<やっと解った!>の巻

ジュンジュン(以下J)「や〜〜〜、綺麗な、何とも言えない色ですね。」

タカちゃん(以下T)「どれどれぇ。あら、ホントね、綺麗じゃないの。何使ってんの?あきちゃん。」

あき(以下A)「パルフェ・タムールって言うリキュールよ。ほら、バイオレットフィズで使っているやつよ。」

J「あ〜、あの紫のですね。でも、これ、あの紫よりちょっと薄いですね。」

A「まあ、メーカーによってもちょっと変わるし、ソーダの量でも変わるからね。」

T「あのさ、昔飲んだ事あるんだけど、<ブルームーン>っていうカクテルなかったっけ?あれの色よね、 これって。ちょっと薄いけど。」

A「そうそう。その<ブルームーン>をヒントにして作ったのよ。あれだとシェーカー振らなきゃだめじゃない。 うちでシェーカー振っちゃうとガラスや自分まで壊れちゃう可能性があるしね。だから振らないやつを考えたって訳。」

T「流石でございますわね。ははは・・・。でも、不思議な色よねぇ。」

J「何か夢の世界に行ってしまいそうな感じがしますよね。」

A「あら、ジュンジュンたらロマンチックだったのね。ははは・・・・。そうは見えないけど。ははは・・・・。」

J「相変わらず失礼ですね、アキさんは。でも、僕本当はロマンチックなんですよ。」

A「分かってるわよ、ジュンジュンがロマンチストだって事ぐらい。」

T「夢見る夢子さんでしょ。ははは・・・。」

J「まあ、そうですね。そうかもしれません。夢みたいですけど。」

T「そう言えばさあ、アキちゃん観たかしら?ベケットの<エンドゲーム>。」

A「行きました、勿論じゃない。アッシ、ベケット大好きなのよ。」

T「あれさ、アタシだからかもしれないけど、全く夢の中に居るっていうか、まあ、はっきり言って解らなかったのよぉ。」

A「難しいからね、ベケットは。」

J「さっきから二人で話さないでくださいよぉ、自分だけ取り残されちゃったみたいだな。ぜ〜んぜ〜ん分かりませんよ。 誰なんです?ベケットって。」

A「ベケットっていうのはね、ちゃんと言うと、サミュエル・ベケットって言うんだけど、アイルランドの作家で、 今年が丁度生誕100年に当るのよね。それで、いろんな所でベケットに関するイヴェントをやっているんだけど、 この<エンドゲーム>っていう芝居もその一環なのよ。」

J「へ〜、そういう事なんですか。」

T「あんた、ベケットぐらい知っておきなさいよ、ノーベル賞もとっているんだからね。」

A「あら、ベケットってノーベル賞とってるの?アッシ知らなかったわよ。」

T「あらあら、アキちゃんも大した事ないわよね。ノーベル文学賞よ。」

A「あら、そうなんだ。1969年だったっけ?」

T「あら、もう。知ってるじゃないのよ!ったく。」

J「まあまあ。で、タカさんが解らなかったっていうんですから、本当に難しい芝居だったんでしょうね。」

T「そりゃそうよ。アタシが解らなかったのよ。難しいのに決まっているじゃないのぉ。まあ、 不条理劇だから仕方ないんだけど。」

J「何ですか?不条理劇って。」

T「不条理って言うのはね、まあ、生きてく意味を見出す事が全く無くなった極限の状況とでも言うのかしらね。」

J「へ〜、ってまるで解らないんですけど。難しすぎて。」

A「まあ、そりゃそうよね、ジュンジュンには難し過ぎるわよね。タカちゃん、ああ見えても哲学科出身だからね。 物事の考え方がねえ。」

T「あら、何か?おっしゃった?ははは・・・。とにかく、難しいのよ、彼の作品は。」

A「それは本当ね。解りそうで解らないじゃなくて、本当に解らないのよね。」

J「その芝居の他に、僕でも解りそうな芝居はないんですか?」

T「まあ、解らないと思うけど、<ゴドーを待ちながら>っていう芝居は有名ね。」

J「何かぁ聞いた事あるかも。待ってるっていうやつですよね。5〜6年前に観ましたよ。確か、 柄本明さんと石橋蓮司さんだったかな。三軒茶屋の劇場だったかなぁ〜。」

A「世田谷パブリックシアターでしょ。」

J「そうです、そうです。ただ待っているんですよね。で、待ってて待ってて終わっちゃった、 っていう感じでしたかね。」

T「そりゃそうよ。待って待って、何時までも待ってて、終わっちゃうのは芝居のほうで、彼らはまだ待ってるのよ、 きっと。それが不条理よ。」

J「なんか、解ったようで・・・。」

A「でもさ、この<エンドゲーム>、役者は良かったわよね。柄本明に手塚とおる。それに、三谷昇と渡辺美佐子。」

T「渡辺美佐子なんて、あんなに少しの出番で出演しちゃうんだからねぇ。ビックリ!!!って感じよねぇ。」

A「アッシはさ、柄本明と手塚とおるの配役が逆じゃないかと最初は思ったのよ。」

T「まあ、役柄からしたら当然反対よね。アタシは、演出の佐藤信が敢えてそうしたんじゃないかと思っわ。」

A「それは後で思ったの。意外性?っていうのかな。それにしても今の世界を50年も前に想像してたみたいで怖かったわよね。」

J「それって、どういう事なんです?」

A「ほら、タイトル。」

J「何でしたっけ?」

T「アンタ、ちゃんとアタシ達の会話聞いている訳?ちゃんと聞いてなさい!ね、タイトルは<エンドゲーム>よ。」

J「終わりのゲームですよね。」

T「ちょっとぉ〜、アキちゃん、この子どうにかしてよ。終わりのゲームだって。ねえ、勉強したの?ちゃんと。 それを言うならゲームの終わりでしょ。」

J「すいません。」

A「でもさ、これが終わりのゲームって事も有り得るわよね。そこがアッシが恐ろしさを感じたところなのよ。」

T「今の世界に似ているっていう点でしょ。解るわぁ〜。」

J「どういう事・・・なんですかぁ〜。何か居ずらくなってきちゃったなぁ〜。な〜んにも解らないんだも〜ん。」

A「大丈夫よ。観てないんだからね、ジュンジュンは。つまりね、この芝居、 全てが終わりに近づいているっていう芝居なのよね。」

T「そうよねぇ。今、ちょっと解ってきた気もするわよ。あれでしょ、あの閉ざされた空間には、 もう食べる物も少なくなっているし、盲目で歩けないハム(手塚)と彼に仕えているクロヴ(柄本) の関係も限界にきているし、ハムの年老いた両親は死の寸前にあるし。つまり、全てが終焉に近づいているってことよね。 あ〜、な〜んとなく解ってきたような・・・。」

A「だからアッシはね、<ゴドーを待ちながら>よりも、この<エンドゲーム>の方が解りやすかったのよね。」

J「へ〜。難しそうですけど、お二人の話を聞いていたら、無性に観たくなってきました。」

T「でも、アンタ、あんまりやらないわよ、この芝居。それに、耐えられるかしらね、アンタに。」

A「またタカちゃんたら。お得意のイヤミは止めなさい。若い子に嫌われるわよ。ははは・・・。」

J「まるで話は変わるんですけど、この前、渡辺えりこさんの劇団の芝居に行ったんですよ。」

A「<夢ノかたち>の第二部ね。」

T「あれだっけ?<緑の指>だったわよね、確か。」

J「え〜!みんな知っているんですね。話しずらくなってきたなぁ〜。」

A「大丈夫よ。どうしたの?」

J「はい。で、あれって一部が有ったじゃないですか。」

T「<私の船>ね。」

J「そうです。それで、一部を観終わった時、全然解らなかったんですよ、話が。ところが、 二部を観終わってようやく解ったんですよね。」

A「でも分かるわよ、ジュンジュンの言いたい事。あれは確かに二部まで観るとちゃんと解るわよね。 多いんじゃない?ジュンジュンみたいな人って。」

T「アタシまだ行ってないんだけど、どうだったの?」

J「いいんですか?まだ観てないのに。」

T「まあ、さわりくらいならね。」

J「一部から時が20年ほど経っているんですよ、二部の舞台は。」

T「そうなのね。って言う事は、あの精神病院の20年後っていう設定なのね。」

J「えっ!!!タカさん、一部の設定が精神病院だったって解ってたんですか?」

T「そうよ。だって、最後の方でちゃんと出てきたじゃない、お医者さんとか看護師とかが。ねえ、 アキちゃん、そうだったわよね。」

A「そうね。出てきたわね。」

J「アキさんも知ってたんですか?んじゃ〜、僕だけですかぁ?解ってなかったのは。」

T「まあ、そういう事になるわね。」

J「と言う事は、今度もあの舞台は精神病院?」

A「違うわよ、あそこは。あの時はデザイナーに憧れている患者さんが多かったからああいう設定にしたんでしょ。 今度はその20年後よ。設定は、住職になった病院長の経営するお寺付属のアパートよ。マンションかもね。 下に福子の作品を置いてあるブティックがあるっていうから。」

J「そうか。良かったぁ〜。」

T「で、その福子っていうのは?」

J「あ〜、彼女は、渡辺えり子さんが演じているんですけど、死んだ母親(実は実母ではないのだけれど) のためにドレスを縫い続けているんですよ。」

T「死んだ人のためにドレスをね。泣けるわぁ〜〜〜。」

A「タカちゃん、こういうのに弱いもんね。まあ、でも泣けるほどの話じゃないと思うんだけど。」

T「アンタは血も涙も無い人間だからね。」

A「はいはい。どうせ、アッシは血も涙もありません。」

J「二人とも止めて下さいよぉ〜。で、そのマンションの一角にはず〜っと閉じこもったまま出てこない滝沢さんがいて、 その世話をやいている林田さんがいるんですよ。それに、画家志望で青年だった安治、旗揚げ間近の劇団員たち、そして、 今は住職となった元病院長。それに、洋装店の社長、元患者たちが入り混じって話は 過去〜現在〜過去〜現在と何時が何時だか分からないまま進んでいくんです。」

T「ふ〜ん。ぜ〜んぜん解らないわね、ジュンジュンの説明じゃ。」

J「すいません。」

A「タカちゃんさ、さっき、さわりだけだったら話してもいいって言ったじゃないのよ。ねえ、ジュンジュン。 だからジュンジュンはさわりを話したのよね。これ以上話したら見に行く気が無くなっちゃうかもよ。ははは・・・。」

T「まあ、それもそうね。でもさ、結局はどうなのよ。」

A「まあ、夢を実現するために皆、それぞれに進んで行くって事かな?それが、良い方向でも、悪い方向にでもね。」

J「そう言う事なんですか?あ〜、やっぱり解っていなかったかも、とほほほ・・・。」

T「なるほどね。前回観て思ったんだけど、彼女の劇団も相当成長したんじゃない?」

A「大分劇団としての形は出来てきたと思うわね。もう一歩ってところかな。若い団員は、台詞をちゃんと入れる所から始めないとね。 アッシが行った時は、初日から一週間も経っているのに、台詞が入ってない子もいたしね。まあ、 ベテランが上手くカバーしてたからいいけどね。」

T「あっそうなのぉ。でも、行ってみるわよ。あそこって、渡辺えり子が主催しているから、若い子だけで作っている劇団とは、 やっぱり違うものね。視点が違うわよ。甘くないから好きなのよね。そう思わない?アキちゃん。」

A「そうね。今の若い劇団が作る芝居はテーマが甘くって。まあ、日本が平和って事でしょ。その平和に甘えちゃいけない訳じゃない。 平和になっているのにはそれなりの理由がある訳だからさ。」

T「そうよね。その平和を続かせるために、忘れられた何かを訴えなきゃね、若い劇団は。」

A「まあ、それに気付くかどうかも問題なのよね。」

J「何か、も〜っと難しくなっちゃってきましたね。ついていけないかもぉ〜〜〜。」

レイ子(以下R)「今晩は。」

A「あら、レイ子、こんな時間に。遅いじゃないの。はい、おしぼり。」

R「有難うございます。今ミュージカル終わって帰える途中に寄ったってわけで〜す。だけど、遠いわね、天王州は。」

A「あら、銀河劇場ね。」

T「あれ?天王州アイルじゃないんだっけ?」

J「古いなぁ〜。タカさんは。今はホリプロが買ってリニューアルしたんですよね、レイさん。」

R「そうなんですよ、タカさん。ほとんど変わってないんですけどね。舞台をちゃんと作ってオケピまであるんです。」

T「へ〜、オケピまでね。」

J「何ですか?オケピって。」

T「ジュンジュンさ、アタシの事古いな〜、なんて言ってる場合じゃないでしょ。本当に物知らないわねぇ〜。」

J「すいません。」

A「オーケストラピットの事よ。約してオケピ。ほら、三谷好喜のミュージカルにあったじゃない、オケピってのが。」

J「あ〜、そう言えばありましたね。分かりました。」

R「アキさん、もおう行きました?」

A「行ったわよ。あれでしょ、<ぺテン師と詐欺師>。ブロードウェイで観てなかったからね。」

R「そういえば、ここの所行ってないですね、ブロードウェイ。」

A「そうなのよ。ちょっと自粛ね。毎年でしょ。行き過ぎちゃったからね。でも、またその内行こうとは思っているんだけどね。」

T「でさあ、どうだった?そのミュージカル。<ぺテン師と詐欺師>。」

R「アタイは結構楽しめましたよ。アキさんは如何でした?」

A「そうね、まあまあだったかな。話は面白いわよね、やっぱり。」

J「どんな話なんですか?」

R「いいのかしら?言っちゃって。」

T「話してよ、レイちゃん。」

R「まあ、リヴィエラを拠点にしている詐欺師がいるのね。ある日、 彼が新聞でアメリカの詐欺師がリヴィエラ近辺を荒らしているっていう記事を読むの。そんな時、 列車の中で粗野なアメリカ人のぺテン師と出くわうの。」

A「何かを感じた詐欺師のほうが、そのアメリカ人ぺテン師を自分の家に招き入れるのよ。」

R「で、すっかりその豪華な生活と、詐欺師のテクニックに感心したぺテン師が弟子入りするんですよ。 そこで二人は共同戦線をはって、石油王の娘を手玉にとっちゃうの。」

A「でも、所詮は敵同士じゃない。お互いに縄張りを主張しあうようになって、 あるターゲットを手玉にとった方がこの土地を縄張りにするっていう賭けをするのね。」

J「面白そうですね。」

R「で、ターゲットになったのが尋常そうなアメリカ人の娘。」

T「でも、その娘には秘密があった、って事じゃないのかしら?」

R「あら、タカさんも観たんですか?このミュージカル。」

T「アタシはね、昔、映画を観たのよ。確かマイケル・ケインとスティーブ・マーチンだったかしら。面白かったわね。」

J「それじゃ、またみんな知っているんですか。もう自分だけじゃないですか、何も知らないの。」

R「ジュンジュン、それがあなたの良いところじゃないの。これから色々な物を吸収できるんですもの。ねえ、 羨ましいですよね。タカさんや、アキさんなんか、吸収しようとしてももう限界がねぇ。」

A「ははは・・・。そうそう。そろそろ限界。ははは・・・。」

J「慰め、有難うございます。で、話の続きを。」

A「まあ、それで、詐欺師もぺテン師も、そのアメリカ娘にいっぱい食わされたって言う事。」

J「そこで始めてやっと解ったんですね。本当に面白そうじゃないですか。」

R「でもどうでした?アキさん。役者がね。」

A「そうね、アッシもイマイチかなって。意外と鹿賀丈史はまあまあだったけど、市村正親がね。ちょっとキモイ。 女優もイマイチだったし。でも、脚本の良さで持ってけたって感じよね。それに、簡素だったけど、上手く使ってた舞台装置。 まあ、全体的にはまずまずだったでしょ。」

R「それはいいんですけど、ビールを頂けますか?」

A「あら、うっかり忘れてたわ。」

T「もうアキちゃんも歳だね。」

J「今ごろ分かるなんて。」

A「はいはい。もう歳でございますわよ。いい加減にしなさいよ、みなさん。倍付けいしてあげるからね。ははは・・・。」

T「そりゃ怖いわ。」

一同「ははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1)<エンドゲーム>    公演終了
2)宇宙堂<夢ノかたち>第二部<緑の指>
     東京公演終了
     大阪公演 10/18〜19 精華小劇場
3)ぺテン師と詐欺師
     11月5日まで 天王州銀河劇場
     梅田芸術劇場、愛知厚生年金会館でも公演あり

以上です。どうぞ足をお運び下さいね。
2006.10.14


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