<周りが見えない>の巻

ヒー君(以下H)「やっと来た〜。」

あき(以下A)「ゴメン、ゴメン。準備は出来てるから直ぐに開けるからね。」

ジュンジュン(以下J)「あれ?今なんですか?」

A 「は〜い、お待たせしました。どうぞ〜。」

H 「本当にさぁ〜。また何処か行ってきたの?」

A 「はい、おしぼり。」

J 「あ〜、書いてありますねぇ、今日は9時半オープンだって。」

A 「でしょ。見てないのよね、み〜んな。お店の中にもトイレのカレンダーにも、 勿論ペンギンのホームページにだってちゃ〜んと書いてあるんだから。」

H 「高〜い!」

A 「まあ、高くから見ている訳じゃないんだけどさ、まあちゃんと書いてあるんだから許してね、って事なの。」

H 「でもさ、あんまり見ないよ、お知らせなんて。この前も連休したでしょ。来たら貼り紙があってさ。」

J 「それも書いてありますね。ま〜、見てないって事でしょうね、みんな。でも、書いてあるわけですからね。 遅く開けても正当な理由ではありますよね。」

A 「そうそう。正当な理由よね。で、今日は何にしましょうか?」

J 「僕はお勧めで。」

H 「何だっけ?お勧め。」

A 「今月は<ピエロの涙>。ジンがベースよ。」

H 「そうかぁ〜。じゃぁ俺もその<ピエロの涙>ってのお願いします。」

A 「あいよっ!」

H 「で、さぁ〜、何処に行ってたのよ。」

A 「今日はね、マリーザのコンサートに行ってたのよ。」

J 「マリーザ?」

H 「聞いた事ないよ、その人。」

A 「一般的にはあんまり有名じゃないかもね。でもポルトガルを初めとして世界的には凄く評価されている歌手なのよ。」

J 「へ〜。」

H 「で、どうだった?」

A 「実はアッシも初めて生のステージに触れたんだけど、そりゃもう最初からノック・アウト状態よ。」

J 「ポルトガルですから、やっぱり歌うのはファドなんですよね。」

H 「ファドか。俺知ってる、それ。アマリア何とかっていう歌手がいたもんね、昔。まだ生きてるんだっけ?」

A 「ヒー君、良く知ってたわね。そうそう、アマリア・ロドリゲスね。残念ながら10年位前に亡くなってるのよ。 は〜い、お待たせしました。」

J 「来た来た。う〜む、美味しいですね、これ。」

H 「そうなの?どれどれ・・・う〜む、イケル!」

J 「で、コンサートの方はどうでした?ファドってとっても理解しにくい節回しがありますよね。 僕にとっては相当難しい音楽の一つなんですけど。」

H 「ジュンジュン良くしってるね。俺なんか、さっき言ったアマリア・ロドリゲスだっけ?それしか知らないよ。」

J 「まあ、とりあえずジャンル関係なく好きなんで、音楽が。」

A 「確かにジュンジュンが言った様に、ファドって複雑な節回しがあって、それが郷愁を誘うのよね。 様々なギターの音色もそれを助長させているのよね。」

J 「演奏そのものにも魅力が有ったって事ですね。」

A 「そうね。もの凄く有ったわね。彼女のルーツはアフリカらしいんだけど、アフリカ色を強く出すんじゃなくて、 体の中にあるその血を歌に表すって感じ。歌が強いのよぉ〜。」

H 「でもさ、ちょっと考えるとファドのイメージって暗いじゃん。俺は一曲、<暗いはしけ>ってのしか知らないんだけど、 聴いてるとド〜ンと落ちちゃうような気がしちゃってさ。コンサートまでは、ってね。」

A 「分かるんだけどね。確かにアマリア・ロドリゲスの<暗いはしけ>を聴いてると、ド〜ンときちゃうわよね。 でもね、この日のステージを観たら、きっとそれは覆されると思うのよ。」

J 「やっぱり若い世代が変えていってるって事でしょうか?」

A 「そうでしょうね、きっと。伝統だったものに、ロックやソウル、ブルース、ジャズなどがどんどん入ってきて、 それらを聴いて育ってるじゃない。だからこそ、伝統は崩さないで、新しい何かをそこに入れてるんでしょ。 態とじゃなくてね。だから構えなくて良かったのよ。聴き終わったら、何て楽しいコンサートだったんだろうな、 って思ったもの。本当に素晴らしかったわよ。」

H 「今度聴いてみようかな?誰だっけ?」

J 「マリーザ、ですよね、アキさん。」

A 「そう、マリーザ。で、彼女、歌は言うまでもなく素晴らしいんだけど、姿も凄く美しいのよ。」

H 「へ〜。天はニ物を与えたって事だよね。」

J 「中々有りませんからね、ニ物を与えられた人って。」

A 「そうよね。そう言えば、この前観に行った劇団四季の<コーラス・ライン>では、 そのニ物を与えられなかった現実を見てしまったと思うのよ。」

H 「四季かぁ〜。で?」

A 「まあ、何て言ったらいいのかしらん。女性のキャストはそうでもなかったんだけど、 男性キャストがねぇ〜・・・。」

J 「踊れなかったとか?歌が下手だったとか?」

A 「何か、宝塚の芝居を観ているみたいだったのよ。クサイのね、台詞の言い回しがね。」

J 「それ分かりますね。僕は友達が四季にいるんですけど、彼の舞台を観たときもそれを感じましたね。」

A 「でしょ。だからスムーズじゃないのよねぇ。そんなにゆっくり話さないじゃない、普通の会話じゃ。」

H 「どんなんだか想像できないな。」

A 「ヒー君は宝塚って観た事ない?」

H 「昔は何度か観たけど、今は行かないよ。」

A 「その宝塚の男役の話し方、それを想像してみてよ。」

H 「あ〜、あれかぁ〜。確かにクサイよね。」

J 「でも、あれはあれで良いと思うんですよね、宝塚ですから。でも、四季のはねぇ〜。 正直言って気持ち悪いんですよ。」

A 「分かるわ、その気持ち。ちょっとイラついちゃうのよ。アッシはせっかちだから余計にそうなのよね。」

H 「それじゃ、今回の<コーラスライン>は良い所無かったんだ。」

J 「8月の来日公演が良かったですからね。」

A 「あれは本当に良かったわね。ブロードウェイの再演キャストレコーディングよりも歌が抜群に上手かったもの。」

H 「で、今度は?」

A 「そうねぇ〜、良かった人はいるのよ。」

J 「例えば?」

A 「ディアナ役の熊本亜紀。彼女、まあ、役も良いんだけど、歌も演技もとても良かったのよ。それに、 ザック役の加藤啓二の声。」

H 「声?何、それ。」

A 「ほら、ザックって舞台に出てる時間が少ないじゃない。後は客席の後の方でアナウンスしてるでしょ。 その<声>が凄く良かったのよ。」

H 「へ〜。」

A 「後、シーラ役の増本藍。まあ、昔演じた前田美波里には遠く及ばなかったけど、結構良かったわよ。 最後のカーテンコールの時を除いたら。」

J 「カーテンコールで何かあったんですか?」

A 「アッシには、なんだけど、コーラスラインてカーテンコールが黄金の燕尾服を着て踊る<ワン>の時じゃない。 その時に彼女、シーラじゃなくなってたのよ。何かはしゃいじゃってる様に見えたのよねぇ。あ〜、惜しいな、って。」

J 「それはダメですよね。キャシーはどうだったんですか?」

A 「それがさ。さっき言ったじゃない。天はニ物を与えなかった、って。」

H 「それがキャシーなんだ。」

A 「そうなのよねぇ。」

H 「踊れなかったって事?」

A 「そうじゃないのよ。踊りはとっても上手なのよ。でも、歌が・・・」

J 「下手だった。」

A 「う〜む、下手というより、違う人に吹き替えやってもらったら?って。」

H 「ははは・・・。そんなに酷かったの?」

A 「ちょっと歌が酷すぎだったわね。でも拍手はくるのよ。勿論、アッシも拍手したわよ、ダンスに対してね。 でも、あの歌じゃ。観客もダメだと思うの。ディアナの歌う<ノッシング>の時なんてだ〜れも拍手しないのよ。 凄く上手かったのに。アッシだけよ、拍手したの。な〜んか自分が悪いみたいになっちゃってさ。」

J 「あの場面て拍手しづらいんですよね。」

A 「分かるんだけど、良かったらそこで拍手するべきじゃない。だからショー・ストップが生まれる訳で。 他の所ではそんなに良くもないのに拍手が起こるのよ。まあ、 一番後ろにいる四季の職員が先導を切って拍手してるっていうのもあるんだけどね。」

H 「えっ?そうなの?」

A 「そうよ。だって、アッシ一番後ろだったんだもの。それがそのまた後からまず拍手が聞こえるのよぉ〜。 まあ日本人て下手だからね、タイミングをみるのが。」

J 「それは聞いた事ありますよ。まあ、舞台を盛り上げる為には少しは必要なのかもしれませんけどね。」

A 「美輪さんのコンサートの時にも言ったけど、四季教団の信者の集まりみたい。 これじゃ日本の演劇のレベルは中々上がらないなって。」

H 「今どきね。来日公演も沢山有るし、値段だって然程変わらないのにね。」

A 「アッシ、劇団四季には本当に感謝してるのよ。小学生の時に、 劇団四季が小学生の為にミュージカルの舞台を招待してくれたのね。それを観てミュージカルに興味を持ったんだからさ。」

H 「そんなのあったんだぁ〜。いいよな、東京の人は。」

A 「確かにね。小さな時からそういった環境にあるって、やっぱり幸せな事よね。」

J 「話は<コーラスライン>に戻るんですけど、役者達の実力の問題だったんでしょうかね、 アキさんがイマイチだったのは。」

A 「そうね。それも勿論あるんだけど、アッシが今回思ったのは、脚本の改ざんが一番詰らなくしてたって事かな?」

H 「改ざん?何それ。そんな事許されるんだぁ〜。」

J 「まあ、演出する関係でそう言う事は多少あるでしょうけど。どんな所だったんですか?」

A 「ほら、自分のプロフィールを言う場面があるじゃない。その時にみ〜んな1970年〜1980年生まれになっているのよ。」

H 「今に合わせたんじゃん、それ。」

J 「そうでしょうね。」

A 「でも、それだったらその後の台詞も変わってきて当たり前でしょ。でもそれが無いのね。 勿論全部変えちゃったら全く違うミュージカルになっちゃうんだけど。」

J 「まあ、それだったらわざわざ変えなくてもねぇ。」

A 「そうなの。だからず〜っと頭の中がこんがらがっちゃって。オリジナルのままの台詞でいいのにね。 勿論ジョークは別なんだけどさ。」

H 「そりゃそーだよ。ジャークまでアメリカ版と一緒だったら日本人には分からないからね。」

A 「日本で初演する時に、作者のマイケル・ベネット が四季の浅利慶太にそういう所は台詞を日本風にして構わないって言ってたって聞いたことがあるけどね。」

J 「そりゃ凄い!そうなんですね。確かに余計に気を使っちゃってんでしょうね、今回の四季は。」

H 「まあ、そうだよ。気を使っちゃって、それが裏目に出ちゃったって事だよね。」

A 「でもさ、観客のどれほどがそれに気が付いたかって思うとねぇ〜。」

J 「まあ、好きな人は、そこに居るだけで満足でしょうからね。」

H 「仕方ないよ。それしか見えなくなっちゃうからさ、好きだと。」

A 「そういえばヒー君、その後どうなのよ。」

H 「えっ?何の話?」

J 「そー言えば夢中だったですよね、あの子に。」

H 「あっ、あれね。まあ、夢中になっちゃうと周りが見えなくなっちゃってさ・・・。」

A 「まあ、多くは聞かないわよ。み〜んな同じよ、夢中になっちゃうと。」

J 「確かに。周りが見えなくなっちゃいますよね。」

A 「ほんとにね、ははは・・・・。」

一同 「ははは・・・・。」

おわり


  *今回登場したコンサート、お芝居は

  1) マリーザ     公演終了
  2) 劇団四季 <コーラスライン>
     浜松町・自由劇場でロングラン中

以上です。芸術の秋はまだまだ続きます。皆さん、どうぞ足をお運び下さいね。
2009.10.25


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