<踊って帰りましょう!>の巻

タカシ(以下T)「アキさん、お茶でもしましょうよ。」

あき(以下A)「そうね、まだ早いし。そこのカフェ・ラ・ミルでも入りましょう。」

店員「いらっしゃいませ。何になさいますか?」

A「そうね、自分はロイヤルミルクティを。」

T「それじゃ、僕も同じもので。」

店員「はい、かしこまりました。ロイヤルミルクティをお二つでございますね。」

T「いや〜、結構かしこまってますね。そうそう、アキさん、今日は有難うございました。」

A「いえいえ、で、どうだった?」

T「はい、僕は映画しか見ていなかったものですから、少し驚いたというか・・・。」

A「そうよね。まあ、基本的には映画と変わっていないんだけど、映画とは、 歌のシーンが違っていたりはあるんだけど。」

T「やっぱりそうですか。僕、今日の為に映画をDVDで見直して来たんですよ。」

A「予習して来たんだ。えらいわね。それじゃ、舞台の魅力もわかったかしらね。」

T「ええ、やっぱり生の音楽が入ると結構違いますよ。」

A「そうでしょ。なにか、胸がドキドキするって言うのかしらね。指揮者が出てきてタクトを上げた瞬間、 もう世界が変わってくるのよね。」

T「<ウエスト・サイド物語>の中にす〜っと入っていくって感じですね。」

A「そうなのよ。でもさ、どうだった?タカシは。今日のオケ。」

T「う〜ん、実は僕、生の演奏聴くの初めてなもんですから。正直言って分からないんですよ。でも、 良かったと思いましたけど。アキさんは違ったんですか?」

A「そうね。最初の音が鳴った瞬間、何?って思ったのよ。何しろ、管がね。出すぎって言うのかしらん。 音程も不確かでさ。大丈夫なのかな?って、違う意味でドキドキしちゃったわね。まあ、2幕目では安定していたけど。」

T「そうだったんですね。僕なんか、あの最初の音を聴いたら映画のただ赤や青や紫の色だけが写っているスクリーンを想い出しちゃって。 多少の音のズレなんか、生演奏だから仕方ないな、って。期待で胸が膨らんじゃって、ただもう興奮しちゃったていうか・・・。」

A「それじゃ、本当に良かったわ。」

T「でも、アキさんにとっては不満タラタラなんですか?」

A「そうでもないんだけど、今回はミラノスカラ座ヴァージョンって事になっていたから、少し期待が高すぎちゃったかもね。」

T「そう言えば、ミラノスカラ座ヴァージョンだったんですよね。でも、僕には全くオペラって感じがなかったですね。」

A「まあ、元々がバーンステイン作曲のミュージカルだからね。今回も、当たり前だけど、オペラではなくて、 ミュージカルとしての上演なのよ。」

T「そうですよね。わざわざミュージカルをオペラにして上演するわけがないですよね。でも、 スカラ座ヴァージョンって聞いてしまうと、ついついオペラって思っちゃいそうですけどね。 このスカラ座ヴァージョンっていうのが、いまいち分かりにくいんですけど、何なのですか?」

A「あ〜これね。これはさ、単なるスカラ座でのレパートリーに入った、って事なんじゃないかしらねぇ。」

店員「お待たせいたしました。ごゆっくりお過ごしください。」

A「タカシは歌についてはどうだったのかな?」

T「そうですね。さっきも言ったように、興奮して観てましたから、ちゃんとは聴いていないんですけど、 どうだったんですかね。アキさんはどうだったんですか?」

A「まあまあかな。主演の二人について言えば、今日トニーを演じたフレデリック・ストリッドは、 まだ硬くてトニーには成りきっていなかったと思うのよ。歌だけで言えば、マリア役のエカテリーナ・ ソロヴィエワの方がマリアをちゃんと創っていたと思おうわね。ただ、彼女、マリアの清純さが今ひとつ。 ちょっとアバズレっぽく見えちゃう所もあって、清純なマリアとは少しだけ違っていたけど。」

T「僕はその点でいうと、結構、ベルナルドとリフが良かったんですけどね。それにアニタ。」

A「そうね。アッシもそう思ったわね。特にアニタ。ソランジェ・サンディっていう女優さんだけど、 アッシがブロードウェイで観た<アイーダ>に出ていたわよ、確か。彼女が演技、歌の両方でまとまっていたし、 今回のキャストの中ではNo.1だと思うわね。まあ、今回は主役がトリプルキャストだから、他の人を聴いていないんで、 何とも言えないけど。」

T「そうそう、言おうと思っていたんですけど、トニー役、プログラムで見たら、ヴィットリオ・グリーゴロって、 イメージにピッタリですよね。」

A「えっ!どれどれ。・・・あら、ほんと。まあ、タカシは映画のリチャード・ベイマーのイメージが強いからなんだろうけど、 ホント、いい男よね。」

T「初演のトニーは全く違うんですか?」

A「まあ、アッシも初演を舞台で観る事は不可能だったからね。でも、写真で見ると、ラリー・カートって言うんだけど、 お世辞にもハンサムとは言いがたいわね。それよりも、映画はマスク重視っていうか、いい男過ぎたわよね。トニーを始め、 リフのラス・タンブリン、ベルナルドのジョージ・チャキリス。勿論、マリアのナタリー・ウッドもね。」

T「思い出した事があるんですけど。」

A「何よ。」

T「あの一幕目の始めの方で、一度幕が降りたじゃないですか。あれって、何か意味があるんですかね。 とっても不自然だったんですけど。」

A「はははは・・。あれね。あれはさ、ただの失敗よ。アッシは細かくは分からないんだけど、 多分セットが動かなかったんじゃないの?滅多に見られないからラッキーといえば、ラッキーなんだけど、 あそこは流れが止まっちゃったわね。あ〜あ、って思ったもの。その前にオケでちょっとがっかりしてたしね。」

T「そのセットですけど、良く出来てたと思いませんか、アキさんは。」

A「そうね。セットで良かったのは街のセットね。ニューヨークって感じがして。アッシ、 始めてニューヨークへ行った時を想い出したわね。あの階段なんて、そのまま、って。でもさ、他の所、例えば、 寝室やブライダルショップなんかはもう少し考えてよ、って感じたけど。」

T「あっ、そうですか。僕なんかは舞台だから仕方ないって思ってましたよ。ところで、演出ですけど、 スカラ座ヴァージョンならではの演出ってあったんですかね。」

A「特には感じなかったけど。少しは違っていた所もあったけど、目立つのは、良い所じゃないのよね。」

T「と言うと、悪かった点がいくつか?」

A「そうね、一番気になったのが、お行儀良すぎるって事。」

T「お行儀良すぎですか?」

A「そうそう。だってさ、思い出してみてよ。あの決闘シーン。まるで喧嘩じゃないじゃない。なんか、 スローーモーションで動いているみたいだったし、体育館のダンスシーン。円陣を作って回るでしょ。あの場面、 一度だけよ、回るの。もう少し長くなきゃ。」

T「そう言われると、トニーがベルナルドを刺す所なんて、刺した!って思わなかったですね。」

A「そうでしょ。それから最後のシーン。何か物足りないのよね。哀しみが伝わらないまでではないんだけど、 消化不良で終わっちゃったって感じよ。」

T「それじゃ、アキさんにとっては、いまいちだったんですね、この舞台は。」

A「そんな事はないのよね。やっぱり良く出来ているミュージカルだと思うのよ。後半はさっきも言ったように、 オケも良くなっていたしね。」

T「僕も感激でしたよ。なんか、踊りたくなっちゃいました。」

A「いやだ、タカシったら。でも、ちょっぴりアッシも踊りたいかな?な〜〜んちゃって。」

T「それじゃ、踊って帰りましょうよ。」

A「そうしようか。もうあんまり人通りもないと思うし。」

T「そうですね、な〜〜んて、嘘ですよ、うそ。踊ってなんか帰れるわけないじゃないですか。アキさん、 まだ入ってるんですね、舞台に。」

A「何いってんのよ、アッシがタカシをからかっただけでした。そんな事して帰れるわけないでしょ。 誰が見てるか分からないんだから。すぐ噂になっちゃうわよ。」

T「そうですよね。じゃあ、帰りましょうか。」

A「踊ってね。」

二人「ははははは・・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。

*今回紹介したミュージカル、<ウエスト・サイド・ストーリー>はただいま全国巡演中。 東京公演は9/2〜12まで渋谷Bunkamuraオーチャードホールにて再び行われます。どうぞ、足をお運び下さいね。



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