<混じり合ったら素敵!>の巻

江上ちゃん(以下E)「やっぱ、関根君は女装よね、女装。」

プーちゃん(以下P)「女装じゃなくて女形ですよ。」

E「何言ってんのよ、あんた。女形って女の服着てるじゃないの。だから女装でしょ。」

P「まあ、いいですけどね、女装でも。でも、確かに関根さんは女形が良く似合います。 っていうか、あの人、将来美輪さんみたいになりそうな予感すらありますよね。」

E「美輪さん?ま〜〜、大きく言うわね。でもアタシからみても美輪さんの後を継ぐのは、 篠井英介じゃなくて関根信一のような気がするわ。」

P「やっぱり、そうでしょ。そうですよね。早速アキさんにも聞いてみなきゃ。」

E「あら?ちょっと、まだ看板点いてな〜い。」

P「えっ?本当だ。・・・・張り紙がありますよ。<今、買い物に行っています。すぐ戻ります>だって。」

E「うんもぅ〜。あの女ったらぁ〜。」

あき(以下A)「ごめんごめん。大分待ったぁ〜?」

E「もう遅いわよ。8時32分。2分の遅刻よぉ〜。」

A「あら、江上ちゃん、二分くらい待てないのかしら?店はうちだけじゃないんだし。 開いてなかったら何処か他の所でも行ってりゃいいじゃない、何百軒もあるんだからさ。」

P「もう、こんな所で口喧嘩なんて止めてくださいよ、みっともないんだからぁ〜。」

E「大丈夫よ、スポーツみたいなものだから。ははは・・・、ねえ、アキちゃん。」

A「そうそう。昔からこうだもん。さ、入って入って。準備は出来ているからね。」

P「あ〜、本当だ。準備万端ですね。」

A「でしょ。はいはい、座って。・・・あらためて、いらっしゃい。はい、おしぼり。」

E「アタシはね、ビールかな?」

P「俺はぁ〜〜〜、う〜〜〜んと、今月のお勧めドリンク。何ですか?」

A「今月はね、<グリーン・ドラゴン・フライ>っていうの。5月でしょ。新緑の季節。 それをイメージしてアッシが作ったオリジナルよ。さっぱり爽やかって感じだけど、意外にキツイかも。」

P「じゃあ、試してみます。それ、お願いします。」

A「アイよっ!・・・・はい、お待たせ。」

E「あら、プーちゃんの綺麗ね。何だっけ?グリーン何とか、っていうのよね。」

P「<グリーン・ドラゴン・フライ>ですよね。どんな味なんだろう?・・・・・うっわ〜。 爽やかぁ〜。ミントの味が程よくて、炭酸が口の中を昇って行く感じですね。で、 グリーン・ドラゴン・フライなんですね。結構いけます、これ。」

A「でしょ。似たようなレシピが在ったんだけど、それを試してみたらちょっと5月って感じじゃなかたのよ。 で、もうちょっとサッパリしたのはないかなって、手を代え品を代えてやっていって辿り着いたのがこれ、って訳。」

E「あら、そんなに大変だったの?で、何よ、入っているものって。」

A「それは、言えないわ。企業秘密だもん。な〜〜んちゃって。いたってシンプルよ。 ジンをベースにミントリキュールにレモン、それにソーダ。これでオーケー。」

E「すっごく簡単じゃないの。話だけ聞いてたら、どんなに大変な作り物かと思ったのに。」

A「失礼しました。ははは・・・・。ところでさ、今日はどうしたのよ、二人で。」

P「言われるんじゃないかと思ってました。何だと思いますか?」

A「何よ、もったいぶらないで言いなさいよ。まさか?あんた達・・・。」

E「違う違う。何で、すぐそうやって感繰るのかなぁ〜。」

P「芝居の帰りなんですよ。江上さんの彼氏が急に行けなくなっちゃって。で、俺に連絡が来た訳ですよ。 ほら、今、俺丁度次の会社へ行くまでの休養期間じゃないですか。で、こんな時に暇なのは俺かなって思ってくれたんですよね。」

E「まあ、そうね。普通は年度始めでみんな忙しいだろうからやたら滅多に誘えないじゃないの。で、 ふとこの前ここで会った時の事を思い出したのよ。そう言えば、確かプーちゃん新しい仕事が5月半ばからだなって。 で、誘って行って来たの、フライングステージ。」

A「あら、アッシもさっきまで観てたのよ、その舞台。<ミッシング・ハーフ>でしょ。」

P「えっ!!!じゃあ、同じ空間に居たんじゃないですか。全然気が付きませんでしたよ。 あ〜んなに狭いのにね。」

E「本当ね。アキちゃんは何処に座ってたのかしら?」

A「アッシはさ、一番前の真中よ。もう首が疲れちゃって。開場してすぐに座ちゃったから気が付かなかったかもね。」

P「で、俺が江上さんに、美輪さんの後を継ぐのは関根さんだよね、 って話をしながらペンギンに向かったってなわけですよ。」

A「関根君が美輪さんの後継ぎねぇ。そうかも。アッシ、何時も思ってるんだけど、関根くんて、 男でいるより女でいたほうが芝居の上では何故か自然に見えるのよ。超越して見えるって言うのかな。 彼の女形というか、女装っていうか、まあ、そんなのはどっちでも構わないんだけど、 とにもかくにも女として芝居している彼はとても素晴らしいわね。でも、芝居上だから、やっぱり女形だわね。」

E「アタシね、観てて思ったんだけど、何処かで観たような気がしてならなかったのね。アキちゃんはどう思った?」

A「あら、あんた、気が付かなかったの?あの執事と女優の関係は、<サンセット大通り>のマックスとノーマの関係と同じだし、 執事役の役者が女形で出てくるのは、寺山修司の<毛皮のマリー>にヒントを得ているはずだし。 ね、何となく分かるんじゃない?」

E「そうか。それでね。あ〜、胸のつかえがおりたわ。そうよね。まさしく<サンセット大通り>、 まさしく<毛皮のマリー>だわ。あら、はははは・・・・・。」

P「江上さん、その事だったらパンフにも書いてあったと思いますよ。え〜と、ほらほら、ここ。」

E「えっ!どれどれ。・・・・あら、本当だわ。アキちゃん、これ見てよ。ね、ここ。」

A「あら、本当。やっぱりね。でも、あそこまでパクってても、嫌な感じがしなかったのよね。なんか、 関根君の芝居のパワーに押されちゃうっていうのか。アッシね、正直いって、フライングステージの舞台、 最近はちょっと飽きてきた、ってな感じだったのよ。最初のころは、結構良いじゃない、な〜んて思っていたんだけど、 ここ数年、脚本がね。な〜んか嫌だなって。でも、年末にやる<ガクゲイカイ>なんかで彼の女形とか観てると、 何故かワクワクしてきちゃうのよね。で、ちょっと前に<絶対王様>の舞台で彼が女装して演じてた時、 彼にはこの道が一番なんじゃないかって思ったのよ。」

P「そうですよね。俺もそう思いましたよ。<ガクゲイカイ>でやる贋作シリーズ。あれメチャクチャ面白いですもん。」

E「大門伍朗も良かったわよね。」

A「実はね、アッシ、今回この芝居見に行く事にしたのは、その大門さんが出ているからなのよね。」

P「それって、アキさんの趣味ってこ・と?」

A「馬鹿じゃないの、あんた。もうプーちゃんたら馬鹿な事言わないでよ。まあ、可笑し過ぎていいけどね。 そうじゃなくて、アッシ、舞台上の大門さん、とっても好きなのよね。だから行く事にしたんだけど。 昔の舞台で観ていた彼とはちょっと違ってたけど、やっぱり素敵だったわね。」

P「そんなに古い人なんだぁ。ちょっとお手洗い行ってきます。」

E「まあ、だけど、プーちゃん、目が悪いのかしら?だってさ、大門さんをそんなに古い人なんだなんてね。 見ればすぐに分かるじゃない。誰が見たって結構イッテルってさあ。」

A「まあ、それだけ演技が若く見えたって事でしょ。化粧もしてるし、アッシみたいに一番前で見てたら、 見たくない所も見えちゃうけど、少後ろの席だったら、そんなに細かい所までは見えないだろうしね。」

E「まあ、アタシらは知ってるからね、大門さんは昔から。」

A「そうよ。知って見るのと、知らずに見るのでは雲泥の差よ。・・・・はい、プーちゃん、おしぼり。」

P「有難うございます。ねえ、アキさん、あのトイレに貼ってあるポスター、惹かれますね。」

A「あ〜、あれね。<秘密の花園>。」

E「懐かしいわね、<秘密の花園>。子供の時、読んだわよ。確かバーネットの作品よね、<小公女>を書いた。」

P「そうなんですか?でも、違うような・・・。」

E「プーちゃんって何も知らないのね。バーネットよね、アキちゃん、<秘密の花園>って。」

A「江上ちゃんが言っているのは間違っていないわよ。確かにバーネット。でもね、 トイレに貼ってあるポスターはね、唐十郎の作品なの。」

E「へ〜、唐さんの。どれどれ・・・・・・三田佳子じゃないの、これ。唐さんの芝居を三田佳子がやるんだぁ。 まぁ〜、素敵なポスターね。」

P「でしょ、江上さん。何か惹かれません?怪しいっていうか、何か、不思議な魅力を発しているポスターですよね。」

E「いいわよね、あのポスター。今までの三田佳子が出ている物とは大分違うじゃないの。 アキちゃんはもう観に行ったの?」

A「そうね。もう思い出深い作品だからね。直ぐにチケット買って、先週観に行ってきたのよ。」

E「思い出深いって、また忘れられない男と一緒に行ったとか?」

A「もう、江上ちゃんたらぁ。そうじゃなくて、作品自体が忘れられないの!」

P「という事は、これが初めてじゃないんですね。前も三田佳子でやっているんですか?」

A「今じゃもう下北沢は中小劇場のメッカになっているけど、20数年前は、学生の街としてはとってもお洒落な街だったけど、 劇場はというとね・・・。そんな時に、本多劇場が出来て、その柿落しがこの作品だったのよ。」

E「あっそうなんだぁ。それで思い出深いのね。誰が出てたの?」

A「今回、三田佳子がやる役を緑魔子がやったのね。」

E「緑魔子。あの人舞台なんかに出る人なのね。アタシはず〜っと映像の人だと思ってたわ。 昔の映画ポスターとか見てると良く名前見るし、ほらほら、吉永小百合のTV,NHKの。何だっけ?あの芸者のぁ〜。」

P「もしかして<夢千代日記>ですか?」

E「そうそう。その夢千代日記にも出てた人よね。」

A「そうそう。でも舞台もやっているのよ。旦那の石橋蓮司と一緒に作っている劇団もあるんだから。」

E「あら、旦那は石橋蓮司なんだぁ。それも初耳よぉ〜。」

P「で、その他には?」

A「緑魔子の他には、柄本明、清水紘治、今は劇作家で<転位21>っていう劇団をやっている山崎哲。 演出が小林勝也だったかな。」

P「柄本明以外は知らないな〜。」

E「まあ、そうよね、プーちゃんくらいの年齢だと知らないわねぇ。TV世代だしね。」

A「で、その時は柿落しでしょ。新しい劇場なのに、こんなに水使ちゃっていいの?ってな感じで、 本当に水の多い舞台だったのね。それに、緑魔子の怪しい魅力。まだまだ若かった柄本明の瑞瑞しさ、 唐十郎の世界を作り上げた小林勝也の演出。どれもすごく良くって、もう忘れられないのよ。」

P「そんなに印象深い舞台だったんですかぁ。俺も観に行きたいな。」

A「あら、残念。もう終わっちゃったのよ。」

E「それで、今度の三田佳子のやつは、どうだったのかしら?」

A「そうね、一言でいえば、<混ざり合わなかった絵の具>ってな感じかな?」

P「なんですか?その意味は。」

A「まあ何て言うのかな、ひとつひとつはとても素敵な色で、それらを混ぜ合わせてもっと素敵な色にしようとしたんだけど、 結局ならなかった、って事かな?」

E「あ〜ぁ、そういう事かぁ〜。」

P「あれ?江上さん解ったんですか?俺、全くピンと来ないんですけど。」

E「だからさ、こういう事なのよね、アキちゃん。役者もそれぞれみんな良いし、脚本も、美術も音楽も良いんだけど、 何処かが噛み合ってないって事じゃないの?」

A「まあ、何処かが、というよりも、アンバランスな印象が残っちゃったのよね。」

P「はぁ〜。何となくだけど・・・。例えば、具体的に教えてくださいよ。」

A「そうね、まあ、今回は三田さんをはじめ、松田洋治、大澄賢也、金守珍、大久保鷹、十貫寺梅軒、PANTAなど、 本当にそうそうたるメンバーだったんだけど、アングラ系の役者とそうでない役者の間の溝が埋まらないまま終わってしまったのよね。」

P「ちょっと解らないなぁ〜。」

A「そうね、例えば、アングラ系の役者さんが出てきて言葉を発した瞬間に、 今まであった舞台の世界が他のところへ行ってしまうのよ。行っちゃうのは良いんだけど、行き過ぎちゃうのよね。」

E「あれでしょ、要は、かけ離れすぎちゃうって事でしょ。」

A「そうそう。だからさ、もったいなくって。唐ワールドを表現する為に使った筈のアングラ系の役者たちが、 実はこの舞台をまとまりのない物にしてしまっていたのよね。まあ、逆かもしれないけど。」

E「良かった所はなかったの?」

A「そりゃあるわよ。三田さんは二役なんだけど、その一人、一葉(いちよ)を演じている時はそんなに良くはないものの、 もう一人の双葉(もろは)の時は流石と思わせる美しさ。ただ初演を観ているアッシとしてはねぇ〜。 比べちゃいけないのは重々分かっちゃいるんだけどね。やっぱり怪しさがちょっと足りなかったかな。 松田君はもう上手い!大人の役者にちゃんとなってたわね。ちょっと残念だったのは、水の量かな。」

P「水の量?ですか?」

E「アンタ、話聞いてなかったでしょ。本多劇場の柿落しの話で言ってたでしょ、アキちゃん。こんなに水使ちゃってって。 うむ、もう〜っ!」

A「ちょっとお粗末だったわね。」

E「美術は?」

A「それがさ、アッシ、びっくりしちゃったのね、最初。だって初演の時と似ていたからさ。まあ、入り口の位置や、 回りの風景、勿論違うんだけど似てたのね。で、後でわかったんだけど、初演と同じ朝倉摂さんだったのよ。 これは素敵だったわね。」

P「アキさん、もういっぱいグリーン・ドラゴン・フライを下さい。」

A「アイよっ!・・・あらら、ちょっと混ざり具合が・・・。」

E「えっ?どれどれ。あら、本当ね。混ざり具合がイマイチだわね、これ。さっきの芝居の話みたいね。」

P「まあ、見た目じゃないかもしれないから頂いてみます。」

A「いいわよ、プーちゃん、作り直すから。」

P「でも、まずは頂いて・・・。う〜む、やっぱりちゃんと混ざってないですぅ〜。」

A「だから、言ったでしょ。作り直すって。はい、新しいの。」

P「有難うございます。あ〜、やっぱり美味しいですね。ちゃんと混ざっているとこんなに違うんですね。」

E「やっぱり混ざっているっていいのねぇ。ハーフの人って美しいものねぇ。」

A「あんた、何か勘違いしているわよぉ!ははは・・・・・。」

E「あら、そう?は・は・ははは・・・。」

一同「ははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1)フライングステージ
    <ミッシング・ハーフ>  公演終了
2)<秘密の花園>      公演終了
以上です。またの機会に足をお運び下さいね。
2006.5.7


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