PROLOGUE
世は無秩序が支配する時代である。ミッドランドは大陸から西方の海峡を越えた島国でしかないが、この地域は都市の発展や幾度かの小競り合い、長大な防壁の建設など人が積み上げてきた歴史こそあるものの、かつて世界が混沌に襲われた折りの打撃から未だ立ち直ることができていない。森が多く気候は寒冷であり、今でも奥地に立ち入れば野蛮な民族や、追放されたドゥルイデスが暮らしている。
ミッドランドの北部には寒冷で峻険な山脈が連なっており、そこは少数の狩猟民族が暮らしているだけの不毛の地であるが、山脈の更に北方には特異な生態系が存在して亜人や大型動物が棲息していることから賢人たちに注目されている。そこは希少な一角獣や毛深サイ、絶滅しかけているグレート・アンテロープの棲息域として知られ、厳寒の世界に人間の居住地は存在していないが、珍しい角や牙、毛皮を求めた狩猟民が張っているキャンプを見出すこともある。
無秩序が支配するミッドランドの地では、王国であれ都市であれ全面的な信頼を寄せることはできないでいる。旧世界を悩ませていた戦乱はようやく終結し、ミッドランドでも最大の王国であるアーガイルの国には一時にせよ平和の時が訪れていた。だが、それも一時のことでしかなかった。長引いた戦乱は多くの人命を失わせていたが、その中にはカスパーのターグ男爵の襲撃によって命を落としたアーガイルの王ソーステインとその王妃も含まれている。ソーステインには後継ぎがおらず、今は宮廷魔術師である『白い魔女』アルガラドによっていちおうは治められているが、各地では無秩序が暗躍しており、カーライルの砦に幽閉されたダンフリーズ卿の事件や、ソルウェイ湾に放たれた悪魔魚の存在などはその最たるものである。
アルガラドはアーガイルとミッドランドを救うべく各地から賢明で知恵にあふれる者を集めていた。彼らはアルガラドじきじきの命によって幾多の難題に挑んでいたが、それとは別に白い魔女はひとつの託宣を受けてもいたのである。
「四つの石板あり。ひとつは力が、ひとつは知恵が、ひとつは技の文字が記される。だが、最後の一枚は分からない」
白い魔女は言った、わからない、とは見つからぬことではなく、我らが目にしていない者のことである、と。アーガイルが募る者たちとは異なる者もまた、アーガイルを救う者であるということが彼女が受けた託宣であった。
ミッドランドでも辺境にある小さな村を、君が訪れた理由はまったくの偶然かあるいは気まぐれであった。そこは大きなものではないといえ街道に面しており、旅人に一泊の宿と一杯かそれ以上の杯を提供する場所である。酒場に足を踏み入れて、ぎいぎいと音のするくたびれた木の椅子に腰を下ろすが、周囲が不審にざわめいている様子に君は眉をよせる。このような村では旅人が珍しすぎるということもないであろうし、君の存在も特に人目を引いているということもない。君は一杯のエール酒と焼いた燻製肉と固パンを頼むと、好奇心のままに何かあったのですか、と聞いてみることにした。
「なんでもお姫様がさらわれたらしい」
陳腐な童話のような話に君は首をかしげると、相手はにやにやと笑ってから、事情を説明してくれた。北にある森にあらわれた山賊が、ちょうど昨日の夜、この村に停泊していた商隊の娘を連れ去ったというのである。山賊からはさっそく身代金の要求が届き、商人はすぐにでも交渉してそれを受け渡すつもりでいるとのことだが、村長は自分の村に山賊があらわれたことでなんとかこれを退治したいと思っているとのことだ。
「まあ無理もないだろうさ、村長にすればこんなことを許してしまえば自分の村に誰も来なくなっちまう。だが山賊どもも明後日までは待つということらしい、それまでに力のある者を探して何とかできないかと呼びかけているそうだよ」
...TO BE CONTIUNUED
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