<心の安らぎ>の巻

マー坊(以下M)「ねえアキさん、ピアフって有りますか?」

あき(以下A)「えっ?ピアフってエディット・ピアフの事かしら。」

M 「そうです。エディット・ピアフですよ。」

A 「なんでぇ〜?マー坊がピアフなんて・・・。」

M 「いやね、この前、美輪さんのリサイタルに行ってきたんですけど、ピアフの歌を何曲か歌ったんですよ。 で、ちょっと本物はどうかなって。」

A 「なるほどね。ちょっと待ってよ。探せばあるはずだから。」

M 「あっ、その前に、今月のお勧めドリンクお願いします。10月になったし、お勧めも代わったんですよね。」

A 「勿論よ。今月は<月に憑かれたピエロ>。甘いヴァージョンと普通のヴァージョンがあるけど、 どっちにする?」

M 「それじゃ、まずは普通のヴァージョンで。」

A 「あいよっ!」

M 「それにしても凄い名前ですよね、<月に憑かれた>なんて。」

A 「そうでしょ。・・・はい、お待たせ。今月のお勧めドリンク<月に憑かれたピエロ>です。」

M 「うわ〜!な〜んか怪しい感じですね。この半月形のレモンが月なんですね。」

A 「そうよ、ちょっと大きいけどね。」

M 「この紫色は何なんですか?」

A 「これはパルフェタムールっていうリキュールなのよ。ほら、ヴァイオレット・フィズって聞いた事ない? あれに使うやつよ。」

M 「あ〜、あれですかぁ。それにしても不思議な感じがしますよね、この何とも言えない紫が。」

A 「そうでしょ。・・・あったわ。」

M 「早く聴きたいなぁ〜。」

A 「それじゃ掛けるわね。」

M 「ちょっとジャケット見せて下さい。」

A 「はい、どうぞ。」

M 「これ、サントラですか?」

A 「そうよ。ほら先週から上映されている映画のサントラ。」

M 「映画やってるんですか。<愛の讃歌>かぁ。美輪さんも歌ってましたよ。下に書いてある原題の <LA VIE EN ROSE>が日本題では<愛の讃歌>なんですね。」

A 「違うのよ、それが。原題は<ばら色の人生>っていうのね。でもさ、日本だと美輪さんは勿論、 昔は越路吹雪が好んで取り上げていたし、今もクミコがピアフの曲を歌ったミニアルバムを出して、 その中にも入れてたし、<愛の讃歌>の方が売り出しやすかったんでしょうね。」

M 「その方が観客が呼べるって事ですかね。」

A 「多分ね。」

M 「で、アキさんは当然もう観てこられたんですよね。」

A 「それがまだなのよ。もう30年ちょっと前に作られた別の<ピアフ>っていう映画なら観たけどね。」

M 「そんな前にも映画になっているんですね。」

A 「そうね。その年はピアフが亡くなって丁度10年だったのよ。 ピアフを演じたのがブリジット・アリエルっていう女優で、本当に似ていたのよね、ピアフに。で、 その時彼女の歌を吹き替えたのが、美輪さんのリサイタルでも歌っていいた<恋のロシアンキャッフェ> <恋はコメディ>のオリジナル、ベティー・マルスだったのね。」

M 「へ〜、そうなんだ。で、今度の映画はピアフの歌が使われているんですか?」

A 「そうみたいね。フランスでは空前の大ヒットを記録した映画みたいだけどね。 アッシは映画の前に舞台版を観にいちゃったのよね。」

M 「舞台もやっているんですか。」

A 「そうなのよ。tptが安奈淳の主演で上演しているのよね。はい、これチラシよ。」

M 「へ〜。で、どうでした?」

A 「思ったより良かったかもね。ただ、とってもエピソードの多い人だったみたいだから、 それを3時間で収めようとすると、ちょっと慌しく感じてしまうわね。」

M 「3時間もあるんですか。・・・あれ?この曲聞いた事ありますね。何ですか、この曲名は。」

A 「これはね、<群集>っていう曲よ。ほら、 美輪さんのリサイタルでショーが始まる前に演奏だけで聴いてたと思うわよ。話は戻るけど、上演時間だけど、 途中休憩が20分あるから2時間40分くらいよ。でも、内容が詰まっているからそんなに長くは感じないわよ。」

M 「っていう事は、それなりに充実した舞台だったって事ですよね。役者も良かったわけですよね、だから。」

A 「まあ、そうね。凄く、とは言えないけど、観ていて安心できる舞台だったわね。安奈淳の回復ぶりにも安心したし、 2〜3人を除いては殆どが新人に近い役者達だったから少し心配はしていたんだけど、 その心配は取るに足りないものだったわよ。」

M 「それじゃ、舞台も観たくなちゃったなぁ。」

A 「そうね。両方観るのもいいかもね。アッシもこれから映画の方を観ようと思っているしね。」

M 「給料も入った事だし、まずは値段の高い舞台からかな、観るとしたら。」

A 「ははは・・・。まあ、そうね。やっぱりお金と相談しなきゃね。」

M 「そうですよ、本当に。あっ、この曲、これが<愛の讃歌>ですよね。原題の曲はこれじゃないんだぁ。 原題の曲、え〜と、<バラ色の人生>でしたっけ。それ聴けます?」

A 「大丈夫よ。ちょっと待っててね。・・・これよ。」

M 「あ〜、これねぇ。聴いたことあります、この曲。ジャズだったと思うんだけどなぁ〜。そうそう、 ルイ・アームストロングだ、確か。歌ってますよね、彼。」

A 「勿論歌ってるわよ。彼の数あるヒット曲の内のひとつだしね。」

M 「へ〜。ところでアキさん、最近は他に何か観ましたか?舞台でも映画でも。」

A 「まあ、色々観ているけど、特に良かったなと思ったのは英樹の出ている<南太平洋>かな。」

M 「英樹って?」

A 「後藤英樹よ。ほら、関西の劇団<そとばこまち>に所属している彼。」

M 「あ〜。あの英樹ね。それだったら行かなきゃ。」

A 「でも、もう終わっちゃったのよね、先月で。」

M 「それじゃ、聞かせてくださいよ、舞台の模様を。」

A 「<南太平洋>って観たことある?」

M 「そう言えばぁ・・・。あ〜、あります、あります。映画になったミュージカルですよね。 確かブロードウェイで上演したミュージカルですよね。あ〜、あれかぁ。」

A 「そう来ると思ったわ。でも違うのよ。タイトルは同じだけどね。タイトルの上に<合歓版>ってあるのよ。 これはミュージカルの<南太平洋>じゃなくて、座付き脚本家の合歓葉口が書いた<合歓版・南太平洋>なのね。」

M 「そうなんですか。で、早く聞かせて下さいよ。アキさんが最近良かったって思ったその芝居の話。」

A 「時代の設定は第二次世界大戦の20年くらい後かしらね。かつて、ある島に日本軍の捕虜収容所があったのよ。 そこで起こった昔の出来事を中心に話は進んでいくのよね。」

M 「戦争の話なんですね。」

A 「直接じゃないんだけどね。争いがあった時代の話と、その後の話よね。主人公はその時代、その時に、 その島にいた多くの人を助けるためにひとりの人間を殺してしまった過去があるのよ。 戦争が終わっても彼はその島に残っているんだけど、ずっとその事に悩んでいるのよね。」

M 「あ〜、なんか分かりますよね、その気持ち。」

A 「で、戦争が終わって何十年か経った頃、 日本から一組の夫婦が主人公の谷中という老人を訪ねてその島にやってくるのよ。で、 その老人を残して島を去った自分達の父親について尋ねていくの。」

M 「なんか、目に浮かびますね、そのシーン。 それからその谷中老人が島であった出来事を話していくんでしょ。」

A 「その通り。何故、その谷中老人がひとりの日本兵、相田中尉を撃ったのか。そして、何故、 その島に独りだけ残ったのかって。」

M 「で、何故なんですか?」

A 「まず、相田中尉を撃ったのは、その島で人体実験を行なうのを阻止しようとしたからなの。」

M 「人体実験ですか。その芝居は架空のものなんでしょうけど、 第二次世界大戦中に日本軍は人体実験をやってたっていう話もありますからね。まあ、 日本軍に限った事じゃないかも知れませんけど。」

A 「そうね。そこの捕虜収容所では、それまで敵見方なく、みんなが平和に暮らしていただけに、 軍の命令だからって許せなかったんでしょうね。」

M 「苦渋の選択ですよね、彼にしてみたら。」

A 「そうね。軍の命令か、島の平和かね。きっと彼は元々が平和主義者だったのよね。まあ、医師っていう設定だから、 尚更よね。」

M 「そうですよね。で、その後の平和を守るために独りで島に残ったっていう事ですね。」

A 「違うのよね、これが。暫くして、一人の日本兵、平岡一等兵曹の乗った飛行機がその島に不時着するのよ。」

M 「何でまた?」

A 「知らせに来るのよね。戦争が終わりそうだって。だから、 この島で起こった人体実験の証拠を残してはならないって。」

M 「諜報部員かなんかだったんですね、その不時着した人物は。でも、そうだとすると、 それを知っている人は生きていたら困るんじゃないですか?」

A 「そうなのよ。で、一人残った日本兵以外全員を葬り去ろうとするんだけどね。」

M 「軍の命令なんですね。」

A 「そうよ。でも実行できないのよね。」

M 「平岡っていう人物が情にほだされたからですか?」

A 「少しは有ったかもね。でも、軍隊って階級社会じゃない。平岡は一等兵曹、谷中は少尉なのね。」

M 「どっちが偉いんですか?それって。」

A 「当然少尉よ。だから、少尉の命令には背けないわけよ。」

M 「なるほどぉ。でも、証拠が残っちゃいますよね、それだと。」

A 「そうなのよ。で、どうしたら証拠が残らないかを島の皆で考えるの。そして一つの結論に達するのね。 アメリカ軍の捕虜、ガードナー中佐が自ら犠牲になって証拠は一切残らなかったのよ。」

M 「でも、それで大丈夫だったんですか?」

A 「任務は遂行された訳だからね。で、二人が日本に帰る時が訪れたのね。」

M 「でも、平岡っていう人は残るんですよね、島に。」

A 「そうなの。最初は帰る予定だったのね。でも、その時、島の住人が妊娠している事に気付くの。」

M 「でも、そのくらいじゃぁ・・・。何か理由でも有ったんですかね。」

A 「そうなの。その妊娠させた相手が、自分が射殺してしまった相田中尉だと分かったからなのね。」

M 「その子の為に残ろうと。」

A 「そう。そして今、その残された娘、ヒナと一緒に島で暮らしているという事なのよ。」

M 「ところで、その話を聞きだしている夫婦ですけど、その平岡っていう人の子どもだった訳ですね。」

A 「そう一人はね。奥さんの方。途中で奥さんが平岡一等兵曹の子供だなって分かるんだけど、まさか、 最後の最後でね、・・・。」

M 「どうなんですか?」

A 「旦那の方が、実は相田中尉の息子だったって分かるのね。」

M 「え〜〜〜!じゃあ、谷中老人のショックったら凄かったでしょうに。」

A 「そう思うわよ。でも、そこで気持ちの安らぎが訪れるのよね、谷中老人やその夫婦にね。 ず〜っと苦しみ悩んできた一つの事実を話せた事や、聞けた事。納得は出来ないんだろうけど、 何かホッとした気持ちになったことは観ていて分かったわね。」

M 「ふ〜ん。でも、戦争って本当に悲惨ですね。実際に関与していなくても、どこかで関わっている。 悲しみって一方的なものではなくて、更にまた違った哀しみを生んでいるんですね。胸が痛くなりますね。」

A 「本当ね。この芝居、本当に脚本が良く出来ていると思うのよ。2時間半っていうのはちょっと長いし、 カット出来るところは結構あったと思うんだけど、作者のメッセージが痛いほど良く分かるし、 最後の最後に持ってくる驚きと感動。久し振りに目頭が熱くなる芝居に出会ったわね。」

M 「アキさんがそんな事言うのって、確か、野田地図の<オイル>以来じゃないですか。あ〜、残念。 観とけば良かったぁ。」

A 「後悔、先に立たずってね。」

M 「本当ですよね。あ〜あ。もう飲まなきゃやってられませんよぉ〜、ははは・・・・。それじゃ、 今度はラフロイグをオン・ザ・ロックで下さい。アキさんも良かったら何かどうぞ。」

A 「はい、遠慮なく頂きます。・・・はい、お待たせしました。アッシはブランディーの水割りを頂きますね。」

M 「それじゃ、心の安らぎをくれるペンギンに乾杯!」

A 「あら、マー坊ったら、上手い事言ってぇ。何にも出ないわよ、ははは・・・。」

M 「本当ですってばぁ。何時もお世話になってます。」

A 「こちらこそ。」

一同 「ははは・・・・。」

おわり


*今回紹介した映画、お芝居は、
1) <愛の讃歌>  新宿バルト9他で上映中
2) tpt<ピアフ> 10/8まで   ベニサンピット
3) <合歓版・南太平洋>  上演終了

以上です。芸術の秋。どうぞ皆さんもこの機会に映画や演劇に足をお運び下さいね。
2007.10.6


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