<比べるのは悪いんだけど>の巻

英二(以下E)「こんばんは。」

あき(以下A)「あら英二、いらっしゃい。久し振りじゃない。」

E 「ご無沙汰しちゃって。」

A 「はい、おしぼり。もう何年ぶりかしらねぇ。」

E 「3年振りくらいじゃないかな。あれから起業しちゃって。中々来る事出来なかったんですよ。 で、ようやく軌道に乗ってきて、時間もできてきたから。でも、有って良かったですよ、ペンギンが。」

A 「心配しちゃったわよ。急に来なくなっちゃったでしょ。でも、良かったわぁ、元気そうで。 じゃ、今日は何にしようか?またバーボン・ソーダ?」

E 「覚えていてくれたんですね。嬉しいな〜。はい、バーボン・ソーダで。」

A 「英二はフォア・ローゼズだったわよね。・・・・はい、お待たせ。」

ウリ坊(以下U)「アキちゃん、本当に良く覚えてるよね、昔のこと。」

A 「まあ、顔はね。名前は元々聞かないから分からない人も多いけど。顔は覚えてるのよね。」

U 「まあ、最近はすぐ忘れるけどね、色々と。」

A 「そうなのよ。ちょっと前の事でも忘れちゃって。さっきもお通し出したのにもう一度出しちゃって。 もう歳ね、歳。」

E 「まあ、自分もそうですよ。忘れっぽくなりましたね、本当に。ところでアキさん、 まだ舞台とか観に行ってるんですか?」

A 「行ってるわよ、相変わらず。」

U 「もう凄いよね。今月なんか10本以上行くみたいだし。」

E 「10本以上も。相変わらずですね〜。」

A 「まあ、今月は重なっちゃったのよね。春になると多いのよ、芝居が。それにお客様の出ているものもあるから、 更に多くなっちゃうのよね。」

E 「最近どんなの観ました?」

A 「先月はね、大阪まで行ってウィーンからの来日公演、<エリザベート>を観て来たわ。」

E 「わざわざ大阪まで。」

A 「そうなのよ。東京では今コンサート形式でやっているんだけど、どうせ観るんだったらちゃんとした舞台版で観たいじゃない。 それに、大阪にいる友達にも会いたかったしね。一石二鳥っていうやつよ。」

U 「それで、ミュージカルの方はどうだったの?」

A 「普通は来日版って、少し劣るじゃない。でもね、このウィーン・ヴァージョンの<エリザベート> には実力をまざまざと見せられてしまったわね。」

E 「で、どんな所にそれが見えたのかな?」

A 「なんと言っても歌の実力ね。日本ヴァージョンも歌はそこそこ良かったんだけど、やっぱり本物を聞いてしまうと、 その差が歴然としちゃうわね。特に、死神トート役のマテ・カマラスは、その美貌とも相まって、 歌の凄さがさらにパワーアップって感じなのよ。」

U 「主役のエリザベートは、それほどでもなかったのかな?」

A 「そんな事は全くないわね。彼女、マヤ・ハクフォートもアッシが観た日の前日が誕生日だったみたいで、 益々快調だったみたい。」

E 「ところで、エリザベートって、あの悲劇の王妃、エリザベートの事ですよね。」

A 「そうよ。ハプスブルグ家に嫁いだバイエルン王女のエリザベスね。舞台は、彼女を暗殺したルキー二を語部として、 エリザベートを彼女とトート(=死)との関係を中心に描いていくものなのね。」

U 「確かエリザベートは死に憧れていたとか・・・。」

A 「憧れて、というのはちょっと違うと思うけど、死について常に考えていたというか、 死が彼女の周りにいつも居たとうい感覚を持っていたんじゃないかしらん。」

E 「自分もありますよ、そんな事。突然不安になっちゃうんですよ。死が自分の周りに居るんじゃないかって。 そんな事ないだろうね、彼、ウリ坊だったっけ?若いとね。」 

U 「有りませんね。死ぬなんて考えた事もないです。でも、大変ですよね。だって何時死が周りに居るって感覚があるんでしょ。 僕だったらノイローゼになっちゃうなぁ〜。」

A 「まあ、そうよね。」

E 「ところで、演出はどうだったんです?東京でコンサート形式しか出来ないのは、演出の都合だったって聞いてますが。」

A 「そうみたいなんだけど、ウィーンオリジナルの演出は、舞台がうねるのよね。流石に、 そこまでは梅田芸術劇場も改装は出来なかったみたいだけど、大きな跳ね橋が上手から出てきて、 その迫力ったら凄かったわね。おそらく新宿コマ劇場では、この跳ね橋が使えなかったんじゃないかって思うのよ。 それくらい重要なんだと思うのね、この跳ね橋は。」

E 「何でです?」

A 「それは、その跳ね橋が、エリザベートを殺害した道具、ヤスリをモチーフにしていると思うからなんだけど。」

U 「へ〜。」

A 「それに、開演前、緞帳の上手側に空間があるんで良く見てみたら、エリザベートの横顔をくり抜いた形だったのね。 そんな所も、開演前から観客の期待を抱かせる演出だったわね。他では特に宮廷内の権力闘争をチェスに置き換えて表現したり、 廻り舞台やセリを上手く使っていたりね。」

U 「特に印象に残っているシーンとかはありました?」

A 「そうね。アッシが一番印象に残っているのは、エリザベートの息子、ルドルフは、 今は修道院になっているマイヤーリンクの狩りの館で男爵の令嬢、マリー・ヴェツェラと心中しているんだけど、 そのルドルフを死に導くシーン。トートとルドルフが共にダンスをするんだけど、死の直前にトートがルドルフにする<死の接吻>。 もうゾクゾクって感じだったわよ。」

U 「ヤラシイですねぇ〜。」v A 「何、馬鹿な事言ってんのよ。そういう意味でゾクゾクしたんじゃなくて、そのシーンそのものにゾクゾクしたんだってば。」

E 「へ〜。とってもセクシーだったんでしょうね。」

A 「そうね。で、あんまり演出が良いから、帰りにパンフレット買って読んでみたら、何と、 演出がオペラ等を演出しているハリー・クプファーだったのね。もう良いはずだわ、って。」

E 「クプファーだったんですか。そりゃ凄いでしょうね。」

U 「二人で分かっちゃってぇ。でも、アキさんの事だから、きっと文句があるはず。ねえ、あるでしょ。」

A 「文句は無いんだけど、宝塚や東宝の<エリザベート>を観た時も言ったけど、音楽がやっぱりイマイチ、 とういか、日本では受けるだろう音楽だったって所かな。ロンドンのウエストエンドや、 ニューヨークのブロードウェイで上演するにはちょっとキツイかも、って。」

U 「それは、前にも言ってたよね。今回もそう思ったんだ。」

A 「そうね、やっぱりそう思っちゃったわね。」

E 「他に最近観た舞台はあるんですか?」

A 「ついこの前、宝塚花組の<黒蜥蜴>を観てきたんだけどねぇ〜。」

U 「その言い方だと何かありますね。」

A 「そうなの。今回は、三島由紀夫の脚本じゃなくて、宝塚の木村信司が江戸川乱歩の原作にのっとって書いた脚本だったんだけど、 改めて三島の凄さを思い知らされたって感じだったのよ。」

E 「まあ、三島と比べちゃったら可愛そうですよ。」

A 「そうよね。あの長い話を一時間半に良くまとめたわねとは思うんだけどね。宝塚だから仕方ないとは思うんだけど、 歌が有る訳じゃない。そのミュージカルナンバーが邪魔で仕方なかったのよ。」

E 「ミュージカル仕立てだったんですか。って言うことは、相当どうしようもない音楽だったんですね。」

A 「そうなのよぉ。作曲は甲斐正人なんだけど、彼にしてはねえ。ちょっとチープって。」

U 「でも、ミュージカルって突然歌になったりするでしょ。あれに僕なんかは違和感を感じちゃうからねえ。 アキさんよりもっとダメに感じてたかも。まあ、観ていないから何とも言えないけど。」

E 「まあ、そうですよね。観てなきゃね。でも、昔からアキさん言ってましたよね。宝塚は芝居の後のショーっていうか、 レヴューが良いって。」

A 「それがさ、今回のショー、<タキシード・ジャズ>はイマイチだったのよね。」

U 「ショーのテーマはどんなのだったの?」

A 「1920年代から50年代の古き良きアメリカをテーマにしたらしいんだけど、 荻田浩一の構成はそれをあまり表現していたとは言えないと思うのね。それに、 専科の八代鴻。アメリカの良き時代っていうコンセプトなのに、ちょっとね。」

E 「それって、宝塚独特のあの歌い方に問題があるんですかね、もしかしたら。」

A 「そうなのよぉ〜。だって、良くいるじゃない、宝塚出身のシャンソン歌手。それも、勘違いしてるシャンソン歌手が。 もう結構!!!って。」

E 「解りますよ。自分もシャンソン好きなんですけど、日本のシャンソン歌手って、何処か違いますよね。この前、 アズナブール聴きに行ったんですけど、全然違いますよね。解釈っていうのか、詩の伝え方がっていうのか。」

A 「英二も行ったの。アッシも行ったわよ。素晴らしかったわね。あの後、ここでもその話で盛り上がっちゃって。だって、 80歳過ぎてるのにね。あの表現力にあの体力。もう脱帽って感じよね。まあ、比べちゃったら悪いんだけどね。」

E 「え〜と、お代わり下さい。・・・あっ、ちょっと違うの飲んでみようかな。バーボン他には・・・?」

A 「ハーパーでしょ、それに、ワイルドターキーの8年と12年ね。バーボンじゃないけど、ターキーのライもあるわよ。」

E 「じゃあ、ターキーの12年をロックで。」

A 「あいよっ!・・・はい、お待たせ。」

E 「あ〜。全然違いますね。これは美味しい!」

U 「そんなに?それじゃ、僕も同じの下さい。」

A 「あいよっ!・・・はい、どうぞ。」

U 「うっ、強〜〜〜い。比べちゃ悪いけど、僕にはハーパーの方が飲み易いなぁ。」

A 「まだまだお子ちゃまね。」

U 「ひど〜い!!!」

A 「ははは・・・・。」

全員 「はははは・・・・・・・。」

おわり


*今回紹介したお芝居は、

1) <エリザベート>来日公演 ウィーン版                公演終了
   コンサート・ヴァージョンは新宿コマ劇場で上演中〜5/20まで
   宝塚歌劇団の公演も宝塚大劇場で6月まで上演中、また7月〜8月にかけては東京宝塚劇場でも上演予定

2) 宝塚花組公演<黒蜥蜴><タキシード・ジャズ>      上演終了

以上です。皆さんも<エリザベート>、見比べてみては如何でしょうか?どうぞ足をお運び下さい。
2007.5.14


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