<明日を見なきゃ>の巻

ブン太(以下B)「こんばんは!」

あき(以下A)「あら、ブン太いらっしゃ〜い。はい、オシボリ。」

B 「あ〜、いい気持ち。雨降ってきちゃいましたよ。」

A 「えっ?降ってきた。あらら、もう今日はダメだわね、これじゃ。」

B 「そうですよね。時間も終電間際だし。まあ、僕は明日休みなんで、ゆっくり付き合いますよ。」

A 「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。それじゃ、ブン太、今日は何にしようか?」

B 「え〜と、今月のお勧め、<サイドカーに乗って>って、ベースは何ですか?」

A 「ブランディーがベースよ。それにコアントローとレモンジュース。ここまでが所謂<サイドカー>ね。 これだとちょっと強いドリンクだから、それをソーダで割ったのよ。」

B 「ソーダで割れば飲み易いですものね。でも、最初はオリジナルの<サイドカー>でいこうかな。」

A 「あいよっ!・・・はい、お待たせ。」

B 「う〜む、やっぱりちょっと強いですね。でも、美味しいですよ。」

A 「でしょ。だからね、勧める時に、とりあえずオリジナルも出来ますよ、って言う様にしてるのよ。」

B 「それはいいですよね。ところでアキさん、最近何かお勧めのお芝居ありますか?」

A 「最近ね。結構観に行ってるからね。」

B 「これなんかどうでした?」

A 「あ〜、<桜姫>ねぇ。」

B 「その言い方だと、アキさんにはちょっと・・・だったんですね。」

A 「そうねぇ。ちょっと脚本が弱かったかな、って言うより、まるで違う作品になっちゃったって感じね。」

B 「まるで違った作品?」

A 「そうね。何だか歌舞伎を原題に置き換えた、っていうより不条理劇を観ている様だったわよ。」

B 「不条理劇ですか?」

A 「そうそう。ほら、ベケットの<ゴドーを待ちながら>みたいなさ。」

B 「あ〜、ああいうやつですか。ちょっと難し過ぎるかな、僕には。」

A 「そうね。四世鶴屋南北の歌舞伎を現代劇にするのはどうだったのかなって思うんだけど、 <東海道四谷怪談>の現代劇化で面白いのもあったし、今回もキャストがキャストだから期待してたんだけどね。」

B 「確かに凄いキャストですよね。中村勘三郎に大竹しのぶ、古田新太に笹野高史、秋山菜津子に白井晃。 もう凄い!」

A 「でしょ。だからあそこまで出来たのかなって。そうじゃなかったら、どんな芝居になってた事やら。 でも、今回は失敗作かな〜、やっぱり。ただ桜姫の話の中にある情欲や悪業なんかはしっかり描かれていて、まあ、 そんな所で歌舞伎の現代劇化っていう事は言えるとは思うのよ。」

B 「そうなんですかぁ〜。やっぱり僕には難しいかな?他に何かありますか?」

A 「そうねぇ。あっ、そうそう、今年高円寺に出来た新しい劇場、<座・高円寺>で今やってるミュージカルの <ユーリンタウン>は面白かったし、お勧めかな。」

B 「あ〜、<ユーリンタウン>ですね。確か何年か前に宮本亜門の演出でやりましたよね。」

A 「そうそう。あれはぁ〜・・・確かぁ〜・・・」

B 「アキさんも記憶が段々引き出せなくなってきましたよね、ふふふ・・・。」

A 「そうなのよぉ〜。でもね、ここで思い出さないとね、・・・え〜とぉ〜・・・、あっ、思い出したわ。2004年よ、 確か。2月だったと思うわ。確定申告でバタバタしてたから。ブン太は観に行ったんだっけ?あの時。」

B 「いえ、行きませんでしたけど、ペンギンのホームページで読んだ様な気がしますけどね。」

A 「そうそう。書いた、書いた。確かぁ〜・・・、そうそう、日生劇場には合わない芝居って、書いたわよ。で、 何で日本て劇場を選ばないのかしらってな事も書いたわね。」

B 「そうでした。でも、出演者の歌が上手くて驚いたみたいな事も書いてあったと思うんですよね。」

A 「そうそう。結構みんな上手くてね。そういう意味では良かったって書いた様な気がするわ。」

B 「で、今度の<ユーリンタウン>は、さっき良かったって言ってましたけどぉ〜・・・。」

A 「そうね。今回の<ユーリンタウン>は、さっきも言った様に、高円寺に出来た新しい劇場、 <座・高円寺>でやっているんだけど、まず、その劇場の有様がオフっぽいのよね。ちょっと異様な感じなの。」

B 「異様な感じなんですか?」

A 「そうよ。中央線で中野から高円寺に向う時に、右側に突如として現れるのよ、その異様な物体がね。すぐに分かるわよ、 周りにに溶け込んでないからね、ははは・・・。」

B 「そんなに異様な空間なんですね。」

A 「まず、天井に穴みたいなものが開いているのよ。勿論開いてはいないんだけどね。光を取り入れているのかしらね、 多分。小屋自体も変わった形をしているしね。代々木の国立屋内競技場を縮小したものを幾つか組み合わせたって感じ。」

B 「ちょっと尖っているんですね、じゃあ。」

A 「そう。でもさ、そういう所って、ちょっと気持ち悪いけど、ワクワク感もあるじゃない。な〜んか、 異次元に来ちゃったぁ〜みたいなね。もうこのミュージカルにはピッタリな感じよ。ちょっと綺麗過ぎるけど。」

B 「それじゃ、前にやった日生劇場とは大違いですね。」

A 「そうそう。日生劇場は本当に素敵な劇場で、席の前後左右が狭いのを除けばアッシ、一番好きな劇場かもしれないわね。」

B 「あそこは本当にいいですよね。入り口から赤い絨毯で、気持ちが引き締まりますよ。ちょっとセレブになった気分、 って言うのは大袈裟ですけどね。」

A 「そうよね。襟を正してって言う気持ちにさせてくれるわよね。」

B 「この高円寺の新しい劇場は、違う意味でワクワクしそうですね。で、肝心の内容は?」

A 「前回、日生劇場の舞台は、さっきもブン太が言ってた様に、出演者の歌がとても上手かったのね。でも、正直言って、 今回、メインのキャストはお世辞にも上手いとは言いがたかったわね。」

B 「それじゃぁミュージカルとしてはどうなんでしょうね。」

A 「よね。でも、今回の舞台、それを補う以上にアンサンブルの良さ、というより、むしろ凄さが際立ってて、 本当に素晴らしい舞台になってたのよ。」

B 「アンサンブルがそんなに良かったんですね。」

A 「だから舞台に勢いを感じてね。2時間半以上の上演時間だから決して短い舞台じゃないんだけど、 アッと言う間に終わっちゃうのよ。」

B 「へ〜。」

A 「それから、5年前にも言ったんだけど、このミュージカル、現代への警鐘を鳴らすっていうのか、舞台は近未来で、 渇水から起こる水不足のある町に公衆トイレの有料化で貧困にあえぐ市民達は苦しんでいるわけね。 トイレの管理人は容赦なく代金を取り立てるし、更に値上げで、とうとう貧困市民は、管理会社の娘を人質に立ち上がるのよね、 トイレの無料化を求めて。」

B 「でも確か、無料にはなったけど、結局渇水は更に進んで水が無くなって皆死んでしまうんでしたよね。」

A 「そうそう。だから、今の事だけ見ていて未来をちゃんと想定しないと大変な事になるよ、っていう警告よね、 大袈裟だけどさ。」

B 「凄いメッセージを含んだミュージカルなんですね。で、アンサンブルが良い他には?」

A 「何て言ったって料金よ。」

B 「料金?観劇料の話ですか?」

A 「そうそう。今さ、芝居の料金て凄く高いじゃない。で、今回この舞台、出演者、バンドも含めると50人以上なの。 そんなに出てるのに¥4500。もうお得感いっぱいよ。本当にオフ・ブロードウェイで観ている様な感じがして、 満足満足。あと、出演者の中では、特に靴磨きベッキーを演じた植野葉子が光ってたわ。それに、歌はイマイチだったけど、 将来良くなるかなっていうのが、公衆トイレの管理人助手の遠山悠介。初々しくてこのミュージカルにピッタリだったわね。」

B 「な〜んか、直ぐにでも観に行きたくなっちゃいますね。」

A 「そうよぉ〜、観に行って。平日はまだ余裕があるみたいよ。土日は満席って言ってたわ。でも、一度確かめてね、 確かじゃないからさ。」

B 「そうですね。アキさん、今度はソーダで割って下さい。」

A 「アイヨッ!ちょっと強かったかしらね、やっぱり。」

B 「でも、美味しかったですよ。明日の休みを有効にするためにも、あんまり酔っちゃうと早く起きられませんからね。 これから先はゆっくり飲まなきゃ。」

A 「そうね。・・・はい、お待たせ。」

B 「う〜む、これ危ないですね。飲み易〜〜い。」

A 「でしょ。でもゆっくりゆっくりね。明日の事をちゃんと考えてよ。」

B 「そうですよ。今の幸せなこのひと時の事だけじゃなくて、ちゃんと未来の事も考えなきゃ、ですよね。」

A 「まあ、未来って、ちょっと大袈裟だけどさ、明日も未来の内だわね。ははは・・・。」

B 「そうですって。ははは・・・・。アキさんも良かったら何かどうぞ。」

A 「あら、それじゃ、遠慮なく頂きます。アッシはブランディーを水割りでね。」

B 「はい、どうぞ。」

A 「それじゃ、ブン太の近々未来に乾杯!」

B 「かんぱ〜い!」

一同 「ははは・・・・。」

おわり


*今回紹介したお芝居は、

1) <桜姫>   シアターコクーン
     上演中〜6/30 まで
2) <ユーリンタウン〜ザ・ミュージカル>
     座・高円寺1   上演中〜6/28 まで
そうぞ足をお運び下さいね。
2009.6.21


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