《怪優・怪演》の巻

まさみ(以下M)「早くきなってば。もう15分も待ってるんだぜ。... じゃ、待ってるからな。」

あき(以下A)「あらら、今日は待ち合わせだったんだ。せい子ち ゃん?」

M「そうなんですよ。あいつ、本当に時間にルーズだからさ、俺が何時も 待ってる、って分け。」

A「まあまあ、ご主人は大変よね。でも、何か電話を聞いていると喧嘩売 ってるみたいよ。」

M「何時もそうなっちゃうんだよな。回りが聞いてたら、何だと思うだろ う、って自分でも時々思うんだよね。でもさ、あいつほんとルーズだから 。」

A「分るわぁ〜。時間にルーズな人って何時もそうなのよね、ったく。」

M「だから、喧嘩も売りたくなりますって。あきちゃん、お代り下さい。」

A「あいよっ!同じ物で?」

M「はい、ヴォッカ・トニック。ストリチナヤで。」

A「はい、お待たせ。そうそう、喧嘩を売るで思い出したけど、それね、 (といって、ポスターを指さして)観に行ったのかしらん。」

M「あ〜、大竹しのぶの《売り言葉》だよね。行きましたよ。で、これが また大変だったんですって。」

A「何かあったの?また」

M「いや〜、そんなに大した事じゃないんだけどね、あいつったらさ、行 く直前になってインターネットのカスタマーセンターに電話しちゃってさ 、いろいろ分らない事聞いてる分けよ。で、俺はね、もう準備も整ってさ 、何時でも出かけられる状態なのに、何時までも電話してるわけ。」

A「あら、それじゃイライラしちゃうわね。で、間に合ったの?」

M「だからさ、あきちゃん、聞いて下さいよ。もう出なきゃ間に合わない ってのにね。やっと終わったと思ったら、今度はチケットがない、って騒 ぎ出すしさ。もういい加減にしてくれよ、ってな感じだったですよ。」

A「で、間に合ったの?」

M「なんとかね。で、そんな事自分でしてて、駅に着いたら、もうヤバイ からって、さっさと走って行っちゃうわけよ。たまんないね。」

A「へぇ〜。で、まさみはどうだったの?《売り言葉》。」

M「うん、面白かったよ。《新・智恵子抄》だよ、これは。すぐに時間が 経っちゃったし。あきちゃんは観てないんだっけ?」

A「そんな事、あるわけないじゃない。ちゃんと観に行ったわよ。」

M「で、どうだった?」

A「勿論、面白かったわよね。大竹しのぶの狂気を見た、って感じかな。」

M「最初はわんぱくだった女の子が、高村光太郎と出会ってから、さらに 芸術にのめり込んでいくじゃん。そこからの大竹しのぶの演技が凄かった よな。」

A「アッシはね、ひとり芝居なんだけど、そこにお手伝いさんを登場させ たじゃない。勿論、大竹しのぶが二役を演るわけだけど、智恵子を第三者 から見るといった所で、さらに彼女の精神的な流れを分りやすく伝えてい たと思うのね。」

M「幸せだったと思っていると、急に不幸が襲ってくる。ダンナとの距離 を感じちゃって焦っちゃったんだよな、きっと。職業が同じだと良くある じゃん。ライバルでもあるからさ、相手を気にしちゃうんだよな、きっと 。」

A「でもね、怖いと思ったのは、その智恵子をモデルに《智恵子抄》を綴 った光太郎よね。」

M「そうだよな。俺だったら、ああやって智恵子自身を芸術の中に閉じ込 めてしまう事は出来ないな、きっと。」

A「それにしても、大竹しのぶの狂気にはおそれ入谷の鬼子母神って感じ だわね、ったく。」

M「さむ〜ゥ。でもほんとだよな、彼女。狂気を演じさせたらあの年代じ ゃいないんじゃないの?誰も。」

A「アッシね、彼女って、前にも《ルル》っていう芝居の時にも言ったか もしれないけど、何処までが演技で何処からが彼女なのか分らない所が凄 いなって。そう思うのね。」

M「地味な狂気だよね。派手じゃないでしょ絶対に。」

A「そうよね。アッシ、彼女がカーテンコールで出てきてお辞儀してても 、まだ演じてるって思うもの。」

M「あ〜、なるほどなぁ。」

せい子(以下S)「今晩は。遅くなっちゃって。」

M「何やってんだよぉ。もう30分も待ってたんだからな。あきちゃん、 せい子からもう1杯ヴォッカ・トニック。」

S「だからゴメンね。さっきも電話で言ったでしょ、仕事が長引いちゃっ たって。」

A「せい子は何する?」

S「あたしはねぇ、何がいいかなぁ、え〜と、.....。」

M「あきちゃん、せい子もヴォッカ・トニック。だから2つね。」

S「いつも強引なんだからさ、まさみって。」

A「はいはい、熱い熱い。」

S「ところで何話してたの?」

M「ほら、この前観にいっただろ、《売り言葉》。その大竹しのぶの狂気 についてだよ。」

S「大竹しのぶか。彼女怪優ですよね。」

A「怪優か。ピッタリ当てはまっている言葉かもしれないわね。」

M「怪優か。演技は怪演かな?じゃあ。」

S「怪優って言えば、ここにも来る郡司さんも怪優ですよね。」

A「あら、行ってくれたんだ、絶対王様。面白かったでしょ。」

S「とっても。それで思ったんですよ、郡司君て、怪優だなって。それで 、怪演してる。何か薄い存在感なんだけど、結局は濃い存在感として後に 残るみたいな。」

M「せい子さ、何時行ったの?誰と行ったんだよぉ。」

S「先月さ、まさみが出張している時。勿論一人でね。」

A「あらあら、心配しているのかしらん。お熱いお熱い。」

M「そんなんじゃないけどな。」

S「あきさんも観たでしょ。あたしと同じ日だったもの。」

A「あ〜、楽日ね。いたんだ。声掛けてくれれば良かったのに。」

S「いやぁ〜、掛けようと思ったんですけど、気が付いたらもういなかっ たんですよ。」

A「あの後、お店だったから。で、どうだったの?」

S「本当に面白かったですよ。ただ、あたしにとっては、最後をどうにか してほしかったですね。」

A「そうね、最後。アッシも最後がね、と思ったのよ。」

S「何か普通に終わっちゃったみたいですよね。」

A「そうそう。アッシだったら、最後のシーンはこうする、ああするって 考えちゃったわよ。」

S「今度聞かせて下さいね。実はあたしも考えちゃったんです。」

A「それじゃまたゆっくり話しましょうよ。」

M「おいおい、俺も仲間に入れてくれよな。郡司君の怪演観て来るからさ 。」

S「残念でした。もう終わっちゃってるの。」

A「で、最後の話しはまた今度としてね、やっぱり全部が満足いくってな かなかないわよね。」

M「俺はさ、《売り言葉》、結構満足だったけどな。あきちゃんは不満が 残ったのかな?」

A「まあ、不満じゃないんだけど、いつもの野田の芝居にしてはオーソド ックスだったかな?って。その程度だけどね。」

M「オーソドックスねぇ。」

A「さっきまさみが言ってたじゃない、怪演って。だから、野田秀樹には もっと飛んじゃう芝居を書いてもらいたかったのよ。」

M「なるほどな。飛んじゃう芝居ね。もっと怪演になっちゃうかも。」

S「面白いですよ、そうなったら。」

A「まあ、大竹しのぶにしても郡司君にしても、怪演じゃなくて、快演だ ったし。また観に行きたいと思うもんね。」

S「そうか、快優が快演。素晴らしいですよ。」

M「それじゃ、せい子、今度は何観に行こうか?」

A「あ〜ぁ、熱い熱い。ちょっと、アンタ達、終電になっちゃうわよ。」

M「えっ!本当だよ。お前が遅いから。」

S「だからさぁ、.......。」

A「はいはい。喧嘩は家に帰ってからやって頂戴よ。ふふふふぅ。」

M「笑うなよな、あきちゃん。」

S「はい、じゃあ、今日は遅れたんで、あたしが払います。あきちゃん一 緒でお願いします。」

M「それじゃ、オゴチ。」

A「じゃあ、ありがとうね。二人いっしょで、丁度四千円です。」

S「はい。それじゃお休みなさ〜い。」

M「それじゃまた。」

A「寒いから風邪ひかないようにね。お休み!」

おわり


*登場人物は全て仮名です。

*今回紹介したお芝居

#《売り言葉》   2月20日まで
         青山スパイラルホール

#《絶対王様》次回公演
     9月4日〜11日  シアターTOPS# 郡司君出演の芝居
     3月20日〜24日 《TRICK トリック》下北沢駅前劇場
みなさんも是非足をお運び下さいね。


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