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<怒ってますぅ〜!>の巻
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ランちゃん(以下R)「こんばんは〜。急に寒くなりましたね。」 あき(以下A)「あら、ランちゃん、いらっしゃい。本当ね、急に寒くなったわね。体調壊してない?」 R 「はい、大丈夫です。こうみえても大学時代は陸上部でならしたんですよ。体力には自信があるんですって。」 A 「その思い込みが大病に繋がるのよ。気を付けないとね。もうランちゃんも30代半ばなんだからね。 はい、オシボリ。」 R 「有難うございま〜す。そうなんですよねぇ。今年から人間ドックなんですよ。」 A 「ちゃんと行きなさいよぉ〜。年に一度の検査でもしてる、してないじゃ大違いよ。」 R 「そうですよね。」 A 「今日は何にする?」 R 「お勧めドリンクお願いします。」 A 「甘いヴァージョンと普通のヴァージョンは?」 R 「普通のヴァージョンで。」 A 「あいよっ!・・・・。はい、お待たせ。」 R 「う〜む、美味しいですね。<月に憑かれたピエロ>でしたっけ?」 A 「そう。クラシック音楽なんだけど、シェーン・ベルグっていう作曲家がいるのね。 彼の作った歌曲に<月に憑かれたピエロ>っていう歌曲があるのよね。それにヒントを得て作ったドリンクなのよ。」 R 「へ〜。そういえば、もう行ったんですか?ベルリン国立歌劇場。」 A 「行ったわよ。もう6時間弱。観る方も疲れたけど、やってる方はもっと大変だったんじゃないかしらね。」 R 「何に行ったんですか?」 A 「<トリスタンとイゾルデ>。一度ちゃんと観てみたかったのよ。」 R 「で、どうでした?」 A 「そうね、演出がハリー・クプファーだったのね。」 R 「あ〜、あの奇抜な演出で知られる。」 A 「そうそう。だけど、極めてオーソドックス。」 R 「っじゃ、期待外れだったんですね。」 A 「そうでもないのよね。だってさ、それがこのオペラには一番だって考えたんでしょ、クプファーは。 何でも奇抜だから良いって訳じゃないんだし。」 R 「まあ、そうですよね。それにしても6時間弱ですか?凄いですね〜。」 A 「本当よね。出演者が少ないから、歌い手は、ほぼ歌いっぱなし。途中休憩が40分ずつ入ったとはいえ、 やっぱり重労働よね。凝った装置はないから、ホントに歌が勝負よね。」 R 「装置が凝ってなかったんですね。」 A 「そうなのよ。天使と言うか、鳥というか、そんなオブジェが回り舞台の真ん中に一つだけなのよ。 それが回りながら進んでいくのよね。」 R 「へ〜。歌手も逃げるところがないですね。」 A 「それにさ、そのオブジェが滑るみたいで、歌手も怪我しないかドキドキだったんじゃないかしらね。」 R 「その歌手は?」 A 「トリスタンを演じたクリスティアン・フランツは、可も無く不可もなくって感じで少し物足りなかったかな。 イゾルデを演じたワルトラウト・マイヤーは流石に貫禄を示した演技と歌だったけど、10年くらい前、 同じベルリン国立歌劇場で来日した時に演じた<ヴォツェック>のマリーよりは印象が薄かったわね。」 R 「それじゃ、アキさんとしては少しガッカリだったんですね。」 A 「ガッカリはしなかったけどね。それより、マルケ王を演じたルネ・パペが素晴らしくって。 今回一番の収穫だったかしらね。本当に素晴らしかったわね。」 R 「それは良かったですね。最近他には何か有りましたか?」 A 「丸っきり逆に怒ってしまった舞台はあったわね。」 R 「怒ってしまったって?」 A 「ほら、トイレに貼ってあるじゃない、<キャバレー>のポスター。」 R 「あ〜、あのちょっと興味を引きますよね。で、その舞台の何に怒ちゃったんですか?アキさんは。」 A 「何がって、・・・もう思い出しただけでも腹が立ってきちゃったわよ。」 R 「まあまあ、落ち着いて下さいね。で、詳しく聞かせてくれますか?」 A 「アッシ、好きなミュージカルの一つなのね、この<キャバレー>って。で、今回、松尾スズキの演出じゃない。 どんな風に料理するのかなって期待も有ったのよね。」 R 「出演者も阿部サダヲ、松雪泰子、森山未来って、ちょっと<キャバレー>のミュージカルとは無縁な感じですよね。 だから余計に興味をそそりますよ。チケットも大分売れたみたいだし。」 A 「そうね。でも、さっきベルリン国立歌劇場の話したじゃない。あの演出家って、結構、 いい意味でドキッとさせられる演出家なのね。今回はオーソドックスに演出していたけどね。でも、 何故オーソドックスかって所がポイントなのよ。」 R 「正攻法が良い場合も沢山ありますからね。」 A 「そうなの。で、今回、松尾スズキの演出した<キャバレー>は、そういった意味では完全に失敗だと思うのね。 だって、<キャバレー>が持っている大切なメッセージが完全に消えちゃったからなのよ。」 R 「メッセージですか。」 A 「そうなの。今の若者にウケればいいと思っているんじゃないかって。もう滅茶苦茶なのよ。」 R 「そんなにぃ〜?」 A 「まあ、最初と最後を観れば、あの出来事は夢の中なのかな、とも思えなくはないんだけどね。それにしても酷すぎる。 もう観ていて耐えられなかったもの。お陰で、帰りにタワーレコードで衝動買いよぉ〜。」 R 「ははは・・・。衝動買いですか、ははは・・。で、そんな耐えられないっていう中身を知りたいですね。」 A 「突然大声で叫んだり、あの時代には無いギャグを入れてみたりね。<キャバレー>っていうミュージカルは、 ナチスのユダヤ人への迫害と目に見えない所からの台頭に焦点が当てられていると思うのね。確かに、 大きく脚本を変えることは出来ないだろうから、そこそこは表現されていたけれど、松尾スズキが手を入れた台本では、 それがイマイチはっきりとしていなかったのね。その証拠じゃないんだけど、 若い観客はこの舞台の恐ろしさをまるで感じてなかったみたいなのよ。」 R 「というと?」 A 「ナチスの十字って分かる?」 R 「あれですよね、お寺のマークっていうか、卍(マンジ)型のようなあのマークですよね。」 A 「そう。あのマークを付けたダンサーが行進する所があるんだけど、そこで皆が手拍子してるのね。えっ?って、 この人達(観客)は何考えてるの?って。 もう今の若い人達に受ける事を狙ったとしか考えられない松尾が手を加えた台本だけでも怒ってたのに、 この日の観客の反応にもっと怒っちゃったのよね。」 R 「その気持ち分かりますよ。芝居を愛している人間だったらきっと同じ気持ちになる筈ですよね。 いたずらにいじってしまうのって、やっぱり良くない事だと思いますよ。」 A 「それに、・・・。」 R 「まだ何かあるんですか・・・?」 A 「まあ、何時も言っているんだけど、今回の会場は青山劇場なんだけど、大きすぎるのよね、 この<キャバレー>っていう芝居には。」 R 「前にも言っていましたよね、アキさん。劇場の大きさと芝居とのギャップについて。」 A 「そうなのよ。こんなに凝縮された芝居を、あんなに大きな舞台でやっちゃったら、 観客の目は散漫になってしまってしまうと思うのよね。」 R 「でも、やる側も収入とか色々あるんでしょうから難しいと思うんですけどね。」 A 「まあ、それはそうかも知れないけど、収入を気にしているんだったら、まず良い舞台を提供する事が先だと思うのね。 有名人を使わなくても、良い舞台は口コミで広がるはずよ。」 R 「そうですね。無いんですかね、そんな良い舞台って。」 A 「有名人は出ているんだけどね、昨日観て来たヤスミナ・レザ作品、<スペインの芝居>はとても良かったわよ。」 R 「スペインの何と言う芝居ですか?」 A 「そうじゃなくて、<スペインの芝居>っていう芝居なのよ。」 R 「<スペインの芝居>っていうタイトルなんですかぁ。へ〜、面白いですね。どんな芝居なんです?」 A 「登場オ人物はフランスの俳優。彼らが演じるスペインの芝居を中心に、 そのまた劇中劇でブルガリアの芝居も演じられるっていう、ちょっと構造が複雑な芝居なのよ。」 R 「なんか、分かりにくいですね。」 A 「まあ、そうでしょうね、構造が複雑だからね。でも、良いのよ、これが。まずフェルナンを演じる役者が、 これから演じるオルモ・パネロという作家が書いた芝居について語る所から始まるの。そしてスペインの芝居が始まり、 途中、俳優がその役についてや、俳優、または女優という存在についてや、作者についてを語っていくのね。」 R 「ブルガリアの芝居は何処に出てくるんです?」 A 「だから、それはスペインの芝居の中に出てくる劇中劇なのよ。それも途切れ途切れに現われるのね。 毬谷友子が演じるアウレリアっていう女優が演じる古〜いタイプの芝居なのよ。でも、そのアウレリアだけじゃなくて、 その相手、村上淳演じるマリアーノ、昔懐かしい絶世の美女、鰐淵晴子演じるアウレリアの母ピラール、 元宝塚の月船さらら演じるその娘でアウレリアの妹ヌリア、最初に出てくる中嶋しゅう演じるフェルナン。 みんな夫々を演じている役者であって、登場人物その者ではないのよね。当たり前のようで複雑。アッシら観客は、 その迷路に迷い込んでいるみたいで、というか、迷い込んじゃってね。誰がだれで、 どれが本当だか分からなくなっちゃうのよ。」 R 「な〜んか、疲れそうですね。」 A 「でも、その疲れ、心地よい疲れなのね。あ〜、この芝居観て良かったぁ〜っていう。」 R 「あ〜、な〜んか分かるかも。演出は?」 A 「映画監督で、これも映画監督だった今は亡き巨匠、今村昌平の息子、天願大介よ。とても初演出だとは思えない、 素晴らしいものでした。」 R 「役者さん達、僕には馴染みの無い人ばかりですけど、アキさんの年代の人には有名なんですか?」 A 「そんな人ばかりではないわよね。芝居好きな人にはわかるでしょうけど。何しろ、役者がどうの、こうのじゃなくって、 本当に脚本が良いのよ。さっき話した<キャバレー>の松尾スズキが書き直した台本とは雲泥の差だったわね。あ〜、 またムカムカしてきちゃったぁ。」 R 「まあまあ、落ち着いて。僕、ボウモアをオン・ザ・ロックで下さい。アキさんも、何か落ち着けるもの、 飲んで下さいね。」 A 「あら、遠慮なく。ランちゃんも時間あったら観にいってね、<スペインの芝居>。・・・はい、お待たせしました。 それじゃ、ランちゃん、頂きま〜す。」 R 「は〜い、どうそ。それにしても、お酒飲んで気持ちを落ち着けるなんて、やっぱアキさんアル中手前ですね、 ははは・・・。」 A 「まあ、失礼ね、ははは・・・。」 一同 「ははは・・・・・。」 おわり *今回紹介したお芝居は、 1) ベルリン国立歌劇場 公演終了 2) 松尾スズキの<キャバレー> 上演中〜10/21まで 青山劇場 ほか、名古屋、大阪公演あり。 3) TPT <スペインの芝居> 上演中〜10/28まで ベニサンピット 以上です。どうぞ足をお運び下さい。 2007.10.21
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