<再演してぇ〜〜〜!>の巻

あき(以下A)「アカデミー賞、やっぱり<シカゴ>だったわね。」

良二(以下R)「本当でしたね。でも、監督賞と主演男優賞には驚かされましたね。」

A「ほんと。絶対スコセッシだと思っていたからね。それに男優賞は、ジャック・ニコルソンが本当に素晴らしい演技で、 この人以外考えられないと思っていたから。う〜む、残念。」

R「やっぱり、ハリウッドはユダヤ関連に弱い?って事ですかね。」

A「まあ、逆を言えば、アカデミーはユダヤ系が強いって事になるんじゃないの?」

R「まあ、そうですね。」

A「あら、周ちゃん、いらっしゃい。」

周(以下S)「今晩は。」

A「ちょっと遅いんじゃない?電車大丈夫なの?」

S「まだ大丈夫よぉ。焼酎の水割り、レモン入れてね。」

A「あいよっ!何かあったの?平日こんなに遅くぅ〜。」

S「あなたに取ってもらった美輪さんの<黒蜥蜴>に行ってきたのよ。まあ〜、素敵な席を有難う!本当に良い席で、 あんなに良い席で観たのは久し振りだったわよぉ。」

A「あっ、そう。それはよござんした。一応前から5、6番目の真中って事で頼んどいたんだけどね。」

S「ありがとうね。まあ、眼が眩みそうだったわよ、あの宝石やら衣装やら。」

R「本当に綺麗でしたよね。」

S「あら、良二も行ったの?」

R「はい、僕もあきさんに取ってもらって、先週の金曜日に行ってきたばかりなんです。」

S「どうだった?綺麗だったでしょ。」

R「はい。なんて言うかですね、美輪ワールドって言うんですか?初めての経験だったので、唯々驚くばかりで。」

A「周ちゃんは、初演から観ているのかしらん。」

S「アタイ?初演は観てないわよ。あきちゃん、正か観ているわけないわよね。」

A「当り前じゃないですか。」

R「初演て、何時頃なんです?」

A「昭和37年よ。江戸川乱歩の小説を基に三島由紀夫が書いた戯曲が発表されたのが36年だから。 そうね。37年で間違いないわね。」

S「初演は確か水谷八重子だったんでしょ、話に聞くところに依れば。」

A「本当は観てたんじゃないの?周ちゃん。」

S「観てないって。アタイまだ東京に出てくる前だもの。その2年後に大学に入るので出てきたんだからさ。」

R「という事は、周さん、今年で・・・・。」

S「いやぁ〜ん、計算しないでよ、乙女の年は。」

A「何、言ってんだか。」

S「でも、本当に観てないのよ。あの時の相手役が誰だかも知らないしね。」

A「あの時は文学座の芥川比呂志よ。雨宮が田宮二郎で、早苗が大空真弓。」

R「家政婦のひなは?」

A「賀原夏子よ、NLTの。」

S「あら、そうだったのぉ?ピッタシね、賀原ねぇ〜。もう随分前に亡くなったっわよね。」

R「僕、知りません、その人達。でも、最初から美輪さんじゃなかったんですね。この前観た時に、 これは美輪さんじゃないと出来ないだろうな、って感じがしたんですよ。だから、 ず〜っと美輪さんが演っているものだと思っていました。」

S「何人も演っているよねぇ〜、<黒蜥蜴>。映画では京マチ子も演ってたわよね。」

A「あの映画は笑えたわよね。ミュージカルの様でね。」

S「そうだった。」

R「他には誰が演じているんですか?」

A「二代目が美輪さんよ。まあ、その当時、美輪さんは、まだ丸山明宏っていう芸名だったんだけど。」

R「名字が違ったんですかぁ。」

A「そうなのよね。で、その時の明智が天知茂。雨宮が中山仁で、早苗が広瀬みさ。え〜と、ひなが、 誰だっけ?ほら、周ちゃん、ほら、あの〜、あっ、そうそう、新村礼子よ。」

S「あきちゃん、随分ちゃんと憶えているわね。」

A「そりゃそうよ。この時がアッシの<黒蜥蜴>初体験だったんだもの。中学一年生でさ、今の渋谷駅の上に、 東横劇場っていうのがあって、確かそこで上演したと思ったわ。時々地下鉄の音がガタンゴトンしてね。」

S「あった、あった。東横劇場ね。」

A「すごく強烈な印象だったもの。芝居がしたくてたまらなかった時だしね。」

R「へ〜。それで今でもよく観に行っているんですね。」

A「もうとっくの昔に諦めたけど、やっぱ、少しは未練があるのかもね、芝居の世界に。」

R「でも解りますよ。僕もすごく強烈でした。何なんでしょうね。」

S「台詞は綺麗だしね。内面から出てくる美しさが無いと、この役は演じられないでしょうぉ、ねえ。」

R「その後もまだ何人かの方が演っているんですか?」

A「まだまだいるわよ。美輪さんの舞台が大当たりしちゃったんで、結構時間を空けてからだったんだけど、 三代目になったのが小川真由美。この時の明智が美輪さんの初演時に雨宮を演った中山仁。約20年位前かしらん。」

R「へ〜。その二人は知ってますよ。」

S「玉三郎も演らなかったっけ?欣也とさ。」

A「あら、周ちゃん、観てるわね。玉三郎は2度演っているわね。最初が北大路欣也。これが演舞場でしょ、 で、青山劇場の時は草刈正雄。」

R「草刈正雄も演っているんですか。」

A「アッシね、この時の演出で美輪さんが演出するものより好きな場面があってね。」

S「何処よぉ、どこ?」

R「僕も聞きたいな。」

A「あのさ、2幕での最後よ。」

S「あ〜、舞台が二つに分かれている所ね。」

R「はいはい。上手に明智の事務所、下手に<黒蜥蜴>の隠れ家がある場面ですよね。」

A「そうそう。あそこはね、美輪さんのも悪くはないんだけど、各々が上下に分かれていた演出の方が好きなのよね、アッシ。」

S「それも良いわよね。でも、そうだったかしら?もう忘れちまったわ。あと、あれよね、あの女。 誰だっけ?あの下手くそなあの〜、ギターか何かの人と結婚した女よ。確かあの女も演ったわよね。」

A「あ〜、松坂慶子でしょ。津嘉山正種の明智、雨宮が井上純一で早苗が荻野目慶子。ひなが南美江だったわね。 13年前の3月だったかしらん。」

S「しかし、あんたも良く憶えているわよ、本当に。」

A「好きだからね。」

R「でも、みなさんお綺麗な方達ばかりですよね。」

A「というか、さっきも言ったけど、綺麗に見えなきゃ駄目なのよね、<黒蜥蜴>は。それに妖しさ。 TVで演じたのも岩下志摩だったし。」

S「でも本当に綺麗だったわ。あの輝り方。普通のスパンコールじゃ」ないわよ、きっと。」

R「そおういった方面での観方も面白いですよね。」

S「そうでしょ、そうでしょ。で、あんた、良二は驚くばかりで他に何も感じなかったのかい?」

R「そんな事はないですけど、何かって言えばですね、台詞でですね、意味不明な所が沢山あって。 難しい言葉だったらそれはそれで理解出来るんですけど、意味不明なんですよ。それが所々に出てくるんで・・・・・。」

S「あるわね、確かに。なんか、あれでしょ、詩を読んでいるみたいな、言葉の羅列っていうの?あった、あった。」

A「何処だか分からないけど、三島の文学って、所謂純文学じゃない。だからさ、伏せ語っていうの? 普通の会話ではありえない、出てこないんだけど、その言葉の裏、 またその裏かも知れない所に意味を含ませた言葉っていうのが沢山出てくるのよね。だから、 一度や二度では分かりえるわけがないと思うのよ。やっぱり観るだけじゃなくて、三島の作品は文章で読まなきゃね。」

S「それにしても、高嶋の兄の方?・・・」

R「そうです。高嶋政宏ですね。」

S「結構やるじゃ〜ん、て。あんなに出来るのね。少し驚き。」

A「そうね。アッシ、彼の舞台を初めて観たのがミュージカルの<王様と私>で、一路真輝の相手役ってな感じだったけど、 今回また一回り成長していて、荒削りだけど、これから更に期待出来るなって思ったわよね。」

R「僕も正直驚きましたよ。結構格好良いし。」

S「でも、噂に聞くと、何でも美輪さんの<黒蜥蜴>はこれが最後わしいじゃない。」

R「え〜っ!そうなんですか?残念だなぁ〜。今回分からなかった台詞、次回また観て、 その時には理解しようと思ってたのにぃ〜。」

A「何でも去年のリサイタルで、そう言ったらしくてね。一部ではそう言われているけど、 美輪さんの事だから、今回の即完売で観る事の出来なかった人の為に、きっと近いうちに再演してくれるでしょうね。」

R「そう願いたいですよ。」

S「アタイも、もう一度位は観たいわね。その時はまたお願いよ、あきちゃん。」

A「任せて!」

S「あら、そう言えば、まだ何も差し上げてなかったわね。あきちゃん、飲んで!」

A「あら、すみません。いただきます。」

R「それじゃ、再演を願って、僕もお代わりしますから乾杯しましょう。」

A「はいはい。・・・・お待たせ。それじゃ、再演を願って、かんぱ〜い!」

一同「ははははは・・・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介した美輪明宏さんの<黒蜥蜴>は、東京公演は終了しましたが、5月初旬まで、全国公演します。 見逃した方は是非、地方公演にお出かけ下さい。
*アカデミー賞の作品賞を獲った<シカゴ>は4月19日より全国ロードショーの予定です。 こちらも楽しみですね。どうぞ足をお運び下さい。


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