<どれも・これもで悩んじゃうる>の巻

好くん(以下Y)「今晩は。」

あき(以下A)「あら、好くん。珍しいわね、日曜日に。はい、おしぼりどうぞ。」

トンちゃん(以下T)「特別な約束でもあるのかなぁ〜?」

Y「嫌だな、トンちゃん。何時もそういう見方しかしないんだからね。」

T「じゃあ、どうしたの?次の日会社があると絶対に来ない好君がさ、日曜日よ。明日は月曜日。」

Y「知ってますよ、そんな事。トンちゃんだって日曜日来てるじゃないですか。それこそ、特別な約束でも?」

A「まあまあ、好君、何にしようか?」

Y「あっ、そうでした。今日は気分的にワインでも頂こうかな。」

T「ほら、何かあったんだわ、きっと。」

A「トンちゃんたら、いい加減にしなきゃね。好君、赤と白、どっちにしようか?」

Y「それじゃ、赤で。」

A「あいよっ!・・・・・お待たせ。はい、どうぞ。」

T「でもさ、好君、やっぱり何かあったんでしょ、あら、あるのでしょ?かしら。」

Y「何もないですってば。ただ、今さっき、サントリーホールに行ってただけですよ。で、何か、 まっすぐ帰りたくないな、って思ってね。」

A「あら、そしたら<トスカ>行ったのね。」

Y「そうです、その通り。アキさんは行きました?」

A「なんとアッシも今日行ってきたのよ。早かったじゃない、開演が。で、終わってからでも十分に間に合うなって思ってね。」

Y「そうなんだ。会わなかったですよね、休憩時間にも。」

A「そうね、アッシは外に出ちゃったからね、二回とも。」

T「アキちゃん、<トスカ>って、プッチーニのあれよね。」

A「そうよ、プッチーニ。」

T「行きたかったぁ〜。でも、サントリーホールって言わなかったっけ?」

A「そうよ、サントリーホール。」

T「あそこでオペラやるの?出来るんだ、あそこで。」

Y「ホールオペラですよ、トンちゃん。」

T「そうだよね、やるとしたら、そうだよね。それっきゃ考えられないもんね。」

Y「でも、今のホールオペラって動きも衣装も、それに安っぽいけど装置もあるんですよね、驚きましたよ。」

T「えっ!そうなの?何々、衣装も動きも装置もあるんだ。益々観たかったぁ〜。」

Y「アキちゃんも如何ですか?ワイン。」

A「あら、ありがとう。頂きます。チアーズ!」

Y「チアーズ!」

T「で、どうだったのかな?ホールオペラの<トスカ>って。」

Y「僕は良かったですね。ホールオペラって聞くと、歌い手が椅子に座っていて、自分の番になると立って歌う。 それがサントリーホールでやるのはそうじゃないですからね。さっきも言った様に、衣装も動きも装置もあるし。」

T「アキちゃんはどうだったのさ。」

A「そうね、まあ、良かったんじゃないかしらん。ただ、ホールオペラだと、どうしてもオケがオケピに入ってないから、 歌い手と同じ高さにいるわけでしょ。だから、時として歌い手の声が消されてしまう事があるのよね。 それがもったいないっていうか、・・・・。」

Y「あ〜!今、分かりましたよ。それでだ。」

T「何、何、なに?分かったって。」

Y「いや〜、変だなとは思ってたんですよね。あんなに素晴らしい声だったのに、時々消えるんですよ。 弱々しいわけじゃないのにね。」

T「何だよぉ〜、全然分かんないじゃん、それじゃ。」

A「だからさ、オケと歌い手が一緒の土俵に立っているわけでしょ。普段は、オケピにいるわけよ、オケは。 音が出るのは下から、歌い手は、それより高い舞台に居るから、声が出るのは正面からなのよ。」

T「あ〜あ〜、そういう訳ね。オケが強いから歌い手の声が消されちゃうってか。」

Y「そうですね。でも、それって指揮者の問題かな?」

A「どうなんだろうね。まあ、ホールオペラに慣れている指揮者だったら、歌の強弱を考えて指揮するかもね。 慣れてなかったんじゃないかな?何しろ、今、乗りにのっている若手の指揮者だったしね。」

Y「そうなんだぁ、僕も結構オケも良かったって思ってたんですけどね。」

A「そうなのよ、あの指揮者。何しろスカラ座で、ムーティーとマゼールの副指揮をしてた人だからね。 5年位前からヨーロッパの主要な歌劇場に次々とデビューして、これからは、メットやサンウランシスコなど、 アメリカの歌劇場にも次々にデビューする事になっているのよ。ただ、アッシは後半は特にだったんだけど、 引きすぎるのがチト気になったけどね。でも良かったわよ。」

T「へ〜、結構有望なんだね、その指揮者。で、オケはどうだったのよ。」

Y「弦が良く響いてましたよね。良かったですよ。アキちゃんはどうでしたか?」

A「そうね、まあまあかな?ホルンが音外れもなくて、安心して聴けたけどね。ははは・・・。」

T「さっきの話だと歌手も良かったんだ。」

A「そうね、トスカのドイナ・ディミートリゥは特にピアニッシモがきれいだったし、カヴァラドッシのニール・シコフも安心。 ただ、スカルピアを演ったレナード・ブルゾンの衰えが目立ったかな?」

Y「えっ?そんなに衰えてたんですか?僕はとっても良かったって思ってたんですけどね。」

A「まあ、普通に聴けば良かったんだと思うけど、以前に何度も彼の歌を聴いているアッシにとっては、 声の衰えを感じてしまったのよね。」

T「ブルゾンも長いからな。もう40年以上は歌ってるよな。」

Y「トンちゃん、結構聴いてたんですね。」

T「そりゃそうよ。昔はオペラと聞けば何処にでも飛んで行ったからね、東京都内だけどさ。」

Y「へ〜。」

A「そうね、前は随分行ってたわよね。やっぱり仕事が忙しくなっちゃうとね、なかなか行けないわよ。」

Y「でも、今日なんか日曜日じゃない。そういう時に行けばいいのに。」

T「今日はさ、前から入ってた舞台に行っちゃったんだよな。」

Y「何に行ってたの?トンちゃん。」

T「え〜?今日かい?・・・・・。」

Y「えっ?何、どうかしたの?」

T「いや〜、クラシックの話の次にねぇ・・・。俺が観に行ったのはさ、・・・これだよ。」

Y「えっ!!!<新・美空ひばり物語>?」

A「あら、トンちゃん、ひばりも聴くんだったの?アッシ、あなたはクラシックオタクかと思ってたわよ、ははは・・・。」

T「笑われるとは思ったんだけどさ、まあ、俺だって<トスカ>があるって知ってたらそっちに行ったよ。当然だろ。」

Y「そんなに無理しなくてもいいのにね。」

A「そうよトンちゃん。アッシもいったわよ、<新・美空ひばり物語>。そう言えば、トンちゃん出てたわよね。」

T「えっ?俺、出てないよ、誰かと間違ってない?俺、出てないよぉ〜。」

A「何寝ぼけてんのよ、トンちゃんて、トンちゃんじゃなくて、トン子よ、トン子。雪村いづみさん。」

Y「ははは・・・・・。そうですよね、驚いた。ははは・・・・・。」

T「笑い過ぎだよぉ、好君。出てた、出てた。ストーリーテーラー的な役だったよね、 まあ、本人が本人を演じてたわけだけどな。」

Y「僕、観たかったんですよ、実を言うとね。でも、日曜日しか休みがないから、選んじゃうんですよね。 でも、正直、行きたかったですよ。」

A「好君もひばりちゃん好きなの?」

Y「そうでもないんですけど、一度は観たいなって。で、どうなんですか?物語、って言うくらいだから、 ひばりさんの一生を綴っているんでしょうね。」

T「そうだよ。俺さ、ちょっとひばり世代には若いだろ、でもさ、好きなんだよね、ひばりがさ。」

A「結構いるわよ、若い子で好きだって言う子。アッシも初演以来だったんだけどさ、トンちゃん、 初演の時には出てなかったのよね。だから、もう一度観ようと思ってさ。」

Y「で、どうだったんですか?トンちゃんは。」

T「俺はさ、・・・・。」

Y「トンちゃんじゃなくて、いづみさんですよ、雪村いづみさん。」

T「ああ、俺じゃないのね、・・・・。」

A「ははは・・・・・。漫才じゃないんだから、ねえ。まだまだ綺麗だし、歌も唄える。あらためて、 もっと舞台に立ってほしいなって思ったわね。」

Y「じゃあ、今度はこっちのトンちゃんに聞きますけど、どうだったんですか?」

T「まあ、歌は上手いよね、流石に。」

Y「じゃあなくて、芝居ですよ、舞台。その舞台全体のはなし。」

T「あ〜、舞台全体のね。浅茅陽子がそっくりなんだよな、ひばりさんに。それだけで感激! そこにひばりさんが居るかと思っちゃったくらい似ているんだよ。まあ、物語りは、町のアイドルだった時から、 東京ドーム公演のオープニングまでの話だから、取り立てて新しいものはないんだけど。俺にしてみれば、 え〜〜、こんな事もあったんだって、驚く事の連続。順風満帆にきてたと思っていただけに、ほんと、驚きの連続だったな。」

Y「アキちゃんは?」

A「アッシね、ひばりちゃん本当に好きだったからね、それに、時代が結構重なってるでしょ。 アッシが生まれた時にはもう大スター。色々な歌も聴いたシ、映画も観たし。勿論、コマ劇場にも、 最後の東京ドームにも行ってるじゃない。思い出ばっかりでさ。悲しいっていうの?何て言ったらいいのかな? ひばりちゃんの物語なのに、自分のあの頃が甦ってきちゃうのよ。勿論、ひばりちゃんのステージシーンになると、 ああ、これはあの時ね、とか思うんだけど、その時、自分はあれしてたんだ、これしてたんだ、 ってね。ノスタルジーなのかな、これって。」

Y「ふ〜ん。僕らには一寸分かりませんけど、気持ちは分かるような気がしますね。」

T「まあ、俺には一寸分かるかな。舞台の話に戻してみるとね、家族愛、友達、人間の強さ、弱さ、 そんなこんなが上手く描かれてた舞台だと思うよ。アキちゃんは俺たちよりず〜っと長く生きているから、 家族や友達、強さ、弱さを感じている経験も長〜いわけよ、だから少しノスタルジックになっちゃったんじゃないの?」

A「そうね、ず〜っと長く生きてるか・・・、えっ?何だって、ず〜っと長くはありません。 ほんの少しね。ははは・・・。でも、確かに色々な事を考えちゃったかも。」

Y「あ〜あ、僕もやっぱり観たかったですよ。うまくいかないですよね。」

T「そうだよな。どれもこれもって訳にいかないからな。」

A「そうよ、ね、トンちゃん。どれもこれもってはいかないのよ。分かるでしょ。」

T「え?何言ってんの?えっ?いやだな、あきちゃん。こんな時に言わなくても。」

Y「へ〜、そうなんだ。どれもこれもって言ってたんですね、とんちゃん。それで日曜日にね。」

T「それだけじゃないからな、今日来ているのって。」

Y「じゃあ、何なんですか?」

T「それは、そのぉ・・・・。飲みたい時もあるだろ、たまには。だからさ・・・・・。」

A「まあ、その辺りにしてあげなさいよ。トンちゃんも結構純粋なんだから。で、あれも、 これもで悩んじゃうのよね、トンちゃん。」

Y「それって純粋だからなんですかね?」

A「トンちゃんの場合はね。」

T「恥ずかしくなってきたな、もう。」

Y「さ、これからその話を聞きましょう、ね、アキちゃん。」

A「え〜、また聞くの?もういいんじゃない。今度会った時に話聞いてあげれば。アッシはもうたくさんだわよ。」

T「ひどいなぁ〜、アキちゃんたら。」

一同「はははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居などは、
1) ホールオペラ<トスカ> 公演終了
2) 新・美空ひばり物語 東京公演終了
      4/24日まで大阪梅田コマ劇場

以上です。どうぞ足をお運び下さい。


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