<越えられない>の巻

ミキちゃん(以下M)「こんばんはぁ〜。」

あき(以下A)「ミキちゃん、いらっしゃ〜い。はい、オシボリどうぞ。」

M 「流石に梅雨ですよね〜。もう蒸し暑くてたまらないですよ。」

廉太郎(以下R)「本当だよなぁ〜。早く終わってほしいよね。」

A 「ミキちゃん、今日は何にしましょうか?」

M 「先ずは、今月のお勧めドリンクで。」

R 「今月のお勧めドリンクって考えるのも大変だよね、アキさん。」

A 「まあねぇ〜。でも、最近は過去にやった物が多いのよね〜。・・・・、 はい、ミキちゃん、お待たせしました。」

R 「綺麗な色だね、これ。」

A 「でしょ。」

R 「何て言うんだっけ?」

M 「<梅雨空のメテオ>ですよ。」

R 「メテオ?隕石?かな。」

A 「そうね。でも、今回の名前は梅雨の時期に夜空に流れる流星をイメージしたのよね。 だから、ここでのメテオは、流星の事。まあ、隕石で間違いないんだけどぉ〜、な〜んか、 ロマンチックじゃないじゃない。だから流星。」

R 「オイラにはロマンチックって関係ないからなぁ〜。」

M 「そんな事ないですって。 廉太郎さんとロマンチックな関係になりたい人って沢山いると思いますよ。」

R 「じゃ、ミキちゃん、そんな関係になってくれる?・・・な〜んちゃってね。」

A 「馬鹿ね、廉太郎。ホントはそう思ってるかもしれないじゃない、ミキちゃん。」

M 「そうですよぉ〜・・・、って、有り得ませんけど。ははは・・・・。」

R 「ほらほら。まあ、オイラだけじゃなく、アキさんににも関係ないと思いますけどね。」

A 「オダマリ!ははは・・・・。確かにねぇ〜。でも、 アッシは映画や舞台の中にロマンチシズムを感じてるからいいのよ。」

M 「それって痩せ我慢ですか?」

A 「え〜〜〜〜???」

R 「意外にミキちゃんって酷いね、ははは・・・。」

A 「まあ、今の子ははっきりしてるし、 自分じゃ人を傷付けてるって分からないでハッキリ言っちゃうからね〜。」

R 「そうだよね、ホント。」

M 「アキさん、傷つかないでしょ。」

A 「ほらねぇ〜。」

M 「また何か傷付けちゃいました?僕。」

R 「あ〜、ダメだ、こりゃ。ははは・・・・。ところで、最近何かいいもの観ました?」

M 「僕も聞きたいです。ロマンチックなものとか有りましたか?」

A 「まあ、ロマンチックなものかどうかは別にして、いい舞台は有ったわよ。 流山児事務所の<さらば豚>。劇団桟敷童子の東憲司の作品で流山児祥の演出。」

M 「どっちも知らないんですけどぉ〜・・・。」

R 「ミキちゃんの歳じゃ仕方ないよね、知らなくても。まあ、 どっちもアングラの世界を引き継いでるっていうか、今となってはアングラそのものだよね、 アキさん。」

A 「まあ、そうね。」

M 「そんな話なんですか?」

A 「話としては他愛ないのよね。東が書くから舞台はおそらく九州。その炭鉱の物語。 閉山後の炭鉱の話よね。」

M 「炭鉱って全く分からないんですよね。」

R 「そうだろうねぁ〜。今採鉱してる所ってあるのかな?」

A 「どうでしょうね。1〜2ヶ所くらいはあるんじゃないのかしらん。」

M 「石炭を採掘する所で、昔は沢山あったって頃は学校で習いましたけどね。」

A 「あら、それだけ?」

M 「はい。」

R 「オイラも本当はあんまり知らないんだよね。生まれたのが北海道だから、 夕張炭鉱の事は親から聞いてるけど。」

A 「まあ、日本経済の発展には欠かせない産業だったのよ。」

R 「事故も多かったんだよね。」

M 「事故?」

A 「そうそう。落盤や爆発ね。」

M 「怖いですね。」

A 「この芝居もその落盤が出てくるの。」

R 「炭鉱をめぐるヤクザの抗争とかの話?」

A 「まあ、近い。落盤事故の後で閉山された町。どの町で養豚場を経営する二つの元ヤクザ達。 ある日、養豚場から豚が一匹も居なくなった事から始まる抗争。豚を探してたどり着いたのは、 落盤事故があったあの場所だった。そこで聴こえる謎の炭坑節。」

M 「昔のヤクザ映画を観ているみたいですね、って観たことないんですけど。」

R 「ははは・・・・。」

A 「まあ、話は本当に他愛もないのよ。でもさ、役者達が格好よくてねぇ〜。」

M 「そんなに?」

A 「流山児事務所の顔、塩野谷正幸でしょ、唐組で彗星のごとく現れて突然退団、 今は色々な劇団に客演している丸山厚人。作家でもある劇団B級遊撃隊の佃典彦、 特別出演の本多一夫。でも、今回本当に格好よかったのは、これも流山児事務所の顔の一人、 若杉宏ね。」

R 「まだやってたんだね、彼。」

A 「勿論よ。本当に格好良かったわぁ〜。もう一言もでないのよ、格好よすぎて。ははは・・・・。」

M 「それじゃ、芝居も楽しくなりますよね。」

R 「確かに、そういう役者さんが出てれば楽しくはなるよね。」

A 「まあね。でも、さっきも言ったけど、話自体は他愛ないものなのね。今回の芝居は、 役者で魅せた、って言えるかしらね。」

M 「あの〜、これなんですけど。」

R 「あ〜、<サンセット大通り>かぁ〜。」

M 「これ、ちょっとロマンチックじゃないですか?」

A 「これね。正にそうね。」

R 「映画のグロリア・スワンソンが凄かったよね。特にあの最後のシーン。 もうイッチャッテル以外の何物でもなかったよなぁ〜。」

A 「本当に凄かったわよね〜。」

M 「で、舞台はどうだったんですか?」

A 「そりゃすごかったわよ、グレン・クローズ。最後のあの演出。 舞台だからアップは無いにも関わらず、 まるで彼女の顔がアップになっているかのように見えたもの。」

R 「オイラも観たかったなぁ〜。ニュー・ヨークではその後、 ロンドンの初演でノーマをやったパティー・ル・ポンやニュー・ヨークでキャッツのグリザベラやった ベティー・バークリー、ロンドンのキャッツのグリザベラだったエレン・ページがやったんだよね。 」

A 「そうなのよ〜。みんな超大物ばっかり。」

M 「ちょっと待ってくださいよ。ブロード・ウェイの話じゃなくて、日本の舞台の話ですよ、 日本の。」

A 「あっ、そうだったわね。」

R 「誰だったんだっけ?ノーマの役は。」

A 「宝塚出身の安蘭けいよ。」

M 「で、・・・。」

A 「で、まず舞台美術だんだけど、ロンドンやブロード・ウェイに比べたら、 お粗末すぎるくらいお粗末。中央の回転する盆の上に階段を作って、 それが回転する事でシーンが変わるんだけど、ノーマの家が豪邸に全く見えないし・・・。 勿論、豪華であればいいって訳じゃないけど、ブロード・ウェイの舞台観ちゃってるからねぇ〜・・・。 ちょっとお粗末じゃないかな、って。」

R 「オイラもTVで観たけど、凄いセットだったよね、ブロード・ウェイは。 もうそれだけで圧倒されちゃうって感じだったなぁ〜。」

A 「鈴木裕美の演出は、そのセットを良くは使っているんだけどね。 舞台って視覚も大切じゃない。だって、最初の方で、 若い小説家のジョーが借金取りに追いかけられて迷い込んだ大豪邸っていう設定じゃない。 だから、ジョーはその中に入って怯(ひる)む訳よ。でも、このセットじゃ・・・。」

R 「確かにセットは大事だよね。まあ、向こう版と同じにしないまでもね。 同じである必要性はないんだしさ。」

A 「そうね。でも、あのセットだったらコンサート形式の舞台でも良かったんじゃないかしら、 って。」

M 「話を聞いてるだけで、ブロード・ウェイの舞台の凄さが目に見える様ですね。で、 役者さん達は〜・・・。」

A 「全体をとしては、皆頑張ってたと思うのよ。でも、幾つか不満は残るわね。」

R 「ノーマの安蘭けいは?」

A 「本当に良くやってたと思うわよ。だけど、やっぱり若い。歌に説得力が欠けるのよ。 スケールが小さいっていうか。う〜む、小さいってのは少し違うかも。 大きくないと言った方が適切な表現だと思うわね。それから狂気を感じないの。 やっぱりイッチャッテル感じが出ないとね。」

R 「あの狂気は大事だよね。彼女はロマンチストなんだよね。だから空想家な訳でしょう。 どんどん自分の空想世界に入っていっちゃうわけだからね。」

A 「そうなのよ。」

M 「ロマンチストって空想家なんですか?」

R 「えっ?何言ってるの、ミキちゃん。ロマンチストって、夢や空想に憧れちゃうんだよ。」

A 「まあ現実逃避ってやつだって。」

M 「そうなんだぁ〜。現実逃避だとは思わなかったなぁ〜。」

R 「イッチャッテル、って重要だよ、あの話では。」

A 「ね。頑張ってただけにちょっと残念だったかなぁ〜。」

M 「他の役者さん達は?」

A 「ジョーの田代万里生は、まあ、無難にこなしてたけど、 ちょっと歌うのにイッパイって感じがしたわね。執事でノーマの最初の夫、 マックスをやってた鈴木綜馬は、及第点。だけど、これは演出なんだろうけど、 コミカルな動きは必要ないんじゃないかな、って。 脚本家志望のベティーをやった宝塚出身の彩吹真央は歌がイマイチ。 久しぶりに聴いたセシル・B・デミル役の浜畑賢吉は、ちゃんと歌えてて安心したわね、 ははは・・・。」

R 「結局、向こう版は越えられなかったって事かぁ〜。」

M 「越えるって難しいですよ。」

A 「そうね。ロンドン版やそれを踏襲したブロード・ウェイ版は越えられなかったって事ね。 まあ、越えられないのは目に見えてたけどね。でも、思ったほど酷くはなかったわね。」

R 「主役が変わったら大分変わるだろうね。誰が良いか想像するのも楽しいよ。」

M 「誰ですかねぇ〜。アキさんだったら誰だと思います?」

A 「アッシはこの役がやれるのは、雪村いづみか越路吹雪だけだと思ってるのよ、日本ではね。 さっきも言ってけど、狂気が大切。その狂気を出せて歌えるって言ったら、 その二人以外には考えられないのよ。でも、越路さんは亡くなちゃってるし、 今の段階では雪村いづみだけかなぁ〜。でも、ちょっと歳をとりすぎちゃったかもね。」

R 「確かに。まあ、どの世界でも越えるって難しいよ。」

M 「僕なんて皆さんを越えるなんて一生できないでしょうしねぇ〜。」

A 「アンタ、本当に怖いわね、ははは・・・。」

R 「ホントだ!ははは・・・。」

M 「えっ?また僕何か言っちゃいました?」

A 「こりゃダメだわね。ははは・・・・。」

一同「ははは・・・・・。」

おわり


 * 登場人物は全て仮名です。

 * 今回紹介したお芝居は

    1) 流山児事務所 <さらば豚>
        公演終了

    2) ミュージカル<サンセット大通り>
        上演中〜7/1   赤坂ACTシアター
        7/6〜8      大阪シアターBRAVA!

 以上です。梅雨の中ですが、どうぞ足をお運び下さい。

2012.6.25


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