<何か違〜う!>の巻

キー子(以下K)「今月のお勧めドリンクの<ジン・スリング>ってどんなお酒なんですか?」

あき(以下A)「ジンにレモンジュースとシロップを加えた物を水で割るのよ。飾りにチェリーを付けてね。」

K「へ〜、オシャレな飲み物って感じがしますね。」

A「試してみる?ちょっと甘いけどね。」

K「それじゃ、お代わりはその〜<ジン・スリング>でお願いします。」

A「あいよっ!・・・・は〜い、お待たせ。」

K「なんか、温度の差でグラスの回りに付く細かい水滴が雪の降っている外を眺める窓ガラスみたいですね。」

A「そうでしょ。今年のテーマは色だったから。12月は白か氷の透明にしたかったのよね。」

K「あ〜、なるほど。ところで、さっきからかかっている音楽、いいですね。誰ですか?」

A「あ〜、これね。カーメン・マックレイっていうアッシがだ〜い好きな歌手の<トーチー>っていうアルバムよ。」

K「トーチーですか?どういう事です、それ。」

A「えっ?トーチーの意味?このタイトルの由来はトーチソングから来ているんだけどね。」

K「何ですか?そのトーチソングって。」

A「失恋とか片思いとかを唄った歌。ほら、トーチって松明(たいまつ)の事でしょ。だから、燃えて、落ちてって。」

K「あ〜、なるほどね。」

A「で、そのトーチソングを唄う歌手をトーチ・シンガーって言ったのよ。へレン・モーガンや、 バーブラ・ストレイザンドが主演して大スターになるきっかけを作ったミュージカル、<ファニー・ガール>のモデルになった、 ファニー・ブライスなんかもそのトーチ・シンガーの一人ね。」

K「その人達は全くしらないんですけど。バーブラはねぇ、勿論知ってますよ。でも、 今かかっている歌の内容が分かったらもっといいんでしょうね。」

A「まあね。ラヴ・バラッドだから、甘〜いのから酸っぱいのまで色々あるわよ。 例えばこの3曲目にある<バット・ビューティフル>っていう曲ね。これ最初の部分で恋の七色が出てくるのよ。」

K「恋の七色ですかぁ。どういった恋の色なんでしょうね。」

A「この最初の部分を訳してみるとさ、<恋って滑稽で、悲しくて、静かで、狂おしくて、素晴らしくて、悪くて、 でも、美しいものよ。>ってなるのよね。」

K「は〜、確かに7つ有りますね。」

A「そう。だから、トーチ・ソングはそんなに人生経験を積んでない人が唄っちゃいけない唄なのよね。」

K「は〜、なるほどね。そういえば、今やってますよね、<トーチソング・トリロジー>。もう観ましたか?」

A「勿論よ。アッシ、この芝居大好きなのよね。初めて観たのはオフ・ブロードウェイのラ・ママっていう劇場。 とっても小さくて、昔渋谷にあった<ジャンジャン>みたいな劇場だったっわ。丁度就職する直前の真冬。 とっても寒かった二ューヨークだったけど、感動で劇場を出るときには体が熱くなったのが忘れられないもの。 まあ、この時はトリロジーの第一部だけだったんだけどね。」

K「へ〜、そんなにいい芝居だったんだ。で、今回の芝居はどうでした?」

A「それがね、どうもアッシはね、・・・」

ぴーちゃん(以下P)「こんばんは。」

A「あら、ぴーちゃん、いらっしゃい。」

P「ちょっと、ちょっとお母さん、聞いてちょうだいよぉ〜。」

A「アンタ、そのお母さん、っていうのやめてくれない、もう。はい、おしぼり。」

P「あら、ごめんなさ〜い。で、さあ、聞いて、聞いて。」

A「まあ、聞くけど、その前にご注文は?」

P「あら、そうだったわ。え〜〜〜と。・・・寒いから日本酒にしちゃおうかっな〜。八海山で。」

A「あいよっ!御チョコとグラスどっちにする?」

P「もっちろん、御チョコで〜す。」

A「はい、どうぞ。」

P「あっりがとうございま〜す。でね、お母さん、聞いてよ、聞いてよ。」

A「だから、そのお母さん、っていうの、・・・。」

P「あら、そうだったわぁ〜。しっつれいいたしました。でね、マスター、聞いてよ。」

A「何よ、そんなに。」

K「何かあったんですか?ぴーちゃん。」

P「あら、キー子もいたのね。もう聞いてよ、聞いて。」

K「はい、はい。」

P「今日ね、アタシ、<トーチソング・トリロジー>を観にパルコ劇場まで行ってきたのよね。 でさ、前にお母さん、じゃ〜なくて、マスターが言ってたでしょ、すごく良い芝居だって。でさぁ〜、 期待しちゃうじゃない、ね。ところがさぁ、ぜ〜んぜ〜ん面白くなかったのよぉ〜。ちょっとは涙も出たんだけどぉ〜。」

K「丁度いま、その話をアキさんから聞く所だったんですよ。何かグッドタイミングだなぁ〜。」

A「そうなのよ。アッシもね、ちょっと、と思ってたからさ。」

P「でしょ、でしょ、でしょ〜う!で、お母さん、じゃなくて、マスターはどうちょっとだったのかしら?」

A「一番先に思ったのは、篠井さんのアーノルドがず〜〜っと篠井さんなのね。」

K「それって素晴らしい事なんじゃないですか?杉村春子さんが何を演じても杉村春子さんなのと同じで。」

A「それがちょっと違うのよ。今の女優だったら大竹しのぶは何を演っても大竹しのぶなんだけど、 ちゃんとその中で役を演じていると思うのよ。でも、篠井さんのアーノルドは、 篠井さんが篠井さん自身を演じているとしか見えないのね。」

P「そうそう。アタシもそう思ったわよ、お母さん・・・じゃなくてマスター。」

K「それって、アーノルドに成りきれてなかった、って事ですよね。」

A「まあ、そうね。アーノルドの中にあるゲイという自尊心や他人に対する優しさ。例え怒っている時でさえ心の中にある優しさ、 そして苦悩。それらを演じられてなかったと思うのね。」

P「それがアタシにも伝わってこなかったのよぉ〜。それはアーノルドを演った篠井さんだけじゃなくて、 エドの橋本さんやアランの長谷川さん、ローレルの奥貫さん、ベッコフ夫人(アーノルドのお母さん) の木内みどりさんにも言えたんじゃないかしらぁ〜。まあ、デイヴィッドの黒田勇樹がまあまあだったかしらねえ。」

A「まあ、そういう意味でも今回の舞台はキャストミスだって思ったわね。それに、もっと最悪だったのが、 トーチソング・シンガー。全然その気分にさせてくれない唄だったわね。」

P「それに舞台美術。何?それって感じでしょ。もっとちゃんと創ってほしいわよね。もうイライラしちゃって。 ねえ、お母さん。あっ、じゃなく・・・・。」

A「もういいわよ、ぴーちゃん。」

K「この舞台ってトリロジーっていうくらいだから3部作って事なんですよね。各々はどんな感じなんですかね。」

A「第一部が<インターナショナルスタッド>。ゲイバーの楽屋とバック・バーが舞台なの。」

K「映画と同じですね。」

P「あら、キー子は映画は観てるのね。」

K「そうですよ。DVDですけどね。でも舞台は映画とは違うじゃないですか。だから一度観たいと思って。」

A「あら、それじゃ今日の話はちょっと良くなかったかもね。」

K「いえ、いいんですよ。アキさんがそんなに言うなんて、逆に観たくなったかも。ははは・・・。で二部は?」

A「二部はね、<子供部屋のフーガ>ってやつ。本来はね。そして三部が<未亡人と子供最優先>。これも本来は。」

P「あら、そうなのぉ〜、お母さん。アタシ知らなかったわぁ〜。だって、この舞台、タイトルちゃんと書いてあったけど、 そんなの何処にも書いてなかったじゃない。人の名前だけだったような気がしたけど。」

A「だから本来は、なのよ。プログラムには書いてあるらしいけど、アッシ買わなかったのよね。」

P「アタシ買ったわぁ。ちょっと待ってね。え〜と、何処だっけな、もう荷物多くて困っちゃうわぁ〜。・・・あった、 あった。これよね。どれどれ・・・・あら、本当だ。英語で書いてあるわ。」

A「まあ、演出家の意図としたら、登場人物の各々の関係を単純に分かり易くしたかったんじゃないかと思うけどね。」

K「それでですか。」

A「でもアッシは変えてほしくなかったわね。ちゃんとしたタイトルをまず出して、 副題的に人の名前を出せば良かったと思うのよね。」

K「で、話を戻していいですか?」

A「良いわよ。」

K「二部の<子供部屋のフーガ>っていうのは?」

P「あんた、映画観たでしょ。ほらエドとローレルの家のシーン。あそこよ。」

K「あ〜、あそこですか?」

A「でもね、舞台では大きなベッドひとつなの。そこでアーノルド、アラン、エド、 ローレルがベッドの中で位置を変えて彼ら4人の人間関係が語られて行く、とっても素敵な筈だったんだけど、ね。」

P「アタシ、あのシーンはまあ良かったけどぉ〜。アキさんには不満がぁ〜?」

A「不満?かしらね。あの場面、照明が大きな役割を担うんだけど、今回は左右両側にあるスタンド照明が点滅するだけ。 あれじゃ、右か左かだけでしょ。そうじゃないわよね。上下もあるんだし、斜めもある。そんな中で語られる各々の人生。 ちょっと演出がね、良く脚本を読んでないって感じがしちゃったわね。」

K「へ〜、なるほど。」

P「あら、アタシそこまで深く考えられなかったわぁ〜。なるほどね。」

K「で、三部はいよいよお母さんとの対決ですよね。ここはどうだったんですか?」

P「アタシ、もっと凄いと思ってたのよ。だって、 映画のアン・バンクロフトとハーベイ・ファイアスティンのやり取りが凄かったじゃないの。でも、ちょっと迫力足りないって。 ねえ、お母さん、そう思わなかった?」

A「そうね。木内さんは台詞を喋るのが精一杯って感じでね。篠井さんは一部から三部までまるっきり同じトーンだし。 それにあのセット。アーノルドの感性を考えるとあのシンプル過ぎるセットはどうかなって。 あとウサギがスリッパだけっていうのもね。」

P「あのセットにはアタシも笑っちゃったわよぉ。いかにも書きましたっていう外の風景。それに空間があり過ぎる部屋。 きっとリヴィングなんだろうけどぉ。」

A「まあ、今回の舞台を観て感じたんだけど、この舞台はブロードウェイの舞台や、前々回日本で上演された時の鹿賀丈史、 西岡徳馬、唐沢二郎、佐藤オリエ、松田洋二、 山岡久乃の舞台が如何に素晴らしかったかを再確認させてしまった結果に終わったって事かしらね。」

K「でも話は本当にいいですよね。」

A「そうね。舞台版は台詞に大げさな所もあるのは当然なんだけど、アーノルドの切ない気持ち、 優しさ、そして強さ・・・。」

P「アタシ、最後の場面、ラジオから流れる<デイヴィッドからアーノルドへ、愛を込めて>って所、 涙が出てきちゃったのよぉ。まあ、流れた曲は好きじゃなかったけど。ははは・・・。」

K「再演って難しいですよ。だって、前にやってたのとどうしても比べちゃいますからね。そういえば、 これはどうなんでしょうか。」

P「あら〜〜〜!黒トカゲじゃないの。えっ!!!麻実れいなのね、主役が。えっ、えっ、えっ、 ベニサンピットなの?あ〜んな狭い所でやるのぉ〜?でも行きた〜〜い。ちょっとチケットは?取れるの?お母さん。」

A「多分ね。ちょっと楽しみでしょ。アッシも楽しみにしてるのよ。」

P「何か変な舞台にならなきゃいいけどねぇ、<トーチソング・トリロジー>みたいに。」

A「アッシもそれを願ってるわよ。」

P「お母さん、もう一本ちょうだ〜い。」

K「僕も、今月の・・・。」

A「ジン・スリングね。」

K「それ、お願いします。」

A「あいよっ!」

おわり


*今回紹介したお芝居は、
1)トーチソング・トリロジー  東京公演終了
 大阪、広島、名古屋、仙台で巡演中(12/21まで)
2)黒トカゲ   ベニサンピット
     12/20まで上演中

以上です。どうぞ足をお運び下さい。なお黒トカゲについては次回におおくりします。
2006.12.10


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