《忍び寄る恐怖》の巻

クロ(以下K)「え〜!こんなに短いの?」

タカちゃん(以下T)「本当ですね、こんなに短いのをね、良くまあ 〜。」

あき(以下A)「まっ、本当言うとね、これだけじゃなくて、この 後にある2つほどの短篇をくっつけているんだけどね。」

K「どれどれ。」

T「何かとっても短いので、この短篇全部読むにもそんなに時間掛かりそ うにありませんよね。」

スターちゃん(以下S)「こんばんわ〜。何かみなさんで、討論会で もやっているのでしょうか?」

A「あら、スターちゃん、いらっしゃい。何にしよっ?」

S「初めはグー、じゃんけんポン。」

A「はい〜!アッシの勝ちね。じゃあ、今日は?」

S「そうですね、このところ負けてばっかりだな〜。ふむふむ..... 。じゃあ、今日はグラーヴをお願いしましょうか。」

T「スターさん、好きですね、ワイン。白が好きなんですか?」

S「いや〜、何でもいいんですけどね、私は。でも、今日もまた負けてし まったじゃないですか。だから、今日は白ですかね。」

K「なるほどね、俺は赤の方が好きなんだけどな。」

S「それじゃあきちゃん、ウンドラーガでしたっけ?赤も1本出して下さ い。クロちゃんに私から。」

K「え〜!いいんですか?でも気が退けちゃうな、なんか。」

A「いいのよ、スターちゃん、今日横浜が勝ったからきっと気分が良いん だからさ。」

K「それだったら、遠慮なく、頂きま〜す。」

S「今度、スペインのワインも置いてくださいよ、ねえあきちゃん。」

A「ゴメンネ。これ以上種類を置くわけにいかないのよ。なんてったって この狭さでしょ。」

K「でも、流石だよな、スターさん。今俺達が話してたのって、スペイン 映画の事だったんだ。さっすが〜!」

A「何、おべっか使ってるのよ。いいのよ、遠慮しないでさ。」

S「そうですよ、どんどん飲んで下さいね。それにしてもスペイン映画か 。」

T「スターさん、興味あるんですか?スペイン映画に。」

S「好きなんですよ、スペイン映画。今も《蝶の舌》っていう映画を見た くてね。」

T「それなんですよ、僕達が今まで話してたのって。原作が本当に短くて 、良く映画に出来たなって思っちゃってね。」

S「あ〜、あの原作。」

K「スターさん、もう読んだんですか?」

S「勿論、読みました。マヌエル・リバスですよね、確か。」

K「良く知ってっすね。」

S「確か原作は《愛よ、僕にどうしろと?》っていうんじゃなかったです かね、あきちゃん。」

A「えっ!!?《蝶の舌》しか書いてないわよ。ねえ、チョット。」

K「本当だよね、それっきゃ書いてないよな。」

T「あっ、ありましたよ、こんな所に。ほらほら、《愛よ、僕にどうしろ と?》って。」

A「あら、ホントだ。良く知っているわね、スターちゃん。」

S「好きですから。で、あきちゃん達は見に行ったんですか。」

A「そうなのよ、アッシは昨日。タカちゃんと、クロちゃんは初日に行っ たんだって。」

S「で、どうでした?」

K「俺、不覚にも涙が止まらなくって、暫く明るくなるな、って気持だっ たっすよ。」

T「僕もそうでした。」

S「で、タカちゃん、クロちゃん、どんな場面が印象に残っています?」

T「僕は、主人公モンチョとお兄さんのアンドレスが演奏旅行に行った時 に会う中国人の女性とアンドレスとの別れのシーン。あの時のシーンって 、結構いろいろな映画で使われているんですけど、やっぱり弱いんですよ ね。最初の涙がそのシーンだったんですよ。」

S「それは、あの短篇の中の《霧の中のサックス》だね。クロちゃんは?」

K「俺はですね、ちょっと変っていると思われちゃうかもしれないけど、 モンチョのオヤジが外で作った娘の、う〜む、何だたっけ〜....。」

A「カルミーニャだったかしらん。」

K「そうそう、そのカルミーニャが溺愛している犬、確かタザーンって言 ってたと思ったけど、その犬を、カルミーニャとのセックスを邪魔された 男が、その怒りからタザーンを棒で突いて殺してしまうシーン。とっても 印象に残っちゃったッスね。」

S「それはきっと《カルミーニャ》っていう短篇からだろうね。」

K「それと、最後のシーン。言葉がなかッスね、あれは。」

T「僕もそうでした。凄い衝撃だったんですけど、今までには味わったこ とのないような、何とも言えない感動でしたね。」

S「やっぱり良さそうだね。まあ、あんまり話さないあきちゃんを見てい ると、そう思うけど、どうだったんですか?あきちゃんは。」

A「アッシね、いっぱいあるのよ。まずね、やっぱりヨーロッパ映画は素 晴らしいって事。見終わった後に必ずアッシ等に考えさせてくれる何かを 与えてくれるのよね。それと、静かに訪れる感動。これは、昔のアメリカ 映画や日本の映画には勿論あったんだけど、最近の映画を見ているとあん まりね。でも、ヨーロッパの映画は裏切らない。今回もそうだったし。い ろんな人に見てもらいたい映画だったわね。特に、8月でしょ。戦争が如 何に愚かなものかを改めて考えなきゃって思うのよね。」

K「あきちゃんは俺達とチョット違う見方だよな、いつも。」

A「あら、そんな事ないわよ。スターちゃんには解ると思うけど、アッシ 等、中途半端な時代に生まれちゃった、とっても幸せな人間でしょ。」

T「それってどういう事なんですか?」

S「そうだよね、戦争は経験してないけど、その後の貧しさは少しだけど 経験してるし、学生運動もその最後のあがきみたいなものをかじっただけ 。急成長した日本の社会を子供の頃からず〜と見ているもんね。」

A「そう。でも、見ていただけなのよね。知っているってだけ。本当に経 験していないんだよね。だから何時も思うわけ、争い事の愚かさをず〜っ と言い続けなきゃならないって。」

K「イヤ〜、参ったな〜、あきちゃんもスターさんも。俺達とは違うんだ ね、見方が。」

A「だからさ、そんな事ないって言ってるじゃないのよ。」

S「時代ですよ。で、話しは元に戻るけど、あきちゃんは具体的にはどう だったのかな?《蝶の舌》は。」

A「さっき言った事の他にはね、まず、映像が綺麗だったわね。東京では 探さなきゃならなくなった自然の美しさを見事にとらえた映像。」

K「課外授業のシーンなんか綺麗だったよな。」

A「ちぐはぐな所はあったものの、脚本の素晴らしさは言うまでもないし 。役者がまた、原作と脚本に勝るとも劣らない演技をしてくれているしね 。」

T「僕は、何時も子供が出る映画はズルイと思っていた方なんですけど、 今度はそう思わなかったんです。何か不思議なんですけど。」

K「俺もそう言われればそうだな〜。子役のモンチョは勿論、モンチョの お袋さんや、親父さん、それに兄貴。みんな良かったもんな。」

T「でも、グレゴリオ先生でしょ、何と言っても。」

A「素晴らしかったわね、フェルナンド・フェルナン・ゴメス。《ミツバ チのささやき》や、《ベルエポック》、最近では《オール・アバウト・マ イ・マザー》に出演してたけど、もう最高の演技だったわね。」

K「俺もあんな先生に会ってたら、きっと違った人生になったんだろうな 、きっと。」

S「クロちゃんにしては神妙ですね。映画の力って怖いよね。」

A「最後の方は、まさに考えさせられる事のオンパレード。人間の弱さや 生き伸びていく方法などを本当に考えさせられるわよ。自分がああいった 場面でどういう行動を取るか。前半の温かい心の触れ合いからは一転して 訪れる悲劇への序章。今だからこそみんなに見てもらいたいわね。」

S「あきちゃん、そこまで言うんだからよっぽど印象に残った台詞があっ たんじゃないんですか?」

A「そうね、それはこの映画のタイトルにもなっている《蝶の舌》につい て、グレゴリオ先生が言った言葉なのよね。でも、まだ見ていない人、い や絶対にみんなに見てもらいたいから、はっきりとは言わないけど、ヒン トをあげれば、それは《忍び寄る恐怖》を意味しているって事かな?」

S「そうか、フランコ政権直前の話しですからね。《忍び寄る恐怖》ね。 何か今の日本にも当てはまりそうで、とても怖いですね、この映画を見る のが。」

A「そうなのよね。だからこそ見てもらいたい。そしてみんなで考えても らいたいのよ。」

T「僕らは、ただ哀しいとか、可愛そうだとか、そういう面ばかり見ちゃ うんですけど、奥が深いですね。」

A「そしてね、もし、この主人公が実在の人物で、まだ生きていたら、あ の頃の事を今、どう思っているのか聞きたいな、って思うのよね。」

S「早速明日にでも見に行って来ますよ。《忍び寄る恐怖》を自分でも確 かめに行かなきゃ。そして、グレゴリオ先生が《蝶の舌》について言った 言葉をしっかり聞いてこなくちゃね。」

K「俺、もう一度行ってみたくなっちゃったよ。」

T「僕もです。」

A「何度見てもいいんじゃないかしらん。そして、如何に争い事が愚かな ものであるか、しっかり考えて来てよ。」

K「じゃ、タカちゃん、もう一度行く?ペア券ってあるからさ。」

T「いいですよ。でも、ペア券ですか?普通のチケットで行きましょうよ 、ペアじゃないんだしね。」

K「ペアの気分で行けばいいじゃん。」

T「でも、......。」

A「ちょっと、あんた達、だから今の日本は幸せだっていうのよ。早く行 って、もう一度ちゃんと見て来なさいよ!」

S「怒られちゃいましたね。でも、本当に、この幸せの向こうには何が待 っているか判らないですからね。また見てから話しに来ましょう。」

T&K「じゃあ、僕ら(俺等)はそろそろ帰ります。」

A「あいよっ!丁度二千円づつね。有難うございます。また!」

T「じゃあ、早速見直してきますね〜。」

K「それじゃ、お休みッス。」

S「お休みなさ〜い。それじゃ私も。今日はいいお酒でした。」

A「スターちゃん、ありがとうね。四千百円です。」

S「それじゃお休みなさい。」

A「お休みなさい。ありがとう!」


おわり


*今回紹介した映画《蝶の舌》はシネスイッチ銀座と、関内アカデミー劇 場にて上映中です。是非足をお運び下さい。そして、みなさんの感想をお 寄せ下さいね。


Back Number!