魔法都市日記(16)

1998年2月−3月頃

 

2月,3月は公私共に忙しく、「魔法都市案内」も全然更新できなかった。 仕事関係は一段落したのでやっと普段のペースに戻ったが、プライベートのほうはまだバタバタしている。

Impressから出ている現在発売中の雑誌、『インターネットマガジン』(5月号)の中で、この「魔法都市案内」が紹介されていた。好意的な紹介でうれしい。

某月某日

酒場 東京の某所にあるクラブで、知人と待ち合わせをする。しばらくぶりではあるが、数年前、何度か行ったことがあるので、店が入っているビルはすぐに見つかった。しかしドアを開けると、昔と雰囲気が全然違っている。ここに来るのは久しぶりなので、バーテンダーや女の子も変わっているだろうとは思ったが、それにしてもあまりにも違いすぎる。

ビルの入り口には昔と同じ名前が出ていたから間違ってはいないと思う。もう一度店内を見渡すと、店の人達がなんだか凶暴そうな顔なのだ。うっかり座ったら、ぼったくられそうな店になっている。恐る恐る店の名前を確かめてみた。するとその店は、同じビルの上のフロアーに移動したと言われ、慌てて飛び出した(汗)。

ひとつ上のフロアーに行くと、以前よりもスペースは小さくなっていたが、しっくり落ち着いて、昔よりずっとよくなっていた。バブルの頃は不動産屋ばかりがでかい顔をしており、とても落ち着いて飲めるような場所ではなかった。最近は不動産屋は激減し、若手の法曹関係の人間がよく利用しているらしい。知人はまだ来ていなかったので、ピアノを弾いている女の子を眺めていると、それが何と、昔、某マジシャンとしばらく同棲していたA子であった。

piano

以前、彼女は某ホテルのラウンジでピアノを弾いていた。バイトでマジシャンをやっていた彼氏が大学を卒業後、田舎に帰りマジックの世界から足を洗った。彼女はそれを契機に彼とは別れ、別の男性と結婚したが1年後離婚。今はシングルだそうだ。バイトで週に3回、ここと、ホテルのピアノバーでも弾いていると言っていた。彼女と元彼のマジシャンの話を書き出せば長くなるので今回はカット。それにしても世の中は広いようで狭い。誰かを間に一人か二人挟むだけで、すぐにつながってしまう。

某月某日

バーなどでバーテンダーがマジックを見せてくれることがある。最初からそれを売り物にしている店もあるが、普段はマジックなど全然見せないマスターが、気が向いたときに一つ、二つ見せてくれるところもある。

先日、いつも通っている喫茶店のマスターが突然私にマジックをやってくれた。ここにはもう20年近く通っているのに、私がマジックをやることをマスターは知らない。私もマスターがマジックをやるなんて知らなかった。マスターの場合、マジックをやるといっても最近お客さんから教わったようで、実際にできるのは二つしかないそうだ。見せてくれたのは、一本のタバコを指先のテクニックで消したり出現させたりするもの。もうひとつは簡単なカードマジックであった。

私がマジックをやっていることを知らない人からマジックを見せられることがたまにある。そのようなとき、最初はとにかく黙って見せてもらうことにしている。その後、私もマジックをやっていることを告げるかどうかはケースバイケースである。ずーとしらっばくれたままで、私がマジックをやっていることについては何も言わないこともある。

今回は言った。たまたま数日前に買ったネタが服に仕込んであり、それを試してみたいと思っていたのと、鞄にトランプが一組あったので見せるのに都合がよかったから。やったのは、「液体の消失」と"Card under the Glass"の二つ。

water pull 「液体の消失」は、テンヨーが最近、マニア用として売り出したシリーズのひとつである「ウォータープル」(\3,600)というもの。液体を消失させる道具である。

ざっと現象を説明しておくと、右の写真のような細長いグラス(高さ10センチ程度)があり、中に液体が入っている。これはジュース、ワイン、ミルク、水でもなんでもよい。左手で拳を作り、このグラスから拳の中に液体をそそぎ入れる。実際に入って行くところをはっきり見せることが出来る。

空になったグラスは、テーブルの上にそのまま戻すか、ポケットにしまってもよい。

左手の拳を開くと、入れたはずの液体が完全に消えている。もちろん、どこにもこぼれた形跡などない。

グラスをポケットにしまった場合は、ポケットからグラスを取り出すと、またグラスの中に液体が戻っているという現象ができるが、これは蛇足のような気がする。「火のついたタバコの消失」でも、消えたタバコは戻さないほうがよい。これも同じで、消したものは消したままで終わったほうが観客は気になるようだ。

店などで火のついたタバコを消した場合、もし火のついたタバコをどこかに捨てたのなら火事にでもならないかという心配があるらしく、店の人がそこら中を気にしている様子がおかしい。 液体の場合、火事の心配はないが、それでもジュースやワインなどの液体が忽然と消えてしまうのは、やっているほうが感じる以上に不思議に見えるらしい。

商品名から、マニアであればネタは想像できると思うが、引きネタとしてはよくできている。近ごろはタバコを吸わない人が多いので、タバコの消失ができないと嘆いている人も、これならどこででも出来るだろう。私のようにマジックを見せる場所の大半は、誰かと食事をするときと言う人にとっては重宝すると思う。

card under the glass もう一つ見せたのは、「カード・アンダー・ザ・グラス」。これは、観客に選んでもらったトランプが、いつの間にか客自身が今まで飲んでいたグラスの下に移動しているという現象のマジックである。単独でやってもよいが、私は大抵、アンビシャスカードのクライマックスとして用いている。最近、これをやさしく演じることの出来る方法が解説されているものを見つけたので、これも後日紹介したい。

今日、「煩悩即涅槃」にアップロードした、「ホワイトデーの顛末」で、薔薇のことを書いたから、私の周りはいつも薔薇やら酒があふれていて、「薔薇と酒の日々」をおくっていると思われるかもしれない(笑)。芸人や芸術家には確かに「酒と薔薇」は似合うが、私はどちらでもない、そのようなものは似合わない。

某月某日

Sanda's study 神戸の三田皓司さんの家に遊びに行く。神戸といえば松田道弘さんの書庫専用のマンションが改築中で、蔵書の大半が現在、倉庫に一時保管されているそうだ。専用マンションを持てるのはとても贅沢な環境でうらやましい。

三田さんの部屋もビデオや本は右の写真のような状態で、限界を通り越している。壁一面ある本棚では入りきらず、床にも積み上げてある。ビデオは2重に入れてあるが、それでももうスペースがない。これは私のところも同じである。最近は海外に本やビデオを注文するとき、金額の心配より、置き場所を考えたら憂鬱になり、注文を控えてしまうことが多くなった。

数名で共同のライブラリーが持てたらスペースは助かるが、本は必要なとき、その場で引っぱり出せないと不便なものなので、結局、各自がそれぞれ同じ本を買っては、置く場所がないと嘆いている。本やビデオ、ネタ、ゲーム類の置き場所のためにマンションを買ったり、書庫を増築したりするというのは、一般の人からすると呆れたこととしか思えないだろうが、当人にとっては、それも自分自身の一部なのだから仕方がない。

某月某日

大阪の第三ビルにあるマジックショップ、”トリックス”に行くと、店が小さくなっていた。同じビルの同じフロアーなのだが、場所は少し移動したようだ。 店の広さが半分くらいになった感じがする。ここは、マニアの間では、数年前からいつつぶれてもおかしくないと言われながらも持ちこたえているので、小さくしたということは、まだここで当分は頑張るつもりなのだろう。

それにしても、ここの洋書やビデオの値段は何とかならないものか。ドルがどれほど変動しようと、昔から1ドル300円という換算でやっているので、50ドル程度の本やビデオに、15,000円という値札がついている。これではとても買う気になれない。ここがオープンして、もう20年近くなると思うが、当時からまだ売れ残っている洋書が相当数あるような気がする。今ではインターネットで簡単に外国から本でもビデオでも取り寄せられるようになっているのに、1ドル300円換算はないだろう。最近、日本でも通販に力を入れているマジックショップが増えてきているので、どこかがドル当たり150円くらいの換算で販売を始めれば、他の店も放っておけなくなると思う。

マジェイア

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