《あなたの知らない...》の巻

ジュン(以下J)「あ〜、もう駄目だ〜。これ以上飲めないよぉ〜 !」

ヨシオ(以下Y)「ほらほら、しっかりしろよ、ったく。」

あき(以下A) 「あ〜あ、来た時から何か危ないと思ってたんだけ ど、やっぱり来ちゃったわね。」

チッチ(以下C)「ほんと、ジュンてさ、酔っ払うと手に負えなく なるからな、ったく。」

Y「普段は本当にいい子なんだけどね、酒が入るとまるで違う人間になっ ちゃうんだから、こうなっちゃうと俺も手を焼いちゃうんだよな。」

C「ヨシオちゃんの普段の躾けが悪いんじゃぁないかい?」

A「あら、そんな事言ったって、こればっかりはね。最初は全く普通に飲 んでいるんでしょ?」

Y「そうなんだよ、あきちゃん。で、ある時急に変身しちゃうんだからな 、ほんと、突然。」

J「何いってんだよぉ〜。もう1杯...、あ〜〜〜〜〜っ。」

C「おいおい、何だよ、急に叫んじゃって。本当に大丈夫なのかい?ジュ ンは。」

Y「もう大丈夫。これでコテっと眠っちゃうからさ。」

A「あら、本当だ。アンタ、3秒も経たないうちにねぇ。」

C「ヒャ〜、でもちょっと驚きだね、オイラ。初めて見ちゃったよ、あん な所。」

Y「まるで、ジキル博士とハイド氏みたいなんだよね。もっと酷い時もあ るんだよ。」

A「ヨシオも大変だけど、あんたの愛情で、どうにかしてあげなくっちゃ ね。」

C「そう言えば、そろそろ始まっているんだよね、《ジキル&ハイド》っ てさ。」

Y「だから、もう大丈夫だって。」

C「そうじゃなくて、ミュージカルだよ、ミュージカル。」

Y「あ〜、あきちゃんが2〜3年前にニューヨークで観てきた、あれ?」

C「そうそう。オイラ、観たいんだよね。確か、ブロードウェイの上演は 終わっちゃったって聞いてるけど。」

A「そうなのよ、1年くらい前かしらん。でも、素晴らしかったわよ、ブ ロードウェイ版は。」

Y「って、言う事は、もうこっちで演ったの観たんだ。」

A「丁度初日が月曜日でね、キャストを見てどうしようかな?って思った んだけど。」

C「鹿賀丈史に段田安則、《だんご3兄弟》の茂森あゆみ。それにマルシ ア。」

Y「え〜?!!マルシアって、あの?それじゃ、あきちゃんも考えちゃう よな。基本的にちゃんと出来ていないとイヤなタイプだもんな。」

A「それがね、やっぱり自分の想像だけでは駄目よね、本当に。今回の舞 台、そのマルシアが圧倒的な存在感で他を圧倒してたのよ。勿論注文も多 々あるけどね。」

C「聞かせて下さいよ。オイラ、今一番観たい舞台なんですから。」

Y「一番観たいんだったら、聞かない方がいいじゃん。」

C「そういう時もあるんだけど、今回は何も知らないからさ、予習として ね。」

Y「それじゃ、あきちゃん、ちゃんと教えてあげなきゃな。」

A「でも、やっぱり観に行くんだったら、あんまり言わないほうが良いん じゃないの?」

C「いいんだよ。だってさ、あきちゃん観に行ったの初日でしょ。だった らいいんだ。オイラが観た時にはどう変っているか、それも楽しみだしさ 。」

A「そう。それじゃね。」

Y「じゃあ、まず全体の印象から言ってあげれば。」

A「そうね。長く感じなかった、って事は、それなりに良かったのかもね 。」

C「舞台美術とか、衣装、照明とかは、...?」

A「特にここが、って言う所はなかったけど、衣装について言えば、1幕 と2幕で民衆の衣装の色のトーンを変えて変化をつけていたわね。」

Y「それって、何か意味あるんだろうな?」

A「そうね、アッシが勝手に考えたのは、1幕は主にジキル博士なのよ、 ところが、2幕になるとハイド氏の出番が増えるのね。その辺りが関係し ているんじゃないかなって。」

C「あ〜、なるほどね。ジキル博士とハイド氏は同一人物であって、そう でないから、彼の眼を通して見る時、その時々で変るんだ、回りの物の色 が。」

A「まあ、言ってみれば、ハイド氏の時には幻覚症状を起こしている分け じゃない、薬による。だからさ、それで色が違く見えるんじゃないかと思 ったわけよ。」

Y「あきちゃん、経験あるんじゃないの?」

A「変な事言わないでよ!」

C「まあ、それはそうと、役者陣はどたった?さっきマルシアが良いって 言ってたけど、まず男優陣から。」

A「う〜む、鹿賀丈史は、もう鹿賀さん、そのまんま。何を演っても変り ません、って感じかな。ジキル博士の時は声を優しくして、ハイド氏にな っ時には声を低く太くしている努力は認めるけど、ジャンバルジャンが居 るのかな?って思っちゃう人もいるんじゃないのかしらん。段田安則はま ず、歌がねぇ....。」

Y「まるっきり駄目なんだ。」

A「って言うか、音程は外れていないんだけど、唄えていないのよ。」

Y「なんだ、それ?音程が外れてないんだろ。じゃあ、うまいんじゃない の?」

C「解ります、あきちゃんの言う事。歌になっていないんでしょ。」

A「そういう事よね。芝居はまあまあだったけどねぇ、野田秀樹との芝居 に出ていた時と比べちゃいけないんだけどね。」

Y「それじゃ、女優陣は?」

A「さっきから言っているけど、本当にマルシアには驚いたわ。彼女芝居 がまだまだなのよ。でもそれも忘れる位、唄う時は別人。どっちの時がジ キル博士でハイド氏なのかは分らないけど。(笑)それほど違うのよ。詩 の表現力、声の強弱、ブロードウェイの役者に比べても、歌の時だけは互 角に争える程の実力。本当に圧倒されちゃった。」

C「オイラは茂森あゆみい期待しているんですけどね。」

A「正直いって、サヨナラって感じ。彼女、芝居も歌も中途半端。特に音 大出のわりには歌が下手すぎる。」

Y「きびし〜〜〜い。あきちゃん嫌いなんだろう、彼女の事。」

A「嫌いって言うか、聴いていて心地悪くなっちゃうのよ。特に中音域か ら高音域に変るときなんか、もう、唄わないでって言う位酷すぎる。っま 、そんなに重要な役じゃないから良いんだけど。」

C「あきちゃん、顔がハイド氏になってますよ。」

A「あら、ゴメンなさい。ついつい興奮しちゃった。」

C「ところで、演出はどうですか?オイラそこが一番興味あるんだけど、 ブロードウェイと比べたらどうだったんだろうね。」

Y「俺も興味あるな、少し。演出っていったって、向こうの真似してるだ けってのも結構あるしな。」

A「まあ、台本が同じだから、真似程ではなくても似てきてはしまうわよ ね。ただ、今回の演出は舞台の真中を使い過ぎるんじゃないかなって思っ たんだけど。」

Y「真中を使い過ぎる?」

A「そうよ、真中を使い過ぎるのよね。」

C「劇場は日生劇場だよね。」

A「そうよ、アッシとっても好きな劇場なのよね。エントランスからして 、もう劇場に来たって感じがして。階段に引かれた絨毯の上を歩いて客席 に着く。ここでもう芝居に少し入っているわけ。良いわよね、日生劇場。 ちょっと、客席と客席との間が狭いのが玉に瑕(キズ)だけどね。」

Y「それはいいから、真中を使い過ぎるってのは?」

A「あら、そうよ。舞台ってさ、結構広いじゃない。だから存分に使わな いと芝居自体が狭っ苦しく感じちゃうのよ。それに何でも真中じゃ、第一 面白くないじゃない。そう思わない?」

C「あきちゃん、また顔がハイド氏になってるよ〜ん。」

Y「でもさ、話しとしては面白いよな。誰にもあるじゃん、ジキルとハイ ドの時がさ。自分の知らない、自分が分らない時ってさ。」

C「他の人達は見ているからね。自分の知らない時の自分。一度見てみた いけど、何か怖いよね。」

J「う〜〜ん。あれ?寝ちゃったんだ。もうこんな時間なのか〜ぁ。ねえ 、ヨシオさん、そろそろ帰ろうよぉ〜ん。」

A「あら、コロっと変ったわね。またジキルに戻った。」

Y「ハイドの時がなきゃ本当に良い子なんだけどな〜。」

J「何、なに?ジキル?ハイド?何それ。ねぇねぇ教えてよ。」

Y「はいはい、帰えったらね。」

J「は〜い。早く帰ろうぉよぉ〜。」

A「まあまあ、本当に子供になっちゃうわよね。叫んでた時、覚えていな いのかしらん。」

J「何、なに?」

Y「じゃあ、あきちゃん、チェックして。」

A「はい。有難うございました。二人一緒で3200円ね。」

Y「それじゃまた。」

J「おやすみなさ〜〜い。」

C「またハイドに戻らないようにね。」

J「えっ?!」

A「まあ、いいから。お休み!ありがとね。」

誰でもが持っている「ジキル」と「ハイド」。それは言い換えるなら「 善」と「悪」とでも言えるのでしょうか?みなさんの中にある2つの性格 。それが何時、どういう形で出てくるかは、自分自身では分らないのです。

おわり


*登場人物は全て仮名です。

*今回紹介したミュージカル《ジキル&ハイド》は11月30日まで、日 比谷にある日生劇場で上演中です。その後、名古屋の中日劇場、大阪のシ アター・ドラマシティーでも公演がありますので、是非足を運んでみて下 さい。


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