《奥が深いって素晴らしい》の巻

あき(以下A)「ゴメン、ゴメン。待ってた?」

チカちゃん(以下C)「9時半オープンって書いてあるから。」

A「ゴメンね〜。芝居が終わったのが9時40分頃だったのよ。」

C「それにしては早いですよ。」

A「はい、お待たせ。どうぞ。」

C「そう言えばあきさん、見ました?トニー賞。こんな事あり?って感じ でしたよね。」

A「凄かったわよね。アッシもビックリしちゃったわよ。いくらネイサン ・レインとマシュー・ブローデリックという大物2人が出演していて、チ ケットが取れないからって言ったって、まさか《プロデューサーズ》があ んなに独占するなんてね。《フルモンティ》なんか一つも獲れなかったし ね。」

C「12部門。凄いですよ。」

A「トニー賞の新記録だったみたいよ。」

C「へ〜。早く観たいですよね《プロデューサーズ》。ところ で、近かったんですか?劇場は。」

A「新国立劇場だったのよ。え〜と、チカちゃん、何にしよっ?」

C「それじゃ、まずビール。」

A「あいよっ!もう『まず、ビール』っていう季節なのよね。」

C「そうですよ。もう6月ですからね。蒸し蒸ししちゃって。ところで、 あきさん、今日は何を....?」

A「今日はね、野田秀樹の《贋作・桜の森の満開の下》に行ってきたのよ 。」

C「イヤ〜!行きたかったな〜。俺ですね、元々新劇が好きなので、野田 秀樹さんの芝居はどうも.....、って思っていたんですけどね。だ ってデタラメじゃないですか。男がほんとは女であったり、でもやっぱり 男だった、なんてのが、ざらにありますよね。ついていけなかったんです よ、そのデタラメさに。」

A「そのデタラメさがいいんじゃないのよ。何しろ、この《贋作・桜の森 の満開の下》だって、〃ガンサク〃って読ませるんじゃなくて、〃にせさ く〃って読むのが正しい、と昔言ってたしね。正しさなんていい加減なも んだって。そこが野田秀樹の凄い所なのよね。デタラメさの素晴らしさ。 素敵じゃないの。」

C「そうなんですよね。それを気が付かせてくれたのが、この《贋作・桜 の森の満開の下》だったんですよ。高校3年の時だったから、もう8〜9 年前の事なんですけどね。」

A「それじゃ1990年代初めの再演の時ね。アッシも初演は観逃しちゃ ったから、同じ頃に観ているのよね。確か、日本青年館だったと思うんだ けど。」

C「そうです、そうです。国立競技場の近くの。野田さんが主役の、何で したっけ?」

A「耳男でしょ。毬谷友子が夜長姫。それにオオアマがアッシが大好きな 若松武。それに羽場裕一君も出ていたわよね。」

C「そうでした。毬谷さん、とっても好きなんですよ。宝塚時代も観たか ったです。う〜ん、残念!」

A「今回はキャストが全く替っててね面白かったわよ。」

C「へ〜。どんなキャスティングだったんですか?」

A「まず、驚いたのは、主役の耳男が野田秀樹じゃなかったのね。」

C「て、言うと?あっ、そうだ。堤真一でしたよね。チラシで見ました。」

A「もう野田の芝居には欠かせない一人となった堤真一。アッシ、何時も 思うんだけど、堤真一って良いのだけど、なんか何観ても一緒なのよ、喋 りが。上手なんだけど、前に出た《パンドラの鐘》の〃ミズヲ〃と、台詞 回しが同じなのよね。それがチョット気になるんだけど、でも、ちゃんと 〃耳男〃になってる。そこが彼の魅力だし、実力なのかもね。全く野田自 身が演じた〃耳男〃とは違った耳男像を作っていたわね。こんな耳男も良 いかもね、って。」

C「他のキャストは?」

A「《キル》、《半神》、《農業少女》に続いて4回目の深津絵里。この 子、とっても不思議な子よね。凄く良い。堤君と違って、この子は何時も 違って見える。あの声は耳に残って離れないんだけど、何時も違って聞こ えるのよ。とっても不思議よね。」

C「俺は《半神》しか観ていないんですけど、あのキャッキャしている声 しか印象に残っていないですね。」

A「そう。アッシはこんなに声を持っている子は珍しいと思っているんだ けど。また観に行った時にでも感想聞かせてよ。」

C「はい、分りました。その他は?新幹線の古田新太も出てますよね、確 か。」

A「出てるわよ。いつもの様に、俺は古田ダ〜!っていう存在感。今回も 出してくれました。良くなったなって感じたのが入江雅人。《パンドラの 鐘》で、〃オズ〃を演った人。あの時は蜷川版の同じ役が高橋洋君だった でしょ。チョット実力の差を感じてしまったんだけど、今回はいいわ。」

C「成長しているんですね。素晴らしい事ですよ。」

A「そうそう、これはスゴイって思わせてくれたのが、ハンニャを演じた 犬山犬子。この人上手です、本当に。ちょっと追っかけしたい気がしたわ ね。それに変な存在感のある、赤名人を演った荒川良々。この人、ヘン。 変ってるわよ。アンタ、本当は誰?って聞きたくなるわね。大柄だから余 計そう思うんだろうけど、地なのか、演技なのか分らないのよね。でも、 面白い。それは確かだわね。」

C「役者ばかりではなく照明とか美術とかはどうだったんです?」

A「照明も美術も、特にここが良かったって事はなかったんだけど、両者 が相まって、とても美しかったわね。でも、今回特筆すべきは、新国立劇 場中劇場の舞台の奥深さ。これは凄い。流石、国立!って叫びたい位凄い 。」

C「奥が深いって本当に良い事ですよ。いろいろ出来るし、発想が広がっ ていきますよね。いいな〜。俺もそんな所で演出してみたいですね。」

A「そうでしょ。あれは本当に良いわ。あの奥が深い事で今回の演出は決 りだった様な気がするわね。美術も照明も演出も、あの奥の深い舞台を中 心に進められたんじゃないのかしらん。量としてはそんなに多くはなかっ たけど、桜の花びらが散る場面なんか、たまらない位良かったもの。」

C「綺麗だったでしょうね。」

拓(以下T)「今晩わ。あきちゃん、とりあえずビール。」

A「あいよっ!」

T「何、二人で盛り上がってたんですか?」

A「はい、お待ち。いやね、奥の深さの素晴らしさについて話していた所 なのよ。」

T「奥の深さですか。」

C「そうそう。奥が深いって素晴らしい事だよね、って話し。」

T「へ〜。それって、僕の事ですかね?」

A「えっ?!違うわよ。奥が深いと色々出来て最高だわよね、って。」

T「僕もよく言われるんですよ。君のは奥が深くてとってもいいよ、って 。」

A「え〜!!!何言ってるのよ〜、あんた!!!」

T「僕の事じゃないんですか。」

C「あほらし。」

おわり

*登場人物は全て仮名です。

*今回紹介した芝居

《贋作・桜の森の満開の下》
〜30日まで。新国立劇場中劇場

当日券も若干あるそうなので是非観に行って下さいね。


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