「そうそう。4つのオムニバスなんだけど、浅野忠信は4本全部に出ているのよね。」

E「大ファンなんですよ、浅野忠信。格好いいですよね。」

A「え〜〜???アッシには分からないわね。でも、結構いるからね、ファンが。きっと格好いいんでしょうけど。」

J「僕も分からないよ。この映画に出ているんだったら、成宮寛貴か松田龍平がいいな。」

A「え〜〜〜???アンタも分からない。っま、趣味の問題だから文句は言わないけど。」

J「まあ、その話は置いといて。どれが好きだった?アキちゃんは。」

A「そうね、やっぱり<鏡地獄>かしらね。小説が書かれた時代とちょっと違うみたいだったけどね。 ミステリーって感じだったでしょ。この映画での成宮は綺麗だったわね。監督が実相寺だったから、 前回の悪夢が再び来なきゃいいけどと思ってたら、これは良かったわね。」

E「前回の悪夢って、<姑獲鳥の夏>の事ですか?」

A「そうそう。もうガッカリしちゃったからね、あれは。」

J「でも、今度のは面白かったよな。」

E「壌さんはどれがお勧めですか?」

J「僕はねぇ、・・・、やっぱり<芋虫>だな。あのエロ・グロは乱歩の世界をすごく表わしてると思うんだよな。」

A「そうね、それに、このオムニバス映画全体に言えると思うんだけど、やっぱり最後には切なさを感じてしまうのよ。 ねえ、壌、そう思わない?」

J「確かにそうだよな。最初の<火星の運河>にしても最後に池のほとりで倒れる男の見た世界と現実とのギャップが切ないし、 <鏡地獄>は鏡に取り付かれた青年の姿が美しくて切ないし。」

A「それに、<芋虫>では、四肢が無くなって芋虫の様になってしまった夫を献身的、かつ暴力的に介護する妻の姿と、 最後に二人の遺体を運ぶ快人二十面相の後姿が切ないし、最後の<ムシ>は、異常な独占欲から起こる主人公の最後が切ないしね。」

E「へ〜、ちょっと見たくなりましたね。」

J「オム二バス映画でありながら、ちゃんと4つが繋がっているのも良かったよな。」

A「まあ、お客さんがあんまり入っていないのがイマイチだったけど。」

E「そおういえば、さっきからエリーと壌さんだけですね。」

J「ちょっと寂しいかもな。」

A「そういえば、今日は金曜日だって言うのにね。これこそ、本当に切ないわよ。」

J「それじゃ、もう一杯頂きましょうかね。」

E「それじゃ、エリーも、もう一杯。」

A「あら、な〜んて優しいお二人なのかしら。本当に切なくなっちゃう。」

全員「はははは・・・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居、映画は、
1) <調教師>     東京公演は終了
     11/24〜27     兵庫県芸術文化センター
2) <リトル・ショップ・オブ・ホラーズ>
     27日まで 青山劇場
3) <コープス・ブライド>    上映中
4) <乱歩地獄>              上映中

 以上です。どうぞ足をお運び下さいね。


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