<考えちゃうぅ〜!>の巻

よっちゃん(以下Y)「こんばんはぁ〜。」

あき(以下A)「あら、よっちゃん、いらっしゃ〜い。こんな雨のヒドイ日にようこそ。はい、おしぼり。」

Y「いや〜、本当に凄い雨ですよね。今年は多いな、雨が。」

A「よっちゃん、今日は何にしようか?」

Y「え〜と、先月のお勧めドリンクって、まだ注文できますか?」

A「<アーリー・オータム>ね。大丈夫よ。あんまり好評だったから、レギュラーメニューにしちゃったのよ。」

Y「へ〜、そんなに好評だったんだぁ〜。じゃあ、それお願いしま〜す。」

A「あいよっ!・・・・はい、お待たせ。」

Y「何かいいですよね、この青色が沈んでいく様が。」

A「ねえ、いいわよね。何となく夏が去っていくって感じでしょ。今月のお勧めドリンクの<ピエロの涙>も、 ちょっと感傷的になっちゃう秋にピッタリなドリンクよ。もし良かったら今度試して。」

ムラさん(以下M)「それじゃ、俺がお代わりでその<ピエロの何とか>を頼もうかな。」

A「あいよっ!・・・はい、お待たせ。」

M「へ〜、こんな色かぁ〜。確かに感傷的になっちゃう色かもな。・・・・う〜む、ちょっと甘いな、俺には。」

A「でも、美味しいでしょ。」

M「そうだな。美味しい事は美味しいよ。」

A「ところで、よっちゃんは、今日何処かの帰り?」

Y「そうなんですよ。映画の帰りなんです。」

M「映画か。観てないな、最近。」

A「ムラさんは観たいの何も無いの?」

M「ある事はあるんだけどね。行く時間がとれないんだよ。それに、もうすぐ終わってしまうみたいなんだな、これが。」

A「何?その映画。」

M「分かるかどうか。え〜とね、<そうかもしれない>って言うんだけどね。」

Y「それです。今日観てきたの、それなんです。」

A「あら、偶然ね。その映画だったらアッシも観たわよ、この前の休みに。」

M「あっそう。観たかったんだけどね。仕事が忙しくてさ。あれ、6時からだろ、最終回が。」

Y「そうですね。6時からです。」

M「行けないよな、普通に仕事してたら。それに、単館ロードショーだしな。で、どうだったのよ、よっちゃんは。」

Y「なんだか考えさせられちゃって。」

M「痴呆症と癌の話だろ。」

Y「ムラさん、今は認知症っていうんですよ。」

M「アルツハイマーだろって。自分にも何時襲ってくるか分からないからな、こればっかりは。」

A「そうね。アッシも50歳過ぎてから実感できるようになったわね。若いうちはね、そんな事ず〜〜っと先だ、 くらいにしか思ってなかったけどね。この映画ばかりじゃなくて、こういった老後を扱った物を見てると、 本当に考えさせられちゃうわよ。」

M「それにしても、介護も大変だよな。自分の親とかも大変だったらしいけどね。ま、俺はこっちでノンキに暮らしてたけど、 実際、実家だったりしたら笑ってられないよ。」

Y「そうですよ。この映画では、介護している夫の方が癌になっちゃうんですからね。悲惨ですよ。」

M「で、演技はどうだったんだよ、いづみちゃんや、春團治は。」

A「もう雪村いづみが凄い演技なのよ。本当に認知症になっているんじゃないかって間違うほどよ。春團治は、まあ、 映画初出演って感じかな。でも、いづみさん、本当に凄かったわ。」

Y「奥さんの方ですよね。僕は全く知らない人なんですけど、プロフィール見たら凄いんですね、この人。」

M「何寝事言ってるんだよ。美空ひばり、江利チエミと一緒に初代<3人娘>だったんだぞ。もう凄い実力。 歌って踊って演技して。まあ、今のガキタレとは一つも二つも違うんだな、実力が。同じ年代の時を比べちゃってもね。」

A「まあ、あの3人は特別よね。時代もあったんだろうけど、やっぱり凄かった。オーラが違ったもの。」

Y「だけど、本当に凄い演技でしたよ。最後のシーンなんか・・・」

A「あれ、泣けたわよね。すごく良いシーンだったわ。約束よ、約束。」

M「いづみちゃんの歌かい?約束って。」

A「違うわよ。あの歌も凄い反戦歌だったわね。」

Y「どんな歌なんです?」

M「病気のお母さんが死んじゃうんだけど、その前にお父さんと約束するんだよな、絶対に泣かないって。 男の子なんだから、絶対に泣かないってな。」

A「でも、やっぱり子供でしょ。自分を残して死んでいくお母さんの気持ちを考えると涙が止まらなくなっちゃうのよ。 でもね、その子、その翌年にお父さんが戦争で死んだ時には涙をこらえて泣かなかったのよ。」

M「で、その子はお父さんとの約束を果たしたっていう歌なんだな。ちょっとアキちゃん、有ったよなぁ、約束。 よっちゃんに聴かせてあげて。」

A「アイよっ!え〜と、あ〜。これこれ。」

Y「でも、同じですよね、アキさん。この映画でも幻想の中で旦那さんが約束守るんです。」

A「そうね。妻の目に見えるのは、夫が庭にエニシダを植え終わる風景なのよね。それは前に夫婦で約束した事だったのよ。 あの雪村いづみの演技。もう最高〜〜〜!って叫びたくなったわよ。アッシって映画見ても、芝居観てもあんまりなか泣かないんだけど、 今回は涙が溢れそうになっちゃったわね。」

M「あ〜あ、残念だな。でもその内DVDになるだろうな。それまでずっと我慢の子でいるか。」

Y「だけど自分の事、家族の事、本当に考えちゃった映画でしたね。最近、芝居でも有りますかね、同じような話。」

A「そうね、同じではないけど、ちょっと考えさせられちゃったのは有ったわよ。」

M「何だよ、教えてみな。」

A「<タンゴにのせて>っていう小品なんだけどね。これが今パリでロングランしてるらしいんだけど、結構良かったのよ。」

M「タンゴ?へ〜。踊ってねえなぁ〜。」

Y「ムラさん踊ってたんですか?タンゴ。」

M「馬鹿言ってんじゃないよぉ〜。俺はね、こう見えても大学時代は社交ダンス部だったんだよぉ。ソシアルダンスからタンゴ、 ルンバ何でもござれっていうの。」

Y「見かけによりませんね。」

A「ははは・・・・・。」

M「失礼だよ、君達。ははは・・・・。ところで、どんな芝居なんだ?そのタンゴ何とかって。」

A「<タンゴにのせて>ね。フランスの海辺の町が舞台なのよ。この町にカフェがあって、それを経営しているピエールと、 その妻アリス、そして彼の父親マックスの話。」

Y「出演者は3人だけなんですか?」

A「そうよ、3人。その3人の各々の関係が綴られていくのよ。」

M「小品には良くあるパターンだな。」

A「そうよね。」

M「で、話を進めて。その3人の状況を説明してもらえるかな?」

A「そうね。まずピエール。彼は真面目そのもの。仕事一本槍な男。そして、その妻アリスは、そんな夫に寂しさを感じて不倫。 子供と一緒に家を出て、たまにピエールの経営するカフェに顔を出しているの。父親のマックスは、自由奔放。 残された時間を堪能しているって感じね。」

M「うんうん。」

A「ある時、急にマックスが一度は入るのを嫌がっていた老人ホームに行ってしまい、 ピエールは本当に一人だけの生活になってしまうのね。」

M「その時初めて一人の寂しさを味わう訳だ、マックスは。分かるな〜。その時のマックスの気持ち。」

Y「ムラさんは経験豊かですからね。」

M「よっちゃんもすぐだよ、すぐ。笑っていられないんだからな。一人の寂しさ。ねえ、アキちゃんだってそうだろ? 一人になってふと寂しさを感じる時があるだろ?分かるな〜。」

A「ちょっとぉ〜、ムラさん。浸りすぎてますよ、寂しさに。ははは・・・。でも、分かるわよね、ピエールの気持ち。 その時、色々な事が初めて分かるのよね。」

M「そうそう。自分が今まで何をしてきたのかとかね。だから、その時、奥さんが出て行った理由とか、 父親の自由奔放さとかが身に染みてわかるんだよ。」

A「で、ある日老人ホームから手紙が届くのよ。」

Y「お父さん死んじゃったんですか?」

A「まだよぉ〜。マックスにはピエールに言ってなかった秘密があったのよ。」

Y「へ〜、興味ありあり。」

A「実はピエールは、マックスの妻が浮気して出来た子供だったのよね。」

M「へ〜。その家系は妻が浮気する家系だった、って事だな。」

A「っま、そういう事ね。それをず〜っと隠してきてすまないって内容の手紙だったのね。」

Y「ビックリしたでしょうね、ピエールさん。」

A「それが、お母さんが死ぬ前に聞いてて全くビックリしてなかったのよ。それよりも、 マックスが早く自分に打ち明けてくれないかって待ってたのね。」

M「マックスの方がビックリしただろうな、それじゃ。」

A「そうなのよ。マックスは奥さんと約束したんだって、ず〜っと言わないって。」

Y「ここでも約束が出てきましたね。」

A「その時マックスは何かを感じとったんでしょうね。マックスは昔を思い出してダンスをしたい、って言い出すわけ。 その歳で?って心配するピエール。」

M「老後の楽しみは奪っちゃいけないよな、ピエールも。」

A「奪っているんじゃなくて、心配してただけよ。で、ある夏の日、 人手が足りなくて店を手伝いに来ているアリスの前にマックスが現れるのね。アリスはそこで、 初めてマックスに女の気持ちを打ち明けるのよ。で、マックスは優しくアリスの幸せを祈ってダンス会場へと行くのね。」

Y「なんか、そのマックスっていうオジサン、っていうか、もうお爺さんかな。その人って本当に心優しい人なんですよね、 きっと。長生きしてほしいなぁ〜。」

A「でも、そのダンス会場でダンスの途中に死んじゃうのよ。」

M「幸せだっただろ、きっと。好きな事している途中で逝っちゃうんだよ。幸せだったよ。で、 残されたピエールとアリスはどうなったんだい?」

A「そのまま。でも、何かが変わってきているのを暗示しながら舞台は幕になるのね。」

Y「オシャレな作りですよね。」

M「昔は沢山あったよなぁ〜、そんな舞台。アキちゃんがちょっと考えちゃったってのも分かるな。 ちょっと考えちゃう舞台が少ないからな、最近。何か他にあるかい?お勧めの舞台は。」

A「丁度終わっちゃったんだけど、唐組の<透明人間>が面白かったわね。」

Y「ホラーなんですか?それって。」

A「違うわよ。狂犬と水中花の話。何回も再演しているんだけど、今回のは今までで一番じゃなかったかしらん。」

M「最近いい役者が出てきたって評判だもんな、唐さんの所は。一時はどうなる事かと思ったけどね。 昔は凄かったよな、アキちゃん。」

A「そうね。李礼仙(当時)をはじめ、根津甚八、小林薫、不破万作ら、 今考えたらギャラが心配っていう人が沢山居たんだからね。」

M「そうそう。それに十貫寺梅軒や大久保鷹。」

A「その十貫寺梅軒が今回出てるのよ。」

M「え〜〜〜っ!!!20年どころじゃないよな。」

A「なんと、27年ぶり。これが凄くいいのよ。観て良かったって思うわよ、絶対に、ムラさんだったら。」

M「そんな事いうから考えちゃうんだよなぁ〜。無駄にしてもいいからチケットだけは買っとかなきゃってな。」

Y「考えちゃう事一杯ですね。僕は次に何を飲もうか考えちゃってますけど。」

M「そうだなぁ〜、次は来月のお勧めでも。な〜んちゃって。ははは・・・・。久しぶりにマティーニでも飲むとするか。 よっちゃんにも俺から作ってあげて、何か。」

Y「え〜、いいんですか?有難うございます。」

M「まあ、楽しい話もできたしな。何か飲んで。」

Y「それじゃ、ムラさんと同じ物を。」

A「あんた、マティーニよ。」

Y「え〜と、何ですか?それ。」

A「ジンとベルモット、それにアロマティック・ビターズをちょっと入れた強いお酒よ。大丈夫なの?」

Y「そんなに強いんですかぁ〜。僕、考えちゃいますぅ〜。」

A「なに可愛い子ぶってるのよぉ〜。ったく。ははは・・・・・。」

一同「はははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介した映画・お芝居は、
1)<そうかもしれない>  上映終了
2)<タンゴにのせて>    上演終了
3)唐組<透明人間>      上演終了

以上です。再上映や再演がありましたら是非足をお運び下さいね。
2006.10.29


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