<はめられた!>の巻

カンちゃん(以下K)「こんばんは。」

あき(以下A)「いらっしゃ〜い。カンちゃんこんばんは。はい、オシボリ。」

K 「有難うございます。」

A 「今日は何にしようか?」

K 「え〜と、慎吾さんの飲んでいるのって何です?」

慎吾(以下S)「これね。今月のお勧めドリンク。え〜と何だっけ?アキちゃん。」

A 「<ピエロの涙>よぉ。」

K 「ピエロの涙???ベースは?」

A 「ヴォッカよ。それにパルフェタムールにレモンとソーダね。」

K 「へ〜。不思議な色ですよね。」

S 「結構イケルよ。程よく甘くて、って言っても甘すぎないしね。 何杯でも飲めちゃうかもね、これは。」

K 「へ〜、じゃあ、危ないですね、クック・クックいちゃって。」

A 「ま〜、それも作戦なんだけどね、お店としての。ははは・・・。」

S 「そりゃ、そうでしょ。美味しかったら飲むも〜ん。でも、本当に美味しいよ、これ。」

K 「それじゃ、騙されたと思って、それお願いします。」

A 「あいよっ!・・・はい、お待たせ。」

K 「へ〜。変わってる色ですねぇ〜。紫ですか?これ。」

A 「そう。ほら、バイオレット・フィズ作るときに使うやつよ。」

S 「あ〜、バイオレット・フィズね〜。」

K 「何ですか?バイオレット・フィズって。」

A 「基本的にはね、フィズってジンやヴォッカのスピリッツ等に甘みと酸味を加えてソーダで割ったものなのよ。 で、今月の<ピエロの涙>は、ジン・フィズから甘みを取ってパルフェタムールを加えたのよね。だから、 素材としては、ジン、パルフェタムール、レモン果汁、それにソーダってところ。」

S 「甘ったるい甘さが無くて、美味しいよね。」

K 「う〜む、本当。ひつこく無い甘さですね。」

A 「でしょ。実はこれね、2年前の秋にお勧めドリンクで出しているのよ。」

S 「え〜っ?そうだっけ?」

K 「慎吾さん、物忘れ激しくなってきたんじゃないですか?」

S 「失礼だな。まだまだ大丈夫だよ、アキちゃんに比べれば。ははは・・・。」

A 「あ〜んたも失礼ねぇ。ははは・・・」

S 「カンちゃんさ、今日は遅いけど会社忙しかったの?」

K 「違うんですよ。今日は会社は早く終わって芝居に行って来たんです。もう面白くて面白くて。 アキさんに言いたくなっちゃって。」

A 「あら、何行ったのかしら?」

K 「<罠>です。」

A 「あ〜、ロベール・トマのね。サンシャインでしょ。アッシも行ったわよ先週。」

S 「有名だよね、その芝居。そのロベール・トマって、あれだよね、あれ・・・。」

K 「ほら〜、やっぱり記憶力がぁ〜・・・。」

S 「うるさ〜〜〜い!思い出すから言わないでよ、アキちゃん。」

A 「アッシは分かったけどね、何なのか。」

K 「僕も知ってますよ、プログラムに書いてあったからね。ヒントはぁ〜・・・。」

S 「うるさ〜い!・・・分かった、あれだよね、あれ。カトリーヌ・ドヌーブが出てた、ほら、 ファニー・アルダンも出てたしぃ〜・・・。」

A 「ちょっと時間掛かり過ぎよぉ。<罠>の話しましょ。その内思い出すだろうからね。」

K 「面白かったですよね。な〜んか騙された!って感じでしたよ。最後まで分からなかったもんねぇ〜。」

S 「あの芝居はさ、騙している様で騙されてた、って話だよね、確か。」

忠(以下T)「み〜んな分かってるんだ、その話。俺全く分からないんだけどぉ!」

A 「ゴメン、ゴメン。忠のこと忘れてたわ。」

T 「本当に酷いですよね、アキさんって。」

A 「冗談よぉ〜。忘れる訳ないじゃない。」

T 「まあ、いいんですけどね。」

S 「忠、そんなにイジケ無いでさ。ちゃんとどんな話だか俺が言ってあげるから。」

K 「結構慎吾さんも優しいところがあるんですね。」

S 「当たり前じゃ〜ん。俺はアキちゃんとは違うからねぇ〜。」

A 「はいはい、どうせアッシは冷血人間ですよぉ〜。」

K 「もう二人とも子供みたいなんだから〜。ははは・・・。」

S 「それじゃ、忠の為に俺がこの芝居のストーリーを簡単に説明しちゃおうっと。」

A 「はい、どうぞ。でも、忘れないでよ、さっきの思い出すの。」

S 「分かってるよぉ〜。」

T 「でぇ〜、どんな話なの?」

S 「確か山荘での出来事だったよね。」

A 「そうよ。」

S 「で、新婚ほやほやの二人でその山荘に来ていたんだけど、奥さんが失踪しちゃうんだよ。 で、旦那が警察に捜索願を出す訳。」

T 「っていう事は、ミステリーなんだぁ〜。」

K 「そうそう。」

S 「で、刑事が来て事情聴取するわけよ。 そこに奥さんが発見されてこっちに向ってるっていう情報が入るんだよ。で、 神父が奥さんを連れて来てみると、旦那は奥さんを知らないっていう訳。」

T 「え〜っ?だって奥さんなんだよねぇ。」

S 「そうそう。奥さんは本人だって言ってるんだよ。でも旦那は違うって言う。奥さんは当然の様に、 旦那の事、山荘の細かな事までちゃんと知っているんだよね。」

T 「でも違うって言うんだ、旦那は。」

S 「ところが、神父も以前に寄進してくれたのは、確かに彼女だから奥さんに間違いないって言うんだよ。」

T 「益々旦那は窮地に立たされる訳だ。」

S 「そうそう。で、旦那の方はこれは神父と奥さんに成り済ましている女の罠だと思うんだよね。」

K 「奥さんは資産家だったみたいだから。」

T 「へ〜。それじゃ、その資産を狙って色々な話が出てきてもおかしくないよね。」

S 「そうそう。そこへ新婚旅行に行ったときに出会って、 二人の結婚の承認になってくれた画家があらわれるんだよ。」

K 「その画家は当然本当の二人を知っているってことでしょ。」

T 「そうするとどっちが嘘をついているか分かっちゃうよね。」

S 「そう。で、いよいよその画家に奥さんが本物かどうか奥さんの前で言ってもらおうとしたその時、 奥さんがその画家を撃ち殺してしまうんだよ。」

T 「やっぱり奥さんが偽者だったんだ。」

K 「ところが、そうは上手くいかないんだよね。 驚いた旦那がその奥さんから銃を取り上げてその画家の傍に行った所へ刑事が現われるんだよ。」

T 「またしても旦那はピンチに陥るわけだぁ〜。」

S 「もう旦那はパニックになっちゃう訳。無実だと言えば言うほど刑事の印象は悪くなるばかり。 結局精神的に問題ありとの判断がくだっちゃうんだね。」

A 「そこにまたまた証人が登場するのよ。」

T 「新しいのがまだいたんだ。」

A 「そう。奥さんが失踪する前に体調を崩して看護婦に看病してもらっているんだけど、 その看護婦が連れてこられるのよ。」

T 「旦那は危機脱出だね。」

S 「ところが、その看護婦も彼女は奥さんに間違いないって証言するんだよ。」

T 「それじゃ、旦那はみんなに騙されてたって訳だ。その後殺されちゃうのかな?」

S 「当然パニック状態が強くなるよね、旦那は。で、刑事、神父、奥さんと名乗る女、 看護婦に囲まれて旦那はもういっぱいいっぱい。 ついに奥さんを殺して森の川に捨てた事を口走っちゃうんだよね。」

T 「えっ???それじゃ、旦那が奥さん殺ししてたんだぁ。」

S 「そういう訳。」

T 「でも、一番得っていうか、もうけ者は奥さんと名乗っている女だよね。だって、 画家を撃ち殺してる訳じゃん。」

A 「それもぜ〜んぶ芝居だったのよ。」

T 「そうなの〜!」

K 「画家は殺されて無いんだよ。奥さんに化けてた女と神父は警察の優秀な捜査官だったわけ。 画家は警察に頼まれて撃たれた芝居をしてた訳ね。勿論、看護婦も頼まれて芝居してたんだよ。」

T 「って言う事は、ある程度最初から分かっていたわけだよね。」

A 「まあ、そういう事よ。旦那が騙されていたってわけよ。」

T 「中々面白いねぇ〜。」

A 「でしょ。アッシ何回か違うキャストで観たけど、やっぱり面白いな、って。」

K 「でもですね、あの女刑事、ピーターじゃなくても良かったんじゃないのかなぁ〜。」

A 「あんた、何言ってんのぉ〜。あれはピーターだから良いんじゃないのよぉ。良く考えてみてよ。 ピーターって本当は男でしょ。」

S 「なるほどね。男のピーターが女になってるって事は観客をある意味騙してるって事になるもんなぁ〜。」

K 「そうかぁ〜。なるほどね〜。」

T 「まだやってる?」

A 「東京は終わっちゃったけど、京都ほか全国を回るらしいわよ。」

T 「そうかぁ〜。まあ、時間があったら京都見物ついでに行ってみようかな。」

A 「ま〜、豪華!ははは・・・。」

K 「ところでアキさん、これはどうなんですか?」

A 「三島の近代能楽集ね。この前観に行ったわよ。」

S 「何かキャストが凄いじゃない。」

K 「ですよねぇ。特に<綾の鼓>。綿引さんが出てるでしょ。これ期待大ですよね。」

A 「アッシもそうだったの。でもね〜・・・。」

S 「って言う事は、アキちゃんにとっては不満が残る舞台になったってわけだね。」

A 「そうなのよぉ〜。だってさぁ〜、綿引さんの役って老人の小使いさんなんだけど、 凄く元気な小使いさんなのよ。もっと哀れじゃなきゃダメだと思うのよね、この役は。 綿引さんのアプローチだと自殺しそうも無いのよ、どうみても。」

K 「なるほどねぇ。」

A 「それに幕切れのシーン。99回鼓を鳴らして諦めて去っていくんだけど、亡霊になっても元気なのよね。 アッシさ、もう10年以上前だと思うんだけど、 この近代能楽集8編を違う団体で連続上演した事があったんだけど、その時、 劇団昴でこの<綾の鼓>を上演したのね。その時の久米明さんが演じたこの老小使いがもう最高でね。 哀愁というか、後姿が今でもはっきり想いだせるほど哀しかったのよぉ。」

T 「十朱幸代が2つとも主役みたいだけど、彼女は?」

K 「僕、知らないんですよね、十朱幸代さんって。」

S 「えっ?知らないのぉ〜。NHKの<バス通り裏>とかTVだと<芸者の小春姐さん奮闘記>とかね。」

K 「見た事ないですね、どっちも。」

A 「仕方ないわよ。<バス通り裏>なんて、アッシしかオンタイムでは見てないでしょ。」

T 「<バス通り裏>は俺も知らないなぁ〜。話では知ってるけど。」

K 「で、どうだったんですか?」

A 「そうね。彼女はまずは合格点を上げられるんじゃない。華子を演じた<綾の鼓> での前半の高貴さと後半の凄味。そのコントラストも良かったし、<弱法師> の方では調停委員の桜間級子の持つ強さも上手く表現していて、やっぱり華のある人だなぁ〜ってね。」

K 「あ〜、これ<弱法師〜よろぼし>って読むんだぁ〜。へ〜。で、こっちは良かったんですね、きっと。」

A 「それがねぇ〜。」

T 「そうでもなかったって事だよね。」

A 「う〜む。何て言ったら良いのかなぁ〜。まあ、演出家が何を考えてるのかな?って。」

S 「それって、どう言う事?」

A 「最近よくオペラなんかでもあるんだけど、オリジナルから凄く離れた演出をする人が結構いるのよね。」

K 「あ〜、分かります。オペラなんか、えっ??っていう演出ありますからね。これ何ぃ〜?みたいな。」

A 「でしょ。」

T 「じゃあ、この<弱法師>も、そのえっ?っていうやつだったんだ。」

A 「そうなのよね。まあ、戦火で目を焼かれた主人公の育ての親と本当の親が正面を向いて話ているのは、 演出家の<能>を意識したものだなって分かるのよ。でもさぁ、あの奇抜な服装と白塗りの顔。 あれはどうにかならないの?って。」

K 「演出は誰だったんですか?」

A 「<綾の鼓>が五反田団の前田司郎、<弱法師>の方が関西の桃園会主宰の深津篤史。 深津君は数年前に新国で演出した<動員挿話>は良かったのになぁ〜。」

K 「その奇抜な演出をやったのが深津篤史っていう人なんだぁ〜。」

A 「そうなの。まあ、考えようによっては、主人公の俊徳、 調停委員の桜間級子と二組の両親を別の世界として表現したかったのかもしれないけどね。でも、 アッシには耐えられなかったのよ。だってぇ〜、アッシ近代能楽集の中で一番好きなんだもん<弱法師>が。」

S 「そう言えば、数年前に蜷川幸雄が演出して藤原竜也と高橋恵子が出た<弱法師> にも何か言ってたよなぁ〜。」

A 「良く覚えてるわねぇ。そうそう。あれはさ、最後の最後でアッチャー???って。」

T 「本当に好きなんだね、その戯曲が。」

A 「そうね。戯曲ってさ、新しく演出する場合、必ずしも奇をてらった物にしなくても良いと思うのね。 特に三島の戯曲は、その言葉の美しさを消してしまうほどの演出をしちゃうと台無しになっちゃうと思うのよ。」

S 「なるほどね。そう言えば、野田秀樹も能を基にした芝居をやってるんだったよね。」

A 「三軒茶屋のシアタートラムでね。こっちは現代能楽集のひとつで<The Diver>っていう戯曲ね。」

K 「観に行ったんですか?」

A 「行ったわよぉ〜。まあ、こっちはちょっと難しかったわね。」

S 「能の何を題材にしてるんだっけ?」

A 「<海人〜あま>を基本に、源氏物語の<葵の上>、<夕顔>なんかを取り混ぜてるんだけどね。 未だにう〜む、ってな感じかな。」

K 「アキさんがう〜む、だったら僕なんか何が何だか解からないよね、きっと。」

A 「そんな事はないと思うけどね。アッシにはちょっと難しかったのよね。ただ、 前回も参加していたイギリスの女優、キャサリン・ハンターは素晴らしかったわよ。 ユミっていう役だったんだけど、彼女の段々変わっていくその姿、勿論、衣装が変わる訳じゃないんだけど、 幾年もの時間を泳いでいる様で、彼女に釘付けになっちゃったわね。」

T 「へ〜。でも難し過ぎるのはねぇ〜。」

A 「まあ、観てみないと分からないじゃない。当日券しかないけど、トライしてみたらいいじゃない。 アッシには難しかったけど、忠には解かり易いかもよ。」

S 「そういう事もあるよな。」

K 「所で慎吾さん、思い出したんですか?あの戯曲。」

S 「あっとぉ〜、忘れてたよ〜。」

K 「な〜んだ。思い出したら僕から一杯何かって思ってたんですけどね。」

S 「何だよぉ〜。それだったら思い出さなきゃ。え〜〜〜〜とぉ〜〜〜。」

A 「無理に思い出そうとすると余計に思い出せなくなるわよ。」

S 「あっ!思い出した。あれだよね、あれ。<8人の女たち>。な、それだよね。」

K 「惜しいなぁ〜。時間切れです。ざ〜んねん。」

S 「なに?時間切れ?それじゃ、俺が罠にはめられたのぉ〜。おいおい、 もう凄いエネルギー使ったんだよぉ〜。」

A 「もう諦めなさいよぉ〜。ははは・・・。」

K 「でも、まだ大丈夫じゃないですか。アルツにはほど遠いって事が分かったんですからね。 僕に感謝してもらわないと。」

A 「カンちゃん、それは言いすぎよ。アンタもあと一寸経てば分かる様になるわよ、ねえ、慎吾。」

S 「本当だよ。出てこなくなくんだって、名前とかは特にね。」

T 「俺も気を付けなきゃ。」

A 「気をつけてもね〜。ははは・・・。」

一同 「ははは・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、

1) <罠> 東京公演は終了
        京都南座で10/19まで。以降全国巡演
2) <近代能楽集> 10/13まで 新国立劇場
3) <The Diver>  10/13まで シアタートラム
以上です。どうぞ足をお運び下さい。
2008.10.12


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