<訳わかんない>の巻

あき(以下A)「いらっしゃ〜い!・・・あら、新ちゃん。」

新ちゃん(以下S)「今晩は。嫌な雨ですね。台風なんですか?この時期に。」

ノブリン(以下N)「来てるんだってさ、近くまで。ヤンなっちゃうよな、明日外歩きなのにぃ。」

A「早く帰りなさいよ、今日もこれから濡れちゃうわよ。」

N「違う事で濡れたいね、な〜んちゃって。」

A「バカ言ってるんじゃないわよ。え〜と、新ちゃんは、何にしようか?」

S「そうですね、今日は、・・・やっぱり最初はビールかな?黒ありましたっけ?」

A「あいよっ!ちょっとジメジメするから、エビスの黒はいいわよ、さっぱりしててね。はい、お待たせ!」

N「うまいねぇ〜、アキさんも営業が。」

A「何言ってるのよ、営業?かもしれないけど、本当の事。ノブリンも飲んでみたら?たまにはビールも。」

N「それがさ、俺、ビール飲むと眠くなっちゃうんだよね。あと、ワインも。」

S「いるいる、そういう人。僕は大丈夫ですね。かえってウィスキーの方がね、 あ〜、それより日本酒かな?やっぱり眠くなるのは。」

N「そうだ、日本酒あったよね。さっぱりした方がいいんだけど。ねえ、アキさん、日本酒、何があったっけ?」

A「日本酒は、菊水の辛口と八海山よ。さっぱりがいいんだったら、菊水の方かしらん。」

N「それじゃ、その菊水、お願いします。」

A「あいよっ!おチョコとグラス、どっちにする?」

N「勿論、おチョコだよね。」

A「あいよっ。この中から好きなの選んでね。」

N「へ〜、数は少ないけど、いいおチョコばっかりだね。え〜と、これにしようかな。」

A「は〜い、どうぞ。後は手酌でね。」

N「分かってますって。・・・・う〜む、美味し〜い!クックいっちゃいますよ、これ。」

A「そうでしょ、美味しいでしょ。さっぱりしているしね。」

S「黒もさっぱりしてるよ、ノブリン。」

N「でも、やっぱ、ビールは、・・・。」

S「そうそう、アキちゃん、聞こうと思って今日は来たんですけどね。」

A「何?聞きたい事って。」

S「芝居の事なんですよ。これね、<ダム・ウェイター>。これなんですけどね、全く解らなかったんですよね。」

A「新ちゃんはどっちのヴァージョンを観たのかしら?堤君の出ているAヴァージョン? それとも、高橋克実の出ているBヴァージョン?」

S「<へ〜>の方ですよ、この人、高橋さんの方ですね。」

A「何よ、<へ〜>の方って。」

N「まあ、仕方ないよね、アキさんこの時間帯だからな、仕事が。ほら、今、って言うか、 だいぶ前から話題になってる<トリビア>だよ、<トリビアの泉>。」

A「あ〜、なんだ、昔深夜でやってたやつね。あっ、そうか、高橋克実出てるもんね。」

S「そうです、こっちですね、僕が観たのは。」

A「勝秀の方ね、演出が。」

S「本当はね、こっちを観たかったんですよ。堤真一のほうをね。でも取れなかったんですね、 残念な事に。アキちゃんは観たのかな、もう。」

A「初日にね、両方とも。」

S「解りました?この話。」

A「まあ、不条理だからね。解らなくてもいいと思うんだけど、 アッシは不条理にしては不条理らしくない本だと思っているのよ。」

N「何言ってるのか、俺には全く分からないけど。」

A「この<ダム・ウェイター>ってね、ハロルド・ピンターの代表的な不条理劇なんだけどね、不条理だから、 解らなければ解らないでいいんだけど、この芝居は解るのよ。」

S「僕には全く解りませんでしたけどねぇ。あの最後とかは何なんですかね。 何であんな風になって出てくるんですかね。全く解らなかったよ、僕には。」

A「だからね、解らなかったら解らないで良い訳よ。でもさ、よく思い出してみて、新ちゃん。 台詞とか良く聞いているとね、最後がすごく解るのよ。だから、さっきアッシが言ったじゃない、 不条理だけど、不条理じゃないのよね、って。」

S「台詞?聞いてたつもりなんだけどなぁ。」

A「例えばさ、ガスの方ね、彼の台詞で、<今度の奴は騒がないといいなぁ〜>ってのがあったじゃない。 これって、前に仕事した時、相手に騒がれたって事よね。それから、最後の方で、ベンが通信穴から何か指令を受けたでしょ。」

S「そう言えば、そうだった・・・・ね。」

A「ほら、何となく解ってこない?」

N「解らないけど、面白そうだよね。アキさんは、二つ観たんだよね。どっちが面白かったのかな?」

A「そうね、まあ、どっちもイマイチかな。はっきり言える事は、鈴木勝秀の演出がアッシには合わないって事かな。 それと、二つのヴァージョンを違うキャストで、それも同じスタッフ、同じ場所でするんだったら、 舞台美術も同じにしてほしかったのよね。そこで、違う役者、違う演出家でやってほしかったのよ。」

N「結構怒ってるよね。」

A「そうでもないんだけどね。勝秀の方の演出では、もっと細部にまで気を使ってほしかったのよ。 せっかく面白そうな二人を使っているんだからさ。」

S「細部にまでって?」

A「新ちゃん、気が付かなかった?影。」

S「影?って何の?」

A「ほら、Bヴァージョンって空間が沢山あるじゃない。照明も全体を照らしちゃうのよね。 で、料理昇降機の後ろに居た人の影まで映しちゃったのよ。本来は居るべき人じゃないし、居ないのにね。」

S「いや〜、気が付かなかったなぁ〜。」

A「で、昇降機の中に置いてある品物を取替えちゃってるのが見えちゃうのよね、影で。 それってシラケルじゃない。それに、あのピストル。あれじゃ、あそこで笑っちゃうのよ。 まあ、笑わせるのがいけないとは言わないけど、あのピストルは如何なものかと思うけど。」

N「相当ダメだったんだね、アキさんには。それじゃ、Aヴァージョンはどうだったの?」

A「鈴木裕美の方の演出ね。こっちは、Bい比べたらオーソドックスだったわね。ただ、 ガスの描き方がイマイチだったかな?と、言うより、ガス役の村上淳がもう少し上手ければな〜って。 でも、本来の<ダム・ウェイター>の意味を考えると、それが正解だったかもね。」

S「えっ?益々解らなくなっちゃいますね。まあ、いいよね、解らなくていいんだったら。」

N「話を聞いていると、俺も観たくなっちゃったな。アキさん、他に最近何か観ました?」

A「そうね、野田秀樹が演出したオペラ<マクベス>と、蜷川幸雄の演出で、 アテネオリンピックでの併催イヴェントで上演される<オイディプス王>。この二本かしら。」

N「野田秀樹のは誰かに感想を聞いたよ。何か、野田がする芝居ほどスピード感がないんだってね。 だからガッカリしたって。」

A「あら、ノブリン、その友達に言ってあげてよ。オペラなんだからって。歌わなきゃいけないのよ、 役者というか、歌手の人達。何時ものように走り回ってたらどうなるの?アッシは、ヴェルディの中でも、 <マクベス>はあんまり好きじゃないんだけど、野田が演出したこの作品は、まあまあ面白く観る事が出来たわよ。」

S「これは、っていう所があったのかな?」

A「骸骨の使い方が良かったわよね。骸骨を魔女の代わりとして登場させるんだけど、 その骸骨が登場人物に付いて行く訳ね。だから、マクベスやマクベス夫人の行動が、 あたかもその骸骨に因って動かされているみたいにね。」

S「へ〜、歌手とかが良かったわけじゃないのね。」

A「シェクスピアの話自体は面白いじゃない。あとは、演出家がどう見せるか、って事だと思うのよ。 歌手の力で引っ張るか、どうだ!っていう演出で引っ張るかね。」

N「で、今回は、野田の演出で引っ張った?」

A「そうね、アッシはそう思ったわ。歌手は凄い!っていうほどではなかったけど、それなりに良かったし、 舞台美術も良かったと思うけど。まあ、観ても損はしない舞台だと思うわよ。」

S「オイディプス王の方は?僕はこっちの方が気になるんだけど。」

A「そうね、まあ、しっかりした舞台だったわね。だけど、時間が前に観た時より、相当短縮されてたのよね。 その分、何かせせこましい感じになっちゃったかな?って。もっと<間>があっても良かったんじゃない、って思ったわ。」

S「野村万斎や麻実れいも良かったかな?」

A「まあ、良かったんじゃない。でもね、初日だったんだけど、芝居が終わった途端に、 観客がスタンディング・オベイションするのね。アッシは、それほどの舞台ではなかったと思うけどね。 ちょっと信じられないかな。」

N「ちょっと酔ってきちゃった。そろそろ帰りますよ。お会計して下さ〜い。」

S「急に酔っちゃったね、ノブリン。大丈夫?」

N「大丈夫ですよ。」

A「それじゃ、ノブリンは2200円です。」

N「はい。何だか分けわかんなくなっちゃいそう。」

S「本当に大丈夫なの?」

A「ちょっと新ちゃん、心配だからそこまで送っていってくれない?」

S「そうですね、ちょっと心配だし、送ってきます。それじゃ、僕もチェックで。」

A「あいよっ!新ちゃんは、1200円ね。宜しくね。ちょっと、ノブリン、新ちゃんが送ってってくれるって。」

N「愛してま〜す、新ちゃ〜ん。」

S「ほんとに大丈夫かな?しっかりしてよ、ノブリン。」

A「もう訳わかんないんだからさ、ったく。」

S「それじゃ、アキちゃんまたね。」

A「じゃ、悪いけど、宜しくね。ありがとう!おやすみ!」

S「おやすみなさい。」

A「あ〜、全くぅ。訳わかんないだから。・・・うふはははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1)ダム・ウェイター     6/6まで
     三軒茶屋 シアタートラム
2)マクベス     5/25、28
     新国立劇場オペラ劇場
3)オイディプス王     6/13まで
     渋谷 シアター・コクーン

以上です。どうぞ足をお運び下さいね。


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