魔法都市日記(15)

1998年1月頃


例年、一月は年が明けるとすぐに大学受験のセンター試験があり、3月上旬の後期試験が終わるまで、一年で一番気ぜわしい日々が続く。そのせいもあり、マジックはオフミーティングの際、一度やっただけに終わった。

某月某日

Giant B'wave 前回の日記で、高校生が修学旅行のホテルでマジックを見せたいというので、マックス・メイビンの"Giant B'Wave"を教えたことを紹介した。

年が明けても、出発まで2,3度顔を合わせていたので、その都度、細かい修正を加えた。このマジックは「セリフがすべて」なので、詳細な台本も二人で試行錯誤しながら作った。私が自分で演じるのであれば、アドリブでも適当に対処できるのだが、マジックを見せるのがまったく初めてという人にとっては、このマジックのような、「セリフで決まる」タイプのものは、手先のテクニックを使うものより、ある意味、難しい。 幸い、本番では無事成功したようでホッとした。


マジックを教えたお礼に、旅館で作ったという手作りの「笹団子」をもらった。(笑)


Sasa dango
団子をもった3人娘:(Three girls with Dango)
 

某月某日

エーアイ出版から出ているムック、『WWWイエローページ Vol.4』 (1,300円)で「魔法都市案内」が紹介されていた。雑誌などに、自分のサイトが載っているを見るのはうれしいものだ。こんなマイナーな趣味なのに、ちゃんと探し当てるのだからエーアイ出版はなかなかえらい。

この「魔法都市案内」を開いた目的はいくつかあるが、ひとつは高木重朗氏がお亡くなりになった後、日本でマジックのスタンダードが崩壊しかかっていたのを立て直すため。(汗)
 
"..... of the eccentric, by the eccentric, for the eccentric." マジックが、「奇人の、奇人による、奇人のため」のものであっては困るのだ。マジックのスタンダードがどのようなものかを紹介したかったことが最大の目的であった。(こんなことを言ってしまっていいんでしょうかね。(汗))

あと、それに加えて、メンタルな面でのマジックの難しさと易しさをはっきりさせておきたかった。と言っても、大半のマニアはこんなことはどうでもよいと思っているだろう。しかし、マジシャンの中で、数パーセントの方でも、このようなことに関心を持っていただける方が出てきたら、それで十分だと思っている。一種の啓蒙活動ではあるのだが、底辺を広げると言うより、少しはわかっている方が出てきたら、それだけでこのサイトを開いた甲斐がある。

そんな折り、先日、ある地方のマジッククラブの方から、「魔法都市案内」の内容をクラブの教材として使わせて欲しいという依頼があった。そのような目的で使っていただくのは大歓迎なので、喜んで承諾した。クレジットとして、「マジェイアの魔法都市案内」とだけ入れておいていただければOKなので、もし同じような目的で使いたいと思っておられる方がおられるのであれば大歓迎なのでメールでもいただければうれしい。

某月某日

暮れから新年にかけて、テレビでマジックの特番はほとんどなかった。これはここ数年のことなので、私自身はそれに関しては別段何ともない。

純粋なマジックではないが、大晦日のテレビ番組「紅白」では美川憲一がおもしろいものを見せてくれた。小林幸子との衣装合戦は年々エスカレートしており、今回はとうとうプロマジシャンの引田天功のアドバイスを受けて、歌っている途中で消え、数秒後、空中から現れるということをやっていた。

これはもう完全なマジックである。衣装でファンを驚かせるのも限界に来ているので、マジックを利用したのだろうが、驚かせるという意味では成功と言ってよい。 プロマジシャンの中に、衣装を5,6種類、瞬時に変えることを売り物にしている人もいるから、そのうち、美川謙一もそのようなことをするかもしれない。

新年の特番では、堺正章の演じる老マジシャンが飛び切りおもしろかった。

ムッシュ・ド・ボンという名前で、舞台で失敗ばかりやっているマジシャンである。観客からもブーイングが出るようなマジシャンであるが、最後に帽子を使ったジャグリングを見せると、それまでとは一変して、観客からやんやの喝采がくる。確かにこの帽子の芸は上手でおもしろかった。2本の棒を使い、帽子を回転させるただそれだけのことなのだが、客から帽子を投げてもらい、それを棒で受け止め、回し続けるという芸自体がこれまで日本ではほとんど見かけないものであったので、余計にウケたのだろう。

前半の、失敗ばかりするマジシャンの部分は、トッパー・マーティンという実在のプロマジシャンの真似をしていた。実際にトッパー・マーティンの芸を初めて見ると、これはこれで感動する。しかし、マジックは意外性が勝負なので、このタイプの芸は2度見たいとは思わないのが弱点だろう。その点ジャグリングは技術の巧拙がマジックより観客にわかりやすいので、適切な演出のもとで見せるとウケると思う。それにしてもあの堺正章の芸はたいしたものだった。 あれなら、寄席でも金が取れる。

某月某日

baloon dog ここ1,2年、日本でも細長いゴム風船(ペンシルバルーン)を使った動物の造形が流行ってきた。公園や大道芸でもよく見かける。欧米ではカーニバルなどで、ピエロの格好をした「バルーニスト」と呼ばれる風船の造形家は昔から人気があった。

テーブル・ホッピングでマジックを見せているジム・ペイスも、子供がいるところで、バルーニストと一緒になったらマジシャンは絶対に勝ち目がないと、端から降参している。確かに子供には絶大な人気がある。ロフト東急ハンズなどのパーティグッズを扱っているところでもペンシルバルーンや空気を入れるポンプなどが廉価で販売されている。ビデオもセットになっており、一度基本的な扱いをマスターしておくと、何かに付け重宝だと思う。特に子供相手に見せるとき、絶大な威力を発揮する。

これとマジックを連動させて、観客から借りた指輪が消えて、前もって作ってあったバルーンの犬の中に出現するというマジックまである。取り出すには風船を割るしかない。これは少々やりすぎだと思う。バルーンはバルーンだけ作って、プレゼントしてあげるのが一番喜ばれる。無理に、風船の中から出す必要ない。”1+1=2”となるとは限らない。


  インターネットで知り合ったA氏宅でオフミーティングをする。

冬休みでもあり、親戚の方が子供を7,8名連れてお見えになっていた。前もってマジックをやってほしいと頼まれていたので、数点準備して行った。

その中のひとつは、木製で、高さ50センチほどの犬を使うもの。「ベンジャミンズ・バースデイ・プレゼント」という商品名で販売されている。(30,000円)

現象は長くなるので詳しくは書かないが、この犬(ベンジャミン)の誕生日に、何か好物をプレゼントしたいので、それをベンジャミンに知られないように、客席の子供達と相談する。しかしベンジャミンも気になるようで、寝ているふりをしながら、片目だけをあけて様子をうかがったり、片耳を立てたりして、聞いている。最後はボール、骨、靴から子供達に選んでもらったものをプレゼントしようとすると、それが消えて、いつの間にかベンジャミンが口にくわえているというオチになっている。マジックと言うより、ベンジャミンの仕草がおもしろく、小さな子供も喜んでくれた。

某月某日

将棋の加藤一二三九段をご存じだろうか。将棋に興味がない方でも、ある程度年輩の方なら名前くらいは聞いたことがあると思う。今から40年ほど前、18歳でA級八段になり、神武以来の天才と騒がれた天才棋士である。18歳で八段というのは、谷川や羽生ですら破れなかった空前絶後の記録として残っている。現在、57歳であるが、今でもA級で、現役のトップテンの中に入って活躍しておられる。

この加藤九段は敬虔なクリスチャンでもあり、常に盤上でも真理、つまり「絶対手」をさがすことを目的に指しているそうだ。その姿には敬服するが、しかし、多くの天才がそうであるように、数多くの逸話や奇行でも知られている。奇行といっても本人は大まじめであり、そのため一層おかしい。そのようなもののひとつに、「電気カミソリ事件」がある。

ある人が加藤九段の家に行ったとき部屋に通された。九段が引き出しを開けたとき、中に数十もの電気カミソリがあるのを見て驚いた。加藤氏が「電気カミソリマニア」なんて話は聞いたこともないし、恐る恐る尋ねてみると、九段は平然と、「電気カミソリって、10日ほどで使えなくなるので、そのたびに買っていたらこんなにたまってしまったんですよ」と仰ったそうだ。なんと、電池を交換するか、充電したら動くということをご存じなく、使い捨てだと思わっておられたそうだ。昔、この話を将棋関係の本で読んだときは笑ってしまったが、気がついたら私自身も同じようなことをしていた。ただし、私の場合はカミソリではなく、マジックの道具の話。

「フォールディング・ハーフ」というコインマジックがある。基本的なギミックコイン(仕掛けのあるコイン)のひとつであり、マニアであれば大抵持っている。ビンの中に、アメリカのハーフダラーが飛び込み、また出てくる。これほどウケるコインマジックもないのに、マニアでこれをレパートリーにしている人はほとんど見かけない。このトリックの優秀さに気付いていないことが最大の理由だろうが、それに加えて、ネタの一部が数回の実演で使えなくなることにある。簡単に交換できるのだが、購入したとき付いてくるスペアは10回分程度しかない。実際にはこれくらいあれば困らないのだが、問題はこの添付のネタが1,2年で使えなくなることにある。

しばらく使っていなくて、ひさしぶりにやろうと引き出しから出してくると、古くなっており、使いものにならない。安いこともあり(10ドル程度)、外国へ注文するとき、また一緒に注文したり、テンヨーの売場で新しいフォールディングハーフのセットを買っていたらいつの間にか、フォールディング・ハーフだけで5,6組もたまっていた。阪急百貨店のディーラー、清水氏にお願いしたら、緊急用に二,三本くださったこともあったのだが、いつももらうわけにもいかず、たまりかねてテンヨーの本社に相談してみた。すると、10本入りのゴムを、送料込みで200円(98年1月現在)で譲ってもらえることがわかり一安心した。これで私のフォールディングハーフも増え続けることはなくなるだろう。(笑)

マジェイア

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