<他の世界>の巻

伴ちゃん(以下B)「こんばんは。う〜、寒〜い。」

あき(以下A)「本当に寒いわね。急に寒くなったからね。はい、伴ちゃん、おしぼり。」

B 「でっも、本当に寒いですね。なんでこんなに寒くなったんでしょうねぇ。」

A 「何言ってんのよ、伴ちゃん。これが普通よ。まあ、普通よりちょっと寒いくらいじゃない?」

B 「そうなんですか。オイラが生まれてからこんな急に寒くなった事なんか無かったと思うんだけどね。」

A 「そうかもね。伴ちゃんが生まれてからまだ30年経ってないんだもんね。ず〜っと暖かくなってるからね、 東京は。それにこの前まで暖かかったしね。」

B 「そうですよぉ。だから急に寒くなった様に感じるんですかね。」

A 「今日は伴ちゃん、何にしようか?」

B 「あっ、そうそう。え〜と、今月のお勧めドリンクにしようかな。<リトル・プリンセス、そして・・・>。 あの、<そして・・・>って何なのですか?」

A 「これね、ラムベースなんだけど、コーラかソーダを選んでもらっているのよ。で、<そして・・・>なの。」

B 「それでぇ〜。それじゃ、そうだなぁ〜、ソーダにします。」

A 「いやだぁ〜、伴ちゃんたら。それシャレ?ははは・・・。」

B 「何言ってんですか、シャレなんかじゃありませんよぉ。本当にヤダなぁ〜。」

A 「ははは・・・。はい、お待たせ。」

B 「ありがとうございますぅ。う〜む、さっぱりして飲み易いですね。うむ、美味しいですぅ。」

A 「そうでしょ。でもね、ちょっとアルコールが強いのよ。だから飲み易くても飲み過ぎには注意してね。」

B 「大丈夫ですよ。今日は平日ですから。これ一杯で帰ります。ところで、アキさん、 まだ見に行ってないんですか?」

A 「何?」

B 「映画ですよ。<HERO>。」

A 「やっと行ったわよ、この前。」

B 「で、どうでした?」

A 「そうね。まあ映画にするほどの物じゃなかったわね。でも、良かったけどね。」

B 「アキさん好きでしたよね、TVシリーズも。」

A 「そうね。録画して見てた連続物ってあんまり無いからね。」

B 「そんなに好きだったのにねぇ。残念でしたね、イマイチで。」

A 「イマイチだなんて言ってないわよ。映画にするほどでもないって言っただけよ。 イ・ビョンホンの出番も少なかったし。カメオ出演でもいいくらいだったわよ。でもね、 やっぱり好きねぇ、あのドラマ。」

B 「法廷物ですもんね。」

A 「そうね。だけど、意外なところでグッときちゃったのよ。」

B 「法廷場面じゃなくてですか?」

A 「そうなの。あの映画って、TVドラマ・特別編の続きとして作られているんだけど、 TVで有罪判決が出て収監されている中井貴一演ずる滝田が病気になっているんだけど、 そこに木村拓哉演ずる久利生が見舞いにくるシーンね。 そこにやはり見舞いに来ている山口検察の綾瀬はるか演じる泉谷との3人のシーン。一番良かったのよね。 胸にジーンと来ちゃうシーンよ。」

B 「へ〜。法廷でタモリが裁かれるところじゃないんですね。意外だなぁ〜。」

A 「そうなのよね。まあ、アッシも自分で<ここで?>って。」

B 「映画でも芝居でも、思いがけない所で感激しちゃったりすると、嬉しくなっちゃいますよね。」

A 「そうでしょ。やっぱりそうよね。」

B 「で、芝居は観ているんですか?最近は。」

A 「今月はあんまり無かったんだけど、この前、エドワード・オールビーの<動物園物語>を観て来たのよ。」

B 「エドワード・オールビー。う〜む、どっかで聞いた事ある名前だなぁ〜。」

A 「忘れてるのぉ〜?」

B 「えっ?何でしたっけ。」

A 「<ヴァージニア・ウルフなんかこわくない>よぉ。」

B 「あ〜。で?」

A 「同じ作家じゃないの。」

B 「あっ、そうかぁ。だからどっかで聞いた事あると思ったぁ。」

A 「確か観に行ったんじゃなかったっけ?<ヴァージニア・ウルフなんかこわくない>」

B 「あ〜、行きましたね。でも、難しくてちょっと分かりにくかったんですよ、オイラには。」

A 「そうね。確かにエドワード・オールビーの作品って、これ何?っていう所あるわよね。 罵倒する言葉の嵐が続いたりね。」

B 「もうヒヤヒヤしちゃいますよね。で、この<動物園物語>はどうなんですか? <ヴァージニア・ウルフなんかこわくない>は4人芝居でしたけど、・・・。」

A 「この<動物園物語>は二人芝居なのよ。」

B 「で、キャストは?」

A 「中産階級を代表するような常識人の男ピーターを松田洋治、誰からもウザク見られている、 常識人からみたら非常識人の男ジェリーを広島光の二人なのね。」

B 「松田洋治かぁ。ちょっとは知っているけど・・・。相手の広島光って人は全くしらないなぁ〜。」

A 「かれはね、新宿梁山泊に所属する役者でね。スリムで身体能力がいかにも有りそうな人よ。」

B 「へ〜。で、どうだったの?」

A 「まず小屋がいいわよ、小屋が。」

B 「小屋?それって会場のことですか?」

A 「そうそう。アッシ何時も言ってるじゃない、日本の芝居って劇場の広さとかを全く考えていないものが多いって。」

B 「そういえば良く聞きますよね。結構前にも宮本亜門が演出したミュージカル、 <ユーリンタウン>の話で言ってましたよね。あの芝居はあんな大きな劇場じゃダメだって。」

A 「そうなのね。あの芝居はさ、ブロードウェイでも500人ちょっとの劇場でやってた芝居だし、 元はと言えばオフでやってた芝居でしょ。 1000人以上の劇場じゃちょっとねぇ。でも、今回の<動物園物語>の会場は、 芝居砦・満天星っていう100人くらいの劇場なのよね。」

B 「へ〜。そんなに小さな劇場あるんですね。でも、二人芝居だったら凄くいいですよ、その広さは。 良く観る事が出来るし。」

A 「そうなのよね。間近で観る事ができるでしょ。台詞もちゃんと聴こえるし。」

B 「それに肉声だもんね。大きな劇場だとマイク使うじゃないですかぁ。何か今ひとつなんですよ。」

A 「間違いもちゃんと聴こえちゃうけどね、ははは・・・。」

B 「で、二人の演技はどうだったんです?」

A 「ピーターの松田洋治は大分老けた感じがしたんだけど、それがこの役には良かったわね。でも、 まだ少し若いかなって。でも、流石の台詞術。ニュー・ヨークに住んでいる中産階級の一般人を良く表現してたと思うわね。 ジェリーの広島光は、逆にちょっと若い。勿論、ピーターよりは若い設定なんだけど、 そんなには歳は変わらないはずなのね。」

B 「何でです?」

A 「だって、中産階級の一般人だったら40代〜50代でしょ。で、 相手が凄く若い人だったらただの年齢の差による違いだけになっちゃうじゃない。歳が近いから、 問題提起がそこでなされるのよ。片一方は中産階級の安定している生活をしていて、 片一方は世間から疎外されちゃってるわけだしね。」

B 「そうなんだ。話を掻い摘んで言うとどんな感じなんですかね。」

A 「ピーターがセントラルパークの静かな場所のベンチで読書をしているのね。そこは、 彼にとって長年通っている何時ものベンチなのよ。そこに何やら独り言を言いながらジェリーが近付いてくるの。 で、ピーターに語りかけるようにジェリーは動物園に行ってきたと話しているんだけど、ピーターは気が付かない訳ね。 でも、その内、自分に話しかけられているというのに気が付くの。それがピーターの悲劇の始まりなのよ。」

B 「悲劇?その後興味が出てきましたね。」

A 「その後はジェリーの話しかけにあしらった感じで相手をするピーターのシーンが続くのね。 矢継ぎ早に続くジェリーのピーターの生活に踏み入った質問に嫌そうな感じで答えるピーター。 その内ジェリーのアパートにいる大家の犬の話になるの。」

B 「犬の話ですか?」

A 「そう、犬の話の長〜い独白。出版社に勤めているピーターにこの話を出版してくれないかと聞いてくるの。」

B 「なんか、面倒くさいですねぇ、そのジェリーって男。」

A 「でしょ。で、もう飽き飽きしているのよね、ピーターは。早く帰りたくなってる。でも、 ジェリーは最初に話しかけた動物園の話を聞きたくないかって迫ってくるのよ。」

B 「しつこい奴ですねぇ。」

A 「その内にジェリーがピーターのその椅子、 彼が何時も自分の物だとして座っているあのベンチを自分に渡せと迫ってくるの。」

B 「なんですかね、そのジェリーって奴。他にもベンチはあるんですよね、公園だし。他に行けばいいのに。」

A 「そう。他にもベンチはあるのよ。でも、彼はピーターが何時も座っているそのベンチが欲しいのね。」

B 「ピーターもピーターですよね。そんな奴無視して帰ればいいのに。」

A 「そこよ。でも、ピーターは帰らなくて、そのベンチが自分のベンチだからジェリーに譲る気は無いと突っ張るのね。」

B 「中々ピーターもやりますね。」

A 「自分にとっては長年通って、 何時も座っている重要な時を過ごすための自分のベンチだからジェリーがそれを奪い取る権利はない、 と言うのよ。」

B 「ふ〜む、でも、待って下さいよぉ。その公園はピーターの敷地にある訳じゃないんですよね。という事は、 勿論誰が座ってもいいわけで、・・・。」

A 「そうね。そこでピーターのエゴが出てくるのね。それに対してジェリーは、戦いを挑んでくるの。」

B 「それは危ない。だってジェリーって奴、ちょっと危ないですよね、今までの話を聞いていたら。 そんな奴に喧嘩を売られたからって。」

A 「でも、ピーターは売られた喧嘩を買うのよね。」

B 「で、どうするんです?ピーターは。ナイフでも取り出すのかな。」

A 「ナイフを取り出すのはジェリーの方。」

B 「なんだよぉ〜、そいつ。やっぱり相当危ない奴ですね。ピーター逃げろよって。」

A 「でも意外な展開がその後くるの。ジェリーがピーターにそのナイフを放り投げるのよ。」

B 「っていう事は、ナイフをピーターに渡したんだ、ジェリーは。相当甘く見られたんですね、ピーターは。」

A 「そう。案の定、ピーターはナイフを最初は拾えないのよ。そして、ジェリーのピーターを罵倒する言葉が続くと、 ピーターはついにナイフを手にするのね。」

B 「お〜、やっとやる気になったんだ。」

A 「そうじゃないわよ。護身のため。ただこわばってナイフの刃をジェリーに向けて立っているだけなの。」

B 「振り回せよ、せめて。」

A 「そんな事出来やしないのよ。ピーターは自分は中産階級の常識人だと思っているんだもの。」

B 「でも、ぐずぐずしてたら逆にやられちゃうのに。」

A 「そう。でもその先には思いもよらない展開が待っているのよ。」

B 「また展開するんですね。とうとうピーターが立ち向かうんだ。」

A 「残念でした。ジェリーがピーター目掛けて突進して行くの。そして、 ピーターが手にしているナイフに自分の体を突き刺すの。」

B 「えっ!!!・・・そうか、分かった。ジェリーはピーターを犯罪者にして自分が有利に立とうとしたんですね。」

A 「違うのよね。ジェリーはピーターによって安らぎを与えられるのよ。」

B 「安らぎを?」

A 「そう。怖かったのね、ジェリーも。彼は世間から疎外されてる種の人なのよ、当時は。で、ピーターと話せた瞬間に、 彼が自分から逃げるのではないかってず〜っと不安に思っていたのね。だから嬉しかったのかもしれない。 ピーターに罪を負わせて自分が優位に立とうなんて、これっぽっちも思わなかったのね。その証拠に、 刺されたというか、自分の体にナイフを突き刺した後、ピーターに感謝の言葉を言って、 早くこの場を立ち去るように言うし、ナイフの指紋もハンカチで拭いて証拠を残さないようにしているのよ。」

B 「その後のピーターが心配ですね、でも。」

A 「そうね。ピーターは、もうどうして良いか分からなくなっているのね。ただただ神に乞うだけ。 ジェリーはピーターと同じように、でも意味合いは全く違うんだけど、神さまと何かを神に乞って息絶えるの。」

B 「なんか考えさせられますね、その舞台。観たいですよ。再演があったら教えて下さいね。」

A 「そうね。この芝居、初演はドイツで1959年に行なわれているのね。ブロードウェイには翌1960年にオープンしているの。 日本でも文学座のアトリエ公演として1962年に上演されているのよ。でも、 今の世の中にも通じる問題があって本当に考えさせられちゃったわよ。」

B 「そうかもしれないですね。今の自分が思っている自分の立場っていうかね。精神的なものも含めて、 自分が勘違いしていないかっていうのかなぁ〜。難しいですぅ。でも、芝居もそうですけど、映画を観たり、 本を読んだりしていると、ふと気が付く事があるんですよ。自分は何だ?って。いいなぁ〜、やっぱり。 もっと本読んだり、芝居や映画観ないとダメですよね。」

A 「そうね。アッシもそう思うわよ。良く、人のふり見て我がふり直せ、って言うじゃない。 自分だけを見つめているんじゃなくて、他の世界にも目を向けなきゃっていう事よね。映画や本や、 芝居に限らず。」

B 「そうですよぉ。オイラも頑張らなきゃ。今日は良かった来て。それじゃ、そろそろ帰ります。 ご馳走様でした。」

A 「どうも有難うね。それじゃ、伴ちゃん、今日は1400円です。有難うございま〜す。 寒いから風邪ひかないように気を付けてよ。」

B 「はい、アキさんも気を付けて下さい。ご馳走様ですぅ。おやすみなさ〜い。」

A 「有難う!おやすみ〜。」

おわり


*今回紹介した映画、お芝居は、

1) <HERO>   東宝系映画館で上映中
2) <動物園物語>  上演終了

以上です。寒くなってきて外出が億劫になってきましたが、どうぞ、映画館、劇場に足をお運び下さいね。
2007.11.25


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