<苦悩と太陽>の巻

不二雄(以下F)「こんばんは。生まれましたね、男の子。」

あき(以下A)「あら、不二雄ちゃん、いらっしゃ〜い。はい、おしぼり。」

F「やっぱり噂通りでしたね、男の子。」

A「そうね、やっぱりね。」

マコ(以下M)「そりゃ、そうでございますわよ。男の子じゃなかったら、意味ありませんでしょ。」

F「相変わらずですねぇ、マコさんも。でも、本当にそうだよねぇ。男の子で良かったよ。 これで雅子さんも安心だよね。」

A「で、今日は?不二雄、何にする?」

F「あっ、そうか。え〜と。今月のお勧めドリンクの<アーリー・オータム>って何で出来てるのぉ?」

A「ほら、ビールとジンジャエールで出来てるカクテル・・・。」

M「シャンディー・ガフでございますわね。」

A「そうそう。そのシャンディー・ガフをちょっとアレンジしてみたのよ。氷を入れて味を引き締めて、 そこにブルーキュラソーを少し垂らすの。とても飲み易いドリンクよ。」

F「それじゃ、それお願いします。」

A「あいよっ!・・・・はい、お待たせ。」

F「へ〜〜〜、これかぁ。青がどんどん沈んでいくよぉ〜。」

A「それが夏の想い出よぉ〜。ね、ひと夏の想い出。不二雄にもあったでしょ、そんな想い出が。」

F「今年は無かったけどね。」

M「なに寝事言っているんでございますの?今年なんてアキちゃん言ってませんわよ。過去にあったでしょ、 って聞いているんですわよね。」

A「まあ、そういう事よ。まあ、不二雄にだってあるでしょ、夏の想い出。あ〜んな事やこ〜んな事のさぁ。」

F「そうだなぁ、有ると言えばあるし、無いと言えば無いしねぇ。」

M「それにしても良い名前ねぇ、アーリー・オータムなんて。ジャズにあったわね、そんな曲。」

A「あった、あった。ウディー・ハーマン・オーケストラでしょ。」

M「そうじゃなくて、ヴォーカルよぉ。」

A「アニタ・オデイかしらん。」

M「そうよぉ、アニタよ、アニタ。」

A「でもさ、あの曲って、最初はインストルメンタルだったのよ。後でジョニー・マーサーが詩をつけたのよ。」

M「あら〜、そうだったのぉ〜?知らなかったわぁ〜ん。でも、いい曲よね。」

F「どんな曲なの?有る?聴いてみたいな。」

A「ちょっと待ってよ。確かこの辺りにあったと思うんだけど。・・・・・あった、あった。」

M「そうそう。これこれ。いい曲じゃない。ね、不二雄さあ、いい曲でしょ。」

F「何か来るよね。そんな感じ。」

M「ねえ。いいわぁ〜。」

F「ところでさ、今度の子は名前なんて付けるんだろうね。まあ、不二雄にはならないと思うけど。」

M「馬鹿な事おっしゃっちゃいけませんわよ。皇室のそれも男の子でらっしゃるのよ。 不二雄なんて名前付ける訳ございませんでしょ。」

A「つけても良いのにね。そしたら全国中、男の子は不二雄になっちゃうわね。ははは・・・・。」

M「そう言えば、天皇の映画やってなかった?」

A「あ〜、<太陽>ね。観てきたわよ、この前。」

F「今話題の<太陽>ね。僕の友達が凄く良いからって薦めてたよ、確か。」

M「で、どうだったんでございますの?」

A「うん、良かったわね。いい映画だったと思うわよ。」

F「なんだか、僕の友達は、天皇をとらえる視点が面白かったって。」

A「そうね、天皇をひとりの人間としてとらえてたわね。」

M「いつ頃の話でございます?」

A「もう敗戦が濃厚になってきた時期からほんの短い期間だと思うんだけど、はっきりとした時期設定はなくてね。 でも、昭和天皇が人間宣言する事を決めるまでの話なのは間違いないわよ。」

M「人間宣言ですわね。さぞかしお辛かったでございましょうね。」

F「そうかな?逆に楽になれてホッとしたんじゃないの?」

A「まあ、そのどちらともが描かれているのよね。そりゃそうでしょ。楽になったっていうのは、 その前に凄く辛い事を経験しているって事だからね。」

M「そうでございますわよ。不二雄みたいにぜ〜んぶ揃った時代に生まれている子たちには分からないでしょうけども、 あの頃は・・・、ねえ、あきちゃん。」

A「えっ???アッシだって分からないわよぉ。まあ、ただアッシは貧しい時代に生まれているからね。 辛かったと言えばそうなんだけど、マコさんみたいに戦争の真っ只中に居たわけじゃないからね。 そういう意味では本当の辛さって分からないわね。」

M「そうでしょうね。な〜んにも無かったですからね。あたくしなんて、 疎開先もないからず〜っと東京にいたんでございますのよ。辛い時代でございました、本当に。」

F「で、映画はその昭和天皇の苦悩を描いてるっていう事でいいのかな?」

M「話に聞く所だと、イッセイ尾形が少し過剰な演技をしているみたいですけども。」

A「そうね。アッシはそんなに言われているほど過剰とは思わなかったわね。ただ、ひとつ気になったのは、 彼の口の演技。晩年の昭和天皇は、確かに、何かの原因で、口を常に動かしていたけど、アッシの記憶に残っている、 というか、昔の映像なんかで見る昭和天皇は、そんなに口を動かして無いものも多くあるのよね。だけど、 本当に良く描いていたなって思うわよ。人としての天皇の苦悩ね。」

M「例えばどんな所でございますの?」

A「例えば、夢でうなされる所とか、平家蟹の標本を見ている眼差し、マッカーサーとの会見での子供っぽさ、 それに、アメリカの記者たちに写真を撮られるシーンでの行動。監督のソクーロフは、神ではそんな事しないでしょ、 っていう行動そのもので天皇が普通の人である事を表現したかったんじゃないかと思うのよ。特に、 昭和天皇の側近の人たちに対する対応と、アメリカ軍の通訳に対する対応の対比が面白くて。」

F「それはどんな事なのかな?」

A「側近に対しては、あんまり良く思っていない、というか、面倒くさいな、っていう対応を見せるのに対して、 アメリカ軍の通訳に見せるのは、嬉しさや、優しさの表情なのね。まあ、それは彼(通訳する人)が、 昭和天皇を尊敬しているのが良く分かったからかもしれないけど。」

M「でも、侍従や天皇の周りの人たちは、当然のように尊敬していますわよね。」

A「勿論ね。でも、同じ尊敬でも、違って見えたんじゃないかしらね、天皇は。神だったら平等かもしれないけど、 人間だからね。」

F「さっきも聞いたけど、監督が描きたかったのは、昭和天皇の苦悩だったのかな?」

A「どうでしょう。映画の中でね、アメリカの記者がチャーリー、チャーリーって呼ぶシーンがあるのよね。 そこで、思ったんだけど、チャーリーって、チャーリー・チャップリンの事なんだけど、チャップリンの映画って、 奥の深い所に苦悩と笑い、そして、幸福感があるでしょ。ソクーロフ監督はその辺りを表現したかったんじゃないかと思うのね。 勿論映画だからフィクションでしょ。全ては彼の想像よね。当然資料は沢山見たと思うけど。人間じゃなかった時の天皇と、 人間になろうと決断した時の天皇の差。これが本当に良く出てたと思うのよ。」

M「やっぱり、あれでございますか?イッセイ尾形の勝利ですかね。」

A「大きいんじゃないかしらん。この映画はイッセイ尾形の映画と言っても過言じゃないだろうし、この映画の成功は、 彼無しでは考えられなかったろうしね。」

F「桃井かおりも出てたんでしょ。」

A「出てたけど、最後のほんの5分くらい。気品さは香淳皇后には遠く及ばないけど、イッセイ尾形とは長年の付き合いだから、 なんとも言えない二人の間が凄かったわね。」

M「この映画、見に行かなきゃねえ。昭和天皇の心の中に出てくる太陽なんでございましょうねぇ。」

A「あら、流石はマコさん、素敵な表現ね。心の中に出てくる太陽ね。それに、戦争が終わって、 本当に顔を見せる太陽の事も同時に言いたかったんじゃないかと思うわ、アッシは。」

F「明日、早速見に行こうっと。」

M「そうですわね。アタクシも早速行きますわよ。それでは、今日は失礼しましょうかね。アキちゃん、 お会計お願いします。」

A「は〜い。それじゃ、マコさんは、2900円です。有難うございす。」

M「はい、それじゃ、これで。」

A「5000円お預かりします。2100円のお返しです。」

M「それじゃね、不二雄もまた。」

F「はい。おやすみなさい」

M「おやすみ。アキちゃん、それじゃ、また。」

A「有難うございます。お休みなさ〜い。」

F「それじゃ、僕はもう一杯、お代わり。」

A「あいよっ!」

おわり


*今回紹介した映画は、
1)<太陽>  銀座シネパトス他で上映中

以上です。どうぞ足をお運び下さいね。
2006.9.10


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