<音楽の効果>の巻

瞬君(以下S)「こんばんは!」

あき(以下A)「あら、瞬ちゃん、いらっしゃい。こんな台風の中ありがとね。」

ヤッちゃん(以下Y)「アンタも物好きねぇ〜。」

A 「ちょっとぉ〜、ヤッちゃん!」

Y 「あら、ゴメンなさ〜い。」

S 「いやぁ〜、こんな日だからアキさんとゆっくり話が出来るかなって思って。」

A 「はい、オシボリ。」

Y 「あら、それじゃ、お邪魔かしら・・・。」

S 「そんな事ありませんよ。ヤッちゃんさんともお話したかったな、って。」

Y 「あら、アンタもお上手ねぇ〜。アキちゃん、最初の一杯アタシからあげて。」

S 「え〜、いいんですか?」

A 「いいのよぉ〜。もらっときなさいよ。」

Y 「二杯目からは自分で飲むのよ!」

S 「はい、有難うございます。それじゃ、お言葉に甘えて、アキさん、今月のお勧めをお願いします。」

Y 「あら、何?今月のお勧めって。」

A 「今月は<バラライカの調べ>よ。ヴォッカベースの飲みやすくて美しいカクテル。」

Y 「ま〜、美しい。まるでアタシみたいね〜。でも、ちょっと高めね、それ。」

S 「あっ、すいません。それじゃぁ、まずはぁ〜・・・。」

Y 「あら、いいのよぉ〜。ちょっとイヤミも言ってみたいじゃない、ははは・・・。」

A 「本当に意地が悪いわよね、ヤッちゃんたら。まあ、その裏には優しさが有る、 って言う事は言うまでもないけどね。」

Y 「良く分かってるじゃないの、アキちゃん。ちょっと、アキちゃんも何か飲んでよ。」

A 「あら、ラッキー。それじゃ、遠慮なく頂きますね。アッシは何時ものようにブランディーの水割りを。」

Y 「良いわよぉ〜。どうぞお飲みになってぇ〜。」

A&S 「それじゃ、頂きま〜〜す。」

S 「でも、いいですね、何時も。」

A 「何がぁ〜?」

S 「音楽ですよ、音楽。お酒飲みたくなりますもん。やっぱり雰囲気ですかね。」

Y 「そうよぉ〜。ここから音楽取ったら何が残るのよぉ〜。」

S 「そんな〜。本当に口が悪いですね、ヤッちゃんさんて。ははは・・・。」

Y 「返してもらうわよ、一杯。」

S 「あ〜、ゴメンなさい、ゴメンなさい。」

Y 「ははは・・・。冗談よぉ〜。でも、瞬ちゃんの言ってる事、分かるわよ。本当にお酒を飲む雰囲気だわよねぇ。 進んじゃうわよ、お酒。」

A 「まあ、アッシが飲んでいて心地よい音楽を流しているつもりなのよね。だからそう言ってくれると本当に嬉しいわね。」

Y 「だってぇ〜、音楽って重要じゃないのぉ。何気なく流れているメロディーにふっと気が付いちゃう事ってあるでしょう。 それってねぇ、自分にとってはとっても大切な事だと思わない?自分の感性に訴えてるってことでしょ、その音楽が。」

S 「感受性の問題ってことですよね。」

Y 「あら、結構分かっているじゃないの。」

A 「そうね。感受性って人夫々違うけど、耳や目から何かを感じるってとっても重要な事よね。」

S 「そうですよね、本当に。ほら、舞台なんか観にいくと、音楽がその舞台を支配まではいかないとしても、 その舞台を左右するって事もありますもんね。」

Y 「あるあるぅ〜。」

A 「そう言えば、アッシ最近観た舞台でそれを凄く感じた物があったのね。」

S 「何を観たんです?」

A 「パルコ劇場でやってる<中国の不思議な役人>と野田秀樹の<ザ・ダイバー>。」

Y 「あら、取れたの。」

A 「そうなのよ〜。やっとのおもいでね。」

S 「そんなに大変だったんですか?」

Y 「当たり前よぉ〜。野田の芝居で池袋の芸術劇場。それも小ホールよ。 アキちゃんも取れなくて毎日の様に当日券求めて並んだのよねぇ〜。」

A 「そうなのよ〜。で、この前の水曜日、夜6時から売り出す当日券の為に、 午後2時半から並んだのよ。それでも27番目。毎日必ず30枚は出るんだけど、 もう少し遅かったら取れなかったかも。もうラッキーって感じ。」

S 「でも大変ですよね、そんな長い時間並ぶって。」

A 「まあ好きだからね。それじゃなきゃ出来ないわよ。」

Y 「まあ、良かったわよねぇ〜、何にしても。で、その芝居の中の音楽の話に戻しましょうよぉ〜。」

S 「そうですよね。僕も聞きたいなぁ〜。」

A 「そうね。二つの芝居は、勿論全く違うんだけど、 夫々に音楽がとっても重要な位置を占めていると思ったのよね。」

Y 「それじゃ、まず寺山の<中国の不思議な役人>から聞きましょ。」

S 「何か、とってもタイトルから惹かれますよね。寺山って、寺山修司の事ですよね。としたら、 以前にもやってるとか・・・。」

A 「そうよ、32年前ね。アッシが学生だったから、まだ。」

Y 「そんな前だったっけ?」

A 「そうですって。だって、今年27回忌なのよ、寺山の。」

Y 「あ〜ら、もう。早いわねぇ〜。」

S 「僕の世代だと殆ど知らないんですよね、寺山修司を。勿論活字では見てるし、再演されたものは観ているんですけど、 実際に彼が演出したものって、一本も観てないんですよ。」

Y 「そりゃ当たり前じゃな〜い。ねぇ〜、アキちゃん。瞬ちゃんって、今幾つだっけ?」

S 「29歳ですけど。」

Y 「それじゃぁ〜、寺山が亡くなったのが1983年だからね。アンタ、まだ子供でしょぉ〜、 観てなくて当然よぉ〜。ねぇ〜。」

A 「それで観てたら地球がひっくり返っちゃうわよね。ははは・・・。」

S 「で、その<中国の・・・>ってどんな話なんですか?」

Y 「確か、あれよねぇ〜。バルトークのバレエ組曲か何かから作られたのよねぇ〜。」

A 「流石ねぇ〜。ヤッちゃんも良く知ってらっしゃる。その通り。レンジェルの台本にバルトークが曲をつけた <舞踏組曲>が基になっているのよね。」

S 「中国の役人が出てくるんですよね。どんな人物なんでしょうか?」

A 「ある街があって、そこを支配する中国の不思議な役人は不死の存在だと思われてるのね。で、唯一、 <死>を迎えられる方法が・・・」

Y 「真の<愛>を知る事なのよねぇ。まあ、瞬ちゃんやアキちゃんには関係ないと思うけどぉ〜、 ははは・・・。」

A 「ま〜ぁ、失礼ねぇ〜。ははは・・・・。で、ある兄妹がいるんだけど、ある時妹(花姚) が誘拐されて娼館に売られちゃうのよ。そこに、例の役人が現れるの。彼は初心(ウブ)な彼女に惹かれていくのね。 一方で兄(麦)は妹を探すうちに女将校と出会い、中国の不思議な役人を殺したら妹の無事を保障して、 会わせると約束するの。」

S 「何か、ワクワクしてきますね。」

A 「その内、役人はどんどん彼女に惹かれていき、彼女もまた何時しか役人に恋する様になっていくのよ。 そんな時に兄がとうとう役人に刃を向けるんだけど、そこは不死の存在。バラバラになってもまた生き返るのね。」

Y 「思い出してきたわ、32年前の芝居。伊丹十三や山口小夜子、新高恵子、蘭妖子、亀淵友香、若松武・・・。 あ〜ぁ、な〜んて素敵な虚構の世界だったのかしらぁ〜。」

S 「なんか、聞いたことがある名前なんですけどぉ〜・・・。」

Y 「まあ、仕方ないわねぇ〜、瞬ちゃんの歳じゃ。でも、凄かったのよ、あの舞台。思い出してきたわぁ〜。 娼館は謂わば迷宮の世界なのよね。その中で兄はその迷宮に迷い込んで、妹は虚構の世界で娼婦となっているのよ。 その世界を牛耳っているのは女将校。その世界の時間を回転させる一寸法師。そして、 虚構と現実の世界を行ったり来たりする西瓜男。あ〜ぁ、アタシも虚構の世界へ行ってみた〜い。」

A 「ちょっとぉ〜、大丈夫?ヤッちゃん、こっちの世界に戻ってきてよぉ〜。」

Y 「あら、あら、あら・・・。入っちゃってたわ、アタシ。」

A 「んも〜う。で、話を戻すけど、その妹に対して初めて<愛>を知った役人は生きる事に目覚めるの。でも、 それは彼の本当の<死>の瞬間だったのよ。」

S 「凄〜〜い。舞台が観たくなりました。」

A 「ね、凄いでしょ。でも、この話に音楽が入ると、更に世界が膨張するのよね。」

S 「音楽は誰が担当だったんですか?」

Y 「そりゃぁ、寺山だものぉ〜、J・A・シーザーよねぇ〜。」

A 「ヤッちゃん、それは32年前のやつね。今回は三宅純が担当してるんだけど、ま〜あ、素晴らしいのよね。」

S 「三宅純って、パリに住んでる人ですよね。」

Y 「あら、瞬ちゃん、知り合いなの?」

S 「まさかぁ〜。ピナ・パウシュの音楽を担当してたなって。」

A 「そうそう、彼よ。で、彼の音楽がまた虚構の世界と現実の世界を行ったり来たり。 無国籍と言われる彼の音楽が今回の舞台にピッタリなのね。音楽と共にアッシら観客を異空間に連れてってくれるって訳よ。」

S 「益々観たくなりました。」

A 「それから振り付けの小野寺修二が演じた一寸法師。これがまた素晴らしいのなんのって。 彼の一寸法師が虚構の世界の時間を動かし、音楽が流れを作り、 いつの間にかアッシらも虚構の世界の中に入って行っちゃってるって訳。」

Y 「32年前とは違った感動がありそうだわぁ〜。アタシも観にいって、32年前とどう違うかを体験しなきゃねぇ〜。 で、もう一つ、野田の方はどうなのよぉ。」

S 「そりゃ良くなかったらガッカリですよね、あんなに並んだんだから。」

Y 「そうよねぇ〜。で?」

A 「期待は裏切られなかったわよ。去年の今頃、ロンドンからの来日公演でこの<ザ・ダイバー>を観に行ったんだけど、 正直言ってちょっと難しくてね。アッシにはイマイチ理解が出来なかったのよね。」

S 「そう言えばペンギンのホームページでも書いていましたよね、確か。」

A 「そうかも。その時も確か難しいって書いたと思うのよぉ。」

Y 「で、今度のは?」

A 「やっぱり日本語だったし、日本様に改訂してた事もあって、凄く分かり易かったの。」

S 「源氏物語の話でしたっけ?」

A 「違うわよ。一人の殺人犯の女と警部、検察官、そして精神科医の話。」

Y 「って言う事は取調室での会話劇かしらぁ〜。」

A 「取調べっていうより、犯罪を犯した一人の女性に対する精神科医のカウンセリングが中心になって進むんだけど、 そこで彼女の中にある多重性から犯罪に行き着くまでの過程を探るって感じかな。」

S 「あっ、そうか。その多重性の中で源氏物語が出てくるんですね。源氏物語関係してると思ったんだけど。」

A 「そうね。葵上、源氏、六条の御息所、そこに能の<海人>が挿入されることによって、 その犯罪心理が分かっていくっていうヤツなのよ。」

Y 「で、さっき言ってた音楽が芝居を左右してたっていうのは?」

A 「源氏物語や能の題材を用いたからかもしれないけど、その戯曲には和楽器が使われるのね。 って言うかお囃子なんだけど。」

S 「お囃子って、お祭りとかで山車の上でやってる太鼓とか笛とか?」

Y 「あらあら、若い子って、そんな事も知らないのかしらぁ〜。イヤだイヤだぁ〜〜〜。」

A 「もうヤッちゃん!」

Y 「こりゃまた失礼。」

A 「話を戻すけど、その太鼓や笛がいい具合に物語に絡んでくるのよ。」

Y 「だから余計に舞台が引き立つって訳ねぇ〜。独特の雰囲気があるじゃな〜い、和楽器って、ねぇ〜。 アタシも能が大好きだから良く分かるわぁ〜。」

S 「確かに違いますよね。同じ笛でもフルートやピッコロと日本の笛では。何て言うのかなぁ〜、 ちょっと暗めで・・・。」

A 「その一つ一つの音が主人公である犯罪者のユミの深層心理を表現したり、突付いたりしてるのね。」

Y 「源氏物語の<葵の上>と<六条の御息所>の関係にはピッタリね、和楽器が。」

A 「でしょ。あのおどろおどろしい感じね。」

S 「役者さんもそれに応えて素晴らしかったんでしょうね。」

A 「もう大竹しのぶの憑依の演技。これはもう他の追随を許さないほどの独壇場。精神科医の野田の気弱い飄々さ、 渡辺いっけいの横暴さ、検察官なのに女にだらしない北村有起哉のクールな演技と、 この戯曲にはこれ以上無いキャストだと思えたわね。」

Y 「そりゃ凄そうだわね、ははは・・・。」

S 「やっぱり重要なんですよね、音楽って。こうやっていい音楽を聴きながら、色んな話が出来るって、 やっぱりいいなぁ〜。」

Y 「そうでしょ。そうなのよぉ〜。だから、もう一杯。アキちゃん、今度はボウモアのロック。」

S 「僕も。え〜と、今度はハーパーをロックで。」

A 「アイヨッ!」

おわり


*今回紹介したお芝居は、

1)<中国の不思議な役人> PARCO劇場
   上演中〜10/4
2)<ザ・ダイバー>  東京芸術劇場小ホール
   上演終了
以上です。芸術の秋。色々なお芝居、コンサート、美術館での展示会が目白押しです。どうぞ足をお運び下さいね。
2009.9.20


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