<涙が出そう>の巻

ダンプ(以下D)「もう暑くな〜い?アキさん、エアコン強めにお願いしますよ。」

あき(以下A)「まだダメよ。アンタ、今からエアコン強めにしてたら、 本当の夏になった時にどうするの?」

シオッチ(以下S)「そうですよぉ〜。ダンプさん、暑いのは分かりますけどぉ〜。」

D 「まあ、そう言えばそうよね。僕って暑がりな上に太ってるじゃ〜ん。だからさ、 暑いの本当に弱いの。」

A 「まあ、ドライの最低温度にしたから。ほら、この団扇(ウチワ) で扇いでなさいなさいよ。はい。」

D 「そうだよね。まだエアコン使わなくたって団扇があったんだよ。でもさ、 こんな時って何か不思議体験したくな〜い?ねえ、シオッチ、最近何か不思議体験したぁ〜?」

A 「アンタね、そんなに不思議体験なんてあるわけないじゃないのよ!」

S 「ありますよ、不思議体験。」

A 「えっ!!!?あるの、不思議体験。」

S 「有りますって。」

D 「なに、何?教えて、教えて。」

S 「ダメダメ。それは秘密なんだよねぇ〜、残念ながら。」

D 「な〜んだ、シオッチって結構意地悪なんだ。そんな事話したって損でもなんでもないじゃん、 ねえ、アキさん。」

A 「まあ、人に言いたくないって事だってあるでしょ、ダンプだって。いいじゃないのよ、 言いたくないんだから。」

D 「まあね。アキさんは?」

A 「えっ?不思議体験?」

D 「何かありました?最近。」

A 「まあ、不思議と言えるかどうか分からないけどさ。この前ね、<物語が始まる> っていう芝居を観にいったのよ。その芝居が、って言うより、その内容が不思議だったかも。」

S 「行ったんですか?高田聖子の番外編。」

D 「番外編?」

A 「まあ、性格には<月影番外地>っていうんだけどさ。前に劇団新幹線の高田聖子が演劇ユニット <月影十番勝負>っていうのを立ち上げたのね。その十番勝負が2年位前に終わったわけよ。」

S 「それが復活したんですよね。」

A 「そうなの。で、アッシはその十番勝負をず〜っと観てたからさ、この番外編、 まあ性格には番外地も観なきゃって。」

D 「それが不思議体験なんだぁ〜。」

A 「そう。さっきも言ったけど、内容が不思議だったのね。」

S 「原作がある芝居なんですか?」

A 「うん、あるわよ。川上弘美の短編よ。」

S 「へ〜。で、どんな内容なんです?」

D 「だから不思議な内容なんだよね。」

A 「そう。出演者は3人。っていうか、2人と1体。」

D 「なに〜?1体って。」

A 「男女各一人ずつに人形が1体。」

D 「な〜んか、もう不思議ぃ〜、ははは・・・。」

A 「でね、加藤啓演ずる本城と高田聖子演じるゆき子はドライな付き合いをしているのね。で、 ある日、ゆき子が雛形(辻修が演じる)を偶然に拾うのよ。」

D 「なんだぁ〜?雛形って。」

S 「ほら、あれだよ、ダンプ。模型って言うのかな、実物を小さくしたようなものの事ですよね、 アキさん。」

A 「そう。まあ、この場合は人形なんだけどね。その雛形は三郎って名付けられるんだけどね、 後で。」

S 「で、その3人の関係を描いていくんですね。」

D 「2人と1体でしょ。」

S 「いいじゃん、細かいなぁ〜。」

D 「意外に細かいんですぅ〜、ははは・・・。」

A 「でね、その1体が生きているのよ。」

D 「でも、その何だっけ?」

S 「雛形ですよ。」

D 「そう。その雛形なんだよね。何で生きてるの?」

A 「だからさ、そこが不思議でしょ。」

S 「何てったって川上弘美ですものね。」

D 「何々、シオッチ。その川上何とかって知ってるんだぁ。」

A 「逆にダンプは知らないの?あんな有名な人。」

D 「えっ!有名なの?」

S 「まあ、そうですね。芥川賞とってますから。」

D 「え〜!!!そうなんだぁ。僕さ、ぜ〜んぜん本読まないからね。芥川賞。へ〜、 凄いんだ。」

S 「確か、この<物語が、始まる>って芥川賞の<蛇を踏む>の前でしたよね。」

A 「そうそう。確か同じ年に発表になってると思うわよ。」

銀太(以下G)「こんばんは。」

A 「あら、銀太さん、いらっしゃい。・・・はい、オシボリ。」

G 「はい、ありがと。随分盛り上がってたみたいじゃないの。」

S 「そうなんですよ。今ですね、川上弘美の話をしてた所なんです。」

G 「あ〜、川上弘美ね、SFの。」

D 「あれ〜、銀太さんも知ってるんだぁ〜。」

G 「当たり前じゃないの。あら、ダンプは知らなかったの?こんな有名な作家。・・・まあ、 アンタじゃねぇ〜。仕方ないかぁ〜、ははは・・・。」

A 「もう銀太さんてばぁ。からかうの止めてよ。それより、今日は何にしましょうか?」

G 「あ〜、そうだった。焼酎のウーロン割りでね。」

A 「はい!・・・お待たせしました。今日もお通しは食べません?」

G 「結構よ。」

A 「はい。」

G 「アキも飲んで、何か。」

A 「はい、頂きます。・・・それじゃブランデイ頂きます。」

G 「はい、どうぞ。・・・で、何?川上弘美の<蛇を踏む>?それとも<センセイの鞄>?」

A 「違うのよ。この芝居。」

G 「あ〜、<物語が、始まる>ね。芥川賞の前でしょ、この作品。」

S 「流石ですね。そうなんですよ。で、この芝居をアキさんが観てきて、何か不思議体験をしたって。」

G 「まあ、そうね。この人不思議な話が多いもんねぇ。で、どうだったのよ。」

A 「まあ、それでね、その雛形との生活が始まるんだけど、 たった一年でどんどんその雛形は老いていってしまうのよ。」

D 「それじゃ、それは幻だったのかなぁ〜。」

A 「分からないの。でも、不思議な感覚が残ったわね、この芝居。何故かホロってきちゃうのよね。」

G 「そこが巧いんでしょ、この作家の凄さっていうのかしらねぇ。」

S 「そうなんでしょうね。私も川上弘美の作品を幾つか読みましたけど、不思議だし、 感動もするんですよね。やっぱり巧いんでしょうね、文章が。」

D 「へ〜。そうなんだぁ〜。」

G 「ダンプ、あなたも少し読んだ方が良いんじゃないの?」

D 「いや〜、僕はやっぱり映像の方が良いんですよね。分かり易いっていうか。」

G 「まあ、それも分かるけどね。でも、やっぱり文字を読まなきゃ。・・・それはそうと、 この前の朗読会、結構良かったじゃない。」

D 「銀太さんも行ったんですか?」

G 「ダンプも行ったの。ねえ、結構良かったわよね。映画も観たんだけど、あんな風になるって。」

A 「そうですよね。本当に良く脚色してたと思いました。」

S 「悔しいなぁ〜。みんなが良いって言うじゃないですかぁ〜。もう悔しいですよぉ〜。 再演お願いしちゃおうかな。」

D 「シオッチは映画も観てないの?」

S 「これって映画もあるんだ。やっぱり<ゆれる>ってタイトルなんですかね。」

A 「そうよ。アッシも映画を観たことなかったんで、芝居終わってから直ぐにレンタルしたわよ。」

S 「で、どうでした?アキさんは。」

A 「もう感激したわね。さっきも言ったけど、良くここまで本を書いたなって。まあ、 基があるから、基が良かったのは重々承知の上なんだけどね。 それにしてもあの構成は本当に良くやったわよ。」

G 「ねえ。映画も良かったけど、ちょっとビックリしたわね。 あのコ達があんな風にやってるなんて。」

D 「笑っちゃいましたけど川端智恵子の最初のシーンには。」

S 「何なに?」

A 「カツラでしょ。ま〜、汚かったわね、ははは・・・。」

G 「あれはね。でも、あ〜いった息抜きっぽい事も必要じゃないの?話が暗いしね。」

A 「まあ、そうですよね。」

D 「それにしても、一人何役やったんだろうね。すごいよねぇ〜、GAKUちゃんもGUCCIさんも。」

S 「そんなに一人で何役もやったんだ。」

A 「そうよ。登場人物が多いじゃない。一人10役くらいはやったんじゃないの?」

S 「そんなにぃ〜。やっぱり再演してもらいましょうよ、アキさん。」

G 「なんか、最後の方で涙が出そうになったもんね。あ〜、やだやだ、歳取ったなぁ〜って、 ははは・・・。」

D 「僕なんか泣いちゃいましたよ。<兄ちゃ〜ん、兄ちゃ〜ん、家に帰ろうよ〜>って、あのシーン。 もう音楽とピッタリあって。」

A 「あの音楽は意地悪よね。ははは・・・。っていうか、観客の心をグッと引き寄せちゃったわね。 あれで感動具合がグ〜んと増したんじゃないかしら、みんな、ねぇ〜。」

G 「それは言えるわよね。でも、良かった、本当に。」

S 「う〜、本当悔し〜〜〜い!再演、再演。頼んでおいて下さいよ、アキさん。」

A 「分かったわよ。」

G 「でも、やっぱり良いわね、最後で何か感じるってのは。」

D 「そうだよねぇ。」

A 「そうね。個人個人違うとは思うけどね。この前観た唐組の<夕坂童子>もそんな感じだったわよ。」

S 「それはどんな?」

A 「日暮里か鶯谷あたりの坂のある風景を思い浮かべてみて。」

D 「え〜?行った事ないんだよねぇ〜。思い浮かべられないなぁ〜。」

A 「まあ、いいわよ。何でもいいから坂のある風景を思い浮かべてよ。で、その坂の向こうに何がある、 って。」

G 「ま〜、いかにも唐十郎っぽいじゃないの。」

A 「でしょ。で、その坂の上から夕陽が差してくるのよ。」

S 「あ〜、何か見えてきそうですね。」

A 「そう。そこにゴム製の手袋が・・・。」

D 「何か変。」

A 「そこが唐の芝居なんじゃない。でも、その変の中に何かを見つけるのよ。まあ、話としたら、 <夕陽にかざす手袋展>を巡って朝顔の化身朝子、そして、その逆をいく夕子。夕子を操る丘、 必死に朝顔を咲かせようとする奥山、それに暮子(グレコ)、朝子の兄、三郎、夕子に恋している蜂谷、 桶屋のたがが入れ混ざって進んでいくんだけど、 何がなんだか分からない内に切ない幕切れへと進んでしまうのね。」

G 「まあ、最後はテントの後ろがサッと開いて、花園の広場で芝居が進むのね。」

A 「そうなんですよ。」

D 「へ〜。何か変、やっぱり。」

A 「まあ、御決まりなんですけどね、唐の芝居では。でも、 何度出会ってもそこに哀愁を感じちゃうのよね。」

S 「今回は?」

A 「今回は蓄音機のラッパ。」

D 「何?蓄音機って。」

G 「ヤダヤダ。蓄音機って、ははは・・・。レコード・プレイヤーよ。」

D 「レコード、知らないもんね。僕は物心付いた時からCDだったしぃ〜。」

G 「あら、憎らしい。ははは・・・。」

A 「奥山が水槽にもぐってそのラッパを夕顔に見立てて必死に咲かせようとしているのよ。 もう哀愁じゃなくて何なのかしらん。」

D 「なんだか、丸っきり分からないよぉ〜。」

S 「まあ、ダンプには想像力って言うのが無いんでしょうね、きっと。」

D 「そうかな〜。そんな事ないと思うんだけどね。あ〜んな事や、 こ〜んな事なんか何時も想像しちゃってるけどぉ〜・・・。」

G 「ははは・・・・。もうヤダヤダ。可笑しくて可笑しくて、笑いすぎで涙が出ちゃうわね、 ははは・・・・。」

D 「何が可笑しいの?」

A 「だから、アンタがよ。ははは・・・。」

S 「涙って色んな状況で出るものなんですよ。」

D 「へ〜・・・。」

G 「ヤダ、本当に。ねえ、アキ、焼酎ウーロン割り、お代わり頂戴。もう飲んでないとやってられないわ、 ははは・・・。」

D 「な〜んだか分からないけど、何か可笑しいよね、ははは・・・。」

一同 「ははは・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1) <物語が、始まる>  公演終了
2) Gコン公演・朗読版<ゆれる> 公演終了
3) 唐組<夕坂童子>
   5/24、25、31、6月1日は雑司が谷鬼子母神
   6/7、8、14、15日は新宿花園神社

以上です。是非足をお運び下さいね。 
2008.4.26


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