<刺されたぁ〜!>の巻

ろんろん(以下R)「これ、本当に美味しいですよね。アキさん、もう一杯お願いします。」

スターちゃん(以下S)「そんなに美味しいんですか?それじゃ、私もいただきましょうかね、その・・・。」

R 「梅雨空のメテオですよぉ。もうさっきも聞きましたよね。スターさん、早くもボケてきちゃってるんじゃないですか? ・・・嘘ですってぇ。」

あき(以下A)「ちょっと、ろんろん、失礼よ。っま、アッシも最近物忘れが激しくって。まあ、スターちゃんも、 そろそろ始まったのかしら、物忘れ。」

S 「でもねぇ、本当なんですよ、最近。人の名前が出てこなくってさぁ。ねえ、ありますよね、アキちゃんも。」

A 「だから、あるんだってば。さっきも言ったのに。本当に激しくなっちゃったのね、物忘れ。」

S 「あれ、言いました?いや〜、本当に酷いな〜、最近。でも、私も頂きますよ、梅雨空のメテオ。」

R 「な〜んだ、覚えてるじゃないですか。もうお芝居が上手なんですね、スターさんたら。」

S 「そういえば、アキちゃんはもう行ったんですか?野田マップ。」

A 「この前ね。」

R 「野田マップって、野田秀樹ですか?え〜、誘ってくれなかったですね、アキさ〜ん。誘ってほしかったなぁ〜。」

A 「あんた、大変なのよ、チケット獲るの。」

S 「そうみたいですね。私と同じ学校だったんですけど、学生時代は、私自身、全くお芝居に興味が無かったから、 気にも留めてなかったんですよ。でも、その後の人気具合をみてたら、凄いじゃないですか。あの時、少しはコネを持っていたら、 みなさんにチケット手配できたんですがねぇ。すみませんねぇ。」

R 「本当ですよぉ、スターさん。もう役に立ちませんよね、本当に。・・・嘘です。すいません、失礼ですよね、年上の方に向って。」

A 「そうよ、ろんろん。自分で努力もしないで何言ってるのよ。だから今の子はね、って言われるのよ。ちゃんと誤りなさ〜い。 ははは・・・・。」

S 「ははは・・・。まあ、良いんですけどね。で、お芝居の方はどうだったんですか?」

R 「あ、聞きたいです、僕も。観に行けなかったし。」

A 「ちょっと、ろんろん。まだまだやってるわよ、公演は。当日券で並ぶとか、インターネットでゲットしようとか、 何でそう思わないのよ。んも〜。本当に今の若い子はぁ!」

R 「そうですよね。頑張ってみます。・・・けど、聞きたいな、話。」

S 「話、聞いたって大丈夫なんですか?ろんろんは。」

R 「大丈夫です。僕、ちょっと変わっているってよく言われるんですよ。人が観た感じと違うみたいなんです。だから大丈夫ですよ。 聞きたいし。」

S 「それじゃ、アキちゃん、聞かせて下さいよ。」

A 「あの芝居はね、去年、ロンドンで初演されたものなんだけど、今回は、日本ヴァージョンとロンドンヴァージョンのツー・ パターンで上演するのね。」

S 「で、アキちゃんが行ったのは、どっちなんです?」

A 「まだロンドンヴァージョンは上演していないのね。だから日本ヴァージョンだけなんだけど。」

R 「と言う事は、日本ヴァージョンとロンドンヴァージョンでは違うんですか?」

A 「基本的には一緒だと思うんだけど、ロンドンヴァージョンは、野田秀樹とコリン・ティーバンの共同脚本なのね。 それにロンドンで上演するんだから、英語の脚本だし、日本とロンドンとの生活習慣の違いみたいなものは当然あるわけで、 日本ヴァージョンは、野田秀樹がロンドンヴァージョンの脚本を基に、加筆した物らしいのよ。勿論、 まだロンドンヴァージョンは上演されていないし、アッシは当然観ていないから、何処がどう違ったかなんて分からないんだけどね。」

R 「あ〜、そうなんだぁ〜。じゃあ、日本ヴァージョンを話してくださいよぉ。」

A 「そうね。時代設定は1970年代みたいよ。」

S 「みたい、と言うのは?」

A 「幕が上がる前、といっても幕自体は無くて大きな紙がぶら下がっているだけなんだけど、1970年代の歌謡曲が流れているのね。 麻丘めぐみの<私の彼は左きき>が終わると、そこに野田(役名は井戸)が立っていて話し始めるのよ。」

R 「何かいいですね。」

A 「その井戸が家に帰ろうと家の近くまで行くと警察が道路を塞いでいるの。何でかと尋ねると、 どうやら自分の妻と息子が脱獄犯に人質として捕らえられてるらしい事が分かるのね。 その場面が如何にも今のマスコミを表していて滑稽だったわね。」

S 「というと?」

A 「その男が人質になっている二人の家族、井戸だと分かると一斉に群がって矢継ぎ早の質問を浴びせるのよ。それもテレビ向けに、 視聴者が泣く様な演出まで要求するのね。」

R 「良く見ますよね、被害者の家族にインタヴューをしたがるの。もう僕は気分悪いんですよ、何時も。だって、そうじゃないですかぁ。 被害者の家族はそれどころじゃない訳ですよね。あの神経が分からないんですよぉ。」

S 「まあ、マスコミも仕事だからねぇ。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれませんけど、ろんろんが言っているように、 私も気分良くないですね。」

A 「出演者は、4人なのね。その4人が、違うわ、井戸を除いた3人が色々役を変えて登場するんだけど、 こっちが迷っちゃうくらいに目まぐるしく変わるのね。もうスピードが速すぎちゃって。」

R 「ついていけないだぁ〜、ははは・・・。」

A 「失礼ね!ちゃんとついていってますぅ〜。」

S 「まあまあ、それで?」

A 「井戸が警部に詳しく話を聞いて、自分を犯人と接触させてほしいと頼むんだけど、警部はただただ警察を信じろというばかりなのよ。」

S 「まあ、そうでしょうね。で、マスコミに聞かれると、全力を尽くしている、とかなんか言っちゃう訳ですよね。」

A 「そうなのよ。そうなると、やっぱりイライラしてくるじゃない。井戸は、犯人の妻に頼んで、 どうにか説得してもらおうと試みることにするのよ。」

R 「あ〜、これも良くあるよ。家族が出てきて説得するっていうやつね。」

A 「そうね。でも、この場合は、被害者の夫が加害者の妻に会いに行って、説得する様に頼んでみるのよ。」

S 「で、上手くいく・・・訳ありませんよね。」

R 「それじゃ、芝居終わっちゃいますから。」

A 「もう愛想つかせてるのね、犯人の妻は犯人に。それよりも、自分の子供が今日誕生日だっていう事の方が頭の中を一杯にしているのよ。」

S 「設定がいいですね。子供が誕生日ですか。」

A 「偶然にも井戸の子供も今日が誕生日でね。」

R 「それは凄い偶然ですね。」

A 「ろんろん、これは芝居よ。偶然じゃなくて、偶然そうだった、ってしているだけでしょ。」

R 「あっ、そうですね。そうだ、そうだ。」

A 「それから事件は急展開。被害者の井戸が、今度は犯人の妻と息子を人質にとって立てこもるのね。」

S 「面白いですね。被害者が加害者になって、加害者が被害者でもあるって構造ですね。先が楽しみですねぇ。」

A 「まあ、この先は詳しくは言えないんだけど、まだ観ていない人もいるしね。だけど、ちょっとだけ言うと、井戸と、 井戸の家に立てこもっている犯人の小古呂(オゴロと読む)との往復書簡のやり取りが続くのよ。」

S 「往復書簡ですか?」

R 「どんな内容だったんだろうなぁ〜。」

A 「まあ、それはちょっとね。でも、まあ、相当恐ろしい往復書簡よ。今の世界に向けて警鐘をならしている内容ね。ヒントは、 報復の繰り返し。」

R 「報復の繰り返し?」

S 「それは恐ろしいですね。詳しい話は上演が終わってから聞くとして、役者さん達は、相当達者な人達だったんでしょうね。」

A 「そうね。さっきも言ったけど、前半は、役がコロコロ変わっちゃうから大変だったと思うわよ。」

R 「後半はそうでもないんですか?」

A 「後半は、小古呂の妻と子供のいる家になるからほとんど役が変わる事はないんだけどね。」

S 「あ〜、そうなんですか。」

A 「で、役者達なんだけど、野田秀樹は今までごくごく普通の市民だった一人の人間の誰もが持っている秘めた暴力性を良く表現していたわよ。 特に、激情する暴力じゃなくて、平静の暴力だったから、余計に怖くなったわよ。」

R 「平静の暴力ですかぁ〜。イマイチ良く分からないなぁ〜。」

S 「ろんろんはないですか?例えば、腕に蚊が止まったとしますよね。そうすると、何の躊躇いもなく潰してしまいませんか?」

R 「あ〜、そうですねぇ。」

S 「その時って、別に激情してませんよね。まあ、少し違うかもしれませんけど、似たような事ですよね、アキちゃん。」

A 「そうね。その平静の暴力の怖さ。ゾッとしちゃったわよ。最後の台詞が特にね。他の役者はというと、警部、 リポーターなどの浅野和之は、流石に、元野田が主宰していた<夢の遊眠社>に居ただけあって野田との息もピッタリだったし、警官、 リポーター、小古呂の息子を演った近藤良平は、特に後半、体の動きで表現する事が多いんだけど、そのキレの良さが素晴らしかったし、 リポーター、小古呂の妻を演った秋山菜津子は、場面場面での感情の転換が見事のひと言。流石に最近良い仕事してるな、 って感じだったわね。」

R 「そんなに凄いんですかぁ〜。やっぱり観にいかないと。」

A 「まあ努力して観に行って頂戴。それから、役者だけじゃなくて、今回感心したのは、堀尾幸男の美術ね。」

S 「話を聞いていると、とてもシンプルだったみたいですけど。」

A 「そうなの。大きな紙一枚なのよね。勿論、小道具は有るんだけど、紙一枚で色々な物を表現しているのね。 観ているアッシらの想像力を刺激する美術だったわね。それと、少しだけだけど、映像を使っているのね。 それがまた効果的でよかったかな。」

S 「なんか、私も観に行きたくなりましたねぇ。場所は何処でしたっけ?」

A 「世田谷パブリックシアター内のシアター・トラムっていう小さな所よ。」

  (ろんろんが自分の腕を叩いている)

S 「どうしたんですか?」

R 「あの〜、蚊が・・・・。」

S 「刺されたんですね。まあ、この時期仕方ないですよ。蚊も生きていかなきゃならないですからね。さっきアキちゃんが言ってた <平静の暴力>を今ろんろんは振るってしまったんですね。ははは・・・。」

A 「そうそう、この芝居もタイトルが、<ザ・ビー>。蜂なのね。主人公の井戸は蜂が苦手らしいんだけど、最後、彼の頭の中(?) に蜂が無数に飛び回るのよ。さっき今の世の中に警鐘を鳴らしているって言ったけど、この芝居は、 まさに最近の世の中をチクリと刺したって感じよね。」

R 「アキさ〜ん。取って下さいうよぉ〜、チケット。」

A 「だから言ったでしょ、さっき。自分で努力して取りなさいって。アッシだって自分で取ったんだからね。最初から人に頼らないで、 まず自分で努力しなきゃダメじゃない。」

R 「は〜い。そうします。」

S 「ろんろんは、蚊だけじゃなくて、アキちゃんにもチクリと刺されたね。ははは・・・。」

R 「本当ですよぉ。一番痛かったかも。」

A 「まだまだ甘いわよ。ははは・・・・・。」

R 「意地悪しないで下さいよぉ〜。」

S 「アキちゃん、もっと意地悪だから気を付けなきゃね。」

A 「また、スターちゃんたら。ははは・・・。」

全員 「ははは・・・・・。」

おわり


*今回紹介したお芝居は、
1)<THE BEE>  三軒茶屋シアター・トラム

   日本ヴァージョン:上演中〜7月9日まで
   ロンドンヴァージョン:7/12〜29まで

以上です。みなさん、是非足をお運び下さいね。
2007.7.8->7.12Update


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