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<普通の隣>の巻
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彦太郎(以下H)「こんばんはぁ〜!」 あき(以下A)「いらっしゃ〜い。彦太郎久し振りじゃないの。はい、オシボリ。」 H 「ご無沙汰しちゃって。実は短期出張でニューヨークに行ってたものですから。」 なべちゃん(以下N)「ニューヨークかぁ〜。いいなぁ〜。」 H 「なべちゃんさ、遊びに行ってた訳じゃないんだからね。」 A 「そうよぉ〜、お仕事、お仕事。で、彦太郎、今日は何にしましょうか?」 H 「久しぶりだし、アキちゃんのお勧めドリンクを。え〜と、今月は<秋の足音>ですね。どんなのですか?」 A 「ボンベイ・サファイヤ・ジンとチンザノのスウィートを同量混ぜてトニックウォーターで割ったのよ。 ちょっと甘いかも。」 H 「いいです、いいです。甘いのって疲れを癒してくれますからね。」 N 「彦太郎さん、これですよ。ほら、レモンが三日月に見えるでしょ。」 H 「やっぱり秋をイメージしてるんですね。お願いします。」 A 「あいよっ!でいつ帰って来たの?」 H 「ついこの前です。今月に入ってからですね。」 A 「あっそう。今月のお勧めドリンクだけど、東京は先月まで本当に暑かったのよ。で、 気分だけでも秋に浸ってもらおうかな、って考えたんだけど、早くも今年は秋が訪れちゃってぇ。でも、 いいでしょ、中々。」 H 「いいですよ、秋ですからね。東京が暑いのは向こうでも話題でしたよ。ニューヨークの今年の夏は、 そんなに暑くはありませんでしたから。」 N 「そうなんですか?」 H 「そうだね。」 A 「はい、お待たせ。」 H 「結構強いですね〜。」 A 「そうなのよ。2/3がお酒だからね。」 H 「そんなにぃ〜。でも、美味しいですよ。」 N 「彦太郎さん、ニューヨークにいってたらお芝居とかミュージカルとか沢山観たんでしょうね。 羨ましいなぁ〜。」 H 「それがそうでもなかったんだよね。最初は慣れないっていうか。 初めてだったから街の探訪に時間掛けちゃってね。面白いもんだから休みになると歩いてましたよ、 マンハッタンを。」 A 「楽しいものね。アッシも結構歩いたわよ。健康的よね、意外と。」 N 「でも、お芝居の本場ですからね〜。な〜にも観ないな〜んて事はぁ〜・・・。」 H 「そりゃないよ。好きだしさ。」 A 「で、どんなの観たの?」 H 「ストレート・プレイが<バウンティフルへの旅>一本。もう語学力の無さを痛感しちゃって。 半分位しか分かりませんでしたよ。」 A 「よね。でも半分も分かるなんて凄いわよ。アッシなんか1/3も分からないもの。」 H 「その点、ミュージカルは少し楽だよね。」 N 「じゃあ、ミュージカルは結構観たんですね。」 H 「それほどでもないよ。<スパイダーマン>、<キンキーブーツ>、<ピピン>、 それに<モータウン>の4本かな。」 N 「意外に少なめですね。」 A 「なべちゃん、仕事で行ってるんだから、仕事でね。観てる方だと思うわよ。」 N 「で、どうだったんですか?」 H 「<スパイダーマン>はスーパー歌舞伎みたいでしたよ、ははは・・・・。フライングはあるはセットは豪華だわ。 でも、それだけかな。<キンキーブーツ>は流石に今年のトニー賞とっただけあって見応えはあったね。 特に主演のビリー・ポーターが本当に良くって涙物ですよ。それと見た中では一番良かったのが<ピピン>。 もうサーカスだね、あれは。でも本当に凄く良かったんだよね。再演じゃなかったらトニー賞獲ったんじゃないかな〜。それに比べて期待が大きかっただけに残念だったのが<モータウン>。もう話がチープすぎ。でも、出演者の歌唱力が並じゃなく凄いんで何となく納得しちゃったんだけどね〜。それから、嘗てのヒット曲が満載だから、それを聴くだけでも60年代〜70年代にその音楽に親しんでいた人は喜ぶんじゃないかな。」 N 「へ〜。行きたいな〜、ブロードウェイ。」 A 「なべちゃんはせいぜい行っても中野ブロードウェイよね、ははは・・・・。」 H 「中野ブロードウェイね。毎日通ってますよ、ははは・・・・。」 N 「アキさんも彦太郎さんも酷過ぎますぅ〜。まあ、そうですけどね、ははは・・・・。」 H 「所で、最近何か観ました?」 A 「ブロードウェイ物じゃ、こちらのキャストだったんだけど、<ネクスト・トゥ・ノーマル>を観たわ。 もうブロードウェイじゃ終わっちゃってるのよね。」 H 「そうなんですよね。観たかったんですよ、あれ。」 N 「どんな話なんですか?」 A 「ある一家族の話よ。そこの奥さんが双極性障害なのよ。」 N 「双極性障害?」 H 「まあ、簡単に言えば躁鬱病だよ。」 N 「結構難しい問題をミュージカルにしたんですね。」 A 「なのよね。よく取り上げたと思って。」 H 「それだけだったらダメだったんだろうけど、病気と闘う家族の物語にしたのが良かったのかもね。」 A 「そうね。それは大きいわよ。トニー賞じゃ、作品賞こそ<ビリー・エリオット〜邦題リトル・ダンサー> にさらわれたけど、主演女優賞、楽曲賞、編曲賞の3部門を獲得したし、 翌年にはピューリッツァー賞も受賞してるのよ。」 N 「で、話は・・・・?」 A 「そうだったわね。郊外に暮らす4人家族のお話。とても暖かくて平和に見えるその家庭は、 実はある問題を抱えているのね。その問題は、母親のダイアナが精神障害にかかっているってことなのよ。 旦那のダンは彼女を支えながら仕事をしているんだけど、既に疲れはピークに近付いてるの。娘のナタリーは、 母親が兄のゲイブばかりを愛していて自分には愛情が注がれてないと感じてる。そんな家族の物語なのよ。」 N 「結構キツイ話ですよね。」 H 「だよね。」 A 「で、話が進んでいくと分かるんだけど、実はダイアナがその病気になった原因がある事故にあったのね。」 N 「事故?」 A 「そう。実は息子のゲイブは生後数ヶ月で亡くなってるのよ。でも、 ダイアナの中ではず〜っと成長し続けてるわけね。」 H 「その息子の幻影との闘いって事かぁ〜。」 N 「それだけじゃないですよね。それを支え続けてる家族の苦しみ。旦那も娘も闘ってる訳ですよね。」 A 「そうなの。で、当然医者から処方された薬を飲んで生活している訳なんだけど、ある日、 ダイアナはその全ての薬をトイレに流してしまうのね。」 N 「あらま、大変だぁ〜。」 A 「ダンはそんな妻を見かねて、 その筋では有名だと聞いたドクター・マッデンの所に連れて行って新しい治療を受けさせるの。」 H 「それはどんな?」 A 「所謂、ショック療法よ。」 N 「ショック療法って、電気で痙攣発作をさせるあれですか?」 H 「あ〜、ECTの事かぁ〜。」 A 「ECT?それってショック療法の事なの?」 H 「そうそう。」 A 「そう言えば、セリフにそんなのがあったわ。ECTね。」 N 「で、どうなったの?」 A 「大分改善はされるんだけどね。家族はその時、ある事実を隠そうとするわけよ。」 H 「息子が死んでるっていう事実かな?」 A 「そのとおり。でもね、何か引っかかってるのね、ダイアナは。」 H 「その内記憶が戻って・・・。」 A 「ダンのストレスは増す一方。ナタリーは薬物に頼るようになって・・・。 あまり幸せな終わり方はしないのよ。」 N 「でも、どうなんでしょうね。話を聞いているだけですけど、何が一番幸せなのか。 普通に暮らしてることが幸せなのかどうか。ダイアナにとっては、もしかすると、 死んだ息子のゲイブの幻影と過ごしていることが普通のことで、そして幸せだったのかも。」 H 「そうだね。ダンにしたって、虚構の家族の中で生きていくのの良かったかも。」 A 「このミュージカルのタイトル、<ネクスト・トゥ・ノーマル>って、普通の隣ってことでしょ。 一体普通の隣って何?って。」 N 「その前に何が普通で何が普通じゃないかって事もあるよね。」 H 「そうだね。このミュージカル、色々な問題を含んだものみたいだから、 観ている方は本当に難しいと思っちゃうだろうね。それに、ハッピーエンドじゃないみたいだし。」 A 「そうなのよね。これさ、アメリカだから作れたミュージカルじゃないかな、って。家族、友達、医療の世界。 色々考えさせられるミュージカルだったわね。」 H 「本当に難しそうだね。出張の時にこれ観てたら、自分もどうかなってたかもしれないな〜。」 A 「アッシ思うんだけど、結局普通の隣には、何があったっていい、 言い換えれば人其々に普通の隣って違ってるってことなのかしら、って。」 N 「な〜るほどね。」 H 「いや〜、帰ってから初めて色々考えさせられちゃったなぁ〜。まさかアキちゃんの所でとはね。」 A 「ゴメン、ゴメン。折角リラックスしに来てくれたのに。」 N 「でもさ、アキさんの所って、だから良いんじゃないかなぁ〜。」 H 「確かに、ペンギンならではだよね。っていう訳で、お代わりもらっちゃおかな。」 N 「それじゃ、オイラも!」 A 「あいよっ!」 おわり * 登場人物は全て仮名です。 * 今回紹介したお芝居は、 1) <バウンティフルへの旅> ニュー・ヨーク スティーブン・ソンドハイム劇場で上演中 10/9まで。 2) <スパイダーマン:ターン・オフ・ザ・ダーク> ニュー・ヨーク フォックスウッズ劇場で上演中 3) <キンキーブーツ> ニュー・ヨーク アル・ハーシュフェルド劇場で上演中 4) <ピピン> ニュー・ヨーク ミュージック・ボックス劇場で上演中 5) <モータウン> ニュー・ヨーク ラント・フォンティーン劇場で上演中 6) <ネクスト・トゥ・ノーマル> 日比谷 シアタークリエで上演中 9/29まで 兵庫県立芸術文化センター 10/4〜6以上です。芸術の秋、旅行に行かれる方も多いと思います。どうぞ足をお運び下さいね。 2013.9.24
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