《華麗なる失敗》の巻

まさ(以下M)「珍しいね、オペラなんか掛けちゃって。」

ヤス(以下Y)「もうここんとこず〜となんだからさ。」

アキ(以下A)「だって、素晴らしいじゃな〜い、オペラって。や っぱり総合芸術よね。」

M「またはまっちゃったって訳?」

Y「どうもそうみたい。」

A「イヤ〜ン、このコロラテューラ。たまらないわね。」

M「アキちゃん、自分が椿姫になったつもりなのかしらん。」

A「あ〜ら、まさったら、なんで分るのよ。」

M「やっぱりね。そうじゃないかと思ったわな。」

A「久しぶりだったんだも〜ん。《シモン・ボッカネグラ》に《椿姫》。 今回は両方の作品でソプラノが特に良かったわね。シモンでのアメーリア 役のセレーナ・ファルノッキアは代役で急遽来日したにも拘らず将来の大 プリマを連想させる出来だったし、椿姫でのヴィオレッタ役のディミトラ ・テオドッシュウはギリシャ生まれからなのか、マリア・カラスの再来っ て言われているけれど、第3幕でのピアニッシモのコロラテューラなんか 最高の出来でね、感激ったらありゃしないのよ。」

Y「フェニーチェ歌劇場の事ではこんなに盛り上がっているのにさあ、何 故か《キャンディード》については、あんまり言わないんだよね。」

M「そういえば、行ったんですよね、《キャンディード》。どうだったん ですか?あんまり良くなかったのかな?」

A「う〜ん。アッシね、あれは《華麗なる失敗作》だと思っているのよね 。」

Y「華麗なる失敗作?」

M「また随分と.....。」

A「だってさ、音楽も素敵だし、役者さん達も素晴らしい。でもね、どう 考えても失敗作としか思えないのよね。」

Y「それは、作品自体についてなのかな、それとも今回のプロダクション についてなのかな?」

A「どっちも、かしらね。まあ、何と言っても、この作品を何故にバーン ステインは作ったのか、って考えちゃうのよね。」

M「そんな事言ったってさ〜、作っちゃったんだからね〜、しょうがない じゃないじゃない。」

A「それはそうなんだけどさ。」

Y「アキちゃんがそういう理由はなんなの?」

A「そうね、バーンステインと言えば、クラシックを除くと、やっぱり《 ウエスト・サイド物語》でしょ。比べるのはあまり良くないことなんだけ どね、やっぱり比べちゃうのよね。同じ頃の作品だしね。でも、音楽だけ をとって言ったら、そんなにも失敗作だとは言えないかもね。」

M「やっぱり総合芸術だもんね。脚本が、その前に原作か。それがあって 、音楽、振付け、衣装とね。」

Y「て言う事は、バーンステインが何故この作品を作る事に同調しちゃっ たのか?って事を疑問視しているわけ?」

A「まあ、そういう事かしらん。さっきも言ったけど、音楽だけとってみ ると、そんなに悪い印象は受けないのよ。でも、総合芸術じゃない、オペ ラもミュージカルも。脚本の出来た段階でブロードウェイで上演する作品 として考えるべきではなかったと思うんだけど。」

Y「て事は、脚本が悪いのかな?」

A「悪いとは言わないけど、取り留めもない本になっちゃったんじゃない かしらんとは思うわね。でも、原作が原作だからね。良くここまでまとめ たわね、とも思ったわよ。でも、観ている最中にだらけちゃうのよね。長 いのよ。実質的な時間の長さじゃないの。やっぱり内容が練られてなかっ たのかしらん。」

Y「それじゃ、今回のプロダクションについてはどう?」

A「まずオーケストラ。これは指揮の佐渡裕を含めて良かったんじゃない 。衣装も照明も、それなりには良かったと思うけど。」

M「役者さん達はどうだった?」

A「この芝居で一番の儲け役はマキシミリアンを演った岡幸二郎。彼はと ても達者だし、彼に合ってたわね、この役。みんな夫々が唄も上手だし良 かったんだけど、声の色というか、質というか、主役のキャンディードを 演った石井一孝だけが異質に感じちゃって、へたすると本当に唄が下手に 感じられちゃう所がどうかな?って思ったけど。」

Y「やっぱ、あるでしょう。声の感じが統一されてないと、何か違和感を 感じるって事が。そういう事なんでしょ、アキちゃんが言いたいのは。」

A「そうなのよ。そこなのよね。結構小さな事の様で、大きいのよ、聴く ほうにとってみれば。」

M「あとは、これっていう人なんかいなかったんですか。」

A「一番の儲け役は、さっきも言った通り岡幸二郎だったけど、一番良か ったのは、この作品の原作を書いたヴォルテール自身を演った岡田真澄だ わね。この作品の案内役なので、唄を唄う事はなかったけど、流石に長年 俳優業をやっているだけあって、語りは最高!だったわね。」

Y「へ〜。何故か失敗作なんて言われると観に行きたくなっちゃうよね。」

M「そうですよね。でも、本場、ブロードウェイにも行きたいですよ。」

A「いいわよね。でも、今あっちではオペラは休み。9月まで待たないと 。芝居はちゃんとやっているけど、トニー賞の後、閉幕しちゃった芝居が 多くて、秋以降に行った方が良さそうよ。」

M「オペラで思い出したんだけど、確かアキさん《三文オペラ》にも行く んじゃなかったでしたっけ。」

A「もう行ってきました。」

Y「そっちはどうよ。」

A「隣が唐沢君だったのよね、とっても可愛くてさ、....。」

M「う〜む、また、そうじゃなくって、芝居の方だってば。」

A「あら、ゴメンなさい。でも、本当に可愛くって。」

Y「だから、そうじゃないって。本当にこういう事になると、デレデレし ちゃうんだからね、ったく。」

A「はいはい。まあ、最近ちょっとおかしかった蜷川さんの演出は、本来 の姿に戻ったと思ったけど。」

M「あのポスターに依るとさ、鹿賀丈史に村井国夫、大浦みずきにキム・ ヨンジャ。すごいキャストだけど、キャスト負けなんて事はなかったんだ 。」

Y「実はオイラもアキちゃんと同じ日に行っていたんだけどさ、長いんだ よね、これが。休憩に入ったのが始まってから2時間後。終わったのが3 時間10分後だもんな。でもまあ、面白かったけど。」

A「アッシはね、これも《華麗なる失敗作》かな?なんて思っているんだ けど。」

M「それは何故に?」

A「これだけ豪華な役者陣を揃えちゃったからか知らないけど、舞台まで 華麗に出来ちゃっているのよね。アッシはもっとシンプルで良かったんじ ゃないかな?って思うのよ。」

Y「オイラは結構良かったけどね。」

A「あとね、ポーリー役の歌のお姉さん、茂森あゆみが清純過ぎちゃって さ、蓮っ葉な感じが出せないのよね。わざとしている様にしか見えない。」

Y「確かにそれは言えてるね。それと鹿賀丈史がカーテンコールで恰好良 かったよね。」

A「それは恰好良かったわね。鹿賀丈史はレ・ミゼの時よりも歌は良いし 、芝居は良いし、やっぱり舞台出身の役者だな、って思ったわよね。」

M「そんなに良かったんだ。でも、アキちゃんが言う、華麗なる失敗作、 って言うのはどの辺りなのかな?」

A「それは、キム・ヨンジャの起用が全てかしらん。」

Y「え〜!良かったじゃン、キム・ヨンジャ。歌も素晴らしかったしさ、 舞台に花、って感じだったよね。」

A「確かにそうなんだけど、その舞台に花がアキレス腱じゃないかしらと 思うのよね。」

M「それはどんな所でなのかな?」

A「だって、キム・ヨンジャのワンマンショーに来ている訳じゃないんだ からさ。確かに、彼女が演じたジェニーの役は、ミルバ等、歌唱力抜群の 人が演じなきゃ駄目なんだけど、そういった意味では、彼女の起用は成功 していると思うのよね。だけども、さっきも言った様に、彼女のリサイタ ルに来ている訳じゃないから、歌だけが良ければいい、って物じゃないと 思うわけよ。」

Y「そう言われちゃうとオイラも少し思い当たる所があるな。」

A「そうでしょ、ヤス。彼女、台詞がまるっきり分らないのよね。聞き取 れないの、何言っているのかさっぱり分らない。これは致命症。でも、こ れが克服出来るのなら、将来凄いエンタテナーになっちゃうかもしれない わよね。」

M「そうだよね。確かに言葉が聞き取れないって、舞台を観ていても辛い 事だもんね。」

A「でもね、これから日々上演を重ねていって、終わりの頃にはず〜と良 くなっている可能性も十分にあるわけよ。だからこれからが愉しみだけど ね。」

Y「華麗なる失敗作ね。まあ自分なんか、華麗にもならない失敗作ですけ どね。」

M「いきなり何なんですか?ヤスさんは十分に華麗ですよ、ねえ、アキち ゃん。」

A「そうよ。まあ、ヤスの場合は、華麗なる失敗作じゃなくて、華麗に失 敗を繰り返しているって感じかしら?」

Y「それは酷いよ。確かにこの前も失敗しちゃったけどさ。」

A「まあ、いいじゃないよ。アッシなんか、華麗じゃない失敗ばかりなん だからさ。情けなくなっちゃうわよね。」

M「本当ですよね。惨めに感じますよ。」

A「ありがと。アンタ、後で裏来なさいよ〜〜〜っ。」

M「お〜恐!」

一同「ワハハハハ〜。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。

*今回登場したお芝居のご案内

1)キャンディード
   東京公演は終了しました。
   大阪公演  7/20,21 フェスティバルホール

2)三文オペラ
   シアターコクーンで7/27まで。
   大阪公演 8/3~12 シアター・ドラマシティー
   埼玉公演 8/23~26 彩の国さいたま芸術劇場

以上です。どうぞ、足を運んで下さいね。


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