<今の子は現金>の巻

きんちゃん(以下K)「モスコミュールお代わりぃ〜。」

あき(以下A)「大丈夫?結構強いからね、甘いけど。」

K 「大丈夫ですよぉ〜。」

A 「あんまり飲みすぎちゃねぇ。明日も仕事なんでしょ、きんちゃん。」

K 「勿論!でも、これくらいだったら、まだね。」

A 「あっそう。それじゃ、・・・。はい、モスコミュール。」

K 「は〜い、ありがとうございます。」

ワンちゃん(以下W)「今日は全開だねぇ〜、きんちゃん。よっぽど良かったんだね、芝居。」

K 「そうなんですよぉ〜、ワンちゃ〜ん。もう面白くて面白くて。ね、アキさん。」

W 「そうなんだ、アキちゃん。」

A 「まあ、そこそこだったわね、アッシは。」

K 「え〜〜〜???あんなに面白かったのにぃ〜。本当ですよ、ワンちゃん。」

A 「だから、つまんなかったなんて言ってないじゃないよ。そこそこって。ねえ、ワンちゃん。」

W 「まあね。そこそこだったんだって、アキちゃんは。」

K 「ま〜、アキさんには分かりませんよ、あの可笑しさはっ!ね、ワンちゃん。」

W 「で、何なんだよ、その芝居って。」

A 「<コンフィダント〜絆>っていう三谷幸喜の新作なんだけどね。」

K 「ゴッホ、スーラ、ゴーギャン、それにぃ〜、誰だっけなぁ〜、あの〜・・・、一番才能の無かったぁ〜・・・、 ねえ、誰だっけアキさ〜ん。」

A 「あれね、あれ。ほらぁ〜、あれでしょ。」

W 「あれあれって、アキちゃんも歳だね、本当に。」

A 「そうなのよね、最近出てこなくって。人の名前に限らず、色々ね。本当に忘れっぽくなっちゃってさぁ。ははは・・・・。 で、どうでも良い時にフッと思い出しちゃうのよねぇ。あ〜あ、嫌だ嫌だ。」

K 「で、思い出しました?あの名前。」

A 「彼でしょ、相島君が演ってたあの役。・・・・う〜〜〜む、っま、その内思い出す・・・、あっ!!!思い出した。 シュフネッケルね。そうそう、シュフネッケル。」

W 「誰?それ。」

A 「アッシも初めて聞く名前だったんだけど、あんまり才能は無かったみたいよ。でも、絵を見る眼は凄かったらしくて、 有名画家の色んなコレクションを所蔵していて、今でも各地の美術館に展示されているらしいのよ。」

K 「あっそうなんだぁ〜。先生じゃなかったんだぁ〜。」

A 「あの芝居では先生もやってる事になってたけどね。まあ、芝居だから。」

K 「あれって、じゃあ本当じゃないの?」

A 「勿論、事実の所もあるんだろうけどね。」

W 「そりゃそうだろうな。事実を基にしてるかも知れないけど、事実を忠実にしてたら大変だろうし。 それにメッセージが何なのか考えちゃうじゃないかぁ〜。」

K 「そうだよねぇ〜〜〜。そうかぁ〜。ゴッホもスーラもゴーギャンも、それから誰だっけ?まあ、いいや。 み〜〜んな仲良しだったって思っちゃいましたぁっ。」

A 「まあ、仲が良かった時もあったんじゃないの?さっき、きんちゃんが誰だっけ? って言ってたシュフネッケルだって、ゴーギャンと親しかったみたいだし、ゴッホとゴーギャンは、 ほんの少しの間だけど共同生活をしているしね。」

W 「でも、所詮芸術家だろ。芸術家同士が凄く仲が良くなるなんて考えられないけどね、俺は。」

A 「流石、ワンちゃんね。そうなのよ。だからこの芝居、<コンフィダント〜絆> ってタイトルが付いているんじゃないかしら。」

K 「えっ?どういう 事?」

W 「だから、さっきも言ったじゃないかぁ。芸術家同士はぶつかり合っちゃって仲が良くなる訳ないって事だよ。 その仲を取り持ってたのが、あんまり才能が無かったっていうシュフ何とかっていう画家だったんじゃないの?」

A 「そういう事よ。シュフネッケルが才能溢れるゴッホ、スーラ、ゴーギャンの仲を取り持ってたって事よね。 つまり、その三人の絆を結んでいたという事なのよ。」

W 「な、絆って、他に何と読むかしってるかぁ〜?」

K 「知ってますよ。絆ですよね。え〜〜と、え〜〜と・・・・。ハンです、ハン。」

A 「残念でした。あれはね、ほだす、って読むのよね。繋ぎ止める、って いう意味よ。」

K 「あ〜、分かったぁ。そうなんですかぁ。あの誰でしたっけ?」

A 「シュフネッケルね。」

K 「そうそう、そのシュフネッケルがみんなの中心だったって言うんですね。・・・・う〜む、でも、 そうだったかも。彼が居なかったらって考えたらぁ・・・。」

W 「所でさ、役者連中はどうだった?」

K 「もうそれが面白くて面白くて。笑っちゃってさぁ。それに、あの画家達を回想する歌手の歌が上手くてねぇ。」

W 「でも、アキちゃんはちょっと違ったみたいだね。」

A 「あら、良く分かるわね。さっき言ったか。そうなのよね。きんちゃんは面白くてって言ってたけど、 その面白い所が問題なのよね。最初はね、皆がどうして笑っているのか分からなかったのよ。でも、 段々分かってきたのよね。それが、役者が可笑しな行動をしている時なのよね。だから、 脚本自体が面白くて笑っているんじゃなくて、役者の可笑しな動きで笑っているのよ。」

K 「え〜〜〜!!!面白かったじゃ〜ん。」

A 「でもさ、面白いのはその役者の行動でしょ。アッシ、最近ね、何か笑いの本質っていうほど大げさなものじゃないんだけど、 それが変わってきちゃったって気がしてならないのよね。」

W 「あ〜、それは何か分かるな。一瞬なんだよね、一瞬。そこに笑いを求めているって感じは確かにあるかもな。 役者が可笑しな行動しなくても、面白い時は面白いからね、本当だったら。」

A 「だから惜しくてね。スーラを演じた中井貴一は、スーラの生真面目な性格を良くだしていたし、ゴーギャンの寺脇康文は、 元船員という野性的な面が上手かったし、ゴッホの生瀬勝久は、ちょっと大げさだったけど、 精神的な不安定さと天才の狭間を表現できてたし、シュフネッケルの相島一之は、彼らの絆としての立場をちゃんと理解して演じてたしね。 ただ、かつて彼らのモデルで、今、彼らを回想するルイーズの堀内敬子は、歌もまずまずだったんだけど、 その年輪を感じる事が出来なかったのが残念ね。当然、彼らと一緒の時と、今とでは表現の仕方が変わる訳だからね。 最初の場面で作り過ぎてたかも。でも、全体を通してみたら、悪い舞台ではなかったわよ。何しろ3時間近くが飽きなかったんだから。」

K 「面白かったですよぉ〜、本当に。まあ、まだまだ観方は甘いと思いますけど。・・・モスコミュールお代わりぃ〜。」

A 「アイよっ!少し醒めてきたみたいね。・・・はい、お待たせ。」

W 「最近観た中で、アキちゃんがこれっていう出し物ある?」

A  「そうね、最近では、世田谷パブリックシアターでやってた現代能楽集の<AOI>と<KOMACHI>が良かったわね。 特にこの2作は川村毅の最近の作品中では傑出してると思うんだけど。」

K 「近代能楽集だったら知ってるけどぉ、三島由紀夫のね。でも現代能楽集って初めて聞いたなぁ〜。」

W 「それもやっぱり能楽を基にしてる訳?」

A 「そうなのよね。能を現代風のドラマにしてるって言えば分かり易いかもね。」

W 「<AOI>の方から、まずね。設定とかは?」

A 「設定は美容院。」

K 「近代能楽集の<葵の上>は病院でしたよね。」

A 「そうだったわね。今回は美容室なのよ。」

W 「病室と美容室か。まあ、限られた空間には間違いないよな。で、病室で寝ていた葵は、今回はどういう設定になってるんだい?」

A 「今回は入院していることになっているのよ。」

K 「へ〜。じゃあ、出てこないんですか?葵さん。」

A 「出てくるのよ、退院してね、のっけから。で、今回は看護士じゃなくて透っていう見習いが出てくるのね。 で、葵、透、光、そして六条の4人が絡み合って進んでいくの。」

W 「設定だけ聞いてても面白そうだなぁ。誰だっけ?宝塚の人だよね。」

A 「元ね。麻実れいね。彼女が勿論六条。この麻美れいがいいのよね。去年、三島の<黒蜥蜴>で演劇賞を獲ったけど、 その演技よりもアッシはこっちの演技の方が良かったわね。」

K 「どんな所が良かったのかなぁ〜。」

A 「麻美れいに限らず役者連中がそこそこ良かったのと、何と言っても脚本が良かったわね。現代能楽集というだけあって、 今の時代を扱っているにも拘わらず、昔からある伝説みたいなものを舞台に浮き上がらせてたのね。 近代の能楽集を外国の演出家が上演しているのを何度か観たけど、やっぱり日本独特の世界は、 彼らにとっては憧れ以外の何者でもない事を今回の上演は教えてくれたわね。」

K 「日本独特の世界かぁ〜。」

W 「そうだよな。その意見には俺も賛成。やっぱり違うんだよ。観終わって良かったんだけど、何か釈然としないものが残るんだよな、 外国の演出家が上演する日本の演劇って。でもさ、これって逆も言えるんじゃないか?」

K 「そうですよぉ。例えばこの前テレビでやってたんだけど、チエホフの<桜の園>。やっぱり違和感があるんですよね。 日本人だって分かっちゃうからさぁ。」

A 「ちょっときんちゃん、それとはまた違うのよ、アッシやワンちゃんの言っている事は。」

K 「えっ?そうなんだぁ〜。またボケた事言っちゃいましたね。」

A 「まあ、それはいいんだけど。今きんちゃんが言ったのは仕方ないのよ。日本人が外国人を演じているんだからさ。 問題は解釈よ。よく演出といって驚くようなものがあるじゃない。それは決して間違いだとは言えないんだけど、 やっぱり違うだろう〜、って感じが残るのよね、頭の中に。」

W 「それは文化が違うからだよな。」

A 「そうそう。文化の違いを認めない、というほどではないにしろ、理解出来ていないのよ。だから、逆に、 日本人の演出家が外国で外国の作品を演出する時は、よほどその国の歴史やら習慣やらを知らないとブーイングされちゃうわよね。」

K 「なるほどぉ〜。」

A 「で、話を戻すけど、現代の寓話みたいな舞台になったわね。」

W 「もうひとつの<KOMACHI>の方はどうだった?」

A 「こっちはね、好き嫌いが分かれると思うのよ。アッシは結構好きだったんだけどね。」

K 「どんな所で好き嫌いが分かれるって思ったんですかぁ?」

A 「<卒塔婆小町>をベースにしているのは分かると思うけど、近代能楽集でのそれは詩人と浮浪者の老女が中心に話は進んでいくわよね。 でも、この<KOMACHI>に出てくる老女は何も話さないのよ。その代わり、 老女のファンだったという老人が映画監督に小町だという老女の為に深草少将が書いたと言う脚本を映画にしろと迫るのね。」

W 「へ〜。俺はちょっと興味が出てきたかな。」

K 「それでどうなるんですか?」

A 「撮ることにするんだけど・・・。」

W 「そこで何か問題が?」

A 「小町が殺してしまうのよ、その男を。」

W 「それじゃ、美しいって言っちゃったから死ぬんじゃなくて、小町に殺されちゃうんだ。」

A 「ちょっとお笑いでしょ。でもね、映像を使ったり、ダンスで言葉を表現したり、 それを芝居の中に取り入れるという試みは評価したいわね。」

K 「そういえばアキさん大阪何時行くんでしたっけ?」

A 「今度の明日よ。」

K 「そうなんだぁ。もう明日か。」

A 「何かあるの?」

K 「そうじゃないんですけど。観に行くんですよね、<エリザベート>の来日公演。」

A 「そうよ。だって東京はコンサート形式だけなんだもん。折角観るんだったら、やっぱりちゃんとしたセットのある舞台を観たいじゃない。 ねえ、ワンちゃん、そう思わない?」

W 「ま、そりゃそうだよな。」

K 「で、ですね。お願いしてもいいですか?パンフレット。」

A 「な〜んだ、そんな事なんだ。勿論イヤよ、荷物になるもん。・・・な〜んちゃって。いいわよ。一部でいいんでしょ。」

K 「有難うございま〜す。良かったぁ。それじゃ、モスコミュールお代わり!」

A 「きんちゃん、大丈夫?また酔ってきたみたいだけど。」

K 「大丈夫、大丈夫。安心しちゃったからね。パンフレット欲しかったんですぅ。もう安心。お代わりお願いしま〜〜〜す。」

W 「きんちゃん、本当に現金だよな。」

K 「勿論、現金ですよ。カード払いなんかしませんよ〜っ!」

A 「その現金じゃなくってさぁ・・・・。」

W 「駄目だ、こりゃ。ははは・・・・・。」

A 「本当ね。はははは・・・・・。」

K 「えっ?何か勘違いしてます?僕。」

A 「もう呆れて何も言えません。ははは・・・・。」

K 「何だか分からないけど、ははは・・・・。」

全員 「ははは・・・・・。」
おわり

*今回紹介したお芝居は、
1) <コンフィダント〜絆>   PARCO劇場
       上演中〜5月6日まで
2) <AOI/KOMACHI>    上演終了
3) <エリザベート>来日公演   梅田芸術劇場
       上演中〜4月30日まで
* <エリザベート>来日公演の東京公演はコンサート形式で5月7日〜20日、新宿コマ劇場で行なわれます。

以上です。どうぞ足をお運び下さい。
2007.4.22


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