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Joshua Jay
Six Impossible Things

2024/5/21

製品名:シックス・インポッシブル・シングス
出 演:ジョシュア・ジェイ
販売元:scriptmaneuver
価 格:\3,300(税込) 動画ダウンロード版
発売日:2024年3月29日
形式:英語(日本語字幕) mp4 必要容量:7.4GB(4K版) 1.6GB(HD版)
収録時間:60分


最初に

 先日、知人からジョシュア・ジェイの“Six Impossible Things”について教えてもらいました。彼がニュー・ヨークのオフ・ブロードウェイで行ったマジックショーの動画です。
 入場者を1日20名に限定し、クロースアップやサロンマジックを中心に構成しています。入場者数が限られていることもあり、このチケットを購入するのに最大5ヶ月待ちという状態になったこともあるそうです。そしてそれが1年半ほど続いたのですから、大成功と言ってよいと思います。

 このショーの特筆すべき点は、まず観客参加型ということです。会場のしつらえも一般的なステージではなく、ごく普通の家庭のリビングやキッチンといった感じになっています。部屋には洗濯紐に吊された靴下がぶら下がっています。

 とにかく全体がカジュアルで、ごく普通の家庭で、家族や友人などに囲まれてマジックを見せるとか、ファミリーパーティーに招待されて見せるといった雰囲気です。これはたいていのアマチュアマジシャンが演じるときと同じだと思います。その意味でも、アマチュアマジシャンにとっても、大変参考になり、得るところが多いはずです。

内容紹介

 まず最初に、ジョシュア・ジェイ自身についてですが、私自身はVANISHING INC.から彼のネタが発売されているため、それを通じて知っている程度でした。ただそのネタはどれもとびきり不思議で、長年数多くのマジックを見ている者が見ても、どうなっているのかさっぱりわからないくらい不思議なものが多く、なんて頭のいい人なのだろうといつも感心していました。

 ショーの内容について。
 演じているマジックはタイトルのとおり、6種類です。このどれもとびきり不思議であったり、おかしかったり、意外な結末であったりと、息をつく間もないほど、楽しめます。いっしょに見ていたうちの家族のものも靴下のマジックには、その意外性に驚くと同時に、大笑いしていました。

 観客から借りたクレジットカードが、別の観客が最初からもっていた箱、そこから氷の固まりが現れ、その氷の中に、クレジットカードが閉じ込められています。マイザーズ・ドリームでは、バケツを服でフタをしてもらっているのにコインが飛び込むとか、とにかく知っていると思うマジックであっても、ことごとくその上を行かれてしまい、うなるしかありません。特に最初の出し物は、超ゴージャスな予言マジックです。これはだれでも無料で御覧になれますので、まずはそれだけでも御覧になることをお薦めします。

 本当ならトリックをひとつひとつ紹介したいのですが、それはやめておきます。ぜひ動画を御覧ください。

 余談になりますが、先日、「マジェイアの魔法都市案内」を10年ぶりに更新しました。どうしてもご紹介したい本があったからです。田代さんが10年かけて訳された『マジックと意味です。(2024年5月1日に紹介済み)
 今回、この“Six Impossible Things”をぜひともご紹介したいと思ったのは、ショーがすばらしいのは勿論ですが、この『マジックと意味』の実演版、もしくはお手本版とも言ってよいほどピッタリだからです。
 『マジックと意味』の中で、ユージン・バーガーはひとつひとつのトリックに内在している「意味」について考えることを提案しています。そしてマジシャン自身のフィルターを通すことで、新たな意味づけが可能になります。そうすることで、マジックがただのびっくり箱から、「物語」の重要な「脇役」、あるいは「主役」にもなり得ます。

 もし自分自身がマジックを見せることに自信をなくしていたり、これまでの自分の演技に何らかの戸惑いを感じていたりしているのでしたら、本書はさまざまな啓示を与えてくれます。その意味でも、この”Six Impossible Things”は具体的なアイディアやひらめきを提供してくれるはずです。
 
 このショーでジョシュア・ジェイが演じているマジックはどれもとびきり不思議なものばかりですが、そのなかのひとつに、彼が以前売り出した「トロージャンデック」もあります。
 不思議さだけでいえば、これが1、2を争うかも知れません。マジックをやっている人であればあるほど、「あり得ない!」と叫ぶと思います。
 
 ネットで"THE TROJAN DECK JOSHUA JAY“で検索しますと、動画を見られますので、もしご存じなければぜひ一度御覧になることをお薦めします。
 このマジックは「偶然の一致」がテーマですが、ちょっとやそっとではあり得ない一致が起こります。
 私自身のことを話しても邪魔になるだけかも知れませんが、「ストーリー」という点で、私がこれを演じるとき、「ラプラスの悪魔」の話をすることにしています。「ラプラスの悪魔」というのは偶然と思われていることや、予測不可能と思われていることであっても、それは私たちがまだそのパラメーターを知らないからであり、もしそれを理解し、きちんと計算すれば結果が予測できるというものです。因果律に基づいて未来の決定性を論じられるという仮説です。1枚の葉っぱを屋上から落としたとき、どこに落ちるか現在のところわかりません。しかしこれも予測できるかもしれないということです。つまり「偶然」と思われていることも、実際はすべて「必然」であるというところに話を展開できます。この話自体はあくまで仮説であり、実際は無理なのですが、真面目な顔で話せば、いかにもそれっぽく聞こえるでしょう。

 ついでにストーリーのことでいうと、私自身、ここ数年よくやっているマジックがあります。使うのは商品名が"DEAD MAN'S DECK”というトランプです。
 さきほど気がつきましたが、このトランプもVANISHING INC.から発売されていたのですね。こちらが発売されたのは10年くらい前だと思います。
 このトランプは「死人のトランプ」という名前のとおり、カードに不気味な演出が施されています。デック全体は中央にピストルの弾が貫通した穴が空いています。そしてトランプの何枚かは血がべっとりとついています。(勿論、印刷ですよ)
 
 これを見せるとき、ポーカーで「デッドマンズ・ハンド」という有名な話があることを観客に説明します。
 昔、ワイルド・ビル・ヒコックというガンマンであり、ギャンブラーであり、保安官もしていた男がいました。1876年、彼がドアを背にしてポーカーをしているとき、後ろからいきなり銃で撃たれ、死亡しました。そのとき、ワイルド・ビルが手にしていたカードは「2枚の黒い8」と「2枚の黒いエース」(ツーペア)であったことはわかっています。あとの1枚は不明です。

 この4枚の組み合わせは縁起が悪いということで、「デッド・マンズ・ハンド」と呼ばれています。もしこれが自分のところに来たら、その時点でさっさとそのゲームから降りる人が多いのです。

 このような話をしながらケースからデックを取り出すと、中央に穴が空いており、当時使われていたマスケット銃の弾が1個、穴から出てきます。
 「ワイルド・ビルが殺された場所には、今でも小さなカジノがあります。そこではワイルド・ビルの亡霊が出るといううわさがあり、特に、彼が座っていたドアの前の席に着いてポーカーをしていると、不思議なことが起きることがあります。今日はそれを試してみましょう」、というような話をして、観客にデックをよくシャッフルしてもらい、カードを裏向きにテーブルの上にスプレッドします。その後、観客に4枚のカードをランダムに、マジシャンのほうに押し出してもらいます。その4枚を集めて表向きにすると、なんと「黒い8が2枚」と「黒いAが2枚」です!またワイルド・ビルの亡霊が現れたようです……。」
 というようなストーリーを話しながら演じると、カードの気味悪さもあり、これが結構ウケます。

 マジックの部分そのものはエースオープナーのひとつです。私が昔から愛用している「森下宗彦氏のオープナーです。(注:『図解カードマジック大事典』宮中桂煥著、東京堂出版) エースオープナーは数多くありますが、森下さんの手順は現象がダイレクトなこと、場所も選ばす、準備もほとんど不要なため、50年ほど愛用させて頂いています。
 
 マジックとストーリーという意味では、1999年のデビッド・カッパーフィールドの公演のとき、大きな会場で"GRANPA“と題した”カードマジックを演じました。手元は大きなスクリーンで見られます。これはデビッド・カッパーフィールドが子どもの頃、おじいさんから見せてもらったカードマジックを再現するという演出になっていました。見ているだけでほのぼのとした雰囲気がただよっていました。

 ストーリーといえば、バーノンの名作、"Cutting the Aces"には邦題で「片腕の手品師」という名前が付いています。これもストーリーとトリックをうまく融合させた例です。
 Mr.マリックが若い頃、このマジックを知って感激したそうです。この前、YouTubeでたまたまMr.マリックがこれを演じているのを見ましたが、きちんとした演出で演じますと、確かに傑作です。

 この“Six Impossible Things”がおもしろいのはジョシュア・ジェイがマジシャンとしてもエンタテイナーとしても一流であることはいうまでもありませんが、それ以上に、どこに気をつけて見せているのか、どのように構成しているのかといったことを数多く学べる点です。プロ、アマを問わず、その人のレベルに応じて、いくらでも学べる作品です。
 
 忘れないうちに書いておきますが、とにかくこの動画は全編を通して御覧になることをお薦めします。動画は2種類あり、タネあかしなしで、ショーだけを録画したものと、タネの解説があり、演出、出し物についての取捨選択方法など、舞台裏まで解説した「解説編」のふたつがあります。

ショーを純粋に楽しみたいだけでしたら、極めて安く見られます。3,300円で実演動画をすべて楽しめます。実際のチケットは一人100ドル前後したはずですから、円安の今なら15,000円です。その1/5くらいの値段です。ニューヨークへ行く費用を考えれば、ただみたいなものでしょう。
 そしてショーで演じられているトリックを気に入り、自分もやってみたいと思うのでしたら、16,500円を出せば、6つの傑作トリックを学べます。
 一言お断りをしておきますが、解説は商品ギミックや手順権利の関係で、一部解説していないところがあるようです。しかし全体では98%くらい解説されているようですから問題はないと思います。このあたりの詳細はscriptmaneuverのページを御覧ください。

魔法都市の住人 マジェイア


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