<複雑で複雑で。>の巻

ミック(以下M)「ねえねえアキさん、連休はどうだった?地方から沢山来たのかな、人。」

あき(以下A)「もう連休だからといってそんなに地方から沢山人が来る時代じゃないわよ。 いつも連休でしょ。金曜日に仕事終わってから来たって2泊できるし。」

M「そうだよね。特に長い連休になったら旅行行っちゃう人も多いもんなぁ。」

A「そうね。結構行ってたみたいよお客さん。」

涼ちゃん(以下R)「こんばんは。雨続きますね。」

A「涼ちゃん、いらっしゃい。はい、オシボリ。今日は何にしようか?」

R「え〜とですね。今日は菊水をお願いします。」

A「あいよっ!涼ちゃんは、猪口(ちょこ)とグラスとどっちがいい?」

R「僕はお猪口でお願いします。」

A「はい、どうぞ。」

R「あっ、すいません。で、これ、お土産です。」

A「あら、有難う!何処行って来たんだっけ?」

R「ちょっとタイに。」

M「いいなぁ〜。一緒だったの?」

R「まあ、そんな所かな。」

A「ミックも早く誰かと一緒に行けるようになると良いわね。・・・あら、ドライフルーツね。 アッシ大好きなのよぉ〜。有難うね、涼ちゃん。」

R「いえいえ、つまらない物でぇ・・・。」

A「ミックもどう?」

M「えっ、いいんですか?じゃあ、いただきま〜す。美味しいねえ。」

A「ね、美味しいわよ。涼ちゃんも。」

R「はい、有難うございます。」

A「で、どうだったの?タイは。」

R「もう暑くて暑くて。」

A「そりゃそうよね。今は暑季だもんね。」

M「何?暑季って。」

A「タイはね、この時期が一番暑いのよ。ほら、乾季と雨季ってあるじゃない。 タイには暑季っていうのがあるのよ。」

R「本当に暑いんだから。ミックも行ってみれば分かるけど、長い時間外にいると、 クラクラきちゃうんだよ。」

M「そんなにぃ〜!!!」

R「それにジメジメしてるし。」

M「なんでこんな時期に?」

R「仕方ないからね、サラリーマンは。そりゃベストシーズンに行きたいけど、 休みが取れないでしょ。だから、旅行代金が高くても、シーズンが悪くても行くんだよね。」

M「旅行会社の思う壺だ。」

A「何言ってるのよ、ミック。涼ちゃんたちがいるからアッシなんか安い時期に行けるんだもの。 芝居やコンサートだってそうよ。平日だから少しは取り易いのよ、チケット。 涼ちゃんたちみたいにサラリーマンの人って、どうしても土日しかないじゃない、 確実に行けるのが。チケット争奪戦も激しいんだから。ねえ、涼ちゃん。」

R「そうなんですよ。土日しか無いからね、休みが。今やってる<白夜の女騎士(ワルキューレ)> だって、前売りで取れなくて、結局ネットオークションで高い値段で買っちゃうんですよね。まあ、 初日で良い席だったから買ったんだけど。」

M「結構高いのかな?」

R「物によるけどね。これは結構高かったよ。」

M「倍くらい?」

R「そこまではいかないけど、でも、近いかな?一番前の真中だし。」

A「それじゃ、仕方ないかもね。でも、ネットオークションてそんな値段で出るのよね。アッシも、 もう結構前なんだけど、中島みゆきの<夜会>のチケットを何時も地方の友達の為に取るんだけど、 丁度、初日の一番前の真中が取れたのね。で、たまたまネット見てたら、 初日が30万円でも買うって出てたのよ、オークションじゃなかったんだけど。で、売っちゃおうかな、 って思ったけど、やっぱり友達をとったのよね、アッシは。」

M「だから最近は注意書きされてるんだよね。」

R「ありますね。確か販売目的での購入がドウタラ、コウタラって。」

A「買わなきゃいいんだけど、やっぱり欲しくて余裕のある人は買っちゃうのよねぇ、仕方ないから。 そうじゃなくても芝居は高いからね。余裕がなきゃ買えないもん、いくつもいくつも。」

R「そうですよね。ところで、アキさん、この所何か観に行ったんですか?」

A「芝居?行ったわよ。涼ちゃんがネットで買った<白夜の女騎士(ワルキューレ)>と唐組の <紙芝居の絵の町で>に。」

R「やっぱり唐組なんだ。今花園神社の前を通ってきたらテントがあったんで、 もしかしてとは思っていたんですけど。やっぱりね。まだテントで頑張っているんですね、 唐十郎は。」

M「テントで芝居観るの?」

A「そうよ。体育座りしてね。もうアッシなんかの歳になると、腰が痛くて辛いのよね、 よっぽどのめり込める作品じゃないと。」

R「で、今回のはどうだったんですか?」

A「唐ワールドは出てたと思うのよ。コンタクトのセールスマンと彼が古本屋で買った <紙芝居集成>の中のちぎれた一ページ。幻の天才紙芝居絵師と女が拾ったベニイロ玉のリング <夜の目>が色々絡まって進んで行く、まさに唐ワールドだったけど、アッシにはイマイチだったかな? 面白かったけどね。」

R「でも、観たくなりますよね。もう俳優陣も相当変わっているんでしょうね。僕が最初に似た時には、 もうとっくに根津甚八も小林薫もいなくて、稲荷卓央が新人で出て来たころですからね。李礼仙 (現:李麗仙)はいましたけど。」

M「根津甚八や小林薫が居た所なんだ、唐組って。オイラ全然知らなかったよ。李礼仙って、 滑舌があんまり良くないあのおばさんだよね、金八に出てた。あの人もいたんだぁ〜。」

A「そうか、ミックの歳じゃ知らないのね、彼女がどんなに凄かったかって。」

M「凄かった?あのおばさんが?」

R「そうだよ。本当に凄かったんだから。アキさんほどじゃないけど、僕も結構観ましたからね。 その存在感たら本当に凄かったですよね。」

A「そうね。格好良かったわね、何しろ。今も紅テントで唐十郎が出てくると、わぁ〜っ!と拍手がおきるけど、 李がいた時の状況劇場は、李が出てくると凄い拍手に掛け声。もう宝塚のトップ並みだったんだからね。 さっきミックが言ってたけど、彼女、本当に滑舌は悪いし、顔もそんなに良くないじゃない。でもさ、 本当に格好良かったのよ。」

R「彼女が辞めてからあんまりいい女優が育たなかったですよね、唐組は。男優もイマイチだしね。」

M「でも、ブームなんだよね、唐十郎って人。マスコミで良く取り上げられているし。 その人だけがブームなのかな?」

A「まあ、色々あるだろうけど、ひとつには、昔の戯曲を今の若者が改めて読み直して、 今流に解釈し直している事が上げられるわね。」

R「そうですか。今流にね。新しい感覚で捉えてる芝居も観てみたいですよね。さっきアキさんがひとつには、 って言ってましたけど、と言う事は二つ目があるって事ですよね。」

M「なに?二つ目は。」

A「最近、といってももう数年前になるんだけど、唐組に丸山厚人っていう男優が入ったのよ。 これが凄くいいのよね。で、昔の唐十郎は間違いなく李礼仙(現:李麗仙)に当てて戯曲を書いてたと思うんだけど、 今は、この丸山厚人に当て書いたかな?って思えるのよね。」

M「どんな人なの?その丸山って人は。」

A「背は180cm以上あって、顔は木村拓也系かな?声は響くし、立ち姿も綺麗。勿論、滑舌もいい。 唐さんも長年主役をやってきた稲荷卓央と同等か、それ以上のインパクトある役を最近やらせているのよ。」

R「へ〜、そんなに格好いいんですか。ちょっと観たいですね、彼を。」

M「オイラもちょっと興味あるかな。」

A「是非一度観て来てよ。まだやっているからさ。」

R「ところで、コクーンでやってる<白夜の女騎士(ワルキューレ)>はどうだったんですか? 僕はさっきも言った通り、ネットオークションで初日のチケット手に入れたんですけど、 旅行から帰って少しだけ休んで行ったんで、話の複雑さや眠けで全く分からなかったんですよ。」

A「何、涼ちゃん、帰ってきたその日に行ったの?そりゃ疲れて眠くなるわね。アッシはね、 三日目の昼公演に行ったんだけど、もう20年位前に紀伊国屋ホールで観た時よりも分かりやすかったわね。」

M「そんな前の芝居なんだ。」

A「そうよ。まだ野田秀樹が夢の遊眠社時代の作品だからね。これはさ、ワーグナーのオペラ <ニーベルングの指環>をモチーフにした3部作<石舞台星七変化(ストーンヘンジ)>のうちの第一作目なのよね。 この後、続けて第二作の<彗星の使者(ジークフリート)>と第三作の<宇宙(ワルハラ)蒸発>を上演して、 翌年に代々木の体育館で3部作の一挙上演をしたのよ。残念ながらアッシ、その公演には行けなかったんだけど、 今回演出の蜷川さんに、是非、蜷川演出の野田版<指環>を一挙上演してもらいたいわね。」

R「今、アキさんは、分かり易かったっていいましたけど、僕には本当、チンプンカンプンで。」

M「どんな話?」

A「簡単には説明出来ないわね、例によって複雑だから。まあ、神話の世界と、飛ぶコツを忘れちゃった棒高跳びの少年、 それに、兄妹愛。これらが絡まって進んで行く話なのよね。」

M「それじゃ、全然分からないよぉ〜。」

R「本当に分からなかったんですよ。アキさんが分かり易かったって言ったのはどんな所だったんですか?」

A「そうね、分かり易かった点はね、主題がテロに置かれた点かな?」

R「テロですか?主題が。」

A「そうだと思ったんだけど、アッシは。そこに空飛びサスケやライト兄弟(巨人・刑事)、大写真家(神)、 小人族が絡まっていくのね。まあ、その逆で、それらにテロの話が被ってくるのかもしれないわ。」

M「やっぱり複雑だなぁ〜。」

A「空飛びサスケが引っ越した場所(富士山の麓)に居た前の住人<眠り姫(おまけ)>に出会うんだけど、 その彼女がサスケの無線仲間の<その後の信長(実はテロリスト)>なのね。アッシは、 そのテロリストに焦点を当てたんじゃないかと思うのよ、蜷川さんは。」

R「あ〜、そうか。そう言えば、富士山の麓のサスケが引っ越してきた近くの風景が、なんか、 オウム事件のあの村にあったあの建物に似てたような気がしてきましたね。」

A「そうでしょ。アッシもちょっと思ったわね、あの不気味な建物は。」

R「すすると段々分かってきましたよ。そうですね。そうです、きっと。」

M「涼さん、自分だけ分かっちゃってるようで、気分悪ぃ〜い。」

R「いやね、結局その後の信長がテロリストだとすると、物語の辻褄が合ってくるんだよ。 な〜るほどな、って。」

A「でしょ。ひとつが分かると次々に解けていくのよね、あれはこうだったんだ、とか、で、 これね、とかさ。」

M「なんだか、「あれ」だとか、「これ」だとか、もう幾つなんだよぉ〜、アキさ〜ん。」

A「うるさい!!!段々そうなるのよ、ミックだって。」

M「ならない様に脳の訓練してるもんねぇ〜、だ。ははは・・・・・・。ところでさ、出てた役者たちはどうだったの? 嵐の松本潤とか出てるみたいだけど。」

A「まあまあの好演かしらね彼は。鈴木杏も爽やかでとっても良かったし。ね、涼ちゃん。」

R「鈴木杏は何の役だったっけ?」

A「いやだ、アンタ。寝てたのね、きっと。彼女は眠り姫(おまけ)でしょ。」

R「でも、彼女は何で眠り姫なんでしたっけ?」

A「も〜う。本当に寝てたのね。彼女はさ、ワーグナーのオペラでいったらブリュンヒルデっていうところよね。 父親の命令に背いちゃって眠らされちゃうのよ。その後は、まあ眠りの森の美女と一緒よね。 起こしてくれた人と結婚する事になるんだけど、この芝居では違うのよね。永遠の眠りについちゃうわけ。」

M「永遠の眠り?」

A「そう。宛先と差出人とを間違えた小包み、っていう事は、その小包みは自分の所に配達されちゃうわけなんだけど、 それを開けると・・・。」

R「それは兄のその後の信長が送った物、つまり爆弾だったわけですね。あっそうか。それで。やっと繋がりました。 その間寝てたのかな?僕。」

A「そうでしょ、きっと。まあ旅行から帰ってきたばかりだったし、致し方ないわよ、それは。アッシなんか、 暗くなると眠くなっちゃうから、映画でも芝居でも、いつも最初はちょっと眠くなっちゃうのよね。」

R「しかし複雑ですね。聞いて少しは分かってきたんですけど、やっぱり複雑ですよ。」

A「本当よね。よく観てないと分からなくなっちゃうからね。さっきも言ったけど、初演の時は、 本当に何がなんだか分からなくて。今回の再演で、ようやく少し分かったかな、ってね。野田の戯曲にしても、 唐さんの戯曲にしても、複雑だからね。」

M「オイラは、あれとか、これとか言っているアキさんの忘れっぽさを考えると複雑で複雑で。」

A「えっ?なんだって!今にアンタもそうなるのよ。ね〜っだ。」

R「そりゃそうですね。僕もですけど。ははは・・・・。」

一同「はははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1)唐組<紙芝居の絵の町で>
     5/27,28,6/3,4, 雑司ヶ谷・鬼子母神
     6/10,11,17,18, 花園神社
2)<白夜の女騎士(ワルキューレ)>
     5/30まで渋谷文化村シアターコクーン
以上です。どうぞ足をお運び下さいね。
2006.5.21


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