<甘〜い香り>の巻

ダイちゃん(以下D)「本当に強いわね、このお酒。何だっけ?」

あき(以下A)「<フレンチコネクション>。ほら、映画であったじゃない。麻薬取引のさ。 あれからインスパイヤされて作られたらしいわよ。」

マッチ(以下M)「あらら、そうなんだぁ。じゃあ、僕、それもらおうかな。」

A「あいよっ!・・・・はい、お待たせ。」

M「う〜む、確かに強いお酒ですね。ブランデイとアマレット?」

A「そうそう。ライムは飾り。勿論絞ってもいいんだけどね。アルコール度は、何と34度もあるのよ、これ。」

D「あら〜〜〜!そ〜〜んなにあるのぉ?それじゃ、強い訳だわね。でも美味しいわよ。」

M「映画のタイトルから名づけたカクテルも多いんですか?」

A「そうね。やっぱり有るでしょ。例えば、このカクテルはさっきマッチが言ったようにブランデイとアマレットじゃない。 このブランデイをウィスキーに変えると<ゴッドファーザー>になるのよ。」

D「マフィアの映画ね。マーロン・ブランドだっけ?」

A「そうよ。もう太って昔の面影は薄れていたけど、格好良かったわよね、やっぱり。そうそう、 みんなは最近印象に残っている映画は有る?」

D「そうねえ、アタシは、<父親たちの星条旗>よ。単なる戦争映画じゃなくて、とても良かったわよ。 アキちゃんもう観たのかしら?」

A「まだなのよね。アッシ、まだ<カポーティ>も観てないんだから。」

M「えっ?まだなんですか?まあ、混んでるみたいだからいいんでしょうけど、なるべく早く行かないと終わっちゃいますよ。 最近すぐに終わっちゃいますからね。」

A「そうなのよね。気が付かない内に終わっちゃってて、前売り券無駄になっちゃったなんて事、結構あるのよね。」

D「それはあなたが早く行かないからダメなのよ。アタシなんか、必ず毎月1日に行きますもの。」

M「へ〜、ダイさんは毎月1日に行くんですかぁ。凄いですね。本当に映画が好きなんですよね、きっと。」

A「まあ、それは本当だろうけど、毎月1日でしょ。映画の日よね、その日って。」

M「そうか。毎月1日は映画の日なんですよね。千円でしたっけ?」

D「そうそう。だってねえ、高いじゃございませんか、映画。1800円でしょ。高すぎるわよ。 やっぱり映画はもっと安くしてもらわないとねえ。そう思わない?アキちゃん。」

A「勿論、アッシもそう思うわよ。だってさ、二人で行ってごらんなさいよ。映画代が3600円でしょ、 終わってから食事したら、・・・、ねえ。」

M「僕もこの前、<天使の卵>っていう映画行ったんですけど、急にヤツが入りたいっていうもんですからね。 1800円でしょ、ねえ、やっぱり高いですよ。」

D「あら、誰と行ったのかしらぁ〜?ははは・・・・。結構続いてるじゃないの。いい事だわねえ。で、 映画はどうだったのよ。」

M「結構良かったですよ。アキさん観ました?」

A「観たわよ。アッシ、市原隼人君の大ファンだからね。映画はそこそこだったけど。ははは・・・。」

M「そうですかぁ〜?僕は良かったけどな。沢尻エリカの気持ちが痛くて痛くて。」

A「まあそうね。恋人が自分の姉さんと恋に落ちちゃうんだからね。まあ、それはショックでしょ。でもさ、 人間て結構危ない方に魅力感じちゃったりするわよね。小西真奈美もちょっと危ない匂いがするじゃない、ねえ。」

D「小西真奈美ってつかの芝居に出てた子だわよね。ほら、夏に公開してた<UDON>にも出てたでしょ、確か。」

M「流石ですね。毎月1日に映画を観ているだけあってダイさんは良く知ってますよね。ははは・・・・。でも、僕、 彼女の気持ちも良く分かるんですよ。妹の彼氏だって知ってても抑えられない気持ちってね。」

D「あら、それじゃ、あんたもそんな事が有ったのかしらぁ?ははは・・・。」

M「意地悪ですね、ダイさんって。」

A「誰でもあるわよね、そんな事。アッシにもあったわよ。」

D「まあ、アキちゃんの場合は一回じゃないだろうけどね。ははは・・・・。」

A「あらっっ!!!ははは・・・。まあ、色々あるわよ。」

D「映画みたいね、あなたの人生ははは・・・。」

A「はいはい、何とでもおっしゃってくださいませ。ふっふっははは・・・。」

M「そういえば、この前映画館で映画観てる観客が騒いでいるシーンから始まる芝居を観たんですけど、 僕は全く理解出来なかったんですよ。」

D「何よ、それ。芝居なのに映画館で映画観て客が騒いでるの?変な芝居だわねえ。」

A「あれでしょ、清水邦夫の<タンゴ・冬の終わりに>。蜷川幸雄演出で堤真一が出てるやつ。」

M「それですよ。アキさん解りました?」

A「勿論よ。アッシの中では清水邦夫の大傑作だと思っている芝居だもの。」

D「あれは良かったわね。名取裕子はイマイチだったけど。」

M「ダイさんも観ているんですか?でも、名取裕子は出てなかったけどなぁ。」

A「初演のはなしよね、ダイちゃん。」

D「そうそう。もう20年くらい前だったかしら、ねえ、アキちゃん。」

A「そうね、もっと前。アッシがお店開店する直前だもの。1984年の4月だと思うわよ。 まだPARCO劇場が西武劇場っていう名前のころよ。もう平さんと松本典子が素敵で素敵で。」

M「平さんて、平幹二朗の事ですか?」

A「そうよ。清村盛役がね。」

D「それから妻の、何だっけ?ほら、松本典子のやった・・・」

M「妻だったら、ぎんです。今回は秋山菜津子さんかな。」

A「そうね、秋山菜津子。良かったわね。」

M「それじゃ、誰だったんです?水尾やその夫や弟や掃除の女の子は。」

A「水尾が名取裕子、その夫は連よね、確か。彼は塩島昭彦だったかしら?」

D「そうよぉ、塩島さんよぉ。平幹の弟が石丸謙二郎でしょ、それから野中マリ子だったんじゃないかしらねえ、 あのちょっとオツムが足りなさそうな子の役は。」

A「はな役ね。そうよ、野中マリ子よ。それに蜷川さんも出てたわよね。」

D「そうそう。黒マスクだったかしらぁ〜?もう懐かし〜〜〜い!今、やってんの?何処で?観に行きたいわぁ〜。」

M「文化村です。シアター・コクーン。」

D「あっそう。堤真一が出てるんだっけ?じゃあ、チケットは無理ね。」

A「でもさ、文化村って必ず当日券がちょっと出るから行ってみたら。」

D「あらそう。それだったら行ってみようかしらん。観たいわぁ〜、もう一度。で、どうだったのよぉ、今度の舞台は。」

M「僕はもう本当に全く解らなかったんですよ。最初に何だか分からなかったんですけど 何かの映画を観ている人たちが映画に興奮しているんですかね、騒いでいて。 それが何時の間にかさびれた映画館になったまでは解ったんですけど。」

D「あれ、変わってなかったら<イージーライダー>よ。」

A「勿論、<イージーライダー>だったわよ。」

D「それじゃ、初演と変わってないのね、あんまり。あ〜〜〜、観たい。」

A「そうね。殆ど初演と変わっていなかったと思うわよ。まあ、多少は違っているんでしょうけど、 蜷川さんの演出は殆ど同じ。役者が違うだけでね。」

D「で、マッチは全く解らなかったっていうけど、アキちゃんはどうだったの?役者が変わっちゃって、違ったかしら?印象。」

A「そうね。役者が違うと舞台も変わってくるわよね。まず、やっぱり堤真一は若いって思ったわよ。勿論、 年齢的には初演の平さんと、そんなには変わらないんだろうけど、引退して何かに取り付かれた役者という姿がちょっと弱かったわね。 それに常盤貴子。ま〜、下手なんてもんじゃなかったわよ。でも、初演の名取裕子に比べたら相当良かったかもしれないけどね。」

D「ありゃひどかったわよねえ。」

M「ちょっと待って下さいよぉ〜。僕の解らなかった所はどうなってんですか?昔の話で盛り上がるのはいいですけど。」

D「あ〜、そうだった、そうだったわね。で、何だっけ?マッチが解らなかった所って。」

M「まあ、殆ど解らなかったんですけど、まず、最初のシーン。あの観客はどうしたのか、って事ですけど。」

A「あれは、幻よ。幻の観客。」

M「えっ!!!!!幻なんですか?あの大勢の人たちは。」

D「そうよぉ〜。幻なのよ。他にも出てくるでしょ、幻が。」

M「えっ????まだ幻があるんですか?」

A「ほら、何度か出てくるじゃない、二人の子供。それに、この芝居のキーワードになる孔雀。あれ、 み〜んな幻なんじゃないの?」

D「アタシはね、初演だけの話になるけど、あの孔雀って幻という言葉だけじゃ済まないないと思うのよ。 各々の人が抱く理想や象徴。勿論そこに幻という観念も入ってくるとは思うんだけど、あの孔雀は単に幻で片付けていいのかどうか、 今日この芝居の話が出て改めて考えさせられたわよ。」

M「な〜んか、凄く奥が深い話になってきちゃいましたよね。僕もう付いていけないかも。」

A「でもさ、確かにダイちゃんがいうように、あの孔雀の存在は、盛にとっては捕まえられなかった何かだし、 ぎんにとっては盛に対する思いだし、水尾にとってはもしかしたらだけど盛だろうし、連にとっては水尾だろうしね。」

D「そうそう。人各々が違う孔雀を追いかけてるのよ。だから、人によっては幻で終わっちゃうし、幻じゃないんだけど、 何時までたっても掴めない存在だったりするんじゃないのかしらねえ。」

A「アッシもそうだけど、ダイちゃんもよっぽど初演の時の印象が深かったのね。もう20年以上前だっていうのに。」

D「そりゃそうよ。さっきアキちゃんが言ったように、アタシもこの芝居、清水邦夫の傑作だと思うもの。」

M「そんなに傑作なんですか。もう一度くらい観たら解るかなぁ〜、僕にも。」

A「解る、解らないじゃなくて、もう一度観ると観終わった時の印象がず〜っと変わってくると思うわよ。」

M「それからもう一つ聞きたいんですけど、さっきアキさんは、堤真一が若いって言ってましたけど、 実際にあの役は何歳くらいなんでしょうかね。」

A「あの役はね、40半ばだと思うわよ。若くして引退を決意して故郷に戻ってくるのよ。だけど、 アッシがさっき言った<若い>ってのは、その役に対して年齢が若いって言ったんじゃなかったのよね。 心の中に潜む狂気の表し方の問題なのよ。」

M「狂気の表し方ですか?う〜む、益々難しくなってきちゃったなぁ〜。でも、終わりは悲惨でしたね。」

D「あら、そうだったの?これも初演だけの印象で話しちゃうけど、アタシ、あの終わり方好きよ。爽やかさすら感じたわよ。 アキちゃんはどう?」

A「アッシもダイちゃんに同感ね。甘い香りがするのよ、そこに。」

M「え〜〜〜?甘い香りですかぁ〜?もう分かんないなぁ〜。」

D「分かった。マッチがこの芝居解らなかった理由よ。」

M「何ですか?教えてください。」

D「それはね、最後の甘い香りが解らなかったって事よ。あの最後、一見、挫折感を味わうんだけど、 その後にホッとする瞬間が訪れるのよ。まあ、少なくとも初演を観た後のアタシはそうだったのよ。 そのホッとする瞬間をマッチは味わえなかったって事だと思うわ。ねえ、どう?アキちゃん。」

A「それは言える。悲惨な結末の後に来る甘〜い香りって、ホッとする瞬間なのかもね。流石ね、ダイちゃん。」

M「イマイチ解らないな〜。ホッとする瞬間か。」

D「ほら、マッチもペンギンでお酒飲んでると、時々ホッとしない?そういう瞬間よ。」

M「ホッとします?でも、言われれば、本当にゆっくりとお酒を飲むのって、ここくらいかな。 そういう意味ではホッとするかもしれませんね。」

D「でしょ。ホッとする空間がここにあるのよ。」

A「あら、随分持ち上げるじゃないの。な〜んにも出ないけど。ははは・・・・。」

D「まあ、後は、もうちょっと色気もほしいわね。ま〜〜ったく無いんだから、ここには。ちょっとぉ〜、アキちゃん、 たまには頼むわよぉ〜。」

A「はいはい。たまにはね。でも、そしたらダイちゃん、ホッとする空間が無くなっちゃうけど、いいのかしら?」

M「大丈夫ですよ。ダイさんは何処に行ってもホッとする空間ばかりですから。ね、ダイさん。」

D「何だってぇ〜!もう一度言ってごらん。二度と来られないようにしてあげるからね!!!」

M「もう冗談ですよ、冗談。」

D「そんなの分かってるわよぉ。馬鹿ね、アンタも。まあ、それだからあの芝居、な〜んにも解らなかったんでしょうけどね。」

M「いや〜、一本取られました。ははは・・・。」

D「ちょっとマッチ。一杯飲みなさいよ。アキちゃん、マッチに一杯作ってあげて。」

M「えっ!いいんですか?それじゃ、お言葉に甘えてぇ〜・・・。」

A「ほらね、話の後には甘〜い何かがあったじゃない。ははは・・・・・。」

全員「ははは・・・・・。」

おわり


*今回紹介した映画、お芝居は、
1)父親たちの星条旗    上映中
2)カポーティ          上映中
3)天子の卵            上映中
4)タンゴ・冬の終わりに
    11/29まで シアター・コクーン

以上です。どうぞ足をお運び下さい。
2006.11.19


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