<進化している>の巻

あき(以下A)「いらっしゃ〜い!」

トシちゃん(以下T)「今晩は。やっと暖かくなって来ましたね。」

A「はい、おしぼり。本当ね。やっぱり春はこうでなきゃ。」

T「ちょっと寒かったですからね。アキさんもタイから帰ってきて、あまりの寒さに驚いたんじゃないですか?」

A「そうなのよ。成田に着いたら、いきなりくしゃみ。止まらなくなっちゃってね。」

T「分かりますって。本当に真冬に逆戻りですからね。」

A「トシちゃん、ところで何にしようか?」

T「あっ、そうだ。え〜とぉ、今日はですね、タンカレーテンのロックでお願いします。」

A「あいよっ!・・・・はい、お待たせ。」

T「はい、どうもどうも。何時もの事ですけど、この丸氷、いいですよね。」

A「美味しいからね。やっぱりロックで飲む時には、この氷が一番じゃないかしらん。」

T「ほんと、美味しいですよ。で、チェイサーなんかもらえると嬉しいんですけどね。」

A「はいよっ、失礼しました。ところでさ、珍しくない?こんな平日に。」

T「そうでしょ。今日はですね、お芝居に行って来たんですよ。で、近いし、ちょっと寄ろうかなって思って。」

A「何観て来たの?近いって、シアター・サンモールかどっか?」

T「いえいえ、初台です。」

A「あ〜、それじゃ、新国ね。<こんにちは母さん>か、<透明人間の蒸気(ゆげ)>ね。」

T「流石ですね。野田秀樹の方です。アキさんは行きました?」

A「この前いって来たわよ。何しろ、13年前に、確か、シアター・コクーンで観て以来だったからね。初めて観る気持ちで行ったのよ。」

T「そんな前にやってるんですね、これ。」

A「そうよ。確かまだ<劇団夢の遊眠社>の頃だったと思ったけど。」

T「その時のキャストってどうだったんでしょうね。」

A「あの時は、遊眠社だから、段田安則、円城寺あや、羽場裕一、田山涼成、浅野和之たちだったかな?」

T「へ〜。それじゃ、今回とは随分と違ったでしょうね。」

A「そうね。今回は、宮沢りえ、阿部サダヲ、手塚とおる、高橋由美子、有薗芳記、大沢健、六平直政、秋山菜津子でしょ。勿論、野田秀樹だけは、前と同じ役で出演しているんだけど、今回は、オールスターってな感じよね。」

T「そうでしたね。TV,CM,アングラ、映画、新劇、小劇場といろんな所出身のスター達が出ていて、正にオールスターでしたね。」

A「で、トシちゃんはどうだったのよ。」

T「そうですねぇ、最初は面白いなって思ったんですよね。だって、<21世紀に残すべき20世紀のもの>っていう発想ですか、それがね。」

A「天皇の勅命で探し回るわけよね。」

T「そうそう。で、出てくる配役名も、のらくろ、愛染かつら、ロボット三等兵、有閑マダム、等など、20世紀で無くなってしまいそうな名前ばかりでしたよね。」

A「そう言った配役名での面白さや、言葉遊び的な台詞も面白さを倍増させているわよね。」

T「そうだったんですよ、最初は。」

A「そうね、そう言えば、最初は面白いって思ってたのよね。」

T「そうなんです。それが、途中から分からなくなっちゃって。」

A「そうなっちゃうの分かるな。言葉遊びの世界に浸っていると、あっという間にストーリーから外れちゃうからね。まあ、それが、野田秀樹の書く脚本の魅力の一つでもあるんだけどね。」

T「あ〜、そういうものですかね。」

A「途中で分からなくなったら、取り合えず最後まで我慢して、それで、どうだったかって考えるのよ。」

T「最後まで観てね。なるほど。」

A「途中で分からなくなる事なんて、結構あると思うのね。でもさ、だからといって、その事ばかり考えてたら、取り残されちゃうじゃない。だから、そこからまた始めればいいわけよ。」

T「そうですよね。そしたら、分からなかった所が最後で繋がるかもしれないしね。なるほど。」

A「そうそう。最後にどうだったか、それが重要なんじゃないの?」

T「それじゃ、もう一度観に行かなきゃね。」

A「それも一つね。ところで、アッシ、今回も思ったんだけど、新国立劇場の中劇場、本当にここの奥行きには感動しちゃうのよね。」

T「あ〜、広かったですね。走るの大変って思っちゃいました。はははは・・・。」

A「前回、野田がこの新国立劇場の中劇場でやった<贋作・桜の森の満開の下>でのあのシーン。とっても映画のような最後のシーンほどではなかったけど、今回もあのスペースを存分に使って、13年前とは違った<透明人間の蒸気(ゆげ)>を見せてくれたわね。」

T「それと、今回特に思ったんですけどね、照明が良かったと思いませんか?」

A「素敵だったわよね。前回とは全く異なったスタッフが、新しい魅力を舞台に与えてくれた、そんな感じがしたステージだったわね。」

T「アキさんは、今回の舞台、相当感激だったんですね。」

A「でも、そうでもなかったのよ。」

T「それは、何故に?」

A「そうね。はっきり言ったら、野田秀樹は進化しているって事かな?」

T「進化している?何ですか?」

A「この芝居って、13年前でしょ。勿論、2004年に合わせて脚本は変えてあるんだけど、やっぱり13年前の芝居なのよ。だから、最近の野田秀樹の芝居に感動していると、この程度じゃ、って思っちゃうのね。」

T「それは、この程度じゃ甘いって事なんですかね。」

A「そうじゃないのよ。改めて、野田秀樹って素晴らしいな、って思えるわけ。」

T「ああ、そうか。きっとアキさんも13年前は感動の嵐に包まれていたんですよね、この芝居を観て。」

A「そうそう。」

T「でも、今、改めて観てみると、それ以降にやった芝居の素晴らしさが見えてきたんですね。」

A「そうなの。決して今回の芝居がダメだという事ではなくて、これからも期待できるね、と言う事なのよ。」

T「分かります、分かりますよ。やっぱりもう一度観に行きたくなりましたね。」

A「まあ、チケットを取るのは大変だと思うけど、もう一度観る事で、また何か感じるものがあると思うわ。ぜひ行ってきなさいよ。」

T「ところで、今日はそれ以外に聞きたい事があったんですよ。」

A「何?聞きたい事って。」

T「ほら、アキさんが前に言ってたじゃないですか。韓国の映画で、実際の殺人事件をテーマにしたやつ。アキさんが絶対に観たいって言ってたあの映画ですよ。何でしたっけ?」

A「あ〜、あれね。あのタイトルは、<殺人の追憶>よ。未解決事件に取り組む二人の刑事の話ね。去年韓国の観客動員数ナンバーワンになったやつよ。アッシも前売券買っちゃったから、早めに観に行こうと思ってるのよ。」

T「<殺人の追憶>ですね。良かった。何だたっけな、と思ってて。これですっきりしました。それじゃ、オイラはこの辺で帰ります。ご馳走様でした。」

A「あら、行くの?ありがとね。・・それじゃ、今日は1400円です。有難うございました。」

T「ちょっと大きいんですけど、これで。」

A「はい、大丈夫よ。お釣りだけは沢山あるペンギンですからね。それじゃ、3600円のお返しです。有難うね。」

T「それじゃ、おやすみなさ〜い。」

A「おやすみ!ありがとう!」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居などは、
1)<こんにちは、母さん>
     31日まで。 新国立劇場小劇場
2)<透明人間の蒸気(ゆげ)>
     4/13まで。 新国立劇場中劇場
3)<殺人の追憶>
     シネマスクエアとうきゅう他で上映中

以上です。どうぞ足をお運び下さい。


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