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インドは感染症の宝庫です。日本では稀なマラリアやデング熱をはじめ、以下に記載した病気についての基礎知識を持って、旅行・滞在中の予防に努めてください。 1.デング熱、2.マラリア、3.日本脳炎、4.疥癬、5.リーシュマニア症、6.ペスト 1.デング(出血)熱 1956年にフィリピンで報告されて以来、今では東南アジア、南アジア、中南米をはじめ地球規模に広がっている病気です。tigar mosquitoとも呼ばれるネッタイシマカが媒介するデングウイルス(arbovirusの一種)が病原体です。 デリー市内では1996年10,252名の患者が発生し、423名がこの病気で死亡しました。患者発生数はその後1997年336名(死亡1名)、1998年316名(死亡1名)、1999年184名(死亡0名)と減少傾向にありますが、尚厳重の注意が必要です。 デング熱に対するワクチンは現在開発中で、完成には至っておりません。つまり現時点での予防法は「蚊に刺されないこと」に尽きます。 症状:蚊に刺されて約1週間(5〜8日)後、頭痛、筋肉痛(特に背中)、関節痛、倦怠感と共に突然の発熱があります。症状が出てから3〜4日後に「赤い斑状の皮疹(maculopapular rash)が見られることもあります。大抵の人はこのまま1週間以内に治癒しますが、倦怠感はかなり長く残ります。3〜5歳の子供で特に再感染の場合にデング出血熱という重症型になることがあります。デングウイルスには1〜4型までありますが、異なる型のウイルスに再感染した場合にこのデング出血熱になるリスクが高くなると言われています。以前デング熱に罹ったことがある方は特に注意が必要です。 治療は対象療法につきます。補液や血小板成分輸血が必要な場合もありますので、蚊に刺された後の発熱は単なる風邪と決め付けずに最寄の医療機関に相談しましょう。 2.マラリア ハマダラカが媒介するマラリア原虫によって引き起こされる病気です。休む時に尻尾を上げるハマダラカは吸血時にマラリア原虫をヒトの身体に持ち込みます。このマラリア原虫が肝臓内と赤血球内で増殖を繰り返すことによって、発熱、戦慄、発汗、解熱などの多彩な症状を引き越します。潜伏期は1週間から1ヶ月と幅があります。 WHO(世界保健機構)が発行するInternational Travel and Health http://www.who.int/ith/english/index.htm に拠れば、インドにおけるマラリアのリスクは3段階中の2番目のB"Low risk in most areas"とされております。なんだ大した事無いじゃないと思うなかれ。マラリアのリスクが無い地域をこれに加えれば4段階中の2番目となりますから、アフリカ(サブサハラ)や東南アジア、アマゾン流域の南米諸国ほどではないにしろ、それなりのリスクがある地域であるとの理解が大切です。 デリーで発生するマラリアは三日熱マラリア(Plasmodium vivax)が主です。その他、時に死に至ることもあるため悪性マラリアとも呼ばれる熱帯マラリア(Plasmodium falciparum)は近年では、1996年の650例が最高で、ここ数年は十数例の発生にとどまっております。しかし、2001年には南インドを旅行後デリーに立ち寄った日本人バックパッカーが三日熱マラリアと熱帯マラリアを発症し、バンコックに緊急搬送された例がありました。南インドを旅行する場合は特に注意が必要です。
濃厚汚染地域に長期に滞在する場合はWHOが奨めるようにクロロキンとプログアニルを予防内服する必要がありますが、それ以外の地域では特に予防内服が必須ではありません。むしろ以下に記す蚊に刺されない注意が大切です。
3.日本脳炎 豚を吸血したイエカがヒトを吸血して日本脳炎ウイルスを伝播させます。予防接種で感染を防ぐことができます。感染後の潜伏期間は1〜3週間です。突然40℃の高熱が出て、頭痛、嘔吐、意識混濁、麻痺、不随意運動などの症状がでます。高熱を出した小児や高齢者では死に至ることもあります。特にご高齢の方でインド滞在が長くなる方は改めて日本脳炎ワクチンの接種が必要です。 4.疥癬 イヌ、ネコから移る動物疥癬の他に、夏にはヒト疥癬が発生します。ヒト疥癬はヒゼンダニと呼ばれるダニが皮膚に侵入して起きる病気です。夏場に山小屋や値段のお徳な宿などで不潔なベットやシーツで眠る時はそれなりの覚悟を決めてから眠りましょう。疥癬に感染しても命には別状はありません。疥癬に感染すると大事なところ(陰部、鼠径部)、腋の下(腋窩)、お腹や手足の柔らかい部分に一見虫刺され様の皮疹ができます。良く見ると中央が赤黒く隆起し、その廻りが赤く盛り上り、ところどころ皮がむけたような(鱗屑)、例えて言うなら麓に火山灰が舞い降りた富士山のようにも見えます(直径が5〜30o)。疥癬トンネルと言われるヒゼンダニの産卵場となる30 〜40mmの線状の隆起が手の指の間や腕の内側に見られます。夜も眠れないような痒みが疥癬の特徴です。心当たりがあれば、現地の医療機関を受診してください。特効薬で治療可能です。 5.リーシュマニア症 スナバエ(サシチョウバエ)に刺されることによって媒介する病気。媒介される原虫により、内蔵リーシュマニア症(Leishmania donovani原虫)、皮膚リーシュマニア症(Leishmania tropica原虫)、皮膚粘膜リーシュマニア症(Leishmania braziliensis他3種原虫)と多彩な病状になる。インドには前2者の患者は発生している。 内蔵リーシュマニア症は感染後一週間から1ヶ月で風邪に似た症状(持続性の高熱、全身倦怠感、上気道炎)が現れ、進行すると脾腫、貧血、腹水が加わり、合併症や出血で死に至ることもある。たかが蝿と侮らないことがまず肝要です。 Rajasthan地方には皮膚リーシュマニア症の報告があります。これは感染後潜伏期1〜数ヶ月を経て皮膚に丘疹・結節、痛みの無い潰瘍(無痛性潰瘍)ができて、その周囲リンパ節が腫れてきます。約一年で瘢痕を残して治癒します。 6.ペスト インドでは1994年9月から10月にかけて、事の真偽はともかく「ペスト」騒ぎで大パニックになりました。2001年2月にもインド北部で複数の患者が発生しましたが、インド政府機関のNICD(National Institute of Communicable Diseases)が患者の調査と防疫対策を適切に行い、小規模かつ散発的な患者発生で終結しました。インド北部には環境的に長期にげっ歯類がペスト菌を保持する地域(natural foci)が存在します。ヒトがそのような地域に狩猟、森林伐採などで分け入るとペスト菌をヒト社会に持ち帰ることになります。 ペストはノミ(ケオピスネズミノミ)がネズミとヒトの間を媒介し感染が拡大します。また、一旦ヒトに感染し、肺ペストと呼ばれる状態になると、飛沫感染でヒトからヒトに直接伝播します。予防法として、死菌ワクチンの接種、テトラサイクリンの予防投与がありますが、最大の予防法は流行が確認された地域には入らないことです。また不確実な情報に踊らせられパニックにならないように心がけましょう。 1.A型肝炎、2.E型肝炎、3.感染症による胃腸炎、4.ランブル鞭毛虫症(ジアルディア症)、5.腸チフス・パラチフス、6.ポリオ(急性灰白髄炎:いわゆる小児麻痺)、7.旅行者下痢症 1.A型肝炎 日本でも同じ事ですが、A型肝炎ウイルスに汚染された食物や水を飲食するとA型肝炎に罹ります。インドの野菜や果物は良く洗ってから、肉類も野菜も十分火を通して食べましょう。A型肝炎ウイルスは感染すると約4週間ほどで、風邪のような症状と共に、下痢、嘔吐などの消化器症状、更に発熱後数日で黄疸が表れます。実はA型肝炎ウイルスはこの症状が表れる前(感染後2〜3週間後)から既に便中に排出されますので、気づいた時には集団感染ということも稀ではありません。また、廻りに黄疸のヒトがいないので大丈夫という論理も成り立ちません。 A型肝炎はその地域の衛生度の指標とも言えます。日本でも1950年以前に生まれた方はかなりの方は過去に感染したことを示す「抗体」ができています。このような方は免疫ができているので再感染の危険はありませんが、1970年以降に生まれた方のほとんどはこの抗体がありません。インドに来る前に積極的にA型肝炎ワクチンを接種してくることをお奨めします。また「小児は発症しても症状が軽い」との理由で、ワクチン接種が不要と言われていますが、これは承認に必要な臨床試験データがないことの裏返しの説明でもあります。実際に感染のリスクは大人よりも集団生活をして、なんでも口に入れる子供の方が高いことを忘れてはいけません。インドでは西欧製の小児用A型肝炎ワクチンも認可販売されておりますので、長期滞在する方はインド着任後当地の小児科医にご相談いただくのがよいでしょう。 2. E型肝炎 A型肝炎と同じく、患者さんの糞便から飲料水、野菜、魚介類を介して感染が広がる肝炎です。A型とはことなりワクチンは未開発です。重症に至ると劇症肝炎いなることがあります。特に妊婦は致死率が高くなると言われていますので、普段にまして衛生的な食生活が必要です。 3.感染症による胃腸炎 「感染症による胃腸炎」とは分ったような分らない病名ですが、要はサルモネラ菌や病原性大腸菌、各種ウイルスが原因となる「下痢、嘔吐、腹痛」などの消化器の病気の総称で、インドではもっとも一般的な病気です。感染症とは別にオイルやスパイスの多い食事をとりすぎたため、下痢・嘔吐・腹痛をおこす患者さんが多いのもまたインドの特徴です。 原因病原体として、病原性大腸菌、赤痢菌、赤痢アメーバ原虫が一般的ですが、調理が不完全な肉を食べた患者さんの中にはキャンピロバクター、サルモネラが検出されることも稀ではありません。またモンスーンの時期になると、汚染した水からコレラが流行することがあります。コレラ菌は熱や塩素消毒で簡単に滅菌できますし、大量の菌を摂取しない限りは発症しませんので、ミネラルウオーターなどの清潔な水を飲んでいる限りは感染しないはずです。 インドでは野菜は伝統的に火を入れて温野菜、焼き野菜で食べる風習があります。戦後のアメリカ農薬文化に影響された「生野菜サラダ」依存症をそのまま日本からインドに持ち込むのは危険です。生でなくてもビタミンもファイバーも十分摂取できます。また、夏に街頭で売られるソフトクリームの注ぎ口には細菌が繁殖するに十分な条件(養分、酸素、湿度、温度)が整っているので危険です。もちろん交叉点で売られているカットフルーツも同じです。売上金のコインをカットフルーツと同じ盆の中の水に入れていることを見るだけでも危ないと気付くべきです。もちろん食前、外出後の手洗いの励行も忘れずに。 4.ランブル鞭毛虫症(ジアルディア症) 塩素消毒にも抵抗性のあるランブル鞭毛虫のシストが主に生水などを介して人間の口から感染します。熱帯、亜熱帯を中心に世界に3億人の患者がいると言われていますが、ここインドがまさに本場です。(もっとも、英米などの先進国でも感染の報告があります。) 長期滞在者にはもっとも一般的な消化器病の一つです。 症状は全くなかったり、一過性の下痢だけのことがあります。ひどい場合には腹痛、腹部膨満感、嘔吐、泥状あるいは脂肪様の下痢になることもあります。ランブル鞭毛虫は小腸の粘膜に吸着して、消化管内部側を陰圧にして、主に小児で吸収障害を起こします。長い間、なんとなくお腹の調子が悪かったり、下痢が続いていたら、現地の医療機関を受診して検査を受けましょう。特効薬で治療が可能です。予防はもちろん、生水を飲まないことです。ご家庭のコックさん、メイドさんから感染しているケースがかなり見られます。使用人は少なくても毎年一回検便を実施しましょう。 5. 腸チフス・パラチフス チフス菌の汚染された水、乳製品、貝類を口にすると感染します。日本での輸入腸チフスの半分はインド亜大陸からの旅行者が持ちかえったものであるとの報告もあります。日本では未認可ですが、インドでは西欧製の一回接種の不活化ワクチンが承認販売されています。長期滞在者はインド到着後すぐに、または西欧先進国で予防接種を受けることをお奨めします。 感染すると、階段状に上昇する発熱、下痢、便秘、高熱の割に徐脈(少ない脈)、それとバラ疹と呼ばれる特有の皮疹が見られます。治療や安静を怠ると腸穿孔を起こし命を失うこともあります。致死率は10%くらいといわれています。パラチフスも腸チフスと類似した菌の感染により似たような症状になります。致死率は腸チフスほど高くはないと言われていますが、身近なところで患者さんが発生しています。 6. ポリオ(急性灰白髄炎:いわゆる小児麻痺) ポリオは腸管ウイルスを意味するエンテロウイルスの一種です。3種類のウイルスが知られていて、インドはtype2の本場です。WHO、ユニセフを中心に生ワクチンを使ったポリオ撲滅運動が展開されていますが、残念ながらインドでは未だポリオは撲滅されておりません。ワクチン接種により予防可能ですので、転勤時にお子様のワクチン接種の時期を逸しないようご注意ください。インドでは経口の生ワクチン以外に西欧性の注射の不活化ワクチンも接種できます。 7. 旅行者下痢症 途上国を旅行する人の30−70%は旅行開始から最初の2週間内にこの旅行者下痢症の歓迎(?)を受けます。別名Welcome Showerの由来です。皆様がインド生活に慣れ親しんだ後でも日本からお客様をお迎えした時にもう一度この大歓迎があることを思い出してください。この旅行者下痢症の原因は多彩です。旅行・赴任の準備など、疲労による体調の低下(7〜9割)、旅行中・赴任後の不安、緊張、ストレスなどからくる精神的な胃腸障害、現地の飲食物の違いによる一過性の胃腸障害、ウイルスや細菌あるいは寄生虫などによる病的な下痢(全体の2割程度)があげられます。早い人なら3〜4日間で回復するか慣れますが、まれに10日以上続く例もあります。 予防には、1)睡眠を十分にとり体調を整える、2)安全な食べ物と飲料水を摂る、3)生の野菜、魚介類、牛乳、アイスクリーム、ヨーグルト、乳製品には注意する、4)水は一分以上沸騰させたものか、ボトルに入ったミネラルウォーターを飲む、5)氷は避ける、6)変質油に注意すると良いでしょう。下痢症状が続く間はスポーツドリンク、ジュース、スープなどで十分な水分補給をしてください。地方などで清潔な水分が得られない場合は丸のままココナッツを買い自分自身でカットしたココナッツジュースを飲みましょう。これは清潔で電解質も十分補えます。 39℃以上の高熱、激しい腹痛、ひどい血便を伴う場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。 1.狂犬病、2.B型肝炎、3.性病(HIV感染含む)、4.毒蛇咬傷、5.炭疽、6.結核、7.紫外線障害 1.狂犬病 インドでは地方でも都市でも野犬が目立ちます。野犬以外の飼い犬でもきちんと狂犬病ワクチンを接種されているとは言えません。加えて寺院などに棲息する野猿も強暴でヒトを襲うことがあります。また、猫、ジャッカル、マングース、コウモリからネズミに至るまでありとあらゆる哺乳類が狂犬病ウイルスを保持しているリスクがあります。イギリスの旅行医学の教科書にはイギリス人で感染したケースのほとんどがインド亜大陸から帰った旅行者であるとの記載があります。 狂犬病に罹患し、一度発症すると、必ず死に至ります。 濃厚汚染地域に旅行する場合は事前にワクチン接種(暴露前接種)を受けることもできます。但し、毎年追加接種が必要ですし、また予防接種を受けた方でも噛まれた場合は追加接種が必要となります。少なくても心理的負担は軽減できるでしょう。また、事前にワクチン接種が無い方でも暴露後ワクチン接種(感染の怖れのある動物に噛まれた後の接種)あるいはそれに免疫グロブリンを追加するなどの発症を予防する方法があります。リスクが少ないと判断される方は噛まれた後に24時間以内にワクチン接種が可能な医療機関を事前に確認しておき、噛まれた場合はできるだけ短時間にその医療機関を診察することです。 ワクチンはインド国産のワクチンではなく、必ず西欧製のワクチン(purified chick embryo や vero cell から精製されたワクチン)であることを確認しておいてください。インド国産のワクチンは安く、広く出まわっておりますが、その一回投与量が多いわりに効果が期待できません。 噛まれた後にワクチン接種と並んで重要なのは、できるだけ早い時期に傷口を石鹸と流水、あるいは消毒薬などで洗うことです。この目的は身体に侵入するウイルス量をできるだけ減らすことが目的です。医療機関を探してばたばたする前に、まずは患部を洗ってください。 2. B型肝炎 歯ブラシ、かみそり、タオルの貸し借りや性交渉、輸血、医療用器具(注射針、歯科治療など)から血液などの体液を介して感染します。感染の多くは症状の無いキャリア(ウイルス保有者)からのものです。インド亜大陸のキャリアの割合は5〜15%と言われています。かみそり、歯ブラシの貸し借りは当然のこと、交通事故などで輸血が必要にならないよう注意しましょう。性行為による感染率はHIV感染以上です。不特定多数を相手とするCommercial Sex Workersとの性交渉はその倫理の問題はともかく、命をかけるに値するか否かを十分考えてからことに及んでください。 日本でもB型肝炎ワクチンが承認販売されていますので、インド渡航前に接種を済ませましょう。インドでもHavrix-Bなどの西欧製のワクチン接種が可能です。 3. 性病(HIVを含む) インドは世界で二番目にAIDS/HIV患者数が多い国です。しかし驚く必要はありません。人口も世界で二番目に多いのですから。AIDS患者数、HIV陽性者数についてはインド政府とWHOの見解が一致していませんが、凡そ500万人程度と推定されています。インドではエスコートサービスなどの売春は表面には出ていませんが、逆にHIVを含めて未管理の性病の流布が懸念されています。梅毒、淋病、トリコモナス症、膣カンジダ症、陰部ヘルペスなど他の性病にも注意が必要です。不特定多数との性交渉は避け、コンドームの装着を徹底しましょう。また、床屋で剃刀をあてる時は必ず目の前で刃を交換させましょう。 4.毒蛇咬傷 インドでは特にモンスーンの時期になると、ゴルフ場、住居の庭、学校の校庭などに蛇が出てきます。その中にはコブラ(Cobra)、クサリヘビ(Vipers)などの毒蛇もいます。蛇は臆病な動物ですから、熊追いと同じ原理で大きな音を立てながら歩きます。棒で草を打ちながら、足音を立てるように歩きましょう。万が一蛇に噛まれた場合は、種類を同定するために襲った蛇を捕獲できれば理想的ですが、蛇毒の吸収を高める危険があるので患者自身が深追いすべきではありません。コブラ毒は神経毒で死亡率10%程度、また毒が注入されるのは5割程度といわれています。またクサリ蛇毒は神経毒+出血毒で死亡率1-15%と言われています。つまり、噛まれたら必ず命を落とすわけではありません。(この事実が慰めになるかどうかはともかく)噛まれた本人も周りも慌てず落ち着くことが大切です。決して、傷口を吸わないでください。また患部を清潔な布で覆い、冷やしましょう。患部を上にして、添え木を当てるなりして、できるだけ動かさないようにしましょう。過度の圧迫駆血は循環障害のもとです。20分締めたら10秒緩めるようにしましょう。締め方の規準は紐に指一本が入る程度が目安です。 デリー市内でコブラ血清を備蓄している病院はApollo病院(692-5858)、All India Institute of Medical Sciences :AIIMS (656-1123, 656-1353, 656-1344)の2箇所です。Aashlok病院は血清のストックはありませんが、2〜4時間で入手できる体制にあるとのことです。MAXにはストックはありません。 5.炭疽 2001年冬に世界を震撼させた炭疽菌バイオテロは記憶に新しい事件です。ここインドでもカレー粉やチョークの粉が入った封筒があちこちで見つかり大騒ぎになりました。アメリカ合衆国がパニックになったのは理由があります。彼の国では1976年以来の四半世紀ぶりの患者発生であり、しかも20世紀を通じても患者はわずか127名だけでした。しかし、われわれの住むインドで今更パニックになる必要はありません。インド・パキスタンからトルコにかけては炭疽ベルトと呼ばれる炭疽の本場なのです。この炭疽ベルトを中心に世界中で毎年2〜10万人の患者が発生しています。 炭疽は人畜共通感染症です。つまりヒトと動物の間で菌が移動しています。デリーで普通の生活をしている限りでは感染するリスクは低いと言えますが、地方(特に南インド)で掘り出し物の革製品、毛皮を購入する場合には炭疽菌が付着している可能性があるので注意が必要です。 6.結核 インドは世界でも結核罹患率の高い国のひとつです。衛生・栄養状態の良い皆様がそのままインド人と同じリスクを共有するということはありません。しかしインドでは薬剤耐性(薬が効きにくい)結核菌の比率が高く(10〜20%)、一旦結核にかかると治療が厄介になります。こちらの長期に滞在される方は家事補助者(コック、子守り、ドライバーなど)は一般的に衛生状態や栄養状態があまり良くない環境に居住していますので、普段から彼らの健康に配慮し健康診断を毎年実施しておきましょう。BCGを追加接種すべきか議論が分かれるところです。BCGの肺結核に対する予防効果は確実なものではありません。また、ツベルクリン反応が陽性と判定された場合、結核に感染したのかBCG接種によるものかの判定がつかず、結局、抗結核薬を予防的に服用せねばならないこともあります。 7.紫外線障害 紫外線は波長によりA波(UV-A)320〜400nm、B波(UV-B)290〜320nm、C波(UV-C)<280nmに分類されます。A波(UV-A)は普通の窓ガラスを透過する波で、目の水晶体にダメージを与え白内障の発生を早めます。また、肌の張りや弾力を奪い、しみやそばかすを濃くします。B波(UV-B)はガラス窓は通りませんが、表皮に炎症を起こす紫外線です。長くあたると肌に日焼けをおこし、長時間目がさらされるといわゆる雪目になります。C波はわれわれがオゾン層を守る限りは地表には到達しないはずです。 インドでは青空が見えなくても、日本以上の紫外線を浴びています。お肌が気になる奥様方はつば広の帽子と大きめのUVカットサングラス、更に手袋を着用されることをお勧めします。お子様も首の後ろを被う紫外線カット帽子を着用すると良いでしょう。夏休み明けに日焼けを自慢しあった私達の小学校時代はなんと無謀だったのでしょうか。子供達に残す文化ではありません。 |
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