<縁の下の力持ち>の巻

マッチ(以下M)「アキさ〜ん、こんばんは。大丈夫でしたかぁ〜?」

あき(以下A)「あら、マッチ。ご無事で何よりね。はい、オシボリ。」

M 「有難うございます。で、何ともなかったんですか?」

A 「まあ、大変だったわよぉ〜。」

M 「そうでしょうね。ペンギンは所狭しと色々物が置いてありますからね。」

A 「もうドアを開けた瞬間、どうしよう〜〜って。」

M 「そんなに?」

A 「そうなのよ。ボトルは3本残してみ〜んな落ちてたし、CDもバラバラ。 お酒の匂いがしたから、割れてるなって。」

M 「あ〜あ、そりゃ大変でしたね。僕のボトルも割れちゃいました?」

A 「それがさ、不幸中の幸いっていうの?ボトルは4本割れたんだけど、 お客様のボトルは1本だけだったのよ。マッチのボトルは、はい、 この通りちゃんと割れずにありますよ。」

M 「あ〜、よかったぁ〜。それじゃ、ロックでお願します。」

A 「アイヨッ!・・・・はい、お待たせしました。」

M 「でも、何にも無かったみたいですね。」

A 「でしょ。当日片付けに3時間掛かったのよ。もう疲れちゃったわよぉ。歳ね、歳。」

M 「地震の当日来たんですか?」

A 「勿論じゃない。アッシ、住んでるのが新宿じゃないから、歩いてここまで来たの。 1時間20分くらい掛かったわよ。」

M 「ひゃ〜、そんなに?」

A 「普段だったらもっと早く来る事ができるんだけど、何しろ凄い人の波なのよね。 自分のペースで歩けないの。あんな徒歩渋滞、初めてよ。まあ、当たり前なんだけどね。 で、マッチの家や会社は大丈夫だったの?」

M 「会社はビルの大分上の方にあるんで結構揺れたし、書類なんかが落ちましたね。 でも、部屋の方が・・・。」

A 「そんなに?」

M 「食器棚がやられたのが痛かったですぅ。グラスやお皿、大分割れましたよ。 もう高いのばっかり。涙が出そうでした。でもね、 東北の方はそんな事言ってられませんよね。もう映像見たくないですもん。」

A 「そうよね。それに、あの原発。これからも不安よね。そんな中、有難うねぇ。」

M 「いえいえ、ちょっと心配だったし、自分の生活も段々戻ってきたんで。」

A 「そうね。徐々にね。」

M 「そんな中、アキさんはお芝居とか行ったりしたんですか?」

A 「んな訳ないじゃないよぉ〜。予定はしてたんだけど、当然の様に中止。」

M 「何を観る予定だったんです?」

A 「野田マップの<南へ>と三谷幸喜の<国民の映画>。 両方とも中止になっちゃったのね。」

M 「そうなんだぁ〜。ちょっと聞きたかったんですよね、野田マップ。」

A 「それだったらお話は出来るわよ。もう一度観てるから。」

M 「あっ、そうなんですか。それじゃ、どうでした?」

A 「そうねぇ〜。結論から言っちゃうと、今までの野田マップの中ではイマイチかな。」

M 「あれ〜、そうなんですねぇ〜。」

A 「そうなのよね。現代の無事山にある火山観測所と宝永の時代がシンクロして物語は進んでいくんだけどね。」

M 「宝永?」

A 「そう。西暦でいうと1700年の初めね。」

M 「は〜。300年くらいの開きがありますよね。」

A 「そうね。その時って何か思い浮かばない?」

M 「宝永、宝永、宝永・・・。」

A 「ほら、富士山が爆発した時よ。」

M 「あ〜、それですか。無事山って、富士山に掛けてるんですね。」

A 「まあ、そうとれない事もないけど、まあ、 それは観客の想像に任せるって事だと思うけどね。」

M 「そうですよねぇ〜。で、話は・・・?」

A 「そうそう。その現代の無事山に大噴火の噂が世の中に流れてるんだけど、 そこに赴任してきた若い男、南のりへいと、嘘ばかりついている少女、 あまねを中心として、測候所の人々、その麓にある旅館の姉妹、帝の巫女、 マスコミなどが絡まって絡まってね。」

M 「野田さん独特の複雑に絡まってる登場人物の構造ですね。」

A 「そうそう。で、時代がいきなり飛んじゃったりね。 何しろそうこうしている内に火山が本当に爆発しそうっていう噂があたかも本当の様に伝わってくるのよね。 で、押しかける取材陣、帝の行幸がそこにって・・・。」

M 「あ〜、分からないぃ〜〜〜。」

A 「アッシも分からない、ははは・・・・。」

M 「役者陣は?」

A 「もうそりゃ達者よ。渡辺いっけいに高田聖子、藤木孝、それに銀粉蝶だもの。」

M 「妻夫木やゆうちゃんは?」

A 「ブッキーはさ、段々堤真一に似てきてるって思ったの。まあ、 野田さんがそのように喋らせているのかもしれないし、 台詞を言っていると自然にそうなっちゃうのかも知れないんだけどね。 蒼井優ちゃんはいいわ、本当にいい。数年前に出演した清水邦夫の<楽屋>の時に比べると数段の進歩。 これからが本当に楽しみな女優になってきたわね。」

M 「そんなにいいんですか?」

A 「そうよ、本当に。今回の芝居の収穫って言ったらこれに尽きるわよ。 蒼井優ちゃんにね。」

M 「もう大絶賛ですね、アキさん。」

A 「まあ、話が何時もの天皇制について考えさせられるものだったからね。まあ、 これは野田さんがず〜っと言っていきたいんだとは思うんだけどね。アッシ等観客は、 ちょっと、また〜、ってな感じになっている事も確かだと思うのよね。だからまた良い、 んじゃないかと思いはするんだけどね。」

M 「野田さんとしたら、考えて欲しいんでしょうね。」

A 「きっとそうだと思うけど。その蒼井優演じる嘘つき女、あまね。 その彼女の本当は何?って問いかけるのが今度の主題かしらともね。 つまり天皇制の嘘と本当みたいな。」

M 「日本人にとっての天皇って特別ですからね。」

A 「でもさ、庶民にとっての天皇って明治になってからでしょ。だから、 その存在自体に疑問を持つ人、崇め奉る人、その両方がいて、だから何時まで経っても、 天皇を騙る詐欺師が出てきたりするわけじゃない。 その辺を上手くついた作品だって言えると思うのよ。」

M 「まあ、アキさんはイマイチだったとは思うんですけど、やっぱり観たいですね。」

A 「イマイチって言ったって、もうレベルが違うもの。損はないわよ。それに、 前回の<ザ・キャラクター>の時と同様、アンサンブルの皆が本当にいいのよ。 最近の野田さんの芝居ってアンサンブルが結構活躍してるのよね。 縁の下の力持ちってな感じかな。」

M 「縁の下の力持ちね。それじゃ、僕もペンギンの縁の下の力持ちの一人にならないとね!」

A 「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。もうどんどん飲んで、自分のボトルから。」

M 「んもう〜〜〜!ははは・・・・・。」

一同 「ははは・・・・・。」

おわり
 * 登場人物は全て仮名です。

 * 今回紹介したお芝居は、

   1) 野田地図 <南へ>   上演中〜3/31  東京芸術劇場中ホール

   2) パルコプロデュース  <国民の映画>
          上演中〜4/3   PARCO劇場
 以上です。段々暖かくなってきました。 地震の影響で気分も中々上がらないとは思いますが、 こんな時こそ劇場に足を運んでみては如何でしょうか?

2011.3.27


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