<兎に角・・・>の巻

忠(以後T)「それにしてもアキさん、ちょっと今日調子悪くありませんか?」

あき(以後A)「え?そんな事ないんだけどぉ〜。そういう風に見える?」

のり(以後N)「そう言えばそう見えるかもね。」

A 「あら、気を付けないと。でも、調子悪くないんだけどねぇ〜・・・。もしかしたらあれが原因かしらん。」

T 「心当たりがあるんですね。何なんですか?」

N 「何なんですか?」

A 「大した事じゃないの」よね。この前観た芝居がね、まあ、何と言うかぁ〜・・・。」

N 「何観たんです?」

A 「安蘭けいの<レディー・デイ>なの。」

T 「今掛かってるアルバムも<レディー・デイ>ですよね。これは?」

A 「これは、今年のトニー賞の主演女優賞取ったオードラ・マクドナルドのものなのね。まあ、これと同じ演目なんだけどさぁ〜。良くはやってるのよ、安蘭けいも。でもね、何かシックリこないって言うのかなぁ〜。」

N 「これさぁ〜、昔ちあきなおみが演らなかったっけ?」

A 「そうそう。その後も、田中梨花ちゃん、NLTの阿知波さんらが演じてるんだけどね。何しろ日本初演でのちあきなおみの演技が素晴らしくて素晴らしくてさ。アッシ、その1年ちょっと前にオフ・ブロードウェイで観てるんだけど、ロネット・マッキーが主演したその舞台も素晴らしかったんだけど、ちあきなおみの舞台を観たらそれ以上でさ、何度も観に行っちゃって。」

N 「確か、俺もアキちゃんにチケット頼んで取ってもらったよ。いや〜、感激したの覚えてるなぁ〜。もう20年位前だよね。」

T 「そんな前なんですかぁ〜。」

A 「そうね、もうその位よね。」

N 「で?」

A 「そうそう、話を戻しましょうね。安蘭けいって宝塚歌劇団のトップスターだったじゃない。その感じが抜けないって言うのかなぁ〜。」

T 「有りがちですよね、宝塚出身の女優さんて。」

A 「この設定ってビリー・ホリデイが亡くなる数か月前、彼女最後のライヴをモチーフにして書かれてるんだけど、亡くなる数か月前って、もう彼女ボロボロだったのよ、酒とドラッグでね。」

N 「ちあきなおみ、上手かったなぁ〜。」

A 「ホントね。歌は勿論なんだけど、台詞の表現がね。本当に巧かったわぁ〜。大袈裟じゃないんだけど、脳が酒とドラッグでやられてるのが凄く分かったもんね。でも、安蘭けいは、頑張ってはいるんだけど、こっちに伝わってこないのよね。まあ、ピアニストと二人の舞台だけど、殆ど一人舞台と言ってもいい様な舞台じゃない。よっぽどじゃないと厳しい事は厳しいけどぉ〜・・・。」

T 「演出はどうだったんですか?」

A 「演出家が同じだから殆どちあきなおみの時と変わらないんだけどね〜。おなじ演出でも役者が変わると全く違う舞台になってしまうのよね。特に最後のシーン。歌がフェードアウトしてくんだけど、そのシーンでまだそこに安蘭けい、彼女自身がいるのね。だから感動できないのよ。」

T 「さっきアキさんが宝塚が抜けないって言ったのはそれなんですかぁ〜。」

A 「そうね。まあ、初演がいいと後が本当に難しいのも分からなくはないんだけどねぇ〜。今、オードら・マクドナルド主演のオリジナル・キャスト版を掛けてるから余計にそう思っちゃうんだけど、兎に角シックリこなかったのよぉ〜。」

N 「まあ、残念だったよね。ところでさ、最近観たので何か面白かったのなかったの?」

A 「有るわよ、有るわよ。これはお勧めできるわよ。」

N 「何?」

A 「三谷幸喜演出の<抜け目のない未亡人>っていう芝居。初台の新国立劇場でやってるんだけど、最初から最後まで笑いっぱなしだったわよ。」

T 「どんな話なんですか?」

A 「元、と言うか、休業中の女優と二流の映画監督とのドタバタ喜劇ってところかな。」

N 「これね、このチラシかぁ〜。凄いキャストだね、この芝居。」

T 「どれどれ〜・・・。ホントだぁ〜。大竹しのぶに段田安則、八嶋智人、岡本健一、木村佳乃・・・。」

N 「中川晃教、高橋克実、峯村リエ、小野武彦に浅野和之・・・。どんな芝居よ〜?」

A 「この原作ってカルロ・ゴルドーニっていう18世紀の人なのよね。舞台はベネツィア。」

T 「ベネツィアと言えば映画祭ですね。」

A 「そうそう。この上演台本は三谷幸喜が作っているんだけど、今回の舞台の成功は時代を現代に変えた事だと思うのね。さっき忠が言ってたけど、ベネツィアと言えば映画祭じゃない。勿論、水の都ってのも有るんだけど、今回は、そのベネツィア映画祭が行われているベネツィアのとあるホテルが舞台なのよ。で、原作で金持ちの未亡人を元大女優に、彼女に求婚するイギリス、スペイン、フランス、そしてイタリアの貴族をそれぞれの国の映画監督にして、元大女優を自分の作品で復帰させようとして巻き起こる色々な出来事。本当に最初から最後まで笑いっぱなしだったわね。」

N 「ドタバタ喜劇は三谷さんお得意だもんなぁ〜。それにこの役者陣だったら達者だし、面白いのが目に見える様だよね。」

T 「誰が良かったですか?」

A 「そりゃ、皆良かったわよぉ〜。特に狂言回しと言うか、進行役と言うか、ホテルの従業員役の八嶋智人。彼を配した事が大きかったわね。率なく立ち回る軽さが物語をスムーズに進めていったわね。それから、元大女優のエージェントを演った峯村リエ。ナイロン100℃とはまた違った魅力を出してホントに素敵。他にも4人の映画監督達は大袈裟で馬鹿馬鹿しいんなんだけどはまり役。大女優の妹役の木村佳乃も頑張ってたし。勿論、元大女優役の大竹しのぶは言う事なしよ。」

N 「観てみたくなっちゃったなぁ〜。」

T 「僕もですよぉ〜。」

A 「もうひと月近くやってるけど、評判が良くてチケットは当日券が出るだけみたいだから行くんだったら早目に並ばないとね。」

N 「そうだろうねぇ〜。」

A 「兎にも角にも面白いからね。並んで損はありませんよぉ〜。」

T 「行ってみるしかないですね、のりさん。」

N 「それじゃ、頑張ってみるかぁ〜。」

A 「頑張って〜〜〜!」

N 「じゃ、アキちゃんジン・トニックお代わりぃ〜!」

T 「僕もカンパリ・オレンジお代わり下さい。」

A 「あいよ!」

おわり

* 登場人物は全て仮名です。

* 今回紹介したお芝居は

  (1) レディー・デイ
       公演終了

  (2) 抜け目のない未亡人
       上演中〜7/31  新国立劇場中劇場
以上です。酷暑の中ですが、どうぞ足をお運び下さい。

2014.7.26


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