<逝っちゃった!>の巻

モッちゃん(以下M)「アキさん、大変大変!」

スターちゃん(以下S)「モッちゃん、どうしたんですか〜?」

あき(以下A)「ホントにぃ〜。まあまあ落ち着いて。はい、オシボリ。」

M 「あ〜、気持ちいい〜〜!な〜んて言いてる場合じゃないですよ!」

S 「だから、どうしたんですか?」

M 「もう聞いたらビックリしちゃうどころじゃありませんよ〜。」

A 「だからぁ〜、どうしたのよ1」

M 「蜷川さんが、蜷川さんがぁ〜・・・。」

S 「亡くなったんですよね〜。」

M 「えっ!知ってるんですかぁ〜?」

A 「何言ってんのよ、モッちゃん。もうとっくに知ってるってぇ〜。さっきからその話をしてた所よ。」

M 「な〜んだ、皆知ってたんですかぁ〜・・・。」

S 「結構大きな話題ですからね〜。ニュースでもトップ扱いだったし。」

M 「え〜、そうなのぉ〜・・。折角驚かせようと思ってたのにぃ〜、がっかり。」

A 「残念でした。モッちゃん、アッシ達がそんなニュース知らないとでも思って?」

M 「まぁそうですけどぉ〜。」

A 「まあ、一息ついてぇ〜、で飲み物をね。」

M 「は〜い。」

S 「折角一所懸命情報を持ってきてくれたんですから、最初の一杯は私から差し上げてくださいよ。」

M 「スターさ〜ん、本当に優しい。甘えちゃっていいんですか?」

S 「嫌だったらいいんですけど・・・。」

M 「いやぁ〜、そんな事ありませんって。喜んで甘えさせて頂きますぅ〜。」

A 「じゃ、どうしましょ。」

M 「え〜と、折角ですからスターさんと一緒の物を。」

A 「スターちゃんは今月のお勧めドリンク<グリーン・ドラゴン・フライ>よ。」

M 「ジンがベースでしたよね。それお願いします。」

A 「アイヨっ!・・・・はい、お待たせ。」

M 「それじゃ、スターさんいただきま〜〜す!う〜む、美味しいですぅ〜。」

A 「まあ、人様から頂く物は格別美味しいってね、ははは・・・。」

M 「アキさん、ホント意地悪いですね。」

S 「モッちゃん、何を今さら。」

A 「あらあら・・・。どうせアッシは意地悪ですよぉ〜、ははは・・・。」

M 「所で、蜷川さんの話をしてたんですよねぇ〜。どんな話だったんですか?」

S 「アキちゃんの事だから結構観てるじゃないですか、彼の作品も。で、印象に残ってるのとか受け付けられなかったものだとかね。そんな話をし始めたところだったんです。」

M 「じゃ、その話、最初から聞けるんですね。」

S 「そうですね、ギリギリセーフってところですよ。ははは・・・。」

M 「ラッキーです。早くしましょうよ、蜷川さんの話。」

S 「それじゃ、アキちゃんと蜷川さんの出会いから。」

A 「出会いなんて言われちゃうと知り合いみたいだけど全く個人的には存じ上げないのよ。作品の出会いと言う事で構わないわよね。それで言うと、高校3年の丁度今頃だったと思うのよね。ちょっと記憶が定かじゃないんだけど、3年になったばかりだったようなきがするのよね。その時、今の伊勢丹の明治通りを挿んで向かい側にアートシアター新宿っていう映画館があったのね。そこは夜映画の上映が終わると芝居を打ってたんだけど、そこで唐十郎作の<盲導犬>という芝居が掛かってたのよ。」

M 「<盲導犬>って何年か前にもやりましたよね。」

A 「そうそう、それ。それが蜷川さんとの出会いかな。」

S 「で、どんな印象を持ったんです?」

A 「それがさ、全く何が何だか分からなかったのよね。でも、当時はその何が何だか分からないのがいいみたいなさ。」

S 「何か分かりますね〜。学生運動も前年の赤軍派のリンチ事件をきっかけに大分下火になってきた時代ですよね。ノンポリが増えてきたというか。」

M 「ノンポリってぇ〜・・・。」

A 「今の若い人たちもそう言う人が多いと思うんだけど、政治や学生運動に関心を持たない人たちの事を言うのよ。で、そんな時代にアッシはアングラ演劇にのめり込んでくわけよ。蜷川さんは当時櫻社っていう演劇集団をつくってて、この<盲導犬>もそこの作品なんだけどね。さっきも言ったけど全く分からなくて。でも、蟹江敬三や石橋蓮司、緑魔子や当時凄く話題になっていた桃井かおりが輝くばかりに格好良くてね、それだけが印象に残った舞台だったのね、アッシにとっては。」

S 「アキちゃんにとっては衝撃を受けた出会いじゃなかったんですね。」

A 「そうかもね。その前に寺山修司の天井桟敷や唐十郎の状況劇場を観てたから、それに比べると衝撃度はイマイチだったかも。まあ、慣れてきてたのかもね。」

M 「その後はそうでした?」

A 「その後、当時調布だったかあの辺りにあった大映東京撮影所でやった<唐版・滝の白糸>に出合うのね。」

S 「出合う、って言う事は結構衝撃的だったんですね。」

A 「ま〜ぁ、ビックリポンよぉ〜。状況劇場の李礼仙、ザ・タイガースの解散からソロになっていたジュリー(沢田研二)、それに怪優と言われた伊藤雄之助の存在感が並じゃなかったのよね。その後、李の役を松坂慶子、富司純子、大空祐飛、ジュリーの役を岡本健一、藤原竜也、菅田将暉、伊藤雄之助の役を壌晴彦、西岡徳馬、平幹二朗が演じてるけど、やっぱり初演の配役には及ばないわね。」

M 「でも凄いですよね、撮影所でしょ。」

A 「そうそう。多分今は角川映画の撮影所になってると思うけど、記憶が間違ってなければ近くに中学か高校があったような・・・。」

S 「ありますよ、あの〜〜、多分調布何とか高だったと思いますけどね。」

A 「高校だったのかぁ〜。」

M 「アキさん、変な事考えてませんよね。」

A 「考えてるわけ無いじゃないのよ!ははは・・・。」

S 「しかし、そんなに衝撃的だったんですねぇ〜。」

A 「まあ、20歳くらいだったしね。感性も鋭かったのよ、きっと。その後も<王女メディア><近松心中物語><NINAGAWAマクベス><下谷万年町物語><タンゴ・冬の終わりに>と10年位の間蜷川幸雄にハマってた時期があったわね。」

M 「その中で特に印象深いのってありますか?」

A 「<王女メディア>は辻村ジュサブロウの衣装、<近松心中物語>では主役の忠兵衛を演じた平幹二朗、梅川を演じた太地喜和子も良かったけど、もう一つの心中物の与兵衛を演じた菅野忠彦とお亀の市原悦子の印象が優ってたのを覚えてるし、<NINAGAWAマクベス>では何と言ってもあの仏壇をイメージした舞台が、<下谷万年町物語>では当時新人だった渡辺謙の凛々しさ、<タンゴ・冬の終わりに>では平幹二朗の狂気と松本典子の演技が印象に残ってるの。でも、その後、なんだか熱が冷めちゃったというか、渡辺えりの300、野田秀樹の夢の遊民社、川村毅の第三エロチカ、石橋蓮司と緑魔子の第七病棟など小劇場が台頭してきて蜷川の大舞台より魅力的になってきちゃったのよね。」

S 「なるほどねぇ。それから暫く蜷川さんの世界から離れちゃうんですね。」

A 「全く離れてた訳じゃないのよ。帝劇でやってた浅丘ルリ子主演物は観ていたしね。でも、昔の衝撃は無かったのよね。」

M 「でも、また最近は観てますよね。」

A 「そうね。切っ掛けは、蜷川が今まで取り上げなかった寺山修司の<身毒丸>を上演してからなのよ。寺山の<身毒丸>はJ・A・シーザーのロック系の音楽に乗って若松武史と新高恵子が捻じれた愛情を表現してて素晴らしかったんだけど、蜷川が演出した<身毒丸>は全く違っ世界を作っていたのね。定番のツバキを天井から落とす最初のシーンは「またか!」と思わせる前に<身毒丸>の世界を作っていたし、武田真治と白石加代子の捻じれた愛は寺山とは違い静かに進行していくの。これが新しい解釈でアッシの胸にズキン!ときちゃったのよね。」

S 「それからまたのめり込んで行くんですね、蜷川さんの世界に。」

A 「そんなにはのめり込んではいないけど、上演されれば観に行く様にはなったわ。この前も<海辺のカフカ><元禄港歌>に行って来て、来年は<近松心中物語>の再演、その前に、昔浅草の映画館で第七病棟がやった<ビニールの城>を演出するっていうから楽しみにしてたんだけど・・・。本当に残念で仕方ないわよ。」

M 「結構精力的に演出してましたもんね。ほぼ毎月じゃないですか。」

A 「そうね。だから演出するもの全てが良かった訳じゃないじゃない。」

S 「それはありますよね。誰にでもありますよ。アキちゃんにだってあるでしょ?」

M 「えっ?アキさんにも失敗って有るんですか?」

A 「当たり前じゃないのよぉ〜。アッシは人生に失敗したわね。」

M 「人生に?」

A 「そうよ。美人薄命っていうのに、三回も死にかけちゃってるのに還暦も過ぎちゃったしね。可笑しいと思わない?ははは・・・・・。」

S 「まあ、アキちゃんも僕も頑張りましょうよ、折角ここまで来たんだしね。」

M 「そうですよ〜。」

A 「そうお思ってますよ。芝居も始めたし、頑張るしかないわよね。これからもよろしくお願いしますよ、皆様。」

S 「勿論ですよ。さ、みんなで乾杯しましょ。アキちゃん、みんなで乾杯、乾杯。」

A 「はいよ!・・・・・それじゃ、皆様、これからも宜しくお願い致します。」

S 「かんぱ〜い!」

一同 「かんぱ〜い!」

おわり
* 登場人物は全て仮名です。また敬称は略させて頂きました。
2016.5.22


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