<壁が問題>の巻

幸(以下Y)「こんばんは〜〜。」

あき(以下A)「いらしゃ〜い。はい、オシボリどうぞ。」

マツ子(以下M)「ちょっとぉ〜、遅いじゃないのよぉ〜。」

A 「あら、待ち合わせ?」

M 「そうなのよぉ〜。でもさぁ〜、40分も遅刻よ。幸、何か奢りなさいよ!」

Y 「はいはい。遅れちゃってすみませ〜〜〜ん。アキさん、 マツ子さんに僕からお詫びの一杯差し上げて下さいね。」

A 「そうなの?マツ子、何にする?そうそう、幸は?」

Y 「もう12月ですよね。あれ、有るんですか?プチ・・・、何でしたっけ?」

A 「<プチ・パパ・ノエル>ね。」

Y 「そうそう。それ。」

A 「勿論今年もありますよ。」

Y 「それじゃ、僕はその<プチ・パパ・ノエル>で。」

M 「それってライムが刻んであるやつだったかしら?」

A 「そうそう。今年はね、ジンかヴォッカ、ソーダかトニックを選んでもらう事にしたのよ。」

Y 「そうなんだぁ〜。じゃぁ、僕はヴォッカにソーダで。」

M 「ちょっとぉ〜、幸さ、少し飲んでもいい?」

Y 「いいですけど、マツ子さんも頼めばいいじゃないですか。」

M 「頼むけどさぁ〜、アタシはジンでトニックにしようと思ってるから。違うのも味わいたいじゃないのよ。 アタシは幸からジンでトニックね。」

A 「あいよっ!・・・・は〜い、お待たせしました。こっちが幸のヴォッカにソーダ、で、 こっちがマツ子のジンにトニックね。」

M 「あら、綺麗じゃないのよ、これ。あらら、赤が沈んでくのね。」

Y 「比重が重いからですよ、カシスは。」

M 「ちょと!知ってるわよ、そんな事は。きっと幸が知ったかぶりして言うんじゃないかなって思ってね。」

A 「まあ、オネエさんのイビリって怖いわねぇ〜、ははは・・・。」

M 「でも、美味しいわ、これ。幸、そっちもちょっと飲ませてよ。」

Y 「はい、そうぞ。そっちも良いですか?」

M 「まあ、仕方ないわねぇ〜。はい。」

A 「これさ、あんまり評判がいいから、もう12月はこれにしちゃおうかって思ってるのよね。」

M 「良いんじゃないの、それは。」

Y 「そうですよね、楽しみだもん、これ頂くの。」

A 「ところでさ、幸が約束の時間に遅くなるなんて珍しいじゃないよ。何かあったの?」

Y 「いや〜、終わらなかったんですよ。」

M 「何がなのよ!」

Y 「ほら、今日までだったじゃないですか、マイケル。」

A 「あ〜、マイケルの映画ね。」

M 「何?アンタ、映画で遅くなったのねぇ〜。ちょっと、終わる時間分かてたでしょ。 連絡ぐらい入れなさいよぉ。」

A 「まあ、それは言えるわね。」

Y 「本当にすみませんって。でもギリギリで入っちゃったんですよ、客席に。で、ついついね。 本当にすみませんでしたって。」

A 「一杯もらったんだから、マツ子も許してあげれば。」

M 「まあ、仕方ないわね。で、アンタはどうだったのよ、マイケルの映画は。」

Y 「もう最高でした。僕はあんまり彼のこと知らないんですけど、会社の皆が良いよ、 良いよって言うもんですからね、今日までだったから行かなきゃって。でも観て良かったですよ、本当に。 あれだったら僕も観たかったなぁ〜。マツ子さんは観たんですか?アキさんは?」

M 「アタシだって観たかったのよ。でも時間が無かったし、 今日だってアンタと待ち合わせだからって仕事を早く終わって待ってたのよ。」

Y 「本当にゴメンなさい。」

M 「観に行くんだったら連絡くれれば良かったのにねぇ。アタシも観たかったわぁ〜。」

Y 「そうですよね。お誘いすれば良かったね。アキさんはマイケルの大ファンですから当然観ましたよね。」

A 「勿論よ。アッシ、もう大感激。涙が止まらなかったわよ、って涙は出なかったんだけど。ははは・・・。」

Y 「でも、凄いですよね、マイケルって。アレだけ完璧にやるんだなって、本当に感心しちゃいましたよ。」

M 「当たり前よ。だからスーパー・スターになるんじゃないの。でも、本当に凄かったんでしょうね、 コンサートをやってたら。」

A 「そうでしょうね。あの映画、コンサートのリハーサル映像を組み合わせた物だって言えると思うんだけど、 一つ一つが完璧に作られようとしているのが良く分かってね。それにさ、 アッシにとってはちょっと嬉しいシーンも有ったし。」

Y 「何処なんですか?その嬉しいシーンって。」

A 「マイケルってアナログ人間だったって事よぉ。」

M 「アナログ人間?」

Y 「そんなシーン、何処かにありましたっけ?」

A 「ほら、何の曲だったか忘れちゃったんだけど、今ってさ、自分の声を聞く為のモニターを耳に付けるじゃない。 それをほっぽり投げるシーンがあるのよ。」

Y 「あ〜、ありましたね、そんなシーン。」

A 「で、子供の頃から自分の耳で外から入ってきた声を聞いて確認してるから耳に付けるモニターはダメだって言うのよね。 あ〜、マイケルも昔の人間なんだな、って。良い意味でよ。 新しい器械が必ずしも自分にとってのベストじゃないって事よね。」

M 「それだけ自分に厳しいし、自分の耳を信じてるのよ。素晴らしいじゃないのぉ〜。」

A 「ね、そうでしょ。もうあのシーンでウッと来ちゃってね。嬉しいやら何やらで、もっと、 もっとマイケルが好きになっちゃったわね。」

M 「ま〜〜〜、悔し〜〜〜い。今日までだったらもう観る事出来ないじゃない。悔し〜〜〜い。」

Y 「何か、早くも来年にDVDが出るみたいですから観れますよ。」

M 「違うのよぉ〜。スクリーンで観たかったの。分かるわよね、アキちゃんだったら。」

A 「それはもう分かるな〜んてもんじゃないわよ。やっぱり映画は映画館よね。迫力が違うもの。音も映像も。 いくら大きな画面で見たって、部屋じゃね。分かる、分かる。」

M 「でもさ、本当に早かったわよね。まだまだ色々やりたかったでしょうにねぇ。」

Y 「あれだけ完璧な物を作ろうとしてたんですからね。壁にも沢山ぶち当たったでしょうしね。」

A 「本当にね。そうそう、壁って言えば、この前エドワード・ボンドの<リア>っていう芝居を観てきたんだけど、 まさに、その壁がテーマの芝居だったのよ。」

M 「えっ???リアってシェークスピアじゃないの?」

A 「勿論、シャークスピアにもリアってあるけど、あれって<キング・リア>じゃない。こっちはただの<リア>。」

Y 「じゃあ、全く違ったものなんですね。」

A 「そうねぇ〜、この戯曲はシェークスピアの<キング・リア>を下敷きにはしていると思うのね。 でも違うものよね。」

M 「分かり易く言ってよぉ〜。」

A 「まあ、最後が相当違うのよ。」

Y 「最後ですか?・・・確か、シェークスピアのリア王は娘二人に裏切られて傷心の末、 末娘の所に行くんですよね。」

M 「それで、末の娘と国を奪還して再び王につくのよね。それで死んじゃう。ね、そうだったわよね。」

A 「そうそう。で、こっちは、やっぱり娘に裏切られるんだけど、 自分が国王時代に造った壁を自ら壊している所で殺されちゃうのね。」

M 「あら、殺されちゃうのぉ。」

Y 「そこで壁が重要な意味を持つんですかぁ〜。」

A 「そうそう。その壁って、基本的には敵から自国を守る為に造った訳なんだけど、王の座を追われてからは、 その壁の存在が何なのか考えるようになるのよね。」

M 「壁ってひと言で言ったって、結構色んな意味が有るわよね。さっきアキちゃんが言った様に、 自国を守るための壁、それは自分自身を守る為の壁とも言い換える事が出来るじゃな〜い。 外の社会と自分との間の壁。それもそうよね。」

Y 「いや〜、意外にマツ子さんてちゃんとしてるんですね。ちょっと驚きだなぁ〜。」

M 「あら、悪かったわねぇ〜、ははは・・・。それから今言った分けるための壁とぶつかる壁が有るじゃない。」

Y 「あ〜、マイケルの所でも言いましたけど、壁にぶち当たるとかですよね。」

A 「まあ、乗り越えるべき壁とでも言うのかしらね。」

M 「まあ、あたし達もそうなんだけど、壁にぶち当たった時の落ち込み方って並じゃないじゃない。で、 その後よね、勝負って。」

Y 「誰もが有りますもんね、壁にぶち当たる事って。アキさんだってあるでしょ。」

A 「当たり前じゃないのよぉ〜。何時もぶち当たっているわよ、壁に。まあ、毎日が壁かなぁ〜。」

M 「こんな不景気だものね、アキちゃんも毎日が壁かぁ〜。アタシもさぁ〜、毎日どころじゃなくて一分、 一分が壁よぉ〜、本当に。」

Y 「でも、そこで落ち込んでるようじゃ、アキさんでも、マツ子さんでもありませんよね。」

A 「まあ、そうなんだけどさ、時々、本当に落ち込んじゃいそうになる時もあるのよね。 ド〜ンとはならないからまだ良いけど。」

M 「アタシもそう。あ〜、嫌だ嫌だ。」

Y 「ちょっと暗くなりすぎましたね。で、芝居の話に戻しましょうよ。」

M 「そうよね。で、役者達はどうだったのよ。」

A 「串田和美が役者として出ているのを久し振りに観たんだけど、良かったのよね、これが。 この戯曲にピッタリっていうのかな。出てる人が達者な人ばかりだから、誰がどうとかじゃないんだけど、 印象が一番強かったのよね、彼が。」

Y 「他には誰が出てたんです?」

A 「女優陣が久世星佳、村岡希美、緒川たまき。男優陣が、真那古敬二、朝比奈尚行などなどね。」

M 「みんな上手い役者達ね。やっぱり役者が良いと芝居も締まるって感じよね、きっと。」

A 「正に、そんな感じよ。」

Y 「ちょっと失礼してトイレへ行ってきますね。」

M 「そんなの一々言わなくてもいいから早く行って来なさいよ。」

A 「ははは・・・。」

M 「所でさぁ〜、この芝居はどうなのよ。」

A 「<12人の怒れる男>ね。これも12人の役者のレベルがある程度高くないと難しい芝居よね。」

M 「蜷川でしょ、演出。映画が素晴らしかっただけに、それを観ていると辛い時もあるわよね。」

A 「そうよね。でも、そう言う人を集めるでしょ、きっと。今回もいい役者さん達が集まったと思うわよ。でもさ、 台詞劇じゃない。結構大変よね、役者達も。演出なのか、台詞を忘れちゃったのか、どっち? ってな場面も少しあったしね。」

M 「印象が強かったのは?」

A 「この戯曲だと役柄によって台詞の量とかが全く違うから比べるのは難しいと思うんだけど、 アッシはやっぱり辻萬長が演じた陪審員4号かな?」

M 「あ〜、理論的に有罪を証明していこうとする陪審員ね。片や感情的に有罪、有罪って言う陪審員2号は?」

A 「西岡徳馬だったんだけど、う〜む、ちょっとオーバー過ぎたって感じかな。」

ヒー君(以下H)「こんばんは。」

A 「あら、ヒー君いらっしゃい。はい、オシボリね。」

H 「ハーパーをソーダ割で。」

A 「あいよっ!」

H 「マツ子さん、こんばんは。何話してたんですか?」

M 「これよ、これ。」

H 「あ〜、今観てきた帰りなんです。」

Y 「ヒー君さん、こんばんは。」

A 「はい、お待たせ。幸、オシボリどうぞ。」

Y 「有難うございます。」

A 「で、ヒー君はどうだったの?」

H 「中井貴一がねぇ〜。悪くはないんだけど・・・。」

Y 「<12人の怒れる男>ですね。確か彼は陪審員8号。最初に唯一無罪という陪審員ですよね。」

M 「あら、幸、知ってるの?この芝居。」

Y 「芝居じゃなくて映画ですよ。芝居はまだ観た事はないんです。」

H 「あと大門伍朗。ちょっと五月蝿すぎでした。でも、脚本が良くできてるし、 役者達も達者な人ばかりだからいい芝居であった事には変わりないですけどね。」

A「そうね。密室劇でもあるから台詞が本当に重要じゃない。そういう意味では飽きちゃう人も多いと思うんだけど、 時間がアッと言う間に経っちゃったから、きっと良かったんだと思うのよね。」

H 「しかし、プロは凄いですね。膨大な量の台詞を覚えて、それを間違わないで言えるんですからね。 きっと何度も壁にぶち当たったんでしょうね。」

Y 「やっぱり、ここでも壁が問題ですね。」

M 「本当ねぇ〜、ははは・・・。」

A 「ははは・・・・。」

H 「何、何、なに〜〜〜???」

おわり


 *今回紹介したお芝居などは、
 1)マイケル・ジャクソン<THIS IS IT>
    上映終了。1月にDVD発売予定
 2)エドワード・ボンドの<リア>
    東京は上演終了。
    12/17〜20 まつもと市民芸術館
    12/23 びわ湖ホール
 3)<12人の怒れる男>
    上演終了。
    1月に俳優座劇場にて別のユニット公演あり
 以上です。この冬も色々な演劇の公演、映画の上映があります。どうぞ足をお運び下さいね。
2009.12.7


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