<これからいったいどうするの?>の巻

あき(以下A)「いらっしゃい!」

トシオさん(以下T)「今晩は。」

A「今日は、何しましょうか?」

T「そうねぇ〜、ビールちょうだい。」

A「何か元気ないんじゃない?トシオさん、何かあったの?」

T「いやね、今日うちの坊主と映画に行ってきたんだけど、ま〜ぁ、いろいろ考えさせられちゃってねぇ〜。」

A「あら、そんなに考えさせられる映画だったんだ。はい、お待ちどうさま。」

T「はい、ありがと。」

A「で、何見てきたのよ。」

T「ニコルソンよぉ〜、ジャック・ニコルソン。」

A「あ〜、<アバウト・シュミット>ね。」

マサト(以下M)「あれか〜。そりゃトシオさんには重かったでしょうね、きっと。ははは。」

T「何言っとんとぉ〜。アンタにもすぐ訪れるのよ、ちゃんと見ときなさいよ!」

A「そうよ、マサト。アッシにだって本当にもう直ぐ訪れるのよね〜ぇ。」

M「そうですよね。オイラにもきっと、というか絶対に訪れる事ですからね、ちゃんと見とかなきゃ。」

A「映画自体はそう大した事なかったけど、ちょっと切なくて、ジャック・ニコルソンの演技が哀愁を誘って、 とても素晴らしかったわよね。」

T「良かったね、ニコルソンは。でもねぇ、あきちゃんねぇ、僕も丁度彼と同じ立場でございましょ、 だから本当に考えちゃったのよねぇ。これからの事を。」

A「考えなきゃいけないのよね、アッシを含めてこの世界の人みんなが。」

M「そうですね。さっきは笑っちゃってすいませんでした。」

T「いいのよぉ〜ん。まあ、あんまり暗くならない内に映画の話に戻しましょうよ。」

A「そうね。で、トシオさんはご自分の状況とだぶっちゃったのよね。若いマサトから見たらどうなのかしらん。」

M「そうですねぇ、オイラはあんまり考えない事にしているんですよ。あんまり考えたって、 その軌道どうりに行くなんて滅多にないじゃないですかぁ。だから、あんまり考えない様にしてるんですよ。」

A「そうね、それも言えてるわね。まあ、映画だからタイミング良く色々な事が起こるんだろうけど、もし、 ニコルソン演じるシュミットが自分だったらって考えちゃうとね。」

T「でもさぁ、あきちゃんとか僕とかは、まだ趣味があるからね、いいんじゃないかと思うけど、趣味がなかったら、 って考えてみたら、それはもう・・・・・。」

A「そうよね。趣味を持っているって結構大切かもね。」

M「あのシュミットっておじさん、趣味なさそうでしたからね、へへ。だから、 <チャイルドリーチ>っていうチャリティ団体の存在が分からなかったらどんなになっていたんでしょうね。」

T「そうでございますわよ。僕なんか、趣味があって良かったわね〜ぇ、ねえ、あきちゃん。」

A「まあ、そうね。それにしてもジャック・ニコルソンの独断場だったわね。アッシさ、 映画は本当に大した事ないと思ったのよ。でもね、ジャック・ニコルソンの演技をみて、前から思っていたけど、 もっと、この役者はただ者ではないわね、って思っちゃったわよ。」

T「あきちゃん言ってたものねぇ、アカデミー賞の予想の時に。主演賞はジャック・ニコルソンだ、って。僕も、 凄いなと思いましたわよ。いつもクセのある役が多いじゃございませんか。でも、 この映画では淡たんと演じてらっしゃったものねぇ。」

M「寂しさがとってもよく表れていましたよね。本当にあんなになっちゃうのかな?まあ、いいんですけどね。」

A「でもさ、人間って、誰でもそうなんじゃないかって思うんだけどさ、 今まで経験した事のないものからまた何かを経験するんじゃないかって。」

T「そうよねぇ。シュミットだって、がむしゃらに働いて、定年になったら自分の家庭での位置とか、 必要性とか、本当に考えさせられちゃったじゃございませんか。その時、 自分でどう行動できるかが決め手になるんじゃないかしらねぇ〜。」

A「今までの人生を振り返って、また新たな人生を歩んで行く。最後のシーンで、少しそれを感じたわ。」

M「あのシーンは良かったです。シュミット自身も良かったな、って感じている、そんな映像でしたよね。」

T「良かったね、あのシーン。結局、僕はね、あの時、彼はこれからの人生に対する不安ていうのか、 まあ、心配だわね、それをなるべく思わない様にしようと思ったんじゃないかって見えたんだけどね。」

A「不安をまるっきり持たない人なんていないと思うけど、出来るだけ思いすぎる事を止めようって思ったってわけね。」

T「そう言う事だと思いますわよ。」

M「いい顔してましたもんね。」

A「いい顔って言えば、この前、ブルーノートにね、オスカー・ピーターソンを聴きにいったんだけど、彼もいい顔してたわ。」

T「オスカー・ピーターソン行ったの?僕も行きたかっわよ。まだ弾けてましたかしらん。」

A「もう左手がね。障害がおきてから戻るのにはやっぱり・・・、って所があったけどね。」

M「誰なんですか?オスカー・ピーターソンって。」

T「マサトはオスカー・ピーターソンも知らないのかしら?」

M「はい、すみません。」

A「トシオさん、そんな事言ったって、知らない人も多いでしょ。そんないい方ばかりしていると、 シュミットみたいに、気が付くと自分の回りに自分を理解してくれる人がいなくなってるかもよ。」

T「あら、ごめんあそばせ。」

M「で、オスカー・ピーターソンって誰なんですか?」

A「世界的に有名なジャズのピアニストなのよ。」

M「それを聴きにいったんですね、あきさんは。」

A「そうなの。もう最後の来日かなって思ってね。最初はね、故障している手があるから、 聴いていて悲しくなるんじゃないかって思ったんだけどね。」

T「凄い演奏でしたの?」

A「それが、やっぱり往年の迫力やテクニックはみられなかったのよ、正直に言うと。」

M「それじゃ、ガッカリだったんだぁ。」

A「でも、凄く満足だったのね。メンバーのサポートや、お客さんの暖かさが伝わる拍手にしっかり答えてたのよ。 ステージが終わって車椅子に乗って帰って行く姿を見ていると、 この人には自分の人生を納得している所があるわね、って感じたの。」

T「それは良うございましたわねぇ。でも、これからいったいどうするのかしらん。」

A「多分、す〜っと弾き続けるでしょうね。」

T「僕なんかもず〜っと何かをやっていきたいわねぇ。」

A「トシオさんは大丈夫よ。仕事も依頼がまだまだあるし、さっきも言ってたけど、趣味もあるから。」

M「そうですよ。オイラなんて、本当にこれからどうすんの?って感じなんですから。」

T「何言っとんとぉ〜。マサトはまだこれからじゃございませんか。仕事だって忙しそうだし、 人生はまだまだ長いんでございますよ。」

M「いや、辞めちゃったんです仕事。」

A「えっ???」

T「何でまた。」

M「疲れちゃって。もう辞めちゃおって思って。」

A「また短絡的ね。でも、マサトの事だからちゃんと次の仕事のメドはたっているんでしょ?」

M「いいえ。まあ、取り合えず辞めようって。」

T「最近は多いわねぇ、こういう子。」

A「でも、これからいったいどうするの?」

M「未定です。はははは・・・・・。」

A「あんたって本当に幸せなんだか何なんだか。」

T「それじゃ、マサトに何か一杯あげて。これからの再始動に向けてさ。」

M「あっ、そうですか。頂きます。え〜と、それじゃ、ビールを。」

A「あいよっ!・・・でもさ、ホントにこれからどうすんの?」

M「はぁ〜、・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介した映画などは、
 1)<アバウト・シュミット>
     銀座みゆき座 等で公開中
 2)オスカー・ピーターソン
     公演終了

以上です。どうぞ足をお運び下さい。


Back Number!