<やっぱり勝てない>の巻

拓ボン(以下T)「いや〜、本当に凄かったですよね。」

あき(以下A)「拓ボン、何よ、来た早々。はい、オシボリ。」

T 「いや〜、この前の芝居の話ですよ。本当に感激しちゃって。」

ニッキー(以下N)「なんだ、拓ボンも観たの?<覇王別妃>。」

A 「違うのよ。拓ボンが観たのは<身毒丸>よ。」

N 「えっ?あ〜、白石加代子と藤原竜也の〜。」

T 「そうですよ。」

A 「拓ボンは、今日は何にいたしましょうか?」

T 「あっ、そうそう。注文しなきゃね。え〜と、今月のお勧めドリンクは・・・、<桜貝の恋>? どんな飲み物ですか?」

A 「ほら、毎年3月4月は、桜のリキュールを使ってお勧めを作っているんだけど、毎年殆ど同じドリンクなのよ。 で、今年はオリジナルを作ろうかなって思ってね。桜リキュールにコアントローを混ぜてソーダで割ったの。 とってものみ易く出来たのよ。勿論、桜の塩漬けを戻した物も入ってるわよ。」

T 「ちょっと甘そうですよね。」

A 「まあね。でも、ソーダで割ってるから、そんなにでもないと思うんだけど。」

T 「それじゃ、それじゃなくて、ボウモアのロックで御願いします。」

N 「な〜んだ。拓ボン、飲んでみればいいじゃん。俺はそれもらおうかな。」

A 「アイよっ!まあ、好き嫌いはあるからね、誰にでも。」

T 「すいませ〜ん。」

N 「謝る事じゃないけどね。所でさ、<身毒丸>、そんなに感激したんだ。」

T 「そうなんですよ。もうレベルが違うってかんじですよね、あれは。」

A 「はい、お二人さん、お待たせしました。」

T 「うわぁ〜、凄く綺麗ですね、その色。」

N 「でしょ、でしょ、でしょ〜う。ね、これだよ、これ。だから一度飲んでみなきゃって言ってるの。」

T 「ちょっと味見させてもらっていいですか?ニッキーさん。」

N 「いいよ、はい。」

T 「う〜む、やっぱりちょっと甘いかな、僕には。」

A 「甘いのがまるでダメな人って結構いるからね。」

T 「でも、美味しいですよ。二杯目は御願いしますから。」

N 「まあ、試してみなきゃねぇ〜。で、続き、続き。」

T 「あっそうでした。僕は初めてだったんですよ、藤原竜也を観るのが。あんなに出来るんだなって。 それに白石さん。もう想像以上に素晴らしかったですねぇ。ねえ、アキさん、そう思いませんでした?」

A 「まあ、良かった事は良かったんだけど、初演の時の感動はちょっぴり薄れるかしらね。」

T 「初演の時ですか。」

A 「あっ、初演って言っても天井桟敷の時じゃなくて、蜷川さんの演出した初演ね。だから、 藤原竜也じゃなくて、身毒が武田真治だった時。その後で藤原竜也がデビュー公演でこの身毒を演ったんだけどね、 アッシには武田真治の方の印象が強く残っているのよね。確かに藤原竜也は良いんだけどね。まあ、 拓ボンは初めて観たから感激一入だったんだろうけどね。やっぱり初演の強烈な印象には勝てないと思ったわ、 アッシはね。」

N 「演出は殆ど同じだった?」

A 「そうね。殆ど変わらなかったかな。ちょっとシーンを短くしたり、 位置を変えたりの手直し的なものはあったと思うけどね。」

N 「アキちゃんにとってはイマイチって事か。」

A 「イマイチじゃないわよ。勿論、良かったのよ。特に、石井愃一の仮面売りが相変わらず素晴らしかったわね。 勿論、演劇としては超一級品だし、何度観ても良いんだろうな、って思うけど、衝撃いう点では、 やっぱり最初に観た時が一番なのよね。」

T 「それは比べたらって事ですよね。」

A 「まあ、そうね。演出も役者も全く違うものを観たら、また思いも違うんだろうけどね。」

N 「でも、良く分かるな、それ。最初に観たものって、やっぱり印象強いもんね。」

T 「そう言えば、さっきニッキーさんが言ってた<覇王別妃>も映画でしたよね、確か。」

N 「そうだよ。まあ、<覇王別妃>は京劇の演目でさ、本当は<さらば、わが愛 覇王別妃> っていうんだけどね。あの映画を芝居にするってどうなるんだろうって、まず興味がわくよね。」

A 「そうよね。アッシなんか、何時間になるんだろうって、ちょっと心配しちゃったりして。 ははは・・・。」

T 「映画ってそんなに長かったですぅ〜?」

N 「3時間くらいじゃなかったっけ?」

A 「確かそうね。3時間弱だったかな。だから芝居になったら、大幅にどこかをカットするか、 長〜くなるかのどちらかでしょ。」

T 「で、どうだったんです?」

A 「丁度2時間。良くまとめたわよね。」

N 「そうだよなぁ〜。ほんと、それは感心したよ。」

A 「アッシはきっと短くして、蝶衣(テイエイ)と小樓(シャオロウ)と菊仙(チューセン) の係わり合いを中心に描いていくと思ってたけど、やっぱりそうなったわよね。」

N 「まあ、考えられるとしたら、それしかないでしょ。さっきも言ってたけど、 映画の通りに作ったら何時間になるか分からないしね。」

T 「実は僕、映画だったっていう事は知っているんですけど、その映画自体を観た事がないんですよ。」

N 「観た事ないのぉ〜?カンヌ映画祭のパルムドールだよ。今からでも遅くないからDVDで観なさいよ、 ねぇアキちゃん。いい映画だよね。レスリー・チャンは綺麗だし。」

A 「本当にね。まあ、東山君も綺麗だけど、彼は素がいいじゃない。だから、 女装したからって凄く綺麗になる訳じゃないけどね。ははは・・・。」

T 「で、お芝居の方はどうだったんですか?」

N 「俺は泣いたね。映画が大好きだったからさ、もう先が分かるじゃん。 最後のほうは涙が止まらなかったよ。」

A 「アッシはね、悪くはなかったと思うんだけど・・・。」

T 「何か不満が?」

A 「ねえ、ニッキー。ちゃんと覚えてないんだけどさ、映画の最後って、 小樓が本物の刃を自らの首に当てる蝶衣に向って<蝶衣!!!> と叫ぶ所で終わったんじゃなかったっけ?」

N 「そうだよ、確か。そうか、アキちゃんは、あの最後にちょっと不満が残るんだ。」

A 「そうなのよね。あれは、やっぱり叫ぶ所で暗転になるのが感動も更に増すと思うんだけどね。 それから、なんだか音楽劇っぽくなってたじゃない。悪くはないんだけどさぁ〜。何か・・・ねぇ。」

T 「って言う事は、アキさんにとってはNGだったわけですよね。」

A 「NGじゃないわよ。いい所も沢山あったわよ。」

N 「例えば何処?」

A 「まず冒頭のシーンね。一筋の光の中に女が子供を追いかけていくスローモーション。」

N 「あれは良かったよ。映画だと結構時間とるシーンだもん。 あの後の京劇学校のシーンもスピーディーで良かったよね。 あれで映画の半分くらいが20分くらいで終わっちゃったもんね。」

A 「それに袁世卿(ユアン・スーチン)役の西岡徳馬。もうひと言、<上手い!> って声に出したくなっちゃったわよ。」

N 「あの人、上手いよね。知識人と同性に対する好色さとの演じ分け。京劇に対する並々ならぬ情熱。 観ていてホントに感動しちゃったよ。」

A 「何しろ1920年代から文化大革命後までという近代中国史とも言える背景に京劇 それ自体とその俳優の運命を本当に巧く描いた話よね。でも、最後が・・・。」

T 「よっぽどなんですね、アキさん。」

A 「そうよ。それに、あの時の小樓の台詞。」

N 「何だったっけ?」

A 「<お前、何バカなことしてるんだよぉ〜!>よ。ちょっとぉ〜って。ははは・・・。」

N 「そうだっけ?俺、その時はもう涙が・・・。」

T 「合いませんよね、ニッキーさんには。」

N 「なんだとぉ〜!それより空いてるよ、グラス。次は<桜貝の恋>飲むんだよね。」

T 「は・・・い・・・。」

N 「いいよ、いいよ。俺からあげてよ拓ボンに。」

T 「えっ!!!良いんですか?それじゃ、お言葉に甘えていただきます。」

A 「拓ボンさ、一度は遠慮しない?」

T 「えっ???そうなんですか?」

A 「も〜う。」

N 「まあ良いじゃん。あげてよ、アキちゃん。」

A 「あいよっ!・・・・はい、お待たせ、拓ボン、ニッキーからよ。」

T 「ニッキーさん、頂きま〜す。いい人ですね、ニッキーさんって。」

A 「もうさ、そういうお世辞は止めなさい、白々しいからさ。ははは・・・・。」

N 「まあ、これからだからね、拓ボンは。ははは・・・。」

T 「あの〜、意味がぁ〜・・・?」

A 「もう何も言えないわ、あんたには。」

N 「アキちゃんも何か飲んでください。俺は、お代わりを。」

A 「頂きますね。・・・・はい、お待たせ。それじゃ、ニッキー、頂ま〜す。」

T 「かんぱ〜い!」

一同 「カンパ〜イ!」

おわり


*登場人物は仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1)身毒丸・復活    彩の国さいたま芸術劇場
    上演中〜4月10日まで
2)さらば、わが愛 覇王別妃  シアターコクーン
    上演中〜3月31日まで

以上です。どうぞ足をお運びくださいね。
2008.3.22


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