<めぐりあうって素晴らしい>の巻

あき(以下A)「いらっしゃ〜い!」

トラ(以下T)「今晩は。」

京ちゃん(以下K)「あれ?」

A「どうかした?京ちゃん。」

T「あきちゃん、ローゼズスパークリングをジンジャエールでね。」

A「あいよっ!」

K「あの〜、今日もしかして映画館にいませんでした?」

A「トラちゃんお待たせ。京ちゃん、こういう所では、何処で会ったとかは言わないものよ。」

T「何言ってんの?俺、ヤバイ所なんかいってないよぉ〜。」

A「あらあら、本当かしらん。ふふふふ。」

K「あのぉ〜、そういう映画館じゃなくて、ちゃんとした映画館なんですけど。」

T「あ〜、映画観にね。」

A「行ってたの?トラちゃん。」

T「今日は映画館のハシゴ。ちょっと疲れ気味。」

A「何行ったのよ。」

T「ほら、あんまりアキちゃんがいいって言うから、まず六本木で<シカゴ>だろ、その後、 新宿に戻って<めぐりあう時間たち>に行ってきたんだよ。」

K「やっぱり。いや、僕なんですけど、<めぐりあう時間たち>に行ったんですよ。あのぉ〜、 何さんでしたっけ?一番前に座ってませんでした?」

A「トラちゃんよ。」

K「あ〜、トラさんですか?一番前に座ってましたよね。絶対座ってたよぉ〜。」

T「確かに座ってたよ。俺さ、スクリーンを一人占めしたいタイプなんだよね。」

A「あら、トラちゃん、一人占めしたいのはスクリーンだけかしら?」

T「まあ、他にも色々あるかもしれないけど。」

K「一人占めしたいタイプなのかぁ〜。でも、良かったですよね、そう思いませんでしたか?え〜と、・・・。」

A「トラちゃんよ。」

K「あ〜、トラさん。」

T「それじゃ、君は、・・・なんだっけ?え〜と。」

A「京ちゃんよ。」

T「京ちゃんはさ、4時25分の回に行ったんだね。」

K「はい、そうなんです。僕、営業やっているんですよ。ちょっと暇だなぁ〜って思って、時間もあるし、 映画でも観ようかな?って。」

A「まあ、いいわね、仕事さぼって映画観て、お給料もらって。」

K「そうでもしなきゃ、やってられませんよぉ〜。ねえ、そう思いませんか?トラさん。」

T「まあ、俺はさ、自由業だからね、ちょっと当てはまらないけど。」

K「へ〜、トラさんって自由業なんだ。何やっているんですか?」

A「だから、京ちゃん、こういう所では聞かないんだってんば。」

K「あ〜、また怒られちゃったよぉ〜。すいません。じゃあ、聞きません。失礼しちゃったなぁ〜。」

T「いや〜。別に構わないけど。俺ね、フリーのライターなんだよ。」

K「あっ、そうなんですか。じゃあ、今日の映画館回りも仕事だったんですね。」

T「いや、今日は違うんだよね。昨日が締め切りの原稿があってさ、終わってから、何か気分転換したいなって思ってね。 映画でも観に行くか?って事にした訳なんだよね。」

A「でも、疲れているのに、二つも観てくるなんて。余計に疲れちゃったんじゃない?」

T「それがさ、やっぱりあれかな?良い映画を観ていると忘れちゃうって言うの?」

K「あ〜、分かります、分かります。僕も今日は仕事の事忘れて映画に没頭してましたからね。」

A「えっ?トラちゃんが言ってたのって、疲れとか時間じゃないの?」

K「え〜っ?そうなんだぁ。また変な事言っちゃったなぁ。」

T「ああ、今日の俺の場合は疲れが第一。二つとも良かったから、本当に忘れちゃったね。」

K「本当に良かったですよね。最初はどうなるのかなって思ってましたけど。」

A「そんなに<最初からどうなるのかな?>みたいな展開だったけ?まあ、衝撃的ではあったけど。」

K「僕ですね、ヴァージニア・ウルフって、初めてだったんですよ。な〜んにも知らなくて。」

T「一度読んでみたらいいよ。映画がもっと解ったかもね。彼女の事も含めて。」

A「だけど、本当に上手い作り方だったわよね。彼女の作品<ダロウェイ夫人>と彼女自身をモチーフに、 違う時代の彼女を含めて3人の女性を描いていくやり方。」

T「それがあ〜やって結びついていってる。上手いね。」

A「でも、アッシはちょっと不満な所もあったのよ。途中で判っちゃうのよね、その結びつきが。て言うか、 想像できちゃうのよ、きっとこういう繋がりなんだろうな、って。それも半ばくらいで。」

K「え〜、僕はまだ何だか分からないんですけど。ただ、みんな上手かったですよね。二コール・キッドマンなんて、 変な顔って思っちゃって。」

T「まあ、アキちゃんが不満に思うのは分かるんだよ。でもさ、それは、アキちゃんがヴァージニア・ウルフの事や、 彼女の書いた<ダロウェイ夫人>の内容を知っているからじゃないかな?」

A「そうかもね。きっとそうだわ。じゃないと解らないかも知れないわね、色々な<めぐりあい>が。」

K「<めぐりあい>ですか?それって、あの出てくる3人にですよね。何かあったかな〜?」

T「そのめぐりあった話で上手く結んでいくのが良かったよな。」

K「例えば、どんな<めぐりあい>があったんですかね?」

A「京ちゃんは、一つも分からなかったの?」

K「はい。でも、そのヴァージニア・ウルフの書いた小説をジュリアン・ムーアが演じていた人が読んでいたのは分かりましたけど。」

A「分かってんじゃないのよ。まず、それがとっかかりよね。最初にヴァージニアが呟いているじゃない、 小説の中の文句よね、<花は私が買ってくる>って。するとさ、画面が1950年代に飛んで ジュリアン・ムーア演じるローラが丁度その所を読んでいるのよね。その後、さらに時代が飛んで、 2001年メリル・ストリープ演じるクラリッサが同居人に同じ台詞を言うのよ。」

T「まず、上手いよね、その流れ。どこか、何かでめぐりあっている3人を見せて進行していくやり方。」

K「は〜ぁ、そうですね。僕にはそこしか分からなかったけど、上手いんでしょうね。」

A「でも、京ちゃん、思い出してごらんなさいよ。きっと見つかるはずよ。」

K「ヒントはないんですか?そうすれば、結構思い出してくると思うんだけど。」

T「でも、明日、明後日と日が経つにつれて分かってくるかもな。そんな映画だと思ったよ、俺はね。」

A「そうかもね。日が経つにつれて感動が増してくるっていうの?何か解るような気がするわ。」

K「で、ヒントはないんですか?」

A「そうね、ヒントね。そうね、しいて挙げれば、悩み、性的な指向、時間、幸せに対する考え、そして、何よりも、 <ダロウェイ夫人>の本の内容そのものかしらん。」

T「俺はね、あれは、全く<ダロウェイ夫人>の内容そのものだと思うよ。 その中に出てくるシーンが違う時代でめぐりあっているし。」

A「そうね。京ちゃんも一度ダロウェイ夫人を読んでみたら?」

K「そうしようかな。それにしてもタイトルがいいですね。<めぐりあう時間たち>。」

A「めぐりあう時間たち。アッシ、マイケル・カニンガムの原作を読みたくなっちゃった。」

T「それは興味あるな、俺も。それにしても、良い映画だったよ。どんどん感動が増してくるよ。 音楽も良かったし、役者のみんなも素晴らしかったし。」

A「二コール・キッドマンはもちろん、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープの3人。」

T「それに、ヴァージニアの夫を演じたスティーヴン・ディレイン、詩人リチャードのエド・ハリス。」

K「あと、格好いい人出てましたよね。あれは、詩人の恋人だったんですかね。」

A「あ〜、ジェフ・ダニエルズね。京ちゃん、趣味なんだ。」

K「はい。格好いいですよ。誰かいないかなぁ〜、あんな人。」

T「京ちゃん、理想高いんじゃないの?もっと謙虚にな。」

K「理想は高いほうが良いじゃないですか。トラさんも格好いいですよ。」

T「本当かよ。うれしい事いってくれるねぇ〜。」

A「あら?京ちゃん、だから覚えてたんじゃない?映画館でさ、・・・。」

K「あれ、バレちゃいました。恥ずかしいなぁ〜。<めぐりあい>かもしれないじゃないですかぁ。」

T「な〜んだ、早く言えばいいのに。何時でもどうぞ、ってね。」

A「はいはい。お幸せにね。そろそろ閉めたくなちゃったわね。」

T「いやいや、もう一杯飲むよ、俺は。お代りね。」

K「それじゃ、僕も。」

A「はい、有難うございます。ふっ、あはははは・・・・・・。」

一同「ははははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介した<めぐりあう時間たち>は、松竹系の映画館で公開中です。どうぞ足をお運び下さいね。


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