<前を向いてりゃ夢がある>の巻

ポン子(以下P)「暑〜〜い、暑い。」

あき(以下A)「あら、ポン子、いらっしゃ〜い。・・・はい、オシボリ。」

P 「いや〜、気持ちいいわぁ〜。」

A 「暑い中、本当に有難うございます。今日は、何にしましょうか?」

P 「今月は<ミントビール>だったっけ?」

A 「そうですよ、<ミントビアー>。」

P 「じゃ、それ頂くわ!」

シュン(以下S)「美味しいですよね、これ。」

P 「あら、シュンも飲んでるのね、<ミントビール>。」

S 「ポン子さん、<ミントビアー>ですよぉ。」

P 「同じじゃないの、ねえ。ま〜、若い子って揚げ足ばっかりとっちゃってさ。」

S 「すいませ〜〜ん。」

A 「はい、お待たせ。まあまあ、そんな事でイライラしなくたって。」

P 「まあ、そうよね。もう暑いとさぁ〜、それだけでイライラしちゃうじゃないの。」

S 「もうエアコンの効いているデパートとか映画館に入るしかないですよね。」

P 「ホントよ、ね。まあ、一時だけど、ホッとするもの。」

S 「僕も今日は劇場でホッとしてきました。」

P 「あら、何観てきたのかしら?」

S 「三谷幸喜の文楽、<其礼成心中〜それなりしんじゅう>ですよ。」

A 「面白かったでしょ。」

P 「らしいわね。で、どうだったのさ。」

S 「僕、元々の文楽ってのは知らないんですけど、兎に角話が面白くて。」

P 「そりゃ、良かったじゃないの。最近大阪市の市長とやらが、文楽について、あ〜でもない、 こ〜でもない、ってとんちんかんな事言ってるけど、面白いのよ、文楽って。」

A 「元々は人形浄瑠璃でしょ。文楽って言われたのって大正時代からなのよね。」

P 「あ〜ら、そうなのね。まあ、最初は江戸時代でしょ。」

A 「そうそう。江戸幕府が出来て100年ほど経ってからかしらね。」

P 「<曽根崎心中>、<心中天網島>。」

S 「近松門左衛門の傑作ですよね。」

A 「勿論、傑作だし、大ヒット作よね。 それで当時赤字に喘いでいた人形浄瑠璃を上演していた小屋が一気に黒字になったって話があるくらいだからね。」

S 「へ〜、そうなんですかぁ〜。」

P 「庶民の芸能だからね、やっぱり。受けなきゃさ。」

A 「そうよね〜。まあ、伝統芸能に五月蝿い人は、何なの?この言葉は、な〜んて言いそうだけど、 アッシは何時も大衆芸能ってのは時代時代で新しい物が生まれて当然じゃないかと思ってるのよ。だから、 この三谷文楽もとっても面白く観る事が出来たわね。」

P 「どんな筋なのよ、三谷の文楽は。」

A 「<曽根崎心中>が流行った元禄時代の曽根崎は<おはつ天神>傍の饅頭屋が舞台。 天神の森で心中が流行って店は閑古鳥。それは困ると店の主人、半兵衛は連夜の見回り。 そこで見付けた心中するつもりの 六助とおせんの二人。 店に連れ帰り女房のおかつと説得してどうにか心中を留まらせるのよ。」

S 「そこで女房の説得を見ていた半兵衛がいい案を思いつくんですよね。」

A 「そうそう。心中しそうなカップルの悩みを聞いて説得し、帰りに饅頭を買わせようとするのよね。」

S 「これが大当り。所が、いいことはそんなに長くは続かないんですよね。」

P 「まあ、そんなに上手く事が運んだだけじゃねぇ〜。」

A 「二人の娘、おふくが持ってきたチラシに夫婦はビックリ!」

S 「近松の新作、<心中天網島>が大当りしてるって言うじゃありませんか。」

A 「おまけに近くにある天ぷら屋が猿真似の如く、心中したい男女に説教して、 帰りに天ぷらを買わせて大儲けしてるって言うじゃない。もう半兵衛としては居ても立ってもおられません。 再び閑古鳥が泣き始めた曽根崎辺り。これは全て近松門左衛門のせいだと直談判しに行く訳ね。」

P 「ちょっと面白くなってきたじゃないの。」

S 「当然の様に、けんもほろろ。」

A 「しかも、それなりの心中事件を起こせばそれを題材に芝居を書くと言われる始末。」

P 「益々面白くなってきたわねぇ。」

A 「打つ手無しで帰ってきた半兵衛。そこに追い打ちを掛けるような事件が起こるのよ。」

P 「う〜む、面白いよぉ〜。」

S 「二人の愛娘、おふくが大事な話があると帰ってきたんですよ。」

P 「まさか、娘の好いてる人が天網島の天ぷら屋だったりして。」

A 「流石はポン子。その通り。相手は商売敵の天ぷら屋。そう簡単に娘を許すわけにはいかない半兵衛。 何だかんだの末に漸く許して娘を天網島に返すんだけど、問題は残った借金。そこで考えた挙句、 近松の話を思い出し、自分達が心中しようと淀川に身を投げるのね。」

S 「だけど、あまりの苦しさに心中は中止。」

P 「ははは・・・・。面白い。」

A 「トボトボ家に帰る途中、二人を呼び止める声がして・・・。」

P 「中々じゃないのよ。」

S 「それが前に心中を止めさせた二人。 今では幸せになった二人は傾いた店の足しにとあの時の饅頭代を半兵衛に渡すんですよ。 最後は濡れた饅頭をヒントにまた新しい商売を考え付いて・・・。」

P 「なるほどね。死なないっていうのが良いじゃないよ。文楽は決して心中だけじゃないって事だわよ。 どっかの市長にも聞かせてあげたいわねぇ。って、アタシが観に行きたくなっちゃったわぁ。」

A 「でしょ。それにね、驚いたことにカーテンコールまであるのよ。」

P 「あらま。カーテンコールまで。そりゃ益々観たくなったわぁ。」

S 「本当に楽しかったですよ。これだったら僕たち若い者にも抵抗なく観る事が出来ますね。」

P 「やっぱり何があっても前に進むっていうのがいいわ。」

A 「そういう意味では、高田聖子が主宰する月影番外地の<くじけまみれ>も良かったわね。

S 「高田聖子って、劇団新幹線の?」

A 「そうそう。これが大人の夢っていうのかな、とっても良いのよ。」

P 「大人の夢ねぇ〜。でも、夢が夢で終わることって良くあるじゃない。」

S 「そうですよねぇ〜。良くありますよ、夢で終わっちゃうって事が。」

A 「そうね。この<くじけまみれ>もそうかもしれないわね。でも、その先は描かれてないのよ。 前を向いて新しい世界に飛び込んでいく所で終わっちゃうの。でも、それで良いんじゃないかな、 って。前を向いて進んでいく。それって、夢に向かって進んでいくって事じゃない。そこにロマンを感じるのよね、 アッシなんかは。」

P 「ま〜ぁ、アキちゃんからロマンだなんてね、ははは・・・。超現実的だと思ってたけど、ははは・・・。」

A 「そうそう。まあ、現実的は現実的だけど、夢を持たないってことはないのよね、これでも。」

S 「僕らの年代だとあんまり夢を持てないかもですね。」

P 「ま〜アンタ等の世代はねぇ〜。可哀想といえば可哀想よ。アタシなんか、この歳になったって夢は持ってるのよ。」

S 「何なに?何ですかぁ〜?」

P 「それはヒ・ミ・ツ。」

A 「そんなに簡単に明かせないわよね、夢ってさ。でも、夢に向かって進んでいくっていう姿勢が大切だと思うのよ。」

P 「そうそう。ひばりちゃんも歌ってたじゃない。右のポッケにゃ夢がある、って。」

S 「何ですか?ポッケって。」

P 「ポケットよ、ポケット。ほ〜んと、夢も希望も有ったもんじゃないわね。」

S 「いやいや、勉強になりました。ポッケって、ポケットの事なんですかぁ〜。 僕らの年代って知ってる事と知らないことの落差が相当大きいんですよね。だから、常に勉強勉強。」

A 「まあ、これも前を向いてるって事よね。」

P 「そうよねぇ〜。アタシ達も積極的に前向きにいきましょうよ。」

A 「前を向いて夢に向かってね。」

P 「それじゃ、夢に向かって乾杯しましょ。アキちゃんも何か飲んで〜。」

A 「はい、有難うございます。それじゃ、頂きま〜〜す。」

P 「じゃ、いいわね。かんぱ〜い!」

一同 「かんぱ〜い!」

おわり


* 登場人物は全て仮名です。

* 今回紹介したお芝居は・・・

  1)  三谷文楽<其礼成心中>
        公演終了

  2)  月影番外地<くじけまみれ>
        公演終了
以上です。毎日暑い日が続いています。外出は控えたいと思ってらっしゃる方も、 劇場や美術館などに足を運んで一時の涼を求めてはいかがでしょうか?

2012.8.27


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