<希望を持って!>の巻

あき(以下A)「いらっしゃ〜い!」

トンちゃん(以下T)「こんばんは。おめでとう。」

A 「おめでとうございます。今年も宜しく御願いします。はい、トンちゃん、オシボリ。」

T 「ありがと。まあ、それにしても寒いわねぇ〜。もう凍えちゃうわよねぇ〜。」

A 「本当ですよ。今年は平年並みの寒さなんですってね。何時もは平年よりず〜っと暖かいじゃないですか。 で、平年並みになっちゃったら、凄く寒く感じちゃうんですよね。」

T 「人間て勝手なものよねぇ。ビール頂戴。」

A 「はい。でも、トンちゃん、寒い寒いと言ってもビールなのね。」

T 「そうですよ。ビール好きですから。ははは・・・。でも、そうよねぇ。寒いのにビール。 寒いからビールっていう事もあるのよ。ねえ、この暖かいところで冷たいビールを飲むって、結構よろしいものよ。 アキちゃんも飲む?」

A 「はい、頂きます。」

T 「今年も宜しくね、本当に。」

A 「こちらこそ宜しく御願いします。トンちゃんくらいの歳の方がこれからもこの街を引っ張ってくれないとぉ。 これからは40代以上が主流の街になっていかないとね、新宿も。」

T 「まあ、そればっかりでも困るけどねぇ。やっぱり若い子が沢山いなきゃねぇ。」

A 「それはそうですよ。若い子から年配まで。昔はそうだったじゃないですか。だから街も賑わっていたのよね、 きっと。今は分かれ過ぎちゃってね、ジャンルが。」

T 「そうよねぇ。アタシも昔の友達連れてこなきゃねぇ、この街に。みんな新橋とか上野、 浅草にながれちゃってるからねぇ。」

A 「本当ですよ。どんどん連れて来て下さいね。」

T 「ところで、アキちゃん。この芝居観て来たわよぉ。ま〜〜、凄いわね、この二人。」

A 「でしょ。アッシ、初めから凄いバトルになるなとは予想してましたけど、ま〜、 本当に凄いバトルでしたよね。」

T 「しかしま〜、良く出来た芝居ねぇ。作家は結構若いらしいじゃない。」

A 「そうなんですよ。まだ40手前。この作品が作家としてのデビューだったんですけどね、 この芝居の初演時に25歳だったんですよ。」

T 「あらま〜。そんなに若い時に書いた作品なの。」

栄一(以下E)「こんばんは〜。」

A 「あら栄一、いらっしゃ〜い。」

E 「ふ〜、寒いよね〜。トンさん今晩は。そうそう、新年明けましておめでとうございます。」

T 「おめでとう。」

A 「はい栄一、オシボリ。」

E 「ありがとう。え〜と、もう今月のお勧めは決まってるの?」

A 「今月はね、<プレリュード・フィズ>よ。カンパリをベースに、カルピスとレモンジュースを加えて、 それを炭酸で割った、とっても飲み易いドリンクよ。」

E 「じゃあ、それ御願いします。」

A 「アイよっ!・・・・はい、お待たせ。」

T 「あら、これなのね。カルピスね、初恋の味って言ったわねぇ、昔は。」

E 「トンさんにもあったんですね、初恋。」

T 「失礼ね、おだまり!ははは・・・。もう忘れちゃったわよぉ〜、そんな時代は。」

A 「まあ、誰にでもあるわけだしね、初恋って。でも、言ってましたよね、カルピス。 確かTVのコマーシャルじゃなかったっけ?ねえ、そうでしたよね。」

T 「そうよぉ。コマーシャル。で、その後に、<カルピス、飲みたい>って続くのよ。」

E 「今だったらオンエア出来ないよね、危なくってさぁ。」

T 「何考えてるのよ、栄一は、ははは・・・。」

E 「でも軽いね、これ。アルコール低いの?」

A 「6度くらいかな。甘酸っぱい感じがなんとも言えないでしょ。」

E 「う〜む、オイラにとってはちょっと弱すぎるかな。でも、美味しいよ。」

A 「でしょ。飲み易過ぎてお酒が大好きな人には物足りないかもね。」

E 「ところでさ、オイラが来る前、どんな話してたの?何か盛り上がってたみたいだけど、 オイラが水注しちゃった?もしかして。」

T 「そんな事ないわよ。中断しただけですのよ。」

E 「で、何の話してたの?」

A 「この芝居の話よ。」

E 「あ〜、これね。<ビューティー・クイーン・オブ・リナーン>か。観たかったんだよね。 何しろこの二人じゃない。どんななのかなって。で、どうだった?」

A 「やっぱり凄かったって話してたところなのよね、トンちゃん。」

T 「そうよぉ。まあ、良く出来た芝居だったわね。」

E 「二人とも大満足なんだ。」

T 「アタシは大満足だったわねぇ。大竹しのぶも、白石加代子も流石ってねぇ。」

A 「アッシも大とはいかないまでも良かったわよ。ただ、今回、黒田勇樹が降板しちゃって、 代わりに演出の長塚圭史が演じたんだけど、ちょっと無理を感じたわね。」

E 「っていうのは?」

A 「この芝居、70歳の母親マグ(白石加代子)と、娘で40歳のモーリーン(大竹しのぶ)、 その幼なじみで40歳のパト(田中哲司)、その弟で 20歳のレイ(長塚圭史)の4人芝居なのよね。まあ、 芝居で実際の歳の差と役の歳とのギャップはある程度は解消出来るんだけど、 レイとパトの差にはちょっと無理が有ったかな?って。頭がちょっと弱いっていうのは分かるんだけど、 何しろ20歳でしょ。視覚的に辛かったのは否めないわね。勿論、70歳近くで<欲望という名の電車> のブランチを演じた杉村春子のシミーズ姿よりは違和感は無かったけどね、ははは・・・。」

T 「何馬鹿なこと言ってるのよぉ。杉村春子は演技でみせてるから気にならないのよぉ。」

A 「そうですかぁ〜?勿論演技は凄いのは言うまでもない事実ですけどね。もっと若い時は気にならなかったんですけど、 あの時はね。照明は結構落としてたけど、やっぱりねぇ。まあ、それは良いとして、良かった舞台には間違いないわよ。 白石加代子と大竹しのぶの力量の凄さを見せ付けられたって感じだったわね。でも、トンちゃんも思いませんでした? アッシはね、やっぱり白石加代子って大竹しのぶ以上の怪優だなって。」

T 「あ〜、それは言えてるわねぇ。やっぱり凄かったわねぇ、大竹より。」

A 「それと、何故か凄く暗い話なのにちょっと明るく感じちゃう所もあったのよね。暗いのよ、本当は。でも、 何故かマグとモーリーンとの会話にユーモアまでは行かないけど、明るさを感じたのよね。」

E 「それって何でなんだろうね。」

T 「多分それは二人が活き活きと演じてたからじゃないかしらん。」

A 「流石ね、トンちゃん。アッシもそうだと思うのね。だから、あの暗い芝居に灯りが点ったような気がしたのよ。」

T 「そうねぇ。舞台がアイルランドじゃない。重いし暗いし。ねえ、 そのアイルランド人の今を見ることも出来る芝居だったわね。」

A 「作者のマーティン・マクドナーの両親がアイルランド出身らしいいんだけど、 イギリスとの長い紛争の中でもイギリスへと出稼ぎに行かなきゃならない苦しいアイルランドの社会が少しは分かった様な気がしたわね。 凄い作家だなって思ったわ。」

T 「それに最後の台詞。」

E 「何、なに?」

T 「レイがモーリーンに向けて言うのよ。<あんた、お母さんにそっくりになってるよ。>って。」

A 「あの後の大竹しのぶの何ともいえない表情。もう凄い!としか言い様がなかったわよね。」

E 「あ〜あ。観に行きたかったなぁ〜。」

A 「それと、物語だけみていると古い昔の話だと思うんだけど、舞台上にはTVや電気ポットなんかもあって、 その舞台が”今”だっていう事を示しているのね。 そんな所もこの舞台を知る上で重要なポイントになっていたと思うのよね。」

T 「あら〜、アタシはあんまり気が付かなかったわねぇ。まあ〜、細かい所まで見てるのねぇ。」

E 「ところで、こっちの方はどうだったの?前に今度って言ってたよね、アキさん。」

T 「<キル>ね。アタシは着いて行けないのよ、野田の芝居には。」

E 「え〜?なんでぇ〜?」

T 「早いのよ。早すぎるのよね、テンポが。何言っているんだか分からないのよぉ。で、 何やってんだかこれまた分からないのよぉ。もう疲れっちゃうのよねぇ。」

A 「まあ、その歳じゃ仕方ないですよ、な〜んちゃって、ははは・・・。」

T 「んまっ。アキちゃんも失礼ね、新年早々。どうせ分かりませんわよ、歳ですからねぇ。」

E 「あ〜あ、拗ねちゃったぁ〜。」

A 「そんな訳ないじゃない、トンちゃんが。まあ、慣れよ、慣れ。 トンちゃんも若い時から芝居とか観てらっしゃるんだけど、トンちゃんは、どちらかと言うと伝統芸能っていうの。 歌舞伎とか能とかさ。そういう物を中心に観てきてるでしょ。アッシはそういうのも観てきてるけど、 寺山とか唐とかの芝居も沢山観てきている訳で、 その辺で野田の書いた芝居に着いて行かれるかどうかが分かれると思うのよ。」

T 「そうねぇ。アタシはね、勿論一度も観た事がない訳じゃないんだけどね、寺山も唐もね。でも、 やっぱり違うのよねぇ。小さな所にギュウギュウになって観るわけでしょ。まずそれが・・・。それに、 話が飛ぶじゃないの。この話してたと思ったら、次の場面では全く違う話をしちゃってるんですからねぇ。 もう頭がこんがらがっちゃって。」

E 「そんなもんなのかなぁ〜。」

A 「だから、慣れよね。一度コツを掴んじゃうと話が飛ぶ事にも、狭い空間に居ることにも慣れてきちゃうんだって。 でも、やっぱり若いうちに経験しておかなきゃね。歳とってからだと、例えば唐さんのテント芝居はキツクなるもの。 アッシだって、最近は腰が痛くなって、ちょっと辛いからね。」

T 「あなたも歳なのよ!ははは・・・。」

A 「まあ、それは仕方ないわよね、事実ですから。ははは・・・。」

E 「で、どうだったのぉ?妻夫木や広末。って言うより、これ自体どんな話なんだっけ?」

A 「モンゴルの英雄、ジンギスカンの生涯をファッション業界の話にダブらせて作品なのよ。」

E 「へ〜。ジンギスカンとファッション業界かぁ。」

A 「今回も言葉遊びが沢山有って楽しかったわよ。」

T 「言葉遊びって?」

A 「まあ、掛詞みたいなものよね。例えば、タイトルの<キル>。これって、服を着るの<キル>でもあるし、 殺すの<キル>でもあるわけでしょ。あと世界征服の征服と制服を着るの制服を掛けてたりね。」

T 「あら、良く分かれば面白いのかもねぇ。」

A 「そうなのよ。分かると本当に面白いんですよ。トンちゃんも観に行って下さいよね。」

E 「で、アキさ〜ん。妻夫木や広末はぁ〜?」

A 「あっ、そうだったわね。この芝居、妻夫木が演ったテムジンという役を前回までは堤真一が演ってたのよ。 比べたら当然堤真一の方が上手いのは当たり前よね、妻夫木君はおそらく初舞台じゃない。でも、新鮮さっていうの? 一所懸命さがエネルギーとなって伝わってくるのよね、こっちに。ベストとは言えないかも知れないけど、 満足はいったわよ。広末の演じるシルクって役はね、過去、羽野晶紀、深津絵里が演じてるんだけど、野田って、 こういう声の子が好きなんだなぁ〜って思ったわね。」

E 「ちょっとかん高い頭の弱そうな?」

A 「そうそう。でも、今回の広末は、声を幾つか持っているみたいで、そんな彼女に将来を見たような気がしたのよ。 結構アッシは好きだったんだけどね。」

T 「他の役者たちは?」

A 「やっぱり高橋恵子よね。アッシには初演時の新橋耐子の印象が凄く強かったんだけど、 高橋恵子の美しさが女という者の優しさ、強さ、怖さを表現していて新橋さんの強い印象を超えたと思ったのよ。」

E 「彼女って歳が分からないよね。結構昔から出ているみたいだしなぁ。」

A 「彼女の役は<トワ>って言うんだけど、永遠っていう意味でのトワって役、ピッタリでしょ。」

T 「本当よねぇ。60代は吉永小百合、50代が関根、じゃなかったわね、高橋恵子っていう事ができますわよねぇ。」

A 「そうですね。それから、テムジンの側近的な役割の結髪役と人形役のか勝村政信と高田聖子の存在が大きかったわね。 舞台には無くてはならない存在って感じよ。勿論、 初演からず〜っと同じ役を演っているバンリの野田自身ももう50過ぎているのにっていうのに走りまくってたしね。 意外に良かったのがフリフリ役の山田まりあだったの。アッシさ、バラエティーでの印象しかなかったからね。彼女、 これから要注目の女優になるような気がしたわね。」

E 「それじゃ、もう完璧じゃないですか。」

A 「でも、テムジンの父親役のイマダと蒼い狼を演った小林勝也が最初の方で観た時にはそうでもなかったんだけど、 二度目に観た時には後半疲れちゃってるのが見え見えでね。ちょっと辛かったかな。まあ、 でも全体的には良かったんじゃないかしらね。」

T 「あら、それじゃ、アタシも観に行きたくなっちゃたわねぇ。」

A 「それからね、この芝居、野田の芝居に一貫している争い事に対する馬鹿馬鹿しさを鋭く突いているんだけど、 その先には希望もちゃんと表現しているのよ。」

E 「って言うと?」

A 「最後にね、今までのは全て夢で本当は今テムジンが生まれたばかりで、 家族や周りの人々に喜ばれている所で終わるのよ。勿論、本当に夢だったっていう設定かはアッシには分からないけど、 きっとそうだったらいいな、っていう希望があるのね。」

E 「夢じゃなくても、争いがある地域の人達は、今度は平和をって望んでいるよね。」

T 「あら、栄一も良いこと言うじゃないのよねぇ。ちょっと、アキちゃん、栄一に一杯あげて、アタシから。」

A 「あらぁ〜、栄一、たまには良い事言ってみるものよね。ははは・・・。で、何にしようか?」

E 「いいんですかぁ〜?じゃあ、トンさんと一緒にビール頂きます。」

A 「あら、急に丁寧な言葉使いになっちゃって。ははは・・・。はい、お待たせ。」

E 「じゃあ、お言葉に甘えて頂きます。」

T 「はい、どうぞ〜。もういい事言う若い子って大好きよ〜。ねえ、いないじゃない、最近。 ちょっと栄一だけじゃ可哀相だから、アキちゃんも一杯どうぞ。」

A 「あら、そうかしらん。それじゃアッシもビール頂こうかな。」

E 「みんなで乾杯しようよ。」

T 「そうねぇ。」

A 「それじゃ、かんぱ〜い!」

一同 「かんぱ〜〜〜い!」

おわり


*今回紹介したお芝居は、
1) <ビューティー・クイーン・オブ・リナーン>
   公演終了
2) 野田地図<キル>
   1/31まで  シアター・コクーン

以上です。寒い中、みなさんどうぞ足をお運び下さいね。
2008.1.12


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