<哀しいコメディ> の巻

まー君(以下M)「今晩は。寒いですねぇ〜。」

あき(以下A)「あら、まー君いらっしゃい。はい、温かいオシボリどうぞ。」

M「ああ、有難うございます。え〜と、今日は、そうそう、キューバ・リバーをいただこうかな?」

A「あいよっ!今月のお勧めドリンク。まー君が一番最初に注文してくれたお客様よ。・・・さあ、お味はどうかしらん。」

M「甘〜いですね。でも、ライムがすごく効いていて美味しいですよ。」

A「飲みやすいでしょ。ところで、今日は何か観て来たのかしら?チラシたくさん持っているみたいだけど。」

M「そうなんですよ。昼が<ガラスの動物園>で、夜が<ユーリンタウン>です。」

A「あらら、強行スケジュールね。それに、その二つでしょ。疲れなかった?」

M「ちょっとね。アキさんは観たんですか?」

A「勿論よ。両方とも好きな作品だしね。ただし、アッシはダブルヘッダーじゃなくて、違う日に行ったけど。 で、まー君はどうだったの?」

M「今回行ったキッカケは、前にアキさんが<欲望という名の電車>を観に行ったって言ってた時に、 テネシー・ウィリアムズの作品だったら<ガラスの動物園>も好きみたいな話をしてたんですよね。だから観てみようかな? って思ったんですけど、確か、その時に、アキさん、「とっても暗いけど・・・」って言ってたと思ったんですね。」

A「それが、暗くなかった、て言うか、暗く思わなかったんじゃないの?」

M「そうなんですよ。やっぱりそう思いましたか?アキさんも。」

A「それは無いわね。やっぱり暗かった。けど、笑ってしまったわ。」

M「そうですよね、笑っちゃいましたよね。これ、コメディーだったの?って。」

A「あれはね、まあ、観ている日にちが違うから何とも言えないけど、アッシの観た日はね、 李麗仙がカンじゃった所と台詞が入っていなかった所、その場面でのタイミングが良かったというかね。」

M「アキさんが観た日もそうだったんだぁ。実は今日もそうだったんですよ。なんか、これ忘れてるんじゃないの? って思ったんですけど、やっぱりね。僕は李麗仙を観るのが初めてだったんで最初は本当にこういう台詞なのかな? って思っていたんですけど、一度ではなかったから・・・。」

A「そうね、今回の舞台は、李麗仙のアングラの舞台を観ているかの様だったかもね。」

M「アングラですか。僕はその頃を知らないんでね。でも、そう言われると、アングラ時代の李麗仙も観たくなっちゃいますね。」

A「でも、笑える所ばかりじゃ無かったでしょ。アッシはね、 李麗仙のあの芝居が逆にリアリティーを感じさせてたんじゃないかとも思ったのよ。 今までの<ガラスの動物園>は、何か良い所のお嬢さま的な母親像が、かつての栄光を夢みてはいるものの、 現実をそれ以上に感じている母親像になっていたなと思ったのね。」

M「そうですね。人間の内面に迫るっていうのかな?夢見る母親、足の悪い姉、そして、外に飛び出したいと思っている弟、 それに昔は大人気だった弟の友達。この4人しか出ていないけど、その内容はシビアだし。現実を考えていないなんてあり得ませんからね。」

A「それに、あのセット。」

M「セットですか?ダイニングテーブルとソファーにクローゼット。それに、そうそう、ガラスで出来た動物たち。 あんまりそこから何かを感じませんでしたけど。」

A「あらあら。ちゃんと観てたの?あのセット、部屋がガラスで出来てたじゃないのよ。」

M「あっ!そう言えば、ドアも天井もガラスでしたね。」

A「ね、あのセットよ。美術の朝倉摂と演出の松本祐子は、あの家族を脆くて壊れやすい<ガラスの動物園> として捉えて作ったんじゃないかと思ったのよ。」

M「へ〜〜〜、なるほどね。そういう事だったんですね。」

A「じゃなくて、そうだと思ったの、アッシが。」

M「アキさんは全体的にはどうだったんです?役者とか・・・。」

A「李麗仙については、さっきも言った通りなの。結構現実の母親像を見せてくれたわよ。ちょっとチープかな? とも思うけど。トムの若杉宏二は語り手の時との時間的なギャップをもっと出してほしかったわね。 ローラの青木砂織は合格点、ジムの栗野史浩は上手いんだけど、このキャストのバランスを考えると、 ちょっとミスキャストかな?って思ったわね。」

M「なるほど。僕はジムがとっても上手かったと思いました。あれでもっと顔が良ければね、 はははは・・・。それくらいですかね。」

A「そうだ、アッシ、あの舞台で唯一、絶対に許せない事があったのよ。」

M「絶対にですか?何です?それって。」

A「ほら、最後ジムが語った後に流れる音楽なのよ。」

M「何でしたっけ?歌がはいっていましたよね、確か。」

A「そうそう。あれね、ジャック・ブレルっていうフランスの歌手の<Ne Me Quitte Pas〜行かないで> っていう曲なんだけどね、母親のアマンダが、 自分の過去の栄光と息子のトムに対する気持ちを表すために使ったんだったらまだ分かるんだけど、 すぐに終わっちゃうし、なんか安っぽかったのよ。」

M「確かにすぐ終わっちゃいましたよね。」

A「あれじゃ、余韻も何もありゃしないわよ。」

M「あっ、かわりお願いします。」

A「あいよっ!」

M「そう言えば、余韻じゃなくて、何にも分からないまま終わっちゃったのが<ユーリンタウン>でしたね。」

A「はい、お待ちどうさま。・・・・そうね、ちょっと難しいかもね。けっして難しい話ではないんだけど。アッシが思うに、 難しかったっていうのは、ああいう作品の作り方じゃないの?話はわかったでしょ。」

M「そうですね。トイレの有料化に反対する貧困層と悪徳事業者との対立に、ちょっとした恋物語を絡ませたって事ですよね。」

A「そうそう。でも、しっかりとした脚本で、パロディーも沢山あって、アッシにはとても楽しめる舞台だったわよ。 少しの点を除けばね。」

M「どんな点です?アキさんが気になったってのは。」

A「まず、あの巨大な劇場。いつも思うんだけど、芝居に見合った劇場で何故しないのかな?っていう点ね。 元々はオフの小さな劇場でやっていた物なんだから、もう少し小ぶりの劇場を探してほしかったって思うのよ。 それから、それに伴って大きくならざるを得なかった舞台装置。まあ、大きな牢獄と下水道は良かったとして、 その使い方がもったいなかったと思ったのね。」

M「そうですよね。お芝居の半分以上が舞台の半分より前で行われていましたよね。」

A「そうでしょ。それなのに、客席の方まで使ってたわよね。演出の方法としては分かるんだけど、 あそこまでする必要があったのかな?って。」

M「でも、役者達には驚かされましたよ。南原の歌はちょっと聞けなかったけど、 別所哲也やマルシアや鈴木蘭々や自転車キンクリートの高泉淳子たちがあんなに歌えるなんて。」

A「そうでしょ。マルシアはミュージカル初挑戦の<ジキルとハイド>で歌での存在感は実証済みだし、 彼女も蘭々も歌手として活動しているしね。別所哲也はデビューが<ファンタスティックス> っていうミュージカルだったのよ。まあ、役者さんは芝居だけじゃなくて、歌も歌えないとダメ、みたいな時代がくるかもよ。」

M「そうだ、これを聞こうと思っていたんですよ、アキさんに。」

A「なに?」

M「最後に南原が「万歳マルサス」って叫びますよね。あれ、いったい何なのですか?」

A「あ〜、あれね。あのマルサスってね、経済学者で、<人口論>っていうのが有名なんだけど、その中で、 人間の情欲は減らないから食料不足を招かない為にも、貧困層の救済を控えるべきだ、って説いた人なのよ。 まあ、詳しく説明するとちょっと長くなるからこの辺にしておくけど、この<ユーリンタウン>って、 要は貧困層の救済話じゃない。で、結局は救済しないと言っていた藤木孝演ずるクラッドウェルが、 将来を見据えた人物だったんじゃない?って事を言いたかったのかな?アッシもちょっと分からないけどね。」

M「へ〜〜〜。いや〜、奥が深いですね。もう一度観たくなりましたよ。」

A「そでしょ。アッシももう一度観てもいいかな?って思ってるのよ。座る場所を替えてね。でもさ、まー君。 今日あなたが観て来た芝居って、いくつかの共通点があるわよね。今、話しててそう思ったわ。」

M「共通点ですか?え〜〜と、僕にはちょっと分からないですけど。何です?」

A「どちらもさ、語り手を使って物語を進行させているじゃない。それがひとつ。 それと設定がある限られた空間になっているでしょ。」

M「限られた空間ですか?・・・・ああ、<ガラスの動物園>はあのアパートで、<ユーリンタウン>は巨大な牢獄かぁ。」

A「そうそう。それに、これは原作を知らないと分からない事なんだけど、<ガラスの動物園> の原作にはスクリーンが登場するのよ。キーとなる言葉を表現する為にね。で、アッシはあんまり好きじゃ無かったんだけど、 <ユーリンタウン>の方もスクリーンが出てきたでしょ、干ばつや暴動の写真を写した時に。 それに、観ていると分かってくる笑いの中にも哀しさがあるって事。」

M「そうですね、笑っちゃいるけど、その奥にある物は哀しみだったりする。」

A「そうね、今回の二つの芝居は、さしずめ<哀しいコメディ>とでも名付けたいくらいだわね。」

M「<哀しいコメディ>ですか。いいですね、そのフレーズ。イタダキです。それじゃ、もう一杯。アキさんも一緒に何か。」

A「あら、そう。それじゃ、アッシもキューバ・リバーをいただこうかしらん。」

M「それじゃ、<哀しいコメディ>に乾杯!」

A「いただきま〜〜〜す。」

おわり


*今回紹介したお芝居は・・・・
1)<ガラスの動物園>   2/11まで
                         ベニサンピット
2)<ユーリンタウン・ザ・ミュージカル>
       2/29まで  日生劇場
       3月には関西、北九州公演もあり
以上です。どうぞ足をお運び下さい。


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