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《場末のバーもいいものだ》の巻 |
サトシ(以下S)「オイラは映画の方がず〜と良かったけどな。」 ひろっち(以下H)「そうかな〜?やっぱり舞台の方でしょう。あき ちゃんはどうだったの?」 あき(以下A)「どうだったかって、舞台には舞台の、映画には映 画の良さがあったんじゃないの?」 S「何、優等生的な感想言っているわけ?まあ、失恋しちゃったばかりの ひろっちに気を使うのは解るけどさ。」 H「大丈夫だよ〜っ。まあ、サトシ君みたいに次から次に見つかる訳じゃ ないから、当分の間は少しだけブルーだけど、僕には仕事という恋人もい ることだしね。」 S「あらあらあら。仕事という恋人ね。言ってみたい物ですね〜〜〜。」 A「何やってんのよ、アンタ達。《キャバレー》の話題でしょ。」 H「そうでしたね。やっぱり舞台でしょう。」 S「いやいや、映画ですよね、あきちゃん。」 A「アッシね、3年ほど前に向こうでサム・メンデスが演出した今回と同 じ舞台を観ているんだけど、今まで映画、舞台と観てきたけどね、【衝撃 】という意味では彼が演出した今回の舞台は【特筆に価する】と思ってい るの。」 S「【衝撃】ですか?まあ、そう言えばチョット恐かった気もするけどね 〜。」 H「【特筆に価する】ね。そうかもしれないですね。映画とは全く違って たしね。」 S「でもさ、映画ってスッゴク良くなかった?ライザ・ミネリ凄かったで すよ、ホンマ。マイケル・ヨークはね、ちょっと。」 A「まずね、どちらが良いっていう事より、初めに知っておかなきゃいけ ないのは、映画と舞台とは違うっていう事なのよ。」 S「何言ってるの。当り前でしょ、映画と舞台だものねえ。」 H「イヤだな、サトシ君は。あきちゃんの言っている映画と舞台の違いっ てね、本、脚本が違うって言っているわけですよ。ねえ、あきちゃん。」 A「まあ、そうなんだけど、知っておいた方が良いなと思うのはね、舞台 も映画も、基はといえば、クリストファー・イシャウッドという人が書い た、6つの短篇からなる《グッバイ・トゥ・ベルリン》〜後に1編が加え られて《ベルリン物語り》〜という本なのよね。」 S「へ〜、おもろいじゃないですか。」 H「て、言う事は、映画、舞台の両方に出ている作家って、クリストファ ー・イシャウッドその人って事なのかな?」 A「おそらくね。でも、本の中では架空の人物って事になっているけど。」 S「で、映画と舞台との違いは.....?」 A「そうだったわね。まず、今回アッシ達が観たのはミュージカルじゃな い。このミュージカル《キャバレー》の基になったのはストレート・プレ イの《私はカメラ》っていうヤツなのよね。」 H「ストレート・プレイがあったんだ。それは知らなかったですね。」 S「ストレート・プレイって、普通の芝居の事だよね。」 A「そうそう。まだアッシが生まれる前の話しだから、50年ほど前にね 。」 H「そんな前なんですか?」 S「ウヒャ〜ってな感じだね。」 A「さっき、6つの短篇があるって言ったでしょ。その中の《サリー・ボ ウルズ》を中心にして戯曲が書かれたのよ。」 H「それって今回も出てくるキャバレー歌手のサリー・ボウルズの事なの かな?」 A「そうよ、あのサリー・ボウルズ。その戯曲はね、サリーと作家の恋物 語り。それに若いユダヤ人のカップルの話しを足して物語りは進行するの よね。」 S「映画と似てますよね。映画もサリーと作家の恋物語りだったもんね。」 H「サトシ君、それは映画が似ているんじゃないの?」 S「あっ、そうか。まあ、いいじゃ〜ん。」 A「それで、その戯曲はその年のトニー賞で、主演と助演の女優賞を獲っ ているのよね。」 S「へ〜。で次が映画なんだ。」 A「そう。でも、みんなが知ってるライザ・ミネリの映画じゃないのよ。」 H「まだあったんですか?あの他にも。」 A「そうなのよ。アッシも後で芝居の本を読んで知ったんだけど、トニー 賞の主演女優賞を獲った、ジュリー・ハリスの主演で映画化したらしいの だけれど、どうやら話題にもならないくらいの失敗作だったらしいのよ。」 S「で、次があの映画ですかね。」 H「その前にミュージカルとして舞台化されていますよ。その事は僕も知 ってます。そうですよね、あきちゃん。」 A「その通り。今日アッシ等が観た舞台版ミュージカルね。」 H「確か、MC役のジョエル・グレイがトニー賞獲ってますよ。」 S「ひろっち、良くしってるね〜。」 H「好きですからね。」 A「コスト役のペグ・マレーも助演女優賞をもらっているのよ。この時に 狂言回し的な役としてMCをだしたのよね。それにストレート・プレ イに出てきた若いカップルに変って下宿屋の女主人(この時はクルト・ワ イルの未亡人、ロッテ・レイニャが演じている)と果物屋のユダア人とい う熟年のカップルを登場させたのね。そして、先に揚げた賞の他にも作品 賞をはじめ8部門で受賞。大ヒットを記録しているわけよ。」 S「で、やっとあの映画なわけ?」 A「そうです、お待たせしました。」 S「凄かったよね、ライザ・ミネリ。もう彼女の映画、って感じだったで しょ。マイケル・ヨークなんかほとんど覚えてないもんね〜。やっぱり主 役はライザ以外には考えられないでしょう。だってさ、今回の舞台、サリ ー役の人....。」 H「アンドレア・マッカードルね。」 S「そうそう、そのアンドレ何とかね、彼女さ、全然良くないじゃない。 何か大スターって感じが全くなかったしさ。」 A「あら、アッシはとても良かったけど。だって、彼女の役、大スターっ て言ったって、場末のキャバレーでのことでしょう。」 H「それに彼女、ミュージカル《アニー》の初演で、アニーを演った人な んですよ。」 A「まあ、それはどうでも良いのだけれど。場末のキャバレーだもの。」 S「まるで、ペンギンみたいだよね〜。」 A「あら、失礼ね、って事はないわよね。場末だからね。だからさ、その 場末のキャバレーにあんな大スターいるかしらんと思ったわけよ。アッシ はね、映画版、とても好きだけど、もし、映画の嫌いな所を揚げなさいっ て言われたら、ライザ・ミネリの演ったサリー・ボウルズがあまりにも凄 すぎた、ってところかしらん。」 S「あ〜そうか。そう言われてみるとそんな感じもするな。でも、オイラ は映画版の方がやっぱり好きだよね。」 H「ミュージカル好きな僕としましてはですね、映画はミュージカルって 感じがしなかったんですよ。唄う場面って、キャバレーでのシーンと、何 かみんなでワイワイやっている何処だったか忘れましたけど、そんな所だ けだったじゃないですか。だから、映画としては好きなんですけど、ミュ ージカルとしたらどうかな?って考えると、僕にとっては今いち、なんで すよね。」 A「去年の《オケピ!》みたいな物かしらね。三谷幸喜のやった。」 H「本当に嫌いなんですね、あきちゃん。ミュージカルって言ってたのが 。でもそうですね。あれもミュージカルとしては今一歩、でしたからね。 話しは面白かったけど。」 S「や〜、観てますな、みなさん。オイラなんかは《キャバレー》ってき いて行っただけだからね〜。映画のイメージを強く持ち過ぎたのかな?」 A「そんな事ないわよ。映画はそれで強烈だったもの。」 H「それと、雰囲気もあるんじゃないですか?休憩時間にトイレに行った んですけど、まあ、トイレだからいいじゃない、って言われてしまうとそ れまでなんですが、仮設じゃないですか、あれじゃ。何か総合的に劇場を 作ってもらわないと........。」 A「それ、すごく解るわよ。今度の来日カンパニーの公演で、と言うより 日本公演する来日の舞台に付いてなんだけど、ただ既成の劇場でやるじゃ ない。まあ、改装するのは大変だろうけど、せめて、雰囲気を大切にして もらいたいわよね。ず〜と前に来日したミュージカル《グランド・ホテル 》の時の話しなんだけど、場所は新橋演舞場だったのね。で、出し物が《 グランド・ホテル》だというのに、あの提灯がそのままなのね、客席の上 に吊してあるわけ。もうそれで、感情の高揚が一気にトーンダウンしちゃ ってさ。」 H「でもさ、経済的な物もあるし、難しいじゃん、それをするとなるとね 。でも、出来ればそうしてもらった方がいいけどね。」 A「サトシには向こうの舞台を見せたいわね。今度の演出の一つにね、舞 台の作りがあるのよ。勿論、何時でもあるんだけど。今回向こうでは1階 席がテーブルなのよね。そう、キャバレーみたいに作っているわけよ。」 S「それは凄〜い。そういう雰囲気で観ていたらまた感想もかわったかも ね。」 H「それも凄いと思いますけど、今回はバンドの面々もバンドっていう感 覚じゃなくて、芝居してたじゃないですか。あれも良かったですよね。」 S「オイラね、映画の方がずっと良いって言ってるけど、今回出ている役 者のみんなには結構感心しているんだよね。特に、MCと果物屋の人 。なんか、いい味出してたよね。」 H「僕はやっぱりMCですね。サリーも場末の歌手らしくて良かった し、下宿屋のシュナイダー夫人も良かったですね。それよりも、出演者全 員の舞台って感じがして、それが凄いなって思いましたけどね。」 A「アッシは何と言ってもMCね。やっぱりこの舞台の主役はMC だったって、改めて感じたもの。それに個人的にはコスト嬢を演ったレノ ーラ・ネメッツって役者が良かったわ。」 S「それと、最後のシーンは忘れられないな。」 H「あれは本当に強烈なインパクトを残しますよね。」 A「そうね。今回の演出で一番の見どころじゃないかしらん。ただ、アッ シがアメリカで観てきたのとは、違ってたんだけどね。」 H「違ってたんですか?」 A「まあ、同じと言えば同じなんだけど、最後MCが囚人服になるじ ゃない。あのシーンよね。向こうの舞台ではさっきもいった通り、1階が テーブル席じゃない。そこからMCが舞台上に上がっていくんだけど 、もうそこには誰もいないのよね。そして段々服を脱いでいくと囚人服に なっているわけ。勿論、後ろ姿なんだけど。そして、あのショッキングな 最後のシーンになるんだけどね。アッシは劇場の問題もあるとは思うのだ けれども、あのシーンは変えてほしくなかったわね。」 S「なんか、本当に恐くない?」 A「そうなのよ。アッシ、終わってからしばらく、頭をハンマーで叩かれ たような衝撃を食らったもの。」 H「今回の舞台だって本当に恐いな、っていうこれから来るであろう現実 を暗示していましたよね。」 A「まあ、だからこそ、今回の来日公演は、みんなに観てもらいたいのよ ね。」 S「そう考えてみると、何だか今の日本に状況が似てるよね〜。」 H「そういえば、.....。」 A「そうでしょ。だから観てもらいたいのよ。日本がああいう道に進まな いためにもね。」 S「まあ、場末のバーで楽しく飲もうよ、いろいろ語らってさ。」 H「そうですね、場末のバーで。」 A「はいはい、有難うございます。」 S「それじゃ、そろそろオイラは行きますわ。」 H「じゃあ、僕も。明日早いし。」 A「アイヨッ!今日はお疲れ様ね。それじゃまた。ありがとね。丁度二千 円づつです。」 S&H「それじゃあきちゃん、ご馳走様。お休みなさい。」 A「おやすみ!またね。」 おわり *登場人物は全て仮名です。 *今回紹介した来日ミュージカル《キャバレー》は赤坂ACTシアタ ーで7月1日(日曜日)まで上演しています。是非みなさんも足を運んで 観てください。日によっては当日券があるそうなので、問い合わせてみて は如何でしょうか。 |