<子供の感は鋭いわ>の巻

あき(以下A)「いらっしゃ〜い!」

カッちゃん(以下K)「今晩は。寒いですねぇ〜。」

A「はい、暖かなお絞りどうぞ。」

K「わぁ〜あったか〜い。」

A「カッちゃんは何にしようか?」

K「え〜と、ホットで何か出来る?」

A「勿論。お湯も用意してあるし。」

K「それじゃ、焼酎のお湯割り。レモン入れてくださ〜い。」

A「あいよっ!ところで、何処か行ってきたのかしらん。パンフレット持ってるみたいだけど。」

K「ああ、これですか?あんまり良かったんで、、先週会社の皆に見せようと思って、会社に持って行ったんですよ。 それを持ち帰るの忘れてて。」

A「はい、お待ち。へぇ〜。何?芝居かしら?それとも映画?」

K「映画ですよ。」

A「それじゃ、年末暇な連中達に薦めようとしたのね。」

K「違うんですよ。あとちょっとで終わっちやうからと思って。」

A「あら、そうなんだ。で、何時までなのかしらん。」

K「それが、今週は終わっちゃってるんです。」

A「あら、残念ね。カッちゃんの薦める映画、アッシも観たかったわ。」

K「良かったんですよ、これなんですけど。」

A「あ〜、これね、<ブラッド・ワーク>。アッシ先週観たわ。」

K「アキさんも観たんですか?で、どうでした?」

A「結構面白くて、最後までじっと見つめちゃったわ、スクリーン。」

K「ですよね。」

尚ちゃん(以下S)「今晩は。」

A「あら、尚ちゃん、いらっしゃい。」

S「あらあら二人で。お邪魔虫だったかなぁ〜?」

K「何言ってるのかなぁ〜。映画の話、アキさんとしていたんですよ。」

S「映画の話?オイラもこの前さ、見逃しちゃったのがあってぇ。悔しくってたまんないったらありゃしない。だって、・・・」

A「尚ちゃんは何にしようっ?」

S「あ〜、すいませ〜ん。ジンジャエールで。」

A「あいよっ!で、腰折っちゃったけど、その見逃しちゃった映画って?」

S「クリント・イーストウッド監督の・・・」

A&K「<ブラッド・ワーク>?」

S「あらら、ご名答。何でまた。もしかすると…。」

K「そうなんですよ。今話してた映画の話って、その<ブラッド・ワーク>の事だったんです。」

A「はい、お待たせ。まあ、偶然ね。でも、尚ちゃんは残念でした。」

K「本当に惜しかったね。あんな良い映画だったのに。」

S「イヤ〜、悔し〜〜〜い!だってぇ、2週間しか上映してないんですよ、2週間しか。それも最初から2週間なの。」

K「あれはひどいですよ、まったく。」

A「まあ、人の入りもイマイチだったけど、最初から2週間限定上映じゃね。」

S「で、どうだったのかしら?オイラにも教えて下さいよぉ〜。」

K「でもさ、その前に、何で尚さんがこの映画見たかったか教えて下さいよ。」

A「あら、カッちゃん知らなかったっけ?尚ちゃんって、推理小説大好き人間なのよ。」

K「へ〜。それは初めて聞きましたよ。意外だなぁ〜。」

S「そうなんだよ。オイラも活字はあんまり読まないんだけど、推理小説だけは別。だからね、 マイクル・コナリーの<わが心臓の痛み>が映画化されるって聞いた時には、ワクワクしちゃって、 早く観ようって思ってたんだけど、バイトが決まってたからなかなか行けなくてさ、で、 ようやく休みが取れるって思ったらもう終わってたって訳。」

K「で、小説はどうなんです?」

S「それがさ、まだ読んでない訳よ。で、それ、パンフ?」

K「はい、そうですけど。でも、読んでもいないのに、何でまたそんなに観たかったんですか?」

S「ちょっと、貸して。だって、アンタ、知らないの?マイクル・コナリーの<わが心臓の痛み>はね、アンソニー賞、 マカヴィティ賞、フランス推理小説大賞の三つも獲ってる傑作なんだってば。」

K「ちょっと返して下さいよ。あっ、本当だよ。おまけに全米で110万部突破だって。」

A「あら、そんなに。それじゃ良いわけね。」

K「クリント・イーストウッドも変な映画に出来ませんよね。」

S「そうなのぉ。だから、どうだったのかしらって、聞いているじゃな〜い!で、話は?」

K「イーストウッドは犯罪心理分析官の役なんだけど、殺人犯を追っかけている途中で、心臓発作で 、犯人を取り逃がしてしまうんです。」

S「それで?」

A「それから2年後に、彼は心臓の移植手術を受けるのね。その時にはプロファイラーは辞めているんだけど。」

S「うんうん。」

K「そこにある一人の女性が現れて、自分の姉の殺人事件の捜査依頼をするんですよ。」

S「でも、彼は断るわけだ。でも、何か理由があって引き受ける。」

K「あれ〜、尚さん、観たんじゃないんですか?まったくその通り。」

S「まあ、推理小説好きだから。で、その次は?」

A「するとね、不思議な事に、今まで2年間現れていなかった殺人犯が現れる様になる訳よ。」

S「いつも何か同じ手掛かりを残していくんですね、その犯人は。」

K「凄い!本当に観てきたみたいだよぉ。」

S「だって、そうじゃないよ。殺人事件なんて、日常茶飯事あるじゃない。で、その殺人事件が同じ犯人の仕業だって判るのは、 同じ手掛かりを残したからじゃないのよぉ。いちいち説明させないでよ。」

K「はい、すいません。」

A「まあまあ。」

S「で、イーストウッドは何処に住んでいるんです?その前に彼の役名は?」

K「マッケイレブと言う名前で、ヨット生活しているんですよ。」

S「う〜む、ヨット生活ね。元同僚や関係者とのトラブルは?」

K「ロス・アンジェルス市警の刑事達とは折り合いが合わなかったみたいですけど、郡警察の女の長官とは馬が合うみたいです。」

S「頼みに来た被害者の妹は?」

K「残された被害者の息子を養っているみたいです。何だか僕が尋問にあっているみたいだなぁ。」

A「そして、尚ちゃんが聞きたいのは、共通して犯人が残した手掛かりでしょ。」

S「それと、良く会う人。」

K「良く会うというか、ヨットで隣に生活しているヌーンという大金持ちの息子らしい人物。それに共通の手掛かりは、マッケイレブに宛てたメッセージを残してある事と、同時に数字の<903 472 568>を残している事。それにコンバースの足跡。」

S「う〜む。今まで出て来た人物に犯人はいるね。」

K「何で分かるんですか?これからまだ人物がでてくるかも知れないのに。」

S「これって、<感>なのよ。それに、推理小説読んでいると、どの辺りに犯人がいるかが分かってくる訳ね。」

K「それじゃ、読むのつまらなくなっちゃいませんか?」

A「そこで裏切られるのがたまらないんじゃないの?ねえ、尚ちゃん。」

S「流石だな。そう言う事だよね。」

A「で、絞った所で犯人分ったの?」

S「う〜む、まだ分りませんよ。分る訳ないじゃないですか。」

K「まあ、観ても読んでもないんだったら当たり前ですよね。でも、ヒント、挙げちゃいます。それは子供の言った一言なんですよ。」

S「言わなくていいからさ。楽しみなくなっちゃうじゃないのよぉ。」

A「でも、子供は本当に感が鋭いわよね。この前も、ヴァレーボールの連中と飯喰いに行ってたらさ、 隣にいた家族の子供がね、一言呟いたのよ。<あのお兄さん達、お姉さんみたいだよ>って。 みんな箸がとまっちゃったわよ。」

K「本当に子供は感がするどいですよね。」

S「あ〜ぁ、もうイライラしてきちゃった。カッちゃん、もう少しヒント。ね、教えてちょ。」

K「だから、数字を見て言った子供の一言です。」

S「さっき、数字なんて一言も言ってなかったじゃないのよ。うんもう〜。」

K「尚さんが考えている間に、もう一杯下さい。」

A「アイよっ!まあ、当分掛かりそうよ。アッシはかまわないけど。結構没頭する性格だからね。」

S「あ〜ぁ、もう駄目。最後のヒント、ね、最後のヒ・ン・トぉ。」

K「じゃあ、最後のヒントです。本当に最後ですよ。数字ありましたよね。」

S「なんだっけ?」

K「だから、<903 472 568>です。何か足りないじゃないですか。」

S「あっ、そうか。1がないんだ。1ね、1、1、1、1、1。う〜む、分かんないなぁ〜。」

K「やっぱり大人の感は鋭くないんですかね。」

S「なんだってぇ〜!」

K「冗談ですってば。後でちゃんと教えてあげますよ。」

A「尚ちゃんって、短気なのよ。あんまりじらしていると怖いわよ、ホント。」

K「えっ!じゃ、今教えちゃいますよ。答えは, ・・・・です。」

S「やっぱりね、そうじゃないかと思ってたんだよ。だって、1が無いんだもんね。1が。」

A「全く単純なんだから。」

S「大人の感は大した事ないんだってば。」

A「あらら。そうきたか。はははは。」

一同「ははははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。



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